ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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ネザー道中膝栗毛

ボクたちが通って来たあの道は、ムルグにも続いていました。

あの時、たまたま発見した足跡が逆方向のものであったなら、ボクたちはムルグに向かっていたのでしょう。

奇妙な運命を感じます。

ギヤナさんはボクたちが遠距離攻撃を持つ為に、先にムルグに訪れればムドラには来ていなかっただろうと言っていました。

あの時道を逆に進んでいたら、一体どうなっていたのだろうとあまり意味の無い想像がよぎります。

例えば、拘束されたりしたのでしょうか?あるいはムドラの時のように戦士達に弓を伝え、逆にムルグの使者をやっていたのでしょうか?

……こんな事を思うのは、ニソラさんの今を占いたいからでもありました。

スユドさんが使者を叩きのめしていた事の報復を受けていたらどうしよう……

それを最大限に警戒したからこそギヤナさんはムドラの最大戦力であるスユドさんを護衛として送り出しました。

しかしムルグの感情を考えるなら、「少数で攻めに来た」と思われても仕方が無いのかもしれません。

いざ戦闘となればスユドさんが殿をしてニソラさんがその情報を持ち帰る……そう言う手筈になっていましたが、土壇場でニソラさんがそれを良しとしなかったら?

もしくはその機会すら来なかったら?

――不安ばかりが浮かんできます。

 

「この戦力でも不安かな?」

 

隣を歩くラクシャスさんでした。

使いたくてウズウズしているその気持ちを抑えるつもりもなく、2日で仕上がったサトウキビの杖を勢い良く振りかざしています。

 

「ずっとガストからムドラを守り続けて来たのは誰だと思っとる!私だってスユドには負けんぞ!!」

「……で、杖の作成に掛かりっきりだった見たいですけど、ラクシャス師はその後休まれたんですか?」

 

呆れたように突っ込んだのは、一緒に着いて来てくれたカンガさんです。

修練場で的を譲ってくれた、あの戦士でした。

 

「別に無休で杖を作成してた訳ではないわ!杖が出来上がってからは滾って滾って寝られんかったがな!早く戦争にならんかなぁっ!!」

「生首お化け相手で我慢しといてくださいよ」

「これ、絶対人選ミスのような気がするっス……」

「なにおう!?私はタクミ殿のご指名だぞ!!」

 

――ラクシャスさんと、カンガさんと、後一名。

修練場で地上の戦士に頼らなければ自分達はガストも倒せないのかと、ムドラを守るのは自分達じゃないのかと、熱い叫びを上げた戦士でした。

お名前は、ワシャさんと言うそうです。

ボクがムルグに向かう道中のメンバーでした。

 

@ @ @

 

「――ニソラさんを、迎えに行きたいんです」

 

ニソラさんが発って3日目の朝に、ボクの我慢が限界を迎えました。

聞いた限りでは、ムルグまでの距離は歩いて6本程度の距離だと言うのです。

1本は50分位ですので、大体5時間ほどでしょうか。

24時間拘束されたとしても、まだ戻らないのは不安になります。

 

「アあ、解っていルヨ……確かニ遅すぎル。あノ面子デ、押サえ込まれルヨうな事は無イと思うんダガ」

 

ギヤナさんとしても連絡の遅れにソワソワしていました。

予定外に遅くなるのであれば、その旨だけでも先に連絡が届く筈なのです。

……マインクラフトには離れたプレイヤーと会話できるチャット機能が実装されていますが、この世界でそれを使う事が出来ないのがもどかしく思います。

バニラに実装されている機能です。バニラにあるのだから、トランシーバーModなんてシロモノはきっと無いのでしょう。

もしあって作れたとしても、今からじゃ遅すぎますけども。

遠く離れた場所と話ができる電話と言う機器に慣れきっていたボクには、あまり馴染みのない感覚でした。

……この、遠くにいる人を想ってやきもきする感覚と言うのは。

 

「――何カあっタ、と見ルベきなのカ。ソれも、連絡を寄越せナイような何かガ」

 

手を着けたくなかった重い荷を前にするように、ギヤナさんがそれを口にします。

 

「スユドが一緒ニ付いて行っテルのだゾ。スユドをどウにカ出来る奴がいルとでモ言うのカ……?」

 

その言葉からは、アレだけ脳筋呼ばわりしていたスユドさんへの信頼が見て取れました。

ボクがスユドさんを見ていて感じたのは、この世の真理は拳ひとつで語る事が出来るとでも言いそうなバトル脳っぷりぐらいです。

 

「……失礼ですけど。スユドさん、罠とかには結構簡単に掛かりそうなイメージが……」

 

あの人が権謀術数を華麗に潜り抜ける所は、どうやっても想像出来ませんでした。

 

「アー……まあ、否定ハしないガネ。アイツのオツムは確かニ残念だガ、コと戦闘が絡むト嘘のように回転が早くナるんだヨ。――ソうだナ、スユドの得手が徒手なノは知ってイるネ?」

 

頷きます。

建前に近いとは言え、散華の担い手としなかった理由のひとつでもあるわけですし。

 

「アイツは、武器が使えナいト言う訳ではナいのダ。イツでモ戦闘に入れるヨうに心掛けテいるカらこソ、徒手をより重要視しテイるのだヨ。飯食っテる時、寝ていル時……武器防具と言う物ハ必ず外しテいる瞬間がアるモノだかラネ」

「あ……」

 

ボクは自分の体を見下ろします。

もはやムドラに来るのに警戒はなくなっており、無銘刀「木偶」やブロンズ防具と言った武装は着けて居ませんでした。

 

「ソンな時に襲撃があっテ対応出来まセンでしタでは話にならヌト、アイツは徒手を磨キ続けて来たノだヨ。戦いの基本は格闘ダ、武器ヤ装備に頼っテハいけナイと常々口にしテイた」

 

どこかで聞いた事のあるフレーズでしたが、スユドさんが戦闘に向けているストイックな姿勢は良く理解出来ました。

「奇襲を受けテも余程でナい限りハ避けて見せルダろウ。例えソの余程が来てモ、スグさま仕切り直シ出来る奴ダ。伊達にムドラの最高戦力を謳っテハいないヨ。ダから嵌めらレたとシてモ、ニソラ殿は守りきれルダろウ……ソう信じてイル。……いヤ、信ジてオレは何もしなカッタんダ」

 

額を押さえて溜め息をつき、ギヤナさんは自嘲気味に続けます。

 

「――事コこに至リ、マサかの思考停止トは我なガら呆れ返るヨ。結局オレは甘く見てイたんダ……ムルグの事も、その戦力モ。スユドなら問題ないだロウと甘く考エていタ。コレではスユドに丸投げしタも同じジャないか……客人を巻キ込んでオいて何たるザマだ。戦闘以外の不足の事態ヲ考えキレてなかっタ結果がこレダ――申し訳ない、タクミ殿」

 

これは、仕方ないし責める事も出来ません。

ニソラさんを使者に選んだギヤナさんと、ボクは全く同じ事を考えていたのですから。

だって、ニソラさんは強かったんです。とてもとても強かったんです。

経験も豊富で、旅慣れしていて、とても頼りになるメイドさんなんです。

……だからボクは忘れてしまっていたのです。

ここは、ニソラさんですら来た事の無かった地獄の底――経験なんてあろう筈もない未知の世界、ネザーなんだと言う事を。

最初にネザーに渡ろうとした時、ボクはあれほど不足の事態に警戒を向けていたと言うのに。

ボクはあれほど「甘く考えていたら簡単に死んでしまう」と念を押していたと言うのに。

――いくらムドラの人達が良くしてくれたからと言って、今や装備も外して来てしまう程緩んでしまっていたのです。

ボクの方こそ、思考停止してしまっていたのです。

 

……ボクの中にあったのは後悔でした。

一緒に行けば良かったのです――家なんて、後で一緒に作れば良かったのです。

ニソラさんなら大丈夫なのだと、下手な考えが出来る程ネザーを知っている筈も無かったのに。

 

「――直ぐニ斥候を出すヨ。ダから――ソの連絡を待っテクれないカ?」

 

そう言うギヤナの言葉も理解出来ましたが……ボクの答えは決まっていました。

 

「ギヤナさん……お客さんとかそう言うの、今は忘れて下さい。ムルグに対する後悔も要らないです。もっともっと、単純な話なんです

――ニソラさんを、迎えに行きたいんです。

もしかしたらこうやって気を揉んでいるのはただの杞憂なのかもしれません。遅れているのにも実は大した理由なんて無くて、今頃帰り道をテクテク戻って来ているのかもしれません。

もしくはムドラにはスユドさんをしのぐ凄い戦士がいて、囚われの身になってるとかでも良いです。行ったら瞬く間に殺されてしまうとかでも良いんです。

危険も理屈も何もかも放った上で――ニソラさんを、迎えに行きたいんです。ニソラさんと離れちゃったの、後悔しているから……ボクが迎えに行きたいんです」

 

――つまりは、ワガママでした。

ボクは、ギヤナさんが困るのを解っていながらワガママを言っていました。

こっちに来て戦士だなんだと言われましたが、実際戦闘は素人です。

スユドさんと違い、武器や装備に頼らないと戦える自信はありません。

……それでもボクは、ニソラさんに会いたいのです。

ワガママを言ってでも、ニソラさんに会いたいのです。

 

「――解っタ」

 

そんなボクを見て、ギヤナさんが折れてくれました。

 

「斥候に出すツモりだっタ二人をつけル。腕も体力も見所のアる奴ダ、好きニ使うと良いヨ。後はモう一人……決定力が居ルネ」

「ごめんなさい、ギヤナさん……」

「止めてクれ。謝るノは筋が違ウよ。ゴメんなサいはこっちの台詞ダ」

 

対ガストに目処が立ったとは言え、その戦術には数が要ります。戦士の数に余裕がある訳では無いでしょう。

それなのに、ボクのワガママで3人も出してくれるのは申し訳なくもありました。

 

「……状況が判った時点で、必ず一人お返しします」

「ソう言う所に気づイテ気を使ってクレるからアリがたイヨ、タクミ殿は。――本当に、気にシナいでくレ。元は此方の不明なんダ。こんナの借りを返しタ内にも入らンヨ」

 

「――その通りだ!」

 

それまでの空気なんぞ知ったことかと言わんばかりの高らかな声が聞こえました。

話は聞かせて貰った!とばかりに扉を開け放ったのは、ラクシャスさんでした。

なんか背後にババーン!って感じの効果音が響いているような気すらします。

見るからに高いテンションです。

満面の笑顔が張り付いています。

右手には、最初に見たシルバーウッドではない緑色の杖が握られていました。

――風の力を呼ぶサトウキビの杖でした。

 

「恩人には報いねばならん!決定力が必要なのだろう?私とこの杖が出撃じゃい!!」

 

目に見えてギヤナさんが脱力しました。

頭痛も覚えているようです。

 

「イや、お呼びじゃネーヨ。ドっから沸いて出やガッタ。――明らか試し撃ちガしたイダけだロ」

 

物凄くげんなりした顔でギヤナさんが即答しました。

余計な事をしないでくれと全身で言っています。

……ボクはと言えば、突然入って来たラクシャスさんをボケっと眺めていました。

 

「……じゃあ、お願いして良いですか?」

「タクミ殿ォッ!?」

 

まさかのボクによる援護射撃にギヤナさんが凄い声をあげました。

 

「マテマテマテマテ考え直すんダ!ホンとにコれで良いのカ!?オツム以前にまダ復活したかドウかも怪しいノだぞ!?」

「流石にオヌシ失礼が過ぎないか!?何だったらオヌシの体で試してやっても構わんぞコラ!」

 

バチバチ言わせた杖をギヤナさんに向けるラクシャスさんです。

 

「……オツムとリバイブは疑っていませんよ。――それに、魔法使いのラクシャスさんが来てくれるなら心強いんです」

 

ちょっとリップサービス入りましたが、本心ではありました。

そら見ろそら見ろと囃し立てるラクシャスさんにピキピキしているギヤナさんでしたが。

 

「――ニソラさんの印象強くて考えて無かったと思いますけどね。ボク、弓に明るくないんです。修練場で皆と一緒に練習しましたけど、アレが初めてでした」

「嘘ォ!?」

 

そう、射ったんですよボクも。

リアルでもやった事が無かったものですから、戦士の皆さんに混ざって弓を引きました。

銃だの剣だの含めて、実際に手に取る機会があったらテンション高くなるのはボクだけじゃないと信じたい。

成績ですが、かなり良かったですよ。

マイクラ補正とでも言うのでしょうか。ちゃんと狙った場所に飛んでってくれるので、ゲームと同じような感覚で打てました。

きっとリアルで射ってもそう簡単にはいかなかったでしょう。

それはさておき。

 

「まあ、そんなわけで経験が浅いので……遠距離のエキスパートであるラクシャスさんが居てくれれば、とても助かります」

「ウムム……」

 

ギヤナさんが唸りました。

決定力があり、遠距離の経験が豊富。しかも弓を中心に戦力を整えようとしているムドラにとって、ある意味で「出しやすい」戦力でもあります。

……ただし、マトモに機能すればの話ですが。

「歪み」的な意味でも暴走的な意味でも、色々不安が出て来てしまう点が渋ってる理由だと思います。

……ボクですか?

そもそもの大前提がギヤナさんとは違っているので、是非もありません。

 

――そもそもボクは、選ぶつもりすら無いのですから。

 

「ムルグへの道のりを知っている」と言う条件さえクリア出来る人であれば、誰でも良かったのです。

決定力云々は、あくまでギヤナさんの心遣い。

付いてきてくれるのなら、それだけで十分なのです。

 

「……判っタ。ラクシャスを連れテ行ってクレ」

「任せろ!何が相手であろうと光の槍で貫いてやるわ!!くはははははは!」

「――アー……本当にコれで良イノ?」

 

念を押してくるギヤナさんに、ボクは苦笑を返しました。

 

「そうカ……ナらせめテ、散華を持って行クと良イ」

 

心遣いがありがたいです。

ウィザーのリスクがなくなったとは言え、ムドラの切り札を持たせてくれる選択はなかなか出来るものではないと思います……が、ボクはそれを断りました。

 

「ありがとうございます。……でも、遠慮させて頂きます。ボクには使いこなせないと思いますし」

 

抜刀剣は保有する経験値が高いほどその威力を発揮します。つまり達人が使えば相応の斬れ味になるわけですが、ボクでは散華を持つには役者が不足過ぎるでしょう。

――ふと、抜刀剣で思い立ちました。

 

「ああ……なら、ひとつ甘えて良いですか。都合つけて貰いたい物があるんです――」

 

 

@ @ @

 

 

「――タクミさん、随分ペース早いけど大丈夫スか?」

 

ワシャさんが心配そうに声を掛けてきます。

 

「先は長いスよ。ニソラ師が心配なのは、解りますけど……」

 

気が逸っているのは自覚していました。

山でのペース配分は間違えると命に関わると聞きますが、きっとネザーに置いてもそうなのでしょう。

ここはワシャさん達のテリトリーです。

であるなら、その忠告に従ってここはペースを落とすべきだとは思いますが……

 

「……ワシャさん達からしたら、辛いペースです?」

 

言った後に、少しばかり挑発的な発言だったかなと少し反省。

 

「いや――オレは大丈夫ッス」

「問題なし」

「ガストおらんか?」

 

最後の問題外な返答は、果たして意趣返し的なモノだったのかどうか判断に迷います。

 

「では、このままで。プライド掛けた体力レースなんてアホな事はするつもりはないので、ペースが怪しいと思ったらすぐ申し出てください。ボクもそうします」

 

気が逸っている故の無茶を少しばかり疑いましたが、それでも疲れる気がしませんでした。

ネザーは難所です。とても高い気温に起伏の激しい地形、油断したらマグマに落下してしまう悪路もあります。

並みの神経と体力では歩き回るのは困難でしょう。

――ボクは、引きこもりと言うほどではありませんが、アウトドアは少しばかり苦手な部類でした。

家族や友達と年に何回かアスレチックとかキャンプとかする程度の一般人です。

ゲームでは体力と言うパラメーターはなく、走ったり飛んだりすると空腹になっていく仕様だった為、何か食べさえすれば延々と歩き続けることが出来ました。

この世界に来てからこっち、何度か身体能力が上がっているなと実感した瞬間がありましたが……まさか、ボク自身「そう言う仕様」になったって事かもしれません。

……いや、でもどうだろう?

生理現象はあるし、疲労は普通にするんですよね。体力的に「もうダメだ、動けない」ってラインに近づく気がしないだけで。

精神的な疲労だけ感じている……?

うーん、どこかで体力テストでもやった方が良いかも知れません。

――逸る気持ちが首をもたげます。

コレは丁度良い機会じゃないかと。ここで更にペースを上げれば、自分の限界値だって実験できるし、それだけ早くニソラさんの元にも行けるだろうと。

まるで足が勝手に速度を上げようとしているような感覚を覚えて、ボクはペースを上げないように、無理のないペースを維持する事に努めて意識を割きました。

限界をここで計る?そんなバカな選択はありません。

疲労困憊で動けなくなるような事になったらボクの方が遭難してしまいます。そしたら、ニソラさんの元に辿り着く事すら出来ません。

仮に先ほど妄想したように、ボクがチートな仕様になっていたとしても悪手が過ぎます。

下手したらムドラの人達に無理を押し付ける事になってしまいます。

山は無理をしたら命に関わると聞きます。

きっとネザーは山より辛いでしょう。

そして、彼らはそのネザーで生きてきたのです。

なら、彼らは山で言うところの「シェルパ(案内人)」であり、彼らの状態はボクの生命線であり、イコールニソラさんへの道しるべとなります。

「遠回りこそが最短の近道」――ジャイロさんもそう言っています。冷静にならなくてはなりません。

 

……それでも。

 

――ニソラさんは、そんな過酷な環境で大丈夫なんだろうか。

 

ふとそんな思考がよぎると、ボクの頭がぐちゃぐちゃにかき混ぜられてしまうのです。

間に合わなかったらどうしよう。

ゲームの中でのメイドさんは、ネザーに連れて行ったら簡単にマグマダイブしてしまうと聞きます。

あんなに強いニソラさんでも、地の利は完全にムルグにある筈です。

もしムルグの人達と交戦していたら、数で囲まれて押し潰されてしまうのでは――?

悪い思考ばかり浮かんで来るのです。

それが、どうしようもないほどボクの足を逸らせます。

 

「――オレは、スユドさんの事を知っています」

 

ふと、声をかけてきたのはカンガさんでした。

 

「ムドラの戦士の殆どが、スユドさんの手解きを受けています。その中では多人数で一人を囲んだり、一人で多人数に挑んだりする戦法の修練があるんです。大抵は一人の方がボコボコにされるんですけど――オレは、その中であってなお、スユドさんが地を舐めた光景を見た事がありません」

 

思い出すようにネザーラックの天井を仰いでいました。

 

「一時、戦士全員に渇を入れる為だったのかな……いつもは4~5人で相手するのに、「全員で掛かって来い」みたいな事を言い出した事があるんです。まあ、そこにいた連中だけなんで本当にムドラの戦士全員って訳じゃ無いですけど……何だろ、2~30人ぐらいだっけ?」

「あん時ッスか……覚えてるッス。つか、オレ数えてたッスよ。オレら含めて27人だったッス」

「待て、私は知らんぞそんな話」

 

ハブにされているラクシャスさんに「居ませんでしたしね、そりゃあ」と苦笑を返しています。

 

「……多人数で掛かるって、数が多いと結構難しいんですよね。迂闊に突っ込むと同士討ちしてしまったり、戦いに参加すら出来なかったり。――オレら、心得てましたんで。いくつかの小隊に分けて陽動、攻撃、足止めに役割振って、短期決戦仕掛けたんです」

「あの時はつくづくスユドさんをバケモンだと思ったッス……オレ、他3人集めて四方から強襲して、とにかく足を止める役だったッス。スユドさんの背後からタックル決めて「やった!」と思ったら、スユドさんが目の前から消えて気がついたら地面さんと熱烈な包容交わしてたッス。意識があるのにどうやっても体が動かなくて、ああ、顎をハネられたんだなって解ったんスけど――具体的に何をされたのか、後で誰かに聞いても「知らん」とか「覚えてない」とか言われたッス」

 

ワシャさんが顎を撫でました。

 

「ワシャとオレは、どっちが先に沈んだんだっけ?」

「覚えてねえッスよそんなん!?つうか、他に意識を向けれるほど余裕なんてあるハズがないッス!!」

 

皆そうだったんだろうなぁ、とカンガさんがひとりごちます。

 

「……もしかして、オレはワシャに謝らなきゃいけないかも知れない」

「――ハイ?」

「オレは足止め組に合わせて波状攻撃仕掛ける担当だったんだが、足止め組のタックルを目隠しにしてストレートで強襲したんだよ。見えてたのかなぁ……スユドさんに攻撃を捕まれて簡単に流されてさ。オレはそこで意識を飛ばされちゃったから良く覚えて無いんだけど、今思い返すと流されたストレートが何かに当たった気がする」

「オレの顎ハネたのカンガだったッスか!?」

「そうかも知れない……」

 

今度はカンガさんが後頭部を擦ります。

傷口を確かめるような手つきだったので、恐らくは意識を飛ばされた攻撃を反芻しているのでしょう。

 

「……なんじゃい、予想はしとったが27人集まった挙げ句ボロ負けか」

「ウス。後で聞く所によると、誰も有効打らしきものは入れる事が出来なかったそうです」

「ドンだけじゃアイツ……」

 

暴走気味だったラクシャスさんまで引いて居ました。

集団戦闘の訓練を受けたゾンビピッグマン27人の一斉攻撃を無手で制圧の上有効打無しって、そこまで酷かったんですかスユドさん……

戦闘力においてはギヤナさんの信頼がことさら厚かったのも理解できる話です。

これ、飛行能力さえなんとかなればウィザー相手でも素手で勝てるんじゃないですかね?

スユドさんに空を飛べるアイテム持たせたら、世界最強の生物が出来上がりそうな気すらします。

 

「――まあ、そんな訳でしてねタクミさん」

 

カンガさんが笑って言いました。

 

「あのスユドさんを武力でどうこう出来るなんて、オレら欠片も考えて居ないんですよ。罠に嵌めようと奇襲掛けようとどうにか出来るとは思えないんです。どうにか出来そうな方法があったら、逆に教えて欲しい位だ。……そんなスユドさんがガチでニソラ師を守ってるんです。

 

――だからね、タクミさん。ニソラ師は、きっと無事ですよ」

 

それは、ボクへの気遣いの言葉でした。

 

「……うん。ありがとう」

 

――それで不安が無くなった訳ではありませんでしたが。

ホンの少しだけ、肩の力が抜けた気がしました。

 

 

@ @ @

 

 

ムルグへの道を進んでいると、元の拠点への目印としてボクが建てた丸石の塔があります。

道は、元の拠点に続くネザーゲートとはズレた方向へ延びていました。

 

「――え?アッチから来られたんですか?」

「そうなんです。ここからだと、歩いてえーっと……2本?ぐらい?」

 

ヘルバークの本数を暗算してみましたが、言ってみた後に「いや、そこまでは掛からないかな?」と少し反省。

 

「ムドラに作られたゲートの先には、立派な家が建っていたと聞いたんですがそちらは?」

「そのまんまですよ?ゲート開いてから、拠点を建てました」

「建てた!?15本程度の時間で!?」

「いや、建てたのとは違うかも?斜面を掘って削って作った拠点ですし」

「……あの、そっちの方が難易度高くないですか」

「うん。だから普通に建てるより時間かかりましたよ?」

 

カンガさんたちが顔を見合わせています。

流石に半信半疑のようです。

――ちょっぴり、イタズラ心が首をもたげてきました。

 

「――例えばですよ?ここに建てた目印の塔ですけども。ムドラの人達はどの位で建てますか?」

 

目印の丸石の塔を差してそう聞いてみました。

全長3m、拠点の方向に松明を置いた、マインクラフターならかなりオードソックスな目印です。

ええっ?とお互いに視線を投げながら、

 

「……そもそもアレ、なにで出来てんスかね?」

「普通に岩積む前提で良いんじゃないか?地上の岩じゃろ、きっと」

「がっちり組まれてるなぁ、コレ……ビクともしない。煉瓦で組むつもりで考えた方が良い気がする」

「カンガより頭ふたつ上って所ッスかね」

 

割りと真剣に考えてくれています。

ムドラではもしかしたら、建築技術はある程度一般的な技能なのかもしれません。

自分の家は自分で建てる、的な?

元居た所を放棄して新しく作り直す、がポピュラーな所と聞きますし。

 

「――大体、3本ぐらいあれば行けるんじゃ無いかと言う結論になりました」

「なるほど」

 

大体2時間半って所ですか。

手作業でそれなら、結構早いんじゃないでしょうか。

 

「まあ、ムドラの人達からすれば3本程掛かる塔もですね――」

 

目印が建っている道の反対側にテクテク歩くと、おもむろにインベントリから丸石を呼び出します。

そしてそのまま、ストトトンと丸石ブロックを3つ積み上げ、トドメに松明をぶっ指しました。

オンハンドのアイテムの切り替えをマウスでやってた頃と比べて、イメージで操作できる現状が楽で仕方がありません。

 

「――っとまあ、ボクがやれば2秒で建てれてしまうんですね」

「イヤイヤイヤイヤおかしいおかしいおかしいおかしい!!」

「ってか、どこに持ってたッスか今の!?」

「ただ単に積み上げただけじゃない……しっかり接合しとる……なにこれこわい」

 

オカシイ光景に見えても、出来るもんは出来るんですからしょうがありません。

 

「話に聞く家も、こんな感じで作っちゃった訳ですか……」

「そーゆー事です。1本を4つに割った位の時間があれば、簡単な家ぐらいはチョチョイと作れますね。まあ、本当に雨風防げる程度の物になりますけど――って、雨は無いんだっけ」

 

持論ですが、小~中規模の建物を作る場合、かける時間の殆どは設計とデザインに傾くと思います。ボクら工魔系Modユーザーの場合はそれがかなり顕著です。

使い勝手は元より、配管とかエネルギーとか稼働チャンクとか見映えとか、ともすれば機器類を置く事によるサーバーの負荷まで考えてレイアウトを決める訳です。

工魔Modはエンドコンテンツが近づくと、大型の装置や祭壇を要求してくる事がザラですからねぇ……

場所だけ確保してレイアウトが決まらずに放置、とか日常茶飯事でしたよ。

反面、選択肢の少ないプレイ序盤はバニラ建築に片寄るので、余程家らしい家が建て易かったりします。

今回の拠点作成もその系統ですね。

もし工場や何らかの施設を作ろうとしていたら、今でも頭を捻っていたかも知れません。

 

「――創世の伝説が伝わっている……」

 

作り上げた塔を見上げながら、ラクシャスさんが震えた声を上げました。

皆の視線が集まります。

「曰く、この世のすべての破壊と創造を司る力。神は世界に色を与える為に、その現身(うつしみ)達を遣わせたそうな。その者達は、世界中に散らばると瞬く間に文明を作り上げて行ったと聞く。

 

――彼らは自らを、「マインクラフター」と称した」

 

「――ッ!!?」

 

そのものズバリの単語が出て来ました。

やはり、マインクラフターはボク以外にも実在したのです。

 

「伝説の青い戦士が、それであったそうじゃ。何処からともなく物を取り出し、見た事も無い道具や建物を瞬く間に作り出し、遂には厄災さえ退けたと」

 

ぎぎぎと油の切れたブリキ人形のように、カンガさんがボクに視線を向けました。

 

「――タクミさん。オレ、アディスタから聞いたんですけど。オレ、聞いちゃってたんですけど。……あなたムドラに来た時に、一体なんて名乗りました……?」

 

――アディスタさん。

ムドラに入る時に、遠吠え(?)でギヤナさんに話を通してくれた、あの防人のゾンビピッグマンですね。

……ああ、そう言えば名乗った気がします。

ボクは軽く笑って、その時と同じように名乗りました。

 

「――地上から来ました。マインクラフターのタクミです」

「うああああああああ!!?やっぱりいいいぃぃぃ!!?」

「本物ッスか!!?神の現身の本物来ちゃったッスかあああ!!?ご、ゴメンなさいっス!!オレ、祭壇に捧げられてた神事のハチミツを少しだけつまみ食いした事があったッス!!あと、支給されてた剣をウッカリ折っちゃったもんだから、接着材でくっ付けて倉庫の剣とコッソリ取り替えた事があったッス!!懺悔するので舌ぶっこ抜くのは許して欲しいッスうううぅぅぅ!!!」

「オイイイィィィ!!?ハチミツも大概だが剣の話はかなりオオゴトだぞお前ええええええ!!?」

「許して欲しいッスううぅぅ!!許して欲しいッスうううぅぅぅ!!」

 

……いや、あのう……

いきなりワシャさんに悪行カミングアウトされるとか、リアクションにメッチャ困るんですが……

えっと?こっちの神様はアレですか?

悪い事とかすると舌を引き抜きに掛かるんですか?

なんか閻魔大王みたいな神様だなぁ……って、そう言えばここ地獄なんですよね。もしかしたら何か関係でもあるんでしょうか。

ラクシャスさんがプルプル震えながら呟きます。

 

「――その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし……おお、おおおおおおぉぉぉ……」

 

いや、それはもう良いですから。

なんでババ様みたいな声のトーンでそれを口にするんですか。

ボクは別に失われた大地と絆を結んで清浄の地に導くつもりはありませんから。

 

「……あれ?タクミさんがそうだってことは、もしかしてニソラ師もマインクラフターなんですか?」

「許して欲しいッスううぅぅ!!許して欲しいッスうううぅぅぅ!!」

 

ワシャさんにコブラツイストを掛けながらカンガさんが声を上げます。

ワシャさんが悲鳴混じりに許しを請う声が嫌なBGMになっていました。

正直、引きます。

 

「いや――ニソラさんは、メイド妖精です。どういう種族かって言われてもあまり説明出来ないですけど、ボクみたいな事は出来ないですよ」

「――メイド妖精とな!?」

 

クワァッ!と目を見開くラクシャスさん。

 

「知ってるッスかラクシャス師!?」

 

コブラを受けながらそれでも反応するワシャさんです。

……この人たち、いっそ吉本辺りにでも殴り込んだら良いのではないでしょうか。

ラクシャスさんが重々しく頷いて、雷電もかくやと言う乗りで後を続けます。

 

「ウム!メイドさんとは!!――家事全般のエキスパートであり、「キッサ」なる場所に生息し、そこに来る者たちを「ゴシュジンサマ」と仰ぎ、「カフィー」なるさして旨くもない泥水を法外な値段で振舞う化生の類と伝わっておる!!」

「何なのその悪意に満ち過ぎたピンポイント知識!?」

 

あまりに一部過ぎるメイドさんの引用に、思わずツッコミを入れずにはいられません。

って言うかラクシャスさん。ニソラさんをそのメイドさんと一緒にしたら真剣にブッた斬りますよ?

ワシャさんも抗議の声を上げてくれます。

 

「――それだとニソラ師とギャップがあり過ぎるっスよ。タクミさんが言ったのは「メイド妖精」っス。もしかして、「メイド妖精」と「メイドさん」ではモノが違うんじゃないっすか?」

 

凄いアホな考察を真剣にぶち上げていました。……いや、確かに気持ちは解るんですけども。

 

「なるほど。ニソラ師は家事全般と言うより武術全般に通じているとも言えそうな程に身のこなしの素晴らしい人だからな。スユドさんが感嘆の声を上げて「戦ってみたい」って漏らしてたぐらいだ。物が違うと言われた方がしっくりくる」

 

いやいや、ラクシャスさんの知識がガセだと言う方向はないのですか。

 

「フム……しかし、人に歴史はツキもんじゃ。今はあのような素晴らしい戦士でも、もしかしたら過去にはヨゴレた仕事のひとつやふたつ「チャキリ」――あれ、タクミ殿なに抜こうとしてるのまってこわいごめんなさい」

 

――しばらくの道中、こんなカオスが続きました。

まったく、急いでいるというのに酷いタイムロスです。

 

 

@ @ @

 

 

ヘルバークの森林に差し掛かりました。

ムドラに行く時に通った所に比べて、こちらは少々面積が小さいかもしれません。

 

「森林自体は、結構どこにでもあるんですか?」

「??そりゃあ、森林ですからね。どこにでもあるものでしょうよ」

 

どうやら、地上における森林と同じように考えてもよさそうです。

しかし燃えてしまうくせに、よくまあこんな環境で繁殖できるものですね。

――やっぱり、ハチのおかげなんでしょうか。上を見ると、こちらにも馬鹿みたいに大きなハチの巣が天井にへばりついていました。

 

「森林の近くには、あるものなんですねぇ……ハチの巣」

「そうですね。……あんな所に作られる物だから滅多にありつけないんですけど、アイツの蜜は貴重で絶品なんだそうですよ。オレは食べた事がないんですが……」

 

過酷な環境で作られるハチミツは濃厚で美味しいらしいですね。ニソラさんが食べたがっていました。

 

「我々がハチミツにありつくには、偶然が重ならんといかん。たまたま手が出せそうな位置に巣があったり、ガストに攻撃されて巣に穴が空いたりだな。全ての巣にハチミツが入っている訳では無いので、本当に運が必要だ。ハチの巣を見つけると、その運を期待して蜂の巣の下に大きな受け皿を置いたりする」

 

ほれ、とラクシャスさんが指す先にはなるほど、鉄の大皿が置いてありました。

ガストが喧嘩を売るなどして巣に穴が空いたら、そこに蜜が垂れ落ちると言う事なのでしょう

 

「……もしかして、タクミ殿ならそんなことをしなくても、蜜を取りに行けるのではないかの?」

「ええ、まあ。取りに行くだけなら簡単でしょうね。ガストとハチに狙い撃ちされる危険に目を瞑れば」

 

ブロックに乗りながら、あの高さまで積み上げれば良いだけの話ですし。

 

「その通り、取りに行くのは危険を伴うぞ。ハチにも戦士がいてな、そいつらは「ワスプ」と呼ばれている。蜜を集めるハチよりも一回り大きく、とても俊敏で鋭い針と牙を持つ。巣に仇なす者に等しく攻撃してくるからな――昔、ハチミツ目当てで巣を撃ったらヒドイ目に合ったわ」

 

ああ、遠距離攻撃持ってるからやっぱり考えちゃうんですね。

 

「ワスプはガストも攻撃するから、ガストは迂闊に巣に近寄れないッス。だから、巣の近くはあまりガストが出てこないッスよ」

 

ガストの火の弾は爆発するから、かなり致命的なダメージになりそうですもんね……優先的に狩りに来そうです。

 

「ガストからも守ってくれて、運が良ければハチミツも手に入る。……そんなんですからね。オレ達の間ではハチミツは幸運と祝福の象徴であり、神聖な物なんですよ。――そう……神聖な物なんだ、け、ど、な、あ!?」

「ゆ、許して欲しいッスぅ……」

 

この話題だとワシャさんイジリが止まりません。

 

「ギヤナさんと取引する予定なんですけど……ハチミツも、その中に入れて見ようかなぁ……?そこまでの物なら、ニソラさんに「お疲れ様」って出してあげたいです」

「タクミ殿はマインクラフターなのだろう?なら、是非もないと思うぞ。元々アレは、神に捧げる物でもあるからのう」

 

神様の現身扱いになっているんでしたっけ……

確かにこの世界に来るときに神様には会いましたけどもね。テンプレの神様ですが。

 

「……神様扱いされるのは嫌だなあ……でもそれ以前に、ボクたちが食べても大丈夫なのかが心配なんですよね。ラクシャスさん達は普段どんな物を食べているんですか?」

 

ネザーで取れる食糧は、キノコ位でしょうかね。

ゲームではキノコが生えていましたが、そう言えばこっち来てから見ていません。

 

「大地の肉の火の子掛けステーキ!!コレは絶対外せないッス!!」

 

シュタッと真っ先に手を上げるワシャさん。

 

「ヘルバークの若芽のサラダもなあ。中々旨いよなあ……ハチミツの元になる木だからかなあ」

「ファイヤーバットのつみれもウマイぞ。あいつら骨が多いから皮を剥いで骨ごと肉を叩いてミンチにするんだが、細かい軟骨が練り込まれたコリコリの食感が病み付きになる」

 

おや、結構ネザーにも選択肢があるんですね。

 

「ヘルバークやファイヤーバットは解るんですが――大地の肉ってなんです?」

「アレ、地上にはないッスか?文字通り大地の肉ッスよ。骨とか突き出ている景色見たことないッスか?そう言うところの近くは大抵肉みたいな質感をした大地になってるッス。ある程度の深さから地面を切り出して食べるッスよ。本当に肉の味がするッス」

「地面食べるの!?」

 

まるでトリコに出て来そうな話にビックリしました。

ええ、ここに来たときにチラチラ見ましたよ、突き出た骨。

遠目だったし、そちらの印象強すぎて大地の質感は見ていませんでしたけども――まさか地面を食べれるとは。

いやいや、世界は広いものです。

 

「……ちなみに火の子ってなんですか?ギヤナさんにもてなしを受けた時に、出す事を検討された記憶があります」

「何と言われると――なんだろ、調味料?ブレイズって言う棒が集まったような奴が居るんですが、そいつの棒を削った粉がピリピリしててウマイんです。お客に出すときは、油で練ったデンプンを軽く焼き上げた物に掛けるのが普通ですかね」

 

知ってる単語が出て来ました。

ブレイズと言うのは、バニラで出てくるネザーのモンスターです。

ネザー要塞に出現し、ふわふわと浮きながら火の弾を撃って来る敵性Mobです。

ここだけ聞くとガストに酷似しますが、爆発する火の弾であるガストに対し、ブレイズの火の弾は純火属性の攻撃です。

火耐性を持つゾンビピッグマンにとってはあまり害のないモンスターと言って良いでしょう。

顔の回りに黄色い棒が幾つも浮かんでいると言う独特の形状をしており、その容姿が某ファストフードショップのフライドポテトに酷似していることから、ゲームにおいては「ポテト」なんてアダ名で呼ばれる事も多いです。

ゲーム中盤のコンテンツである「ポーション」の作成に関わりが深く、その棒――「ブレイズロッド」は醸造台の材料になり、ブレイズロッドを粉にした「ブレイズパウダー」はポーション醸造の燃料や、ポーションの材料そのものになったりします。

ブレイズパウダーで作れるポーションは確か「力のポーション」……服用した時からしばらくの間、攻撃力を増加させるポーションです。

そんなブレイズパウダーを調味料として常用しているとは、ゾンビピッグマンの強さの秘密を見た気がしました。

……さて、ポーションと言う形で服用できると言うことは、わりかしネザーの食べ物でも普通に食べる事が出来るのかも知れませんね。

しかしそうか、ブレイズロッドが手に入るのか……取引項目に追加ですな。

 

「その棒はどうやら、ボクがブレイズロッドと呼ぶ物と同じみたいですが――ブレイズって、空飛びますよね。ガストと同じく、ムドラの人達に取っては難しい相手だったんじゃあ……?」

「お?地上にもブレイズが居るんすか?……確かに空飛びますが、そこまで長い間飛べる訳じゃないし動きも緩慢スからね。追い回せば捕まえられるッスよ」

 

なるほど、山鳩追う様な物なんですね。

アレも体力ないからすぐに降りてきてしまうと聞きます。

そう言えばゲームのブレイズも、プレイヤーを発見しなければ、基本的に地面近くまで降りているのがデフォでした。

 

「――お?」

 

ふと、カンガさんの歩みが止まりました。

視線の先には溶岩の川が出来ています。

 

「――どうしました?」

「いやあ――ここ、ムルグへの道の上なんですよ。どうやら何処からか溶岩が湧いて出たようで」

「ハイィ!?」

 

普通に溶岩の川じゃなかったんですかここは!?

 

「まあ、昨日何の問題もなかった道に溶岩が流れ込むなんて日常茶飯事ッス。――渡るしかないッスね、急ぐなら」

「あー……認識がズレているみたいですので申告します。ボクもニソラさんも、と言うか地上の人達には皆火耐性ついてません。溶岩に突っ込んだら普通に焼け死にますよ」

「ええ!?そうなんスか!?」

 

何せ初心者クラフターの死因の多くがマグマダイブによる「あたたか死」ですからねぇ。

死んだ後に持っていたアイテムが「ジュウッ」と焼かれて消滅していく音を聞くのはとてもとても悲しい物です。

溶岩の幅は約8mってトコでしょうか。深さは大したものでは無さそうなので、ニソラさんなら選択肢としてスユドさんに抱えられて進むと言うのもアリですけども……

途中でコケた事を考えるとかなり怖いですね。

ボクは丸石ブロックを取り出すと、落ちないように気を付けながら簡単に橋を渡し始めました。

 

「え!?――ええ!?」

「あの人、ホント唐突にこう言う事やるッスね……」

 

まあ自重しない方針ですので。

 

「き、奇妙だ……!?地面に設置している部分より、橋として伸ばしている所の方が明らかに長い!!アレでどうやってバランスを取って居るんだ――!?」

 

いえ、バランスは取っておりません。このブロックは空中に固定されていますので。

そうこうしている間に8mです。20秒あればこの程度の橋渡しは余裕でした。

 

「ハイ、終了……もしかしたらこのマグマの川を越える為に、上流へ向かってたのかもしれませんね」

 

上流に視線を向けます。

険しい道のりが視線を邪魔して、その先がどうなっているかは判りませんでしたが……

 

「ボクらもニソラさん探す為に、上流に向かいましょう」

「あー……了解。すれ違っても解るように、誰か正規ルートへ向かいますか?」

 

もう言うだけ無駄なのか、と諦めた顔でカンガさんが聞いてきます。

 

「いや、時間的に考えてココでぶつかる可能性は低いと思います。書き置きだけ残して行けば十分でしょう」

 

手早く看板を作って、メッセージを書き込みました。

 

――迎えに来ました。上流へ回りますので、もしこの看板を見たら印をつけた上で先にムドラに戻っていて下さい。タクミ。

 

……あれ?

ゲームと同じように普通に設置しちゃったけど、ボクは今何を使ってこの文字を書いたんだろう……?

全然意識せずに書き込んでいましたね。

 

「あー……まぁ良いか。んじゃ、行きましょうか」

 

……何か、奇妙な物を見るような視線が向けられている気がします。

 

「さっきの石といい、木材といい……何でも出てきますね、タクミさん……」

 

ああ、そう言う事ですか。

 

「1スタックの丸石と原木は遠出するクラフターの標準装備です。今回は足場を考えて2スタックづつ持ってますけどね。後は、水入りバケツを多目に4つと食糧のパン、鉄ピッケルに作業台と火打ち石と松明――後は弓矢と、ニソラさんへのプレゼントを少し」

 

インベントリの圧迫が中々多いですが、それでも1/3は空いている為そこまで苦ではありません。不要になったら捨てれますしね。

ちなみに、抜刀剣はずっと後ろ腰に指しています。

 

「何処に持ってんスかそんなん……」

「うーん……不思議ぱぅわぁ?」

 

もう、この一言で済ませてしまっても良いのではないでしょうか。

 

「――ちなみに1スタックってどれぐらいなんです?」

「さっき目印の塔に使った資材のざっと20倍かな」

「マジでドコに持ってんのォッ!!?」

 

だから、不思議ぱぅわぁだってば。

 

 

@ @ @

 

 

溶岩の川を右目に、険しい道のりを遡って行きます。

道として利用されているわけでは無いので所々崖みたいな場所を渡る事も有りました。

あまりにヒドイ場所であれば、後の事も考えて軽く整備して進みます。

溶岩の途切れる先はまだ見えて来ません。

 

「溶岩の川が出来る理由は、大抵ふたつあるッス。ひとつは何処からか溶岩が吹き出て川を作ってるケース。もうひとつが天井から垂れてきてるケース。どっちも、大抵ガストの爆撃によって地形が変わった事が原因になる事が多いッス」

「ホント百害あって一利も無いね、ガストってぇのは!」

 

いや、涙は辛うじて利に入れてやるか、とちょっぴり思いましたが口にはしませんでした。

1m程の段差に丸石のハーフブロックを置いて多少段差をマシにすると、今度は幅が狭すぎる崖を掘ってマトモに通れるように整備します。

本当に通ったのかこんなところ、と思うような道のりです。

しかし、ちょっと無理すれば今のボクなら通れそうな気がするので、通ったのだと信じるしか無いわけですが。

 

「――確かにガストが何かの利になってるのを見た事がないのう。基本的に破壊しかもたらさん奴だ。それどころか、何を食っているのかも怪しいモンだ」

「食べるモンが解ったら、積極的に毒仕込んでやるッスよ!!」

「まったくだ。――まあ、毒が効くかは解らないけど」

「効くと思いますよ。ニソラさんが毒矢を打ち込んだらのたうち回ってました」

「うおお、流石ニソラ師!!何の毒です?」

「トリカブトのメイド妖精スペシャルブレンドだそうで」

「――何の毒です??」

「まあ、こっちじゃ手に入らないでしょうねぇ」

 

軽口を叩きながら険しい斜面を登っていきます。

あの溶岩の移動エネルギーはココから来てるんですね。溶岩が滝になってますもん。

危険度はボクが整備している為それほど高く無いですが、整備のなかったニソラさんが心配です。

ボクたちは今、橋を渡った上で上流へ登っているので、つまりはニソラさんの「帰り道」をトレースしている訳です。

……じゃあ、「行きの道」はどうしたのでしょうか。

ココ、降りるんですか……?ボクの整備無しで……??

あまり想像が出来ないんですが。

 

「やっぱり着いて行けば良かった……ボクが居れば、簡単に道を作れたのに……!」

「ムルグには既に道が通ってたんですから、この事態を予想しろってのは流石に無理がありますよ」

 

「後」から「悔」やむから「後悔」……まったく、忌々しいことです。

 

ようやっと崖を登り切ると、多少開けた所に出ました。

まばらにヘルバークの木が自生していますが、足元は灰に覆われ所々に火がチラついています。

黒こげのまま聳え立つ木も幾つか。

 

「――溶岩の川がキッカケで火が付きましたね、コレは。しかもそれほど時間経って無いですよ、コレ」

 

つまり燃えている真っ最中――って事ですか?

 

「でも、あんまり煙出てないですよ……?」

「?そりゃそうですよ。肉を焼いてるんじゃないんですから」

 

えええ……?それ、肉を焼いた時ぐらいしか煙が出ないみたいに聞こえますよ?

煙と言うのはつまり、不完全性燃料起こした時に出る炭素の微粒子でしょう?

真っ黒なヘルバークがあるって事は、アレ炭になっているワケで。炭になるって事は不完全燃焼を起こしているワケで――?

 

「おお!?凄いッス!ココに続いてるんスねコレ!!」

 

登った崖を振り返ったワシャさんが感嘆の声を上げました。

 

「……どうした?」

「ほら、トンネルがあそこに見えるッスよ。で、崖を通じて向こうまで行って折り返して……」

 

ワシャさんの手振りに合わせて皆の視線がうろうろとさ迷って、最終的には溶岩の上流の方に固定されます。

 

「おお……凄いな、ココに着くのか」

「知らずに近道してたッスよ」

「んじゃあこの溶岩、方角的にアレか。嘆きの砂漠の溶岩湖か」

「その可能性高いッス」

 

なんか関係者だけで納得されているのですが。

ええとつまり――どう言うことだってばよ?

 

「タクミさん……あそこの崖、見えますか」

 

カンガさんが指を向けた先にはしかし、赤く霞んだ岩壁しか見えませんでしたが……

 

「あの上が、ムルグです。方角がグネグネして判りませんでしたけど――オレ達、近道してたんですよ!」

 

目を細めてもボクの視力では確認は厳しかったですが、どうやら目的地がそこまで近づいているとの事でした。

怪我の巧妙とはこう言うことを言うのでしょうか。

 

「へえ……ココから辿れるって事は、今登ってきた道を帰りに降りずに済むんですね。良かった良かった、それならニソラさん達も……って、ええ?……ちょっと待って?」

 

崖から辺りを見渡します。

ムドラの位置、ムルグの位置、街道のラインを頭の中で組み立てて、最後に溶岩流の源を辿りました。

 

「え……何?ムドラとムルグを繋ぐ街道を切断するように溶岩流が流れていて、しかもその源がムルグのすぐ近くにあるの……?」

 

ぞわり、と足の先から気味の悪い何かが、うぞうぞと這い上がって来る気がしました。

 

――それじゃあ。それじゃあまるで。

ムルグの人たちがムドラへの道を塞いだようじゃ無いですか……?

 

「……空気読めとか言われるかもしれんが、ひとつお前らに聞いても良いか?逸る私の勘違いなら、ただ笑えば済む話だ」

 

ラクシャスさんが神妙な顔でポツリと訪ねます。

 

「――お前ら、ココに至るまでにガストを見たか?最近増加している筈のクソッタレどもの姿を……?」

 

口の中が乾きます。

それはこのネザーと言う環境だからなのでしょうか?

皆が押さえていてくれた、あの言い様のない不安がグツグツ音を立てて浮き上がって来るのです。

ガサガサと森林から物音が響きます。

――ガストだ。きっと、ガストだろう。

何の根拠もなくそう決めつけて、各々武器を構えますが――しかし。

 

「ム――参ったな。何故「こっち側」にいる?何処かに渡れる場所があったのか……?」

 

――現れたのは、一人のゾンビピッグマンでした。

それは灰色の、つばの無い帽子を被っていました。

作りの良い、動きやすそうなベストを身につけています。

体格はスラリとしていて、骨の見えていない肉の部分は高密度に圧縮したかのように引き締まった筋肉を作っています。

その身のこなしには隙がなく、眼光は厳しさと雄大さを放っています。

 

 

「え――?スユド、さん……?」

 

 

……ムドラの最高戦力が、悠然とそこに佇んでいました。

 




抜刀剣のSAが固定なんじゃないかと今更気づきました。
一部の剣だけだと思ってた……
散華のSAはどうやら近接多段範囲攻撃の「終焉桜」でFIXのようです。
でもまあ、ココの散華はちょっと毛色が違うからと言う事でご容赦を。


起伏の多いネザーは描写に困ります。
今回、かなり解り難いかも……
でも説明文をもっと入れると読むリズムが変になるしなぁ……

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