ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

14 / 22
再会

歩いて10分ほどの道中。

そのゾンビピッグマンと話せたのは、軽い自己紹介程度のものでした。

彼に付き従うヘルハウンドの名はダンシトルラ。

ラクシャスさん達は案内される最中も警戒を続け、抜剣すらしたままだったのです。録な会話も出来ようハズがありません。

それを警戒してダンシトルラが明らかに「臨戦態勢」を続けていたのも拍車をかけます。

これはもう、どうしようもありませんでした。

現時点で彼我の「信頼」なんて皆無なのです。

双方共に「なにか妙な真似したら叩き斬る」と言う状態でした。むしろネートルさんの方が負い目からか譲歩してくれてたぐらいです。凄くあっさり背を晒していました。

ボクたちの中で納刀していたのは、唯一ボクぐらいです。――最も、ボクの納刀はイコール「臨戦態勢ではない」と言う意味ではありませんけども。

不意に上方の死角から突撃して来たファイヤーバットを察知して、振り返りざま一刀の元に斬り捨てると、一瞬場が凍りつきました。

例え納刀していても、気持ちスニークはずっと続けていた恩恵です。

システムアシストフル活用で察知に合わせて抜刀する簡単なお仕事でした。

ずんばらりされたファイヤーバットを見て、そう言えば初めてネザーに来た時はニソラさんがこれをやっていたなぁと目を細めます。

 

「……失礼しました」

 

静かに納刀して先を促します。

ラクシャスさんが引きつった顔で口を開きました。

 

「――カンガ」

「う……す、すみません……解ってます。解ってるんですけど、言い訳になるのも解ってるんですけど、流石に今のは、ちょっと、その……」

「ああ、うん、解っとる。言いたい事は解っとる。確かに理不尽言ってるとスゴく思う。思うんだが、その……な?」

 

どうやらこの縦列においては、今のファイヤーバットの処理はカンガさんの仕事だった模様です。

 

 

そんな微妙な空気も流れつつ、案内された先は何でもない岩陰でした。

流石に、おあつらえ向きに洞窟が――何て言うほど都合の良い場所では無かったようです。

そこにはもう一体、そこを番するように佇んでいるヘルハウンドがいました。

視線が噛み合うと威嚇されます。

ネートルさんが手で制しながら声を掛けました。

 

「――ウパスタ、連れてきたよ。彼らは敵ではない」

 

あのヘルハウンドはウパスタ、と言うようです。

ネートルさんの言葉にしぶしぶ納得したように視線を落としました。

さらに近寄ると、岩陰に隠れた人影が見えます。

ヘルバークの枯れ葉でしょうか、乱雑に纏めてクッションとした場所に、力なく横たわった小さな体。

 

 

――3日前に見送った、ニソラさんの姿でした。

 

 

「――ニソラさんっ!!」

「あっ、ダメで――」

 

 

静止の声を振り切って駆け寄ります。

3日振りに見た彼女の姿は、出発時のような活気は消え失せ、極度の憔悴が張り付いていました。

その表情は苦しげで、息が荒く、動くこともままならない……そんな状態です。

「今にも死にそうな姿」――そんな形容が当てはまるその姿を見て、ボクの背筋に冷たいものが這い上がってくるのを感じました。

 

「ニ、ソラ、さ……う、うそでしょ……?」

 

やっと会えたのに。

3日間、焦がれて焦がれて、やっと会えたと言うのに。

こんなのってないよ。

なんなんだよ、これ。

絶句して立ち尽くすボクの横に、ネートルさんが並びます。

 

「……スユドさんが、これやったの……?」

 

声を掛けられる前に、質問していました。

自分でも驚くほど暗く、低い声が溢れ出ました。

 

「い、いえ!違います!……病のようなものだと、ニソラ殿は言っていました」

「病だって!?」

 

持病を抱えていたなんて初耳です。

しかも、こんな深刻な!?

 

「た、タクミ殿が来て、自分の意識が無かったら、これを見せるようにと!それで解ってくれるハズだと!」

 

ボクの剣幕におののきながらも、ネートルさんは革っぽい袋のような物を見せてきました。

――ニソラさんの荷物の筈ですが。

 

「……なに、それ?」

「い、いえ!そこまでは!……薬でも入っているのかと中を改めたのですが、空でしたので。てっきり、中身が入った物をタクミ殿が持っているのだと……」

 

差し出して来たそれを受けとりました。

広げて眺めてみると、やはり袋です。変わっているのは口に当たる部分が極端に狭く、硬く作られている、くらい、で……

 

 

――それが何なのか、思い当たりました。

 

 

「み、ず……ぶくろ……」

 

血の気が引いて行きます。

中身は、見事に空になっていました。

 

「バカだ――バカだバカだバカだバカだバカだボクはバカだ!!足りるハズないじゃないかこんな環境で!!足りるハズないじゃないかよぉっ!!」

 

半狂乱になりながら、大急ぎで地面をツルハシで1ブロック掘りました。丸石で底を嵌め、周りをさらに囲います。

 

「ちょっ、何やって――何やって!!?」

「るっさいっっ!!」

 

いつも通りの非常識に対する反応すら、今は鬱陶しいだけでした。

持ってきた水バケツの中身を即席の水槽にぶちまけ、原木を使って作業台と木のボウルをクラフトします。

 

「……ッ、タクミさん!何か手伝えるッスか!?」

 

ワシャさんが真っ先に名乗り出てくれました。

一瞬考えて、大急ぎで木の看板をクラフトします。

 

「これで、ニソラさんを仰いでください!風をニソラさんに当てるんです!」

「り、了解ッス!!」

「ごめんニソラさん!服濡らすよ!!」

 

木のボウルで水を掬い、上半身に軽く掛けていきます。

この環境であれば、熱がこもるより気化熱による冷却の方が早いハズです。

ワシャさんが仰いでくれているなら余計に。

 

「……ぅ、っ……」

 

小さな呻きが聞こえます。

意識が、戻りかけているのでしょうか。

 

「容態は――どうなのだ?危ないのか!?」

 

ラクシャスさんが身を乗り出します。

 

「――脱水症状です。多分、熱中症も……医学には明るくないけど、意識混濁まで症状が進むと……命に関わるって、聞いた事が……っ!」

 

水をもう一度ボウルで掬い、今度は少量の砂糖を溶かしました。

塩が無いのが辛いですが、仕方がありません。

 

「ニソラさん……ニソラさん!飲める?……お願いだから……飲んで……っ」

 

体を支え起こして口元にボウルを持って行きます。

映画か何かのようにいっそ口移しで――なんて一瞬考えましたが、意識が混濁している人に対してそんなことしたら、気道に入って悪化させてしまうに決まっています。

器具も技術も無いから、補水は経口からしか出来ません。

ダメージにならないように気を使いながら、祈る心持ちでニソラさんを揺すり呼び掛け続けます。

――その願いが、聞き届けられたのでしょうか。

ニソラさんの瞼が薄く開くと、差し出したボウルに口を付けてコクコクと飲み始めました。

 

「――、ニソラさん……っ!!」

 

みるみるうちに砂糖水を飲み干すと、ほっと一息ついて体重を預けて来ました。

微かに唇が動きます。

 

「……だ、い、じょうぶ……です。もう、一杯……」

「うん!――うんっ!」

 

滲む視界をそのままに、砂糖水を用意します。

力なく震えながら、ニソラさんはゆっくりとそれを飲み下していきました。

二杯めの砂糖水を空にすると、力の無いニソラさんの視線がボクに向けられます。

――薄く、笑っていました。

 

「ふふ……お姫さま、みたい、ですね……私……」

「そうだよ――助けに来たんだ。もう一杯、飲む?」

 

小さく首を横に振りました。

 

「大丈夫、です……少し、後に、頂きます……今は……ちょっと、休みます、ね……」

 

すうっと、ニソラさんの瞼が閉じられました。

 

「ニ……ニソラ、さん……?」

 

まるで今際のような流れで意識を落とすその姿を見て、背筋に冷たいものが走ります。

息は止まっていません。苦しそうだった荒い呼吸が、少し収まっている……そんな状態です。

当然です。意識混濁を引き起こすほどの重態が、水を飲んだだけで全快するハズがありません。

 

「――あまり、眠れていなかったようなのです。追っ手を警戒していたからと言うのもありますが……病があったから、と言うのもあったのだと思います」

「……」

 

ネザーの環境で熟睡は出来そうにない……ボクは、そう考えていました。

だから戻って来たニソラさんがゆっくり休めるように、ムドラからゲートを開いてニソラさんの為に拠点を建てたのです。

――ニソラさんなら、ボクよりも旅慣れているだろうから。

きっと、この環境でも少し疲れる程度で済むのだろうと……そう思っていたのです。

全て裏目に出ていました。ボクの拙い判断が、ニソラさんをこうしてしまったのです。

――地上へ、出なくちゃいけません。……ここではニソラさんの体力が消耗されて行くばかりです。

水をかけて扇ぐだけでは限界があるに決まっています。

ゲートを開く為には溶岩が必要です。

ここに来るまでに見た一番近い溶岩溜まりは何処だったか――ボクが思考の地図に潜り始めると同時に、ラクシャスさんが口を開きました。

 

「――ニソラ殿が落ち着いたのなら、そろそろ聞いても良いかの?空気を読まずスマンが」

 

――まだ危険な状態と見積もっていますが、いちゾンビピッグマンから見れば今のニソラさんは薬を与えて落ち着いたように見えたのでしょう。

脱水症状なんて概念なんてあるハズがありませんし、普段彼等が生活しているこのネザーに居るだけで負担がかさんで行くなんて考えられる方が凄いです。

ラクシャスさんの視線は、ネートルさんに向いていました。

 

「ムドラから送った使者はどうなった?ムルグで何が起こった?……答えて貰う。ヌシらが敵でないのなら」

 

杖は降ろされていました。

ニソラさんが居た事で、ひとまず話を聞く体制になったのでしょう。

ネートルさんは少しだけ瞠目すると、整理をするようにゆっくりと口を開きました。

 

「……まず、現状からお話いたします。ムドラから来られた使者6名――確認はしておりませんが、此方に居られるニソラ殿を除き、全員ムルグに付きました」

 

 

「………………は?」

 

 

出てきたのは、余りにも荒唐無稽な話でした。

ニソラさんの介抱を続ける手を止めずに、ボクは背を向けたまま淡々と指摘します。

 

「……超常的な点を廃して考えるなら『選発したギヤナさんもグルだった』――許容して考えるなら『全員洗脳された』って所ですか」

 

両方とも、最悪のケースな訳ですけども。

スユドさんだけなら兎も角、全員離反は流石にあり得ません。

ネートルさんのウソと言う線も充分考えられますが。

未確認だと言う言い方から、洗脳の線が臭そうです。

 

「はい……洗脳、の方です。まずスユド殿が洗脳され、そこから他の方々が押さえられてしまったと聞きます」

「やっぱり!スユドさんは裏切った訳じゃ無かったッスね!」

 

最後までスユドさんを信じ続けたワシャさんの感嘆の声でした。

……ボクの方は、一応ギヤナさんがグルだったケースを想定する必要が出てきたので、ニソラさんに向けていた思考の3割くらいをネートルさんに傾けます。

「全員洗脳された」と一口に言ってくれますが、そうだとするとむしろ状況が悪化しています。

 

 

「――何処からお話しするべきか……まだムドラと緊張状態になっていなかった頃です。ガストの被害が相次ぎ危機感が上昇し、ムルグはガストへの対抗手段を必死になって探していました。そんな中で、アーシャーと言う者が一つの方策を持ち帰った事が発端になります」

 

 

ネートルさんが語り始めました。

 

 

「……対ガストのヒントはラクシャス殿でした。彼はムドラの者にもその技を伝えていない事は知られていたので、当たってみても教えを乞う事はどうやっても出来ないと見切りをつけていました。

一方で、ムドラに伝わる厄災と青の戦士の話は多少仕入れる事が出来ました。

ラクシャス殿の光の槍は、元はその戦士が使っていた技だと言う事も。

――なので、私達は戦士たちが来た地上への門を探したのです。

例え光の槍を得られずとも、ガストから逃れられる地を探すと言う期待もありました。

伝説の内容とムドラの周囲の地形、そして嘆きの砂漠の位置関係から戦士の行動範囲を仮定して……いえ、この辺りは良いですね。

捜索隊を送り込み、殆どが不発、もしくは伝説を裏付ける程度の成果しか得られない中で、嘆きの砂漠方面を探索していたアーシャーが『偽臣の書』と言う成果を持って帰ってきました」

「はあああっっっ!?」

 

あり得ない単語が出てきて、思わず声を上げてしまいました。

 

「――ご存じなのですか?」

「え、あ、いや、でも……そんな、そんなハズは……」

 

――偽臣の書。

マインクラフトとか全然関係ないアイテムです。

Fate/stay night と言うノベルゲームに出てくる、一口で言えば特殊な使い魔に言う事を聞かす為のアイテムです。

……誰かModにしたんですかね?これを元ネタにして。

東方Pprojectを元ネタにした「五つの難題」Modとか、何かを元ネタにしたModは相当数ありますから、あっても不思議ではありませんけども。

……あかん、持ち帰った人の名前が「アーシャー」じゃなくて「アーチャー」に聞こえてきました。

 

「……付け加えるなら、『偽臣の書』と言う名称はアーシャーが付けた便宜上の物と聞きます。タクミ殿のご存じなアイテムとは違う可能性は高いですね。

――その能力は、一口に言えば使用者の意識を他者に植え付け支配する、と言うものです」

「……なるほど、洗脳だな。ムルグが主張した、『厄災を御する方法』の実態がそれか」

 

ラクシャスさんの言葉をネートルさんが肯定します。

 

「そうです。ガストすら御する事が出来たそれは、我々の希望になりました。

……しかし、制限もありました。

まず、何故か偽臣の書はアーシャーにしか使用できませんでした。他の者が手にしても、その効果は現れませんでした。

また、洗脳――偽臣の書を使う事を便宜上洗脳と表現しますが、洗脳を行うには対象に接近する必要がありました。

さらにアーシャーが言うには、洗脳の度に命の力を消費しているとか。つまり、無制限に洗脳して回る事は出来ないようなのです。

……最も今となっては、この消費コストについてだけはアーシャー自身の警戒を和らげる為の方便であった可能性を考えています。

ムドラの使者を皆洗脳する構えだった訳ですから」

 

隠密のまま洗脳しまくって身の回りをイエスマンで固めるのでは――そう言う恐怖に対する牽制、と言う事でしょうか。

もし洗脳に制限があるなら、その相手は吟味しなければならないでしょうし、無茶な洗脳はしないだろうと思考を誘導した可能性ですね。

そして洗脳に射程があるのなら、それだけだとガストへの有効打にはならないでしょう。

そもそも洗脳出来るほど接近が出来るのであれば直にボコってるって話です。

ガストの洗脳には相当なリスクが付きまとうでしょう。

 

「ガストの対抗としてガストを使っても、洗脳したガストが撃墜される可能性が高い事は目に見えていました。

――だから、アーシャーは提案したのです。

ガストすら意に介さない強力な個体を洗脳すれば良いと。

我々が厄災に目をつけたのはそう言う経緯からでした」

「……なるほどな」

 

偽臣の書を手に入れても、対抗手段無しなのは変わらなかった訳ですね。

 

「その時は、厄災の洗脳はムルグの総意でした。ムドラにアプローチを続ける間は何とか洗脳できたガストで間を持たせる……先の見えないガストへの対応に光が見えてきました。

厄災へのリスクが未知数でしたが、『ガストに対応できる強力な個体』の候補が無かった以上、我々はその策を進めるしかありませんでした。

ムドラに庇護を求めると言う声もありましたが、ラクシャス殿の力が使えなくなったと言う情報が入り、この選択肢も消えました。

……どうも、復活なされたようですけども」

 

ふふんと自慢げにラクシャスさんが杖をクルクル回しています。

 

「――状況がさらに変わったのは、ムドラの使者が来てからです。遠距離攻撃を可能とする『弓』と言う武器――ムルグの考え方がひっくり返りました。

歓迎しましたよ。以前ムルグが使者を出した時にボロボロになって帰ってきましたが、それのお詫びも込めて、なんて言われたら許さない訳にもいきませんし。

誰もが厄災を御する事が出来なかったら……なんて考えていたのですから、それに飛び付くのは当然でした。

ニソラ殿のデモンストレーションが凄まじかったと言うのもありますが」

 

…………。

ニソラさん、またなんかやらかしたんですか。

 

「ガストがね、3体出まして。仲間呼んで5体まで膨れ上がりまして。

……その全てを一撃で墜とされましたね。

その後に言われたコメントが『もはや作業です』と。凄い淡々とした目をされていましたよ」

 

ニソラさんェ……

 

「――では、肝心の現状はムルグの総意ではないと言いたいのか?」

「はい。言い訳のように聞こえてしまうと思いますが、此度の状況はアーシャーの強行によるものです。弓を見てもなお厄災洗脳論を続けていました。

……何故アーシャーが厄災に拘るのかまでは解りませんが、現在アーシャーは手に入れた手駒とムルグの代表を何名か洗脳し、さながらクーデターの真似事を行っています」

「……クーデター」

 

口の中でその単語を呆然と転がしました。

洗脳に成功した人達がそのまま人質になってる状況です。

その上ムルグの代表も押えられているとなれば、ムルグの自浄力は期待しない方が良いでしょう。

 

「――気付けば洗脳と武力で周りは制圧されていました。私は、洗脳されたスユド殿から逃げるニソラ殿に遭遇し、そのまま同行したのです。

私はヘルハウンド部隊『ダンシトルラ』の調教師をしています。この子の名前「ダンシトルラ」は、所謂称号とか世襲に当たります。ややこしいですが……

兎に角、攻撃・索敵に秀でるこの子達の力もあって、私達は辛くもその場を逃れる事が出来ました。

……他の者はどうなったか判りません。大多数はムルグの者も拘束され、一部は洗脳されて居るでしょう。

本当に洗脳にコストが要らないのであれば、捕まった者は恐らく全員……」

 

ノーコストで敵を味方に出来るのであれば、洗脳しない理由はありません。

 

「スユドさんは、洗脳された人達はどうすれば戻るッスか!?」

「……解りません」

 

目を伏せながらネートルさんが首を振ります。

 

「――アーシャーは、使者が来るまではムルグの者を洗脳したりはしませんでした。それ所か、個人が所有するには危険すぎると、偽臣の書を普段は代表に預けていた位です。

洗脳していたのはガストやファイヤーバットと言ったモンスターのみだった為、洗脳を解除すると言う考えがまずありませんでした。

……しかし、クーデターの時にはその代表が真っ先に偽臣の書をアーシャーに渡しています。この事から、代表はもっと前から洗脳を受けていた可能性が高いと分かります。

――代表の受け答えが妙だった、なんて事はありませんでした。少なくとも、私は気付きませんでした。これは、洗脳された者の区別がつかない事を意味します。

『偽臣の書を焼き捨てる』『アーシャーを殺害する』……可能性がある手段はいくつか浮かびますが、その効果の検証は難しいと思います」

「そ……そんな……」

 

――偽臣の書の能力は「使用者の意識を植え付けて支配する」と言っていました。

どう解釈するかにもよりますが、最悪洗脳された人達は皆コピーされたアーシャーさんとして永遠にそのままになる可能性があるわけです。

偽臣の書を焼き捨て、アーシャーさんを殺害した時に一見「洗脳解除された」ように見えても、実はそうではなかったと言うB級映画のような事態があり得るわけです。

 

「――タクミさん、何とかならないッスか……!?」

 

すがるような視線を受けて、ボクはニソラさんを仰ぐ手を止め、暫し思考に耽ります。

 

「……洗脳解除に使えるかは約束出来ませんが、魔法効果を解除する手段であればいくつか心当たりはあります。材料とか色々足りないから、直近で試すのは無理ですけど……

後は……偽臣の書を手に入れることが出来れば、何か調べられるかも」

 

Mod環境のお供「Not Enough Items」――偽臣の書の入手をトリガーに、何かレシピが開放されるかもしれません。

マイクラ的に考えたら『洗脳を解除する為のアイテム』言うのは需要無さすぎて作らないのでは?とも思いますけども。

 

「兎に角アーシャーかと言うやつの顔面に蹴り入れて、偽臣の書をブン盗ってからの話だな、それは」

 

ラクシャスさんが見切りをつけて、脳筋な解決法を提示します。

 

「実行班の無力化が最優先――それは解りますが、誰が実行班か判別が出来ないじゃ無いですか」

「知らね。私はもう、色々パンクしたのでその辺りはギヤナに考えさす」

「清々しい程の丸投げですね……」

 

しかしラクシャスさんの開き直りは、一応的を射てはいるんですよね。

 

「既に、ムルグもムドラも被害が出てしまってますからね。丸投げはともかく、ギヤナさんに落とし所を考えて貰う必要がありますよ」

 

ムドラ側は、最高戦力を含めた使者5名の洗脳。生きてるから良いじゃんとか思えそうですが、解除の方法が解らず、解除の区別すらつかないと来れば普通に大事です。

ムルグ側は……取り返しがつきません。

ボクは、ネートルさんに付き従うヘルハウンドに視線を向けました。

 

「……私からも良いですか?スユド殿が離反した、と言ってましたね。もしかして、既に会敵されていたのですか?」

 

それは質問ではなく、確認でした。

 

「……ムドラとムルグを繋ぐ街道を、溶岩で封鎖されていたのは知っていますか?」

「――はい。ニソラ殿は火耐性が無いと伺いましたので、アレで身動きが取れなくなりました」

 

その内ニソラさんが動けなくなって、潜伏するしか無くなったと見えます。

 

「ニソラさん達が戻ってくるのであれば溶岩の上流から回り込むだろうと考え、ボクたちも上流へ向かったところ……スユドさんと、彼が引き連れていたヘルハウンド9体、そして洗脳されていたガストと会敵しました」

「……!?そんな……それでは、ムドラの被害と言うのは……!!」

「別に、面子は欠けておらんぞ」

 

ラクシャスさんのフォローに「え」と口の中で声を上げるネートルさんです。

 

「ムドラの被害とは、洗脳された使者の事です。今はムルグの被害の話になります。

交戦の結果、スユドさんはムルグに撤退……ガストとヘルハウンドがその殿を務め、ボクたちはその全てを斬り捨てました。

――恐らく、あなたが手掛けたヘルハウンドを」

「…………!?」

 

ネートルさんは調教師だと言っていました。

ヘルハウンド部隊の調教師だと。

ラクシャスさんの雷に怯みはすれど恐慌には陥らず、ロクな命令がなくとも波状攻撃や的の分散と言った戦術や連携を取り、最後には命を賭して殿と言う任務を完遂されました。

あの練度の高さはきっと、そう言う事だったのでしょう。

 

「……そうか……お前達がやけに彼らに敵意を向けているのは、そう言う事だったんだな……気付いていたんだな……」

 

傍らで警戒を続けるヘルハウンド2体の背をそっと撫でて、ネートルさんが呟きました。

 

「――悲しいし、思う所もありますが、経緯が経緯です……責められませんよ、それは。私としても、ムルグとしても」

 

理性で感情を圧し殺したような声でした。

 

「それに……理外のスユド殿に『ダンシトルラ』9名、そしてガスト――考え得る最悪のエンカウントでは無いですか。しかも、前情報も無い不意な会敵だった筈です。

それを四名で退け、あまつさえ一人のリタイアも出さないなんて……ムドラの戦士は優秀と聞きますが、想像以上です。その武については素直に賞賛致します。

――ムドラの剣士や閃光のラクシャス殿を相手に想定した訓練も入念に行っていたつもりだったのですがね……」

「そこは素直に誇って良いぞ。タクミ殿がカチキレてなければ普通に全滅もあり得た。それに、あのヘルハウンドの殿が無ければスユドは逃げられなかっただろう。

慰めに聞こえるかもしれないが――あのヘルハウンドどもは、間違いなく強かった」

「…………ありがとう、ございます」

 

ラクシャスさんとしては、本当に単なる慰めで言った訳では無かったのだと思います。

だって、あの群れは本当に強かったのです。

凌ぎきった後に残ったのは、2倍以上の戦力とガストの不意打ちを切り抜けたと言う達成感ではなく「してやられた」と言う怒りでした。

――真相を聞いた今では、スユドさんをあの場で斬っていたらバッドエンド一直線だった訳なので、むしろ感謝しなければと考えてしまいます。

怒りに任せて叩き斬ったのを少しだけ後悔しました。

命を奪う、と言う事を甘く考えていたのです。

……ネートルさんはニソラさんを守ってくれていたのに……

 

「もうひとつ聞きたい。おぬし、ムドラの後発隊と合流した後はどうする方針だった?

ムルグに引き返すのかムドラに庇護を求めるつもりだったか」

「――お恥ずかしい限りですが、今のムルグをどうにかする力は私にはありません。また、アーシャーがムドラに仕掛けるのは目に見えていましたから――兎に角、ムドラに情報を渡さねば、と思っていました。

……そこから先は考えていません。

クーデターが無くなり、洗脳が解除され、ムルグとムドラの緊張が無くなり、対ガストとしての弓が残る……そんな終わり方があれば喜んで飛び付きたい所ですが」

 

……難しい所です。

あるいはムルグに潜入し、アーシャーの身柄と偽臣の書をノーキル・ノーアラートで確保できれば、可能性ぐらいはあるのでしょうか。

 

「――タクミ殿。どうする?ニソラ殿と合流して情報も得られた今、取れる手段は幾つか出てきたと思うが」

 

ラクシャスさんが判断を丸投げして来ました。

 

「……ボク個人のワガママを通すなら……先ずは地上に出たいですね。ムルグとかムドラ以前に、ニソラさんが危ないです。

ネザーの気候に耐えきれないほど体力が落ちています。

脱水症状も熱中症も、こんな環境では回復しません」

「ぬ……!?薬を飲んで、安定した訳では無かったのか!?」

「……ゾンビピッグマンにも『空腹』はあるんですよね?生きるには『食べ物』が必要です。

ボクたち地上の人間は、食べ物の他に『水分』と言う物も必要なんです。この水分は高温の環境だと無くなる速度が早くなるんです。

――水分が足りなくなると今のニソラさんのようになります。

先程はその水分をあげました。ただ、回復するまでは時間が掛かりますし、ネザーではせっかく与えた水分も徐々に減って行ってしまいます」

「……ええとつまり、今のニソラ師は、言い方悪いケド動けなくなって気絶するぐらいお腹減ってるような状態なんスか。チョッピリお腹は埋まったけど、お腹がより減りやすい所に居ると」

 

ニソラさんが腹ペコキャラになってしまうような例えでしたが、間違って居ないので肯定しました。

 

「待ってください!青の戦士の使った門は嘆きの砂漠付近と考えられています。

しかし今のニソラ殿を連れてそこまで行軍するのは……!」

「いや、その問題は大丈夫のハズなんじゃ。タクミ殿はポータルを作れる。ムドラにもタクミ殿の手によってポータルが設置されたからの。

――作れるよな?資材が足りんとか無いよな?」

「溶岩があれば作れます。この近くの溶岩溜まりはありますか?溶岩流ではダメです」

「え?……ええ、直ぐそこに……そう言えば、ニソラ殿も気にしていましたが」

「――はい?」

 

ネザーポータルを作る所はニソラさんも見ていました。

自分の限界を感じたニソラさんが、ポータルをすぐ開けられるように溶岩溜りの近くに陣取ったのかも――いや、ちょっと待って。

 

「……すみませんネートルさん、もうひとつ聞かせてください。

溶岩流による街道の閉鎖、知ってたんですよね?なら、潜伏先はあの溶岩流周辺になりそうなものですが、何故ここに?」

 

ネートルさんも不思議そうに首を捻ります。

 

「さあ……?正直、私にも良く解らないのです。実は、この辺りに潜伏しようと言われたのはニソラ殿でして。

溶岩流付近はムルグの捜索隊も入念に探すだろうから危険だ、と言う話はあったのでそこは納得してたんですけども。

ここはムルグにも結構近く、ムドラとも離れていますから。ムドラの後発隊と合流出来ても危険が伴いますし、あまり良い選択肢では無い筈なんですが……その上でニソラ師はここがベストだと。

ベターではなくベストが見つかったと笑っていました」

「ベスト?……ここ、むしろ危なそうだけどな……そこまで視界が通らない訳でもないし」

 

カンガさんが辺りをキョロキョロ見回しています。

……ボクは、あるひとつの可能性に気がつきました。

しかし一方で、そんなまさかと否定します。

 

「……もしかして、ここの探し方も『隠れ場所ありき』では無かったんじゃないですか?

ある地点から、『この近くに溶岩溜りや岩陰はあるかな』みたいな探し方だったのでは?」

 

その可能性を探る質問は――

 

「……なるほど。そんな節は確かにあったかもしれないです。『この辺りの筈』みたいな事を口にしていました。何でも、8倍がどうとか……良く覚えていないのですが。

ここを決めて、近くで溶岩溜りを見つけた時には凄い喜ばれていましたよ。

正直その、聞いても良く解らなかったと言いますか……」

 

――混乱しているネートルさんの口から、呆気なく肯定されました。

 

 

「ニソラさん……ちょっと、まさかでしょ……?」

 

 

――思い返せば。

確かに、ボクは口にしていました。

地上とネザーは相似の関係があると。ネザーの1kmは地上の8kmを指すのだと、蘊蓄程度に説明していました。

だから、理屈の上ではやろうと思えばやれる筈なのです。

やれる筈なのですが――しかし、ネザーですよ?

あんな入り組んで、起伏だらけで、回り道しないと進めない所ばかりで――しかも言ってませんでしたけど、ネザーはコンパスが効かない所なんですよ?

周り中ネザーラックだらけで目印探すのも一苦労なんですよ?

……そんな中で、脱水症状や熱中症を起こし朦朧した頭で、何気ない会話に埋もれていた情報を引っ張り出し、あまつさえこんな神業を軽々しく成功してのけるんですか、ニソラさん――ッッ!?

 

 

ネザーポータルを開いた先にあったのは――

 

 

――ボクが、ボクたちが一番最初に出会った、あの家だったのです。

 

 

「……あんびりーばぼーだよ、ニソラさん……どう言う方向感覚と距離感してれば、こんな真似が出来るのさ……」

 

ボクの背におぶさって寝ているニソラさんに呟きます。

帰ってきたのは、くすぐったそうな寝息だけでした。

 

 

@ @ @

 

 

「――あの、入らないんですか?やっとニソラさんが休めて、しかも追っ手の心配もないセーフハウスに着いたんですから、方針を相談しましょうよ」

 

外で周りを見ているネザー組4名プラス2匹に声を掛けます。

……そう言えば、ネートルさんはヘルハウンドを「9名」と言う数え方してましたね。

匹ではなく名、と数えた方が良いのでしょうか。

 

「も……もうちょっと……もうちょっと待って……」

「だって緑っスよ……緑の大地っスよ――!?」

「なんちゅう美しい光景じゃあ……」

「ムルグが探し続けていた地上……青い戦士の故郷……」

 

まるでネバーランドにでも来たような反応が返って来ました。

前回ムドラにポータルを開いたとき、伝令で5人位駆け込んで来ましたが、その時は夜でした。

今は太陽が大分傾いていますが、それでも光で満ちた時間帯です。

おまけに谷間に作ったあの家とは違い、ここは見通しの良い平原。あの時のギヤナさんよりも感動の度合いは大きいと言う事なのでしょう。

……うーん、あの人達が固まっている間に泊まる場所でも増設すべきなんですかね?ここはボクとニソラさんの二人で使う事を想定して作ったのでこの人数は少し狭いです。

割りと気に入ってるデザインだから、無計画に増築はやりたくないんですが……

それ以前に人数分のベッド作れる程の羊毛は無いんですけども……

 

 

――仕方ないので、畑に出ました。

サトウキビを根本だけ残して収穫し、小麦を刈って種を植えます。

 

 

思えば凄い展開になったものです。

ネザーでちょっと素材を集めてすぐ帰ろう……って心持ちだったのに、いつの間にかムドラに辿り着き、勇者の物語に迫り、弓を教えてムルグのクーデターに関わって。

まるでRPGのイベントのような毎日です。

そしてムルグのクーデターを何とかする為に、ボクらはさらに関わる事になるのでしょう。

この畑も、そのイベントをこなしていくうちにすっかり育ちきっています。

……いや、マイクラ的には普通でも、現実的には異常ではありますねコレ。なんでなにもしてないのに4日程度で成長しちゃってますか。

件のジョウロを使っていた副作用かなにか?

それともボクが作った畑だから??

なんか暇ができたら、検証の一つでもしてみましょうか。

 

 

そうやって畑に出ていたのが何分程度だったのかは判りませんけども。

戻りがけに「いい加減にしとけ」とネザー組を家の中まで押し込んだりもしました。

 

 

「――では、方針ですけども」

 

リビングに置いてある四人がけのテーブルをに椅子をさらに置いて無理やり6人で座ります。

テーブル側面にボクとネートルさんで対角線に座り、ヘルハウンドのお二人はネートルさんの両側にちょこんと待機です。

皆チラチラ窓の外を見ているのはご愛敬。

 

「まず、可及的速やかに行わなければならないのが、今ある情報をムドラに持ち帰る事です。コレは、ムルグが次の手を打つ前にやっておく必要があります。

スユドさんを退けたあの時、スユドさんはムルグに来るように挑発してきました。そのせいかは判りませんが、ボクたちがネートルさんと会うまでエンカウントはありませんでした。

コレを『ムルグがボクたちを迎え撃つ為に、全リソースをムルグに集結したから』と解釈するとします。

そこから既に結構な時間が経っているので、スユドさんは……いえ、アーシャーさんでした?は、ボクたちがムルグに突撃するよりも情報を持ち帰る事を選択したと考え始めているでしょう。もしかしたらネートルさんと合流した事も疑っているかもしれません。

この状況で、ボクがムルグだったら二つの策を取ります。

ひとつ、情報を遮断する為にボクらの捜索を再開する。

――この過程で、ボクが溶岩流に渡してきた橋の存在に気づかれるでしょう。『通ったら印を書いてほしい』と書かれた、印の書かれて無い看板にも気付く筈です。

ならば恐らく溶岩流付近に広くリソースを展開し、ボクたちをムドラに近づけさせないようにするでしょう。……いえ、もしかしたら溶岩流を倍プッシュしてくるかもしれませんね。

ちなみに、その場合でもムルグに発見されずに溶岩流を突破することは可能です。地中から、ムドラまでトンネル掘ってしまえば良い」

「あの……さすがに無茶苦茶過ぎると思うのですが」

 

口元を引きつらせながらネートルさんが手を挙げます。が、「普通に歩くよりは少々遅いですが可能です。ご心配なく」と切り捨てます。

 

「もうひとつの方法を挙げるなら、ニソラさんとは逆の事を行う事でしょうか。

――つまり、地上を8倍歩いてムドラに繋がるポータルから戻ること。

……時間は掛かるでしょう。ムルグとエンカウントする心配はしなくて良いと言うメリットはあります。それに、ネザーの8倍は歩きやすいですよ、きっと」

 

ただ、コレを行う場合もポータルの位置をある程度解っているボクの同行が必須になります。

地上ルートは危険がないと判っていても、もうニソラさんをここに置いて……なんて選択肢はありません。

なので、おぶって一緒に連れて行く事になります。

つまり移動分どうしてもニソラさんに負担を強いる事になるんですよね。

――ああ、後時間的な問題もありましたね。

恐らく、地上を行く場合は移動中に日没を迎える事になります。

 

「ムルグが取るだろうもう一つの方策が、洗脳された使者をムドラに送りつける事です。

情報がどこまで渡っているかを確認できる上に、うまく行けば偽情報で引っ掻き回す事も考えられます。

ムドラに一刻も早く情報を持ち帰らないといけない理由でもあります」

「……確かにそれは不味いな。景色に見とれてる暇など無いではないか」

 

危機感が戻って来たようです。

 

「しかしムドラに戻るとして、地上から行くのもネザーから行くのも、ボクの同行が必須なんですよね……

ボクは、またニソラさんと離れたくありません」

「……地上であれば、ニソラ師の危険も少ないんじゃあないっスか?安全さえ確保できていれば、別に一時的に離れたって……」

「嫌です。ボクが嫌だと言うのもありますが、下手したら今度はニソラさんがボクと同じ思いする事になるじゃないですか。

――今回でボクは学びました。ボクは、ニソラさんと離れないようにするべきなんです」

「……やっぱりヤンデレっス……」

 

ヤンデレ結構。

ニソラさんに仇なす有象無象は、全て『中に誰も居ませんよ』するのも辞さない所存です。

……え?ヘルハウンド斬った時の反省はどうしたって?

そもそもニソラさんと同じ天秤に乗せれる筈が無いじゃあないですか。

 

「まあ、こんな情勢では下手に別れて情報が遮断されるよりも、皆一緒の方が精神的にも良さそうと言う点では俺も賛成です。ニソラ師には、少々負担かけてしまいますけども――」

「つまり選択すべき行動としては、皆でネザー経由でムドラに帰るか、地上経由でムドラに帰るか決めよう、と言う事になるな」

「そうですね。……ちなみに『ムルグへ潜入すべき』とか、全員帰還以外の行動を考えてる人居ますか?」

 

周りを見回してみます。

異を唱える人はいませんでした。

――満場一致で、ムドラへの帰還で良いようです。

 

「……ラクシャスさんも良いですか?」

「ええい、私だけ名指しで確認するんじゃあない!この状態でムルグに潜入したら、罠に掛かって洗脳される危険の方が高い事ぐらい解っとるわ!」

 

何気にラクシャスさんも考えは深い方ですよね……

 

「んじゃあ、ムドラに戻るルートは地上からかネザーからか決めたいですが――そこについては、なにか工夫はつかないですかね?」

「工夫……ですか?」

 

カンガさんの問いに対して思わずオウムを返します。

 

「ほら、スユドさんとエンカウントした時とかそうだったじゃないですか。魔術とかタクミ殿の知識を浚ってみれば、俺らの知らない反則な移動法とか出てこないかなぁ……と」

 

……魅了の魔法の事を言ってるんですかねぇ……?

結局参考にはならない魔法ではあった訳ですが。

 

「うーん……移動の魔法、だけであれば帰還とか瞬間移動とかあるっちゃあるんですけど……使える人が居ないんですよねぇ。

役に立ちそうなのは――ラクシャスさん、ポータブルホールの杖星はご存じです?」

「壁に一時的なトンネル掘るアレか?用意しておらんし、何より無秩序のvisが足りん」

「なら発想を変えて――足が早くなる魔法、とか?」

「そう言うポーションなら心当たりありますが、材料が無いですね。ブレイズの棒と、ネザーウォートと言う赤い瘤のようなキノコ……なのかな?それと、赤導体が必要になります」

「材料あればそんなデタラメ作れるのかよ……!」

 

ネートルさん、その小声のツッコミ聞こえてますよ?

はーい、とワシャさんが手を挙げます。

 

「なにか、空を飛ぶアイテムはどうっスかね?厄災は鉄のような体で空を飛んだらしいっスよ」

「空を飛ぶ……ねえ?」

 

同じく、心当たりはかなりあるんですけども……

 

「エンジェルリングはそもそも厄災が落とす星が要るし、フリューゲルティアラは厄災の10倍は強い奴を下す必要があるし……」

「不穏な単語多すぎませんかね!?」

 

いやあ、空飛ぶアイテムはだいたい中盤から終盤のコンテンツに指定される物ですし。

ボクは序盤でネザー突入したクチですよ?

さすがに無理です。

 

「それならせめて、ニソラ師の負担が減る類いの物はどうですか。なんかこう……乗り物、的な?」

「乗り物……乗り物かぁ……んんー、ボクこっち方面はよく知らないんだよなぁ……」

 

――なんでしたっけ、ハリボテエアクラフト?

……特殊な羅針盤を設置すると、建物をまるごと動かすアイテムを動画で見た事がありましたねそう言えば。

Not Enough Itemsのレシピにしばし意識を向けます。

あるかなぁー……?

…………

うーん、無いなぁー……

適用されていないのかレシピ解放の条件が揃って無いのか、目的の物は見つかりませんでした。

 

「……解放、かぁ……」

「――タクミ殿?」

 

乗り物が出る実況動画は、ボクも結構見た事があります。

この世界に適応されているかはともかく、無いってことは無いんでしょう。

んで、大抵乗り物って鉄で出来てるんですよね。それでレシピの難易度を上げる意味で、鉄ブロックを要求したりするんです。

 

 

……そー言えば、鉄ブロックを作った事は無かったかな……

 

 

おもむろにチェストを開けると、1スタック強の鉄インゴットが目に入りました。

ネザーに踏み入る前、ニソラさんが粉にしてくれた鉄を精錬して作ったインゴットです。

コレ、実は使い道が決まっています。

……決まって、いたのですが。

1スタックのインゴットを持って、おもむろに作業台へ向かいます。

手早く並べて作るのは、7個の鉄ブロックです。

鉄ブロックを使ったレシピなら、コレで解放されるんじゃないかなぁ、解放されると良いなぁ、なんてフワッとした期待を抱きつつ、

再びレシピの海に浸ることしばし。

 

 

……四角いアイコンに「EC」とか「SH」とか文字だけ書かれた妙なアイテムを見つけて、なんだコレはと意識を向けるとそのアイテムの知識が流れ込んで来ました。

 

 

「…………ぁ、」

 

 

今明かされる驚愕の事実。

この世界における Not Enough Items はアイテム単体に意識を向けると、wikiのようにそのアイテムの詳細情報を拾えるようです。

……いえ、そんな事はどうでも良いです!!

いや、どうでも良くないけど今はどうでも良いです!!

 

「はは、あはははははははっっ!!」

 

――こんな、こんなピンポイントの奇跡ってありますか!?

 

「タ、タクミ殿!?」

 

いきなり笑い出したボクにドン引きするカンガさんでしたが。

 

「凄いよカンガさん!カンガさんに切っ掛けを貰わなきゃ、きっとボクは全然気づけなかった!!」

 

必要な鉄ブロックは6つ。燃料は鉄6つと石炭ひとつ。資材は充分間に合います。

レシピ通りに配置して、造り上げる「SH」のアイテム。

方針は、決定しました。

 

「準備してください!地上から行くルートで決定します!ワシャさん、ムドラへの方向確認しといて貰えますか。多分、あの山の辺りだと思うんですケド」

「え?あ、ええ?方角は一緒なんスよね?なら、オレもそうだとは思うっスけど……やま?って何??」

「OK!カンガさん、ニソラさん連れて来てください!日がまだ出ているうちに出発しましょう」

「あ、ちょっ、」

 

おいてけぼりは承知の上。

ですがコレは、見た方が早いのです。

ボクは小走りで外に飛び出すと、周囲を確認した上で手の中にある「SH」のアイテムを設置しました。

 

 

――只のアイコンのようなアイテムが、その様相を大きく変えます。

 

 

6人は余裕で乗れそうな大きなボディ。

中央上部に付けられたローター。

リアルな話をするならば、対潜哨戒をはじめとした汎用的に使用される軍用ヘリ。

MCヘリコプターModで追加される鉄の鷹。

その名も「SH-60 シーホーク」です!

 

 

「な、なんじゃこりゃあああぁぁぁっっっ!?」

 

 

どこぞの殉職デカさんのような声が響きます。

もちろん、無視です。

 

「ワシャさんは助手席――ボクの隣でお願いします。他の方は後ろに!コレでムドラのポータルまでひとっ飛びです!」

「飛ぶんスかコレ!?」

「飛びますよぉーっ!」

 

本来ならヘリコプターなんて操縦出来る筈がないし、ボク自身このModすら触った事が無いワケですが。

このシーホークがマイクラのModであり、ボクが作った物であるならば――マイクラと同じように、ボクはこのヘリを飛ばす事が出来る!

なんの実績も根拠も無い中で、ボクの中から不思議と確信めいた何かが溢れ出るのです。

ボクは、それを疑うと言う事すら浮かびませんでした。

 

 

「……良し、全員乗り込みましたね?それじゃ――行っきまぁーすっ!」

 

 

ローターの激しい回転音を響かせながら、シーホークが空を舞います。

ローターに負けないくらいの大きな歓声を共にして――

 

 

@ @ @

 

 

「ん……ぅ……?」

 

小さな呻き声を上げて、ニソラさんが瞼を開きました。

 

「――起きた?ニソラさん。……おはよう――はチョットおかしいかな?」

 

窓の外に目を向けました。

外はもう、すっかり暗くなっています。

 

「ここ、は……?」

 

眠気の残る目を擦りながら、ニソラさんが辺りをきょろきょろしました。

 

「ニソラさんが出発する前、ポータル開いて地上で寝たでしょう?そこに家を作ったんだよ」

「ふあ……また家を建てちゃったんですか?」

「躊躇するほど手間じゃ無いしね」

「生産性、相変わらずおかしいですよ……」

「あはは、ギヤナさんにも言われたなぁソレ」

 

軽く笑って流します。

 

「――私、どれだけ寝てました?」

「一日経ってないよ。6時間ぐらい。……水飲む?まだ回復しきってないでしょう?」

「あ……頂きます」

 

ボウルに入れた砂糖水をこくこく飲み干すニソラさん。その姿を眺めて、とりあえず峠は越したみたいだと安心しました。

ふうっとひと息ついてニソラさんが口を開きます。

 

「偽臣の書の話は、聞きました?」

「うん。洗脳されたスユドさんを相手にして逃亡に成功した事も聞いたよ。

――ムルグへの道中、スユドさんの強さの話を聞いてたからさ。ニソラさんに怪我が無くて、良かった」

 

困ったように俯いて、

 

「――あの時はまだ偽臣の書の存在を知らなかったので、スユドさんが裏切ったのかと思いました。逃げ切る為とは言え足を射抜いてしまいましたし……スユドさんには悪い事をしてしまいました……」

 

……え、射抜いたんですか?

ムドラの戦士27名が戦術駆使して飛びかかっても無傷で制圧しちゃう人を相手にして、無傷で逃げ切る所か足を射抜いちゃったんですか?

……スユドさんとエンカウントした時、スユドさんが積極的に攻撃に参加しなかったのってもしかしてそのせい……?

 

「えーと……まあ、うん。そこについては事情が事情だし、どうしようもないと思います、はい。

――この件だけど、一応ムドラの方針を決める為にギヤナさんと打合せしたんだ。幾つか解決案も出た。ただ、どれも偽臣の書とアーシャーさんを確保する事が前提になるんだ。

……つまり、ムドラの次の方針がそれになるかな。

――ギヤナさんとしては、心情的にはボクたちにこれ以上負担は掛けたく無いって言ってた。関わるとしても、直接潜入したり戦闘したりするポジションは避けて欲しいって。

……ニソラさんは、『どうしたい』って決めてたりする?」

「……どうしたいか、ですか……」

 

ぽつりと呟き、少しの間目を閉じました。

 

「私個人としては――このままフェードアウトは中途半端で嫌だな、くらいですね。手伝う事があるなら手伝いたいとも思います。

――それでも。タクミさんが無理をするぐらいなら、フェードアウトを選びたいって……そう思うんです」

「ボク、か……」

 

少し、嬉しく思います。

取りようによっては、ニソラさんは「ムドラの人達よりもボクを取る」って言う意味にも取れますから。

 

「――なら、問題はないって事だね。引き続きお手伝いしよう」

「でも、無理してますよね?タクミさん、戦闘はそれほど得意じゃ無いって――」

「無理はしてないよ。ニソラさんが潜伏していた所まで歩いて、その過程でスユドさんとエンカウントして――その上で言ってる」

「スユドさんとエンカウントしてたんですか!?」

 

……そう言えば、ニソラさん気絶してたから知らなかったんでしたっけ。

 

「自分で言うのもなんだけど、ボク大活躍だったんだよ?みんな大した怪我もなくスユドさんを撃退したんだから」

 

おどけて力こぶなんか作ってみたり。

……まあ、結果だけ切り取ればそうなりますので、嘘は言ってません。

 

「――白状するとね。ボク個人としては、参加もフェードアウトもどちらでも良かったんだ。

ボクにとっての無理はニソラさんと離れること。参加かフェードアウトどっちか選んで、その結果メンバー割り振りでニソラさんと離れるのだけがイヤなんだ。

そうなる局面が出てきたら、その時点で降りる事だって考えるくらい、ニソラさんと離れるのはイヤなんだ」

「……ぅ、ぁ……」

 

真っ直ぐニソラさんを見つめて言い切りました。

目に見えて狼狽したニソラさんは、あうあう言いながら枕で顔を隠しています。

――真っ赤になった耳が枕の脇から覗きました。

 

「――た、タクミさんが私の事大好き過ぎて、ヤンデレになっちゃってます……」

「そうだよ?皆から言われてるんだよね、それ」

 

自覚系ヤンデレって新ジャンルなんですかね?

あまり心当たりありませんけども。

――枕の後ろから、ニソラさんが言いました。

 

「たくさん、心配かけちゃいましたね」

「うん。そして、一緒に行かなかった事を後悔したんだ。死ぬほど後悔した」

「……ごめんなさい」

「謝るの禁止です。って言うか、今回はボクの判断ミスも大きかったよ。

最初から付いていってればニソラさんが水不足で昏倒する事も無かったし、あの溶岩流だって問題になる事も無かった。

だからね。こう言いたいんだ。

 

 

ありがとう、無事に帰って来てくれて。

――おかえりなさい」

 

 

枕で隠した顔をゆっくり覗かせて、照れ臭そうにニソラさんも返してくれました。

 

 

「――ただいまです、タクミさん」

 




リアル忙殺と放心、充電で遅くなりました。
なんなんですかね、ビックリするほど筆が進まなかったです。
そのシーンを越えたらスラスラ進んだりするんですけども。

偽臣の書については元ネタModがありますが、一応情報伏せさせて頂きます。
(あまり意味無いかもですが)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。