ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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インターミッション

小麦と卵にそれからミルク。

そして忘れちゃイケナイあまぁ~いお砂糖!

いちご?要りません。クラフトしたら何処からともなく付いてくるので。

ニソラさんの為に作っていた、「おつかれさま」のプレゼント。

インベントリに入れとけば劣化しないからって、ムルグに行く時も持ってたんですけど結局渡せなかったんですよね。

ようやくようやく初お目見えです。

 

「……けーき……」

「うん!材料が揃ったから作ったんだ。口に合うと良いけど」

「タクミさんは、食べ物まで作れるんですね。ありがとうございます!」

「こんなの、材料さえあればいくらでも作るよ!沢山食べてね!」

 

メイドさんと言えばケーキですからね。

現実的にはあり得ませんが、マイクラ的にはメイドさんと言えばケーキなのです。

 

「所で、タクミさん……」

「うん?」

「流石に、一人でこの量は無理ですよ……?」

 

キレイに拭いた鉄ブロックのテーブルの上に「食らえコノヤロウ!」とでも言わんばかりの特大ケーキ。一辺1m四方、高さ20cm弱の直方体也。

 

「……だよね。うん、薄々気付いてた。二人でも厳しいよね」

 

流石に持て余しました。

一般的なケーキは4号サイズ(2~4人前)で直径12cmほど。

マインクラフトにおけるケーキは1m四方。ちなみに四角い苺ケーキ。

……形状と大きさはリアル補正受けなかったようです。

どーしますかねコレ。

ちなみに、マインクラフトではコレ8回に分けて食べるんですよ。1/8でも1m×12.5cmありますけどね!コレで満腹度回復量が1(最大10)なんだから恐れ入ります。

ボクにはとても出来ません。

――つーわけで。

毒味前提のケーキお裾分けをギヤナさんにご提案。

ちなみに、彼らだけリスクを背負うのもどーかと思うので、ボクも彼らが食べる「火の粉」を食べてみる所存です。

呆れ返ったギヤナさんに曰く。

 

「……コレからムルグに対抗シなきゃッテ時にやルかソレ?肝心ナ時にウチの連中みンナ腹痛でしタ、とか勘弁しテ欲しいのだガネ」

 

至極当然の返答が帰ってきました。

 

「――ですよね。ごもっともです。凄くごもっともです。

……仕方ない、食べるだけ食べて他は捨てよう……」

「イや、待テ」

 

わっしと肩を捕まれます。

 

「……居たナ。肝心な時に腹痛にナっててモ構わナいヤツ」

――んで。

「……ソレで、私ですか?」

 

ネートルさんの顔がちょっと引きつっていました。

事情が事情なので仕方がありません。

ギヤナさんが悪びれなく言います。

 

「アあ。貴殿が食べテ問題なけレばオレらも食べテみヨうかナと。

勘違いしナイで欲しイんだガ、強制ハしなイヨ。普通に断ってモ良い」

「いえ、頂きますよ」

 

凄くあっさりネートルさんが了承します。

 

「『ケーキ』って、地上の甘いお菓子の事ですよね?使者の方々をおもてなしした時に、地上の食べ物についてニソラ殿が語ってくれてましたよ。

甘味と言えばハチミツぐらいしかありませんし、ちょっと食べてみたかったのです」

「――待って、ちょっと待ってください……まるでニソラさんがムルグの食事を食べたように聞こえるんですが!?」

「え、ええ……食べられていましたよ?」

 

誰も止めてくれなかったの!?

って言うかなにやってるのさニソラさん!?

戻って本人を問い詰めます。

ニソラさん、既に食べる分を切り分けて、凄い幸せそうな顔で頬張っておられました。

目が合った時に「はうあっ!?」って反応を返してくれます。

甘味に対しては我慢が出来ないメイド妖精さんです。

――いえ、良いんですよ。ニソラさんの為に作ったケーキですし、凄い美味しそうに食べてくれてますし。

そこは別に良いんです。

「……え、ムルグのご飯ですか?はい、有りがたく頂きました。――って言うか、あのシチュエーションで『私は遠慮します』とか言えませんよぅ。

普通に美味しかったです。お肉がね……なんか、地面から切り出したお肉らしいんですけども。アレは美味でしたね!産地のインパクト的にも鮮明に覚えてます!

……あと、飲み物が欲しくなる味でした。いやあ、アレで水袋の中をかなり減らしちゃいまして……えへ」

 

チャレンジャーにも程があると思うのですが。

――って言うか、水が足りなかったのって環境じゃなくてソレのせいだったの!?

ショックを受けるボクの隣で、ギヤナさんが興味深くケーキを眺めています。

 

「ホー。コレが『ケーキ』か……ナンと言うカ、色合いが綺麗だネ。肉とカ使ったラコう言うのハ出なイなぁ……」

 

白と言ったら骨か水晶なんだけどなと恐ろしい事を口にしています。

入ってませんからね?

しげしげケーキを眺めるギヤナさんの隣で、ネートルさんが明らかにハッスルしていました。

 

「あ、では早速私も頂いて良いですかね?良いですよね?危険そうな臭いもしないですし、食器お借りしますね?」

「躊躇イ無いナ!?」

 

お裾分けの前に毒味役お願いしたんだ、とハテナを浮かべるニソラさんに補足しときました。

 

「――まア、ニソラ殿が普通にコッチの飯ヲ食って何トも無かっタカら、躊躇い無く口をツケれるノダろうガ……ソれでも危険ハあルト思うゾ?」

「はあ?――甘味なんですよ?滅多に滅多に食べれない甘味なんですよ?多少腹壊すかも程度のリスクは覚悟するでしょう常識的に考えて」

「ムルグの常識そウなのカ!?」

 

どうやらゾンビピッグマンの間でもカルチャーギャップがある模様です。

ネートルさんがキャラ崩壊させつつも、切り分けたケーキにフォークを入れます。

高さ20cmもあるケーキですからね。普通に切り分けても結構な量があります。

一口サイズにフォークで切って、まるで毒になるかもなんて考えていないような躊躇の無さで――訂正、先程の言葉を信じるなら、腹を壊すくらい些事だと言う事なのでしょう。

クリームたっぷりのそれを嬉々として頬張りました。

――咀嚼する事数秒。

満面の笑みを浮かべながら、まるで大きな事を成し遂げたかのような盛大なガッツポーズを取るネートルさんでした。

非常に、非常にお気に召された模様です。

さっきのニソラさんとおんなじ顔してますもん。

 

「――いやあ素晴らしいなぁ!感動だなぁ!甘味って最強だよなぁ!!

……あ、でも解りませんね。害になるかどうか全然解らないです。まだ一口程度ですしね。もっと量を食べないと解る訳無いですよね、ええ。

――あむ。あむあむ。

うーん……この赤い……果実か何かですか?コレ良いですよねえ、甘いんですけどほのかな酸味と食感、そして油とは違うジューシーさ!何て表現するべきなのか――!!

そしてふわふわの……何でしょうね、何で出来ているか想像もつかない土台とでも言うのでしょうか?コレは初めて食べる食感ですよ!それらをこの白いクリームのまろやかさが全て纏めて引き立てている!

――あ、でもまだ害があるかは全然解りませんね!まだ食べてすぐですしね!解らないからもう一皿分頂いちゃいますね!たくさん食べればその分影響出るのも早いですからね、きっと!」

 

――暴走してますよネートルさん。

そしておかわりを切り分けるネートルさんの後ろに、爛々とした目で食器を持ったニソラさんが並びます。

ニソラさんもおかわりされる模様。

お気に召されたようで大変結構です。

 

「ナンつーか……大丈夫ソうだネ。害になルヨうなモの口にいれタラ、大抵は拒絶すルものダシ」

 

呆れ返りつつギヤナさんが言いました。

 

「ギヤナさんも食べられます?」

「――食いタい。メッチャ食いタい。食いタいガ、オレは立場上万が一にモ腹痛にナる訳には行かなクテね。セめて1~2本待たナイと怖くて食エん」

「うーん……常温で2時間弱か……ちょっと傷んじゃうかも」

「――傷ム?ソンな短い時間でカ?」

 

……あぁー、ネザーの食べ物は水分が無いから長持ちする物が多いんですね、きっと。

食べ物が傷む原因は大抵雑菌の繁殖、イコール水気と温度ですからねぇ。

――ふと気づくと、「ハッハッハッハッ」とと激しい息遣いが聞こえてきます。

ネートルさんの横に陣取るダンシトルラとウパスタです。

毒なのか解らないなぁ、ケーキ怖いなぁと白々しい言い訳しながら幸せそうに頬張っているネートルさんの手元をメチャメチャガン見していました。

 

「……君らも食べたいの?ケーキ」

「「がう!!」」

 

殺気すら籠った返事でした。

ボクがダンシトルラの仇だから、って理由だけじゃ無いと思います。

チラリとネートルさんを見て、ダメだこりゃと見限って、食器を二つ取り出しました。

ケーキを切り分けて目の前に置いてあげます。

 

「……一応言っとくけど、自己責任ですからねー?」

「「がうがうがうっっ!!」」

 

んなもん知るかとばかりにケーキに飛び付く二人です。

鼻先に生クリームをくっ付けながら、さながら欠食童児のようにかぶりついていました。

しっぽがメチャメチャ振れています。

――犬って、ケーキ食べても大丈夫なんですかねぇ?

いや、ヘルハウンドは犬じゃ無いのかも知れませんけども。

 

「畜生……旨ソうに食いヤガって……」

 

恨めしそうな声で呟くギヤナさん。

気付けば、1m四方の巨大ケーキは1/3程撃破されていました。

そして、さらにカオスな追撃が来るのです。

「――なんだか甘い匂いがするッスよ!!」

バタンとポータル部屋の扉が開け放たれます。

下手人は、かつて神へのお供え物だった貴重なハチミツをコソッと盗み食いした前科を持つワシャさんでした。

まさか、ポータルの向こうからケーキの匂いを辿って来たなんてバカな事ではないハズですが。

 

「あーっ!なんか食べてる!甘そうなの食べてる!欲しいッス欲しいッスオレも欲しいッス!」

 

その姿はもはやスーパーのお菓子売り場で「買って買って」と駄々を捏ねる幼児を彷彿とさせます。

気の遠くなったような目で、ギヤナさんが頭を押さえていました。

 

「――トリあえズ、報告しロ」

「アッ、ハイ」

 

ピシッと「気を付け」の体勢を取ってワシャさんが続けます。

 

「――ムルグへ続く道を塞いでた溶岩流ですが、その面積を広げられていたッス。タクミさんが掛けた橋も飲み込まれてしまってたッスよ。溶岩流倍プッシュするかもってタクミさんの予想、大当たりッス。

さらに、溶岩流の向こう側で、哨戒している戦士とヘルハウンドを見かけたッス。どうやら何チームかでローテーションしてるみたいだったッスよ。

洗脳された戦士を送り込んで来る気配は今の所無さそうッス。

溶岩流の向こうまでは、警戒が厳しくて調べることは出来なかったッス」

 

……おおう、再び斥候に出られてたんですね。

報告があったからこっちに来たのであって、甘い物の匂いに釣られた訳じゃなかったんですね。当然だけど。

 

「――タクミ殿が戻らレていル事を考えてスラいない布陣に思えるナ。ムドラへの斥候やソの形跡はどウダ?」

「見かけなかったッスよ」

 

チラチラとケーキに視線を送るワシャさんをガン無視して、思考の海に潜るギヤナさんです。

 

「……迂闊ナ判断だナ。想定すらシテないナンて事は無いハズだガ……

タクミ殿、何か心当タりあルカ?」

「え?ええ……そうですね。細かすぎて報告してませんでしたが、看板とラクシャスさんの雷ですかね、あるとするなら」

 

――溶岩流に立てたニソラさんへのメッセージ。

ここを通ったら印を入れて、と書いたそれに印が入っていない事。

そして、ネートルさんと会うキッカケになったラクシャスさんの雷。あそこまで盛大にブッ放したんですから、ムルグ側が検知していてもおかしくはありません。

それらを細かく説明すると、再びギヤナさんが唸りました。

 

「――ヤハり納得出来ん。ニソラ殿と合流シ、ムルグの情報を得タ……ソレだけダ。ソの要素で判断デきるのハ。

タクミ殿が戻ってイナいと言ウ可能性を捨て得ル物ではナイ」

「そうでしょうか?」

 

口の回りにクリームをくっ付けながら、ネートルさんが参加してきました。

 

「タクミ殿が取った帰還方法、アレを予想出来たら預言者か何かですよ。

普通は道を逆に辿るだろうと考えるでしょう。そして、その道に目を設置していたのなら、その反応の無さから『我々はまだ潜伏している』と考えても不思議ではありません」

「貴殿の言ウ事も理解でキル。地上経由で戻ってタ、ナんてのは予想できるハズがなイ。

――ダが、トンネル掘って道でハナい所を強引に突破サれた、ト言う発想は出来るハズなんダ」

「……そっちも大概預言者だと思うのですが」

「イや、出来る。……スユドの阿呆を洗脳したカらダ。アイツはタクミ殿の能力を見テいル」

 

見せたっけ?と記憶を辿ると……

ええ、そう言えば確かに見せてましたね。

散華の刀掛台に引っ付いてたドクロ、アレを封印するのに掘ったり埋めたりしてました。

あの時、スユドさんも居たハズです。

 

「洗脳された人、受け答えに違和感無かったんですよね?――って事は記憶も読み取れているのだろうから、その情報は当然得ているハズだと」

「ナるほド、そう言ウ方向もあるカ。

……イや、モうちょっト別の発想だっタ。スユドが手駒にナってるのナラ、単純に報告さセルだロ?此方の情勢とカ厄災や地上人の情勢とカ」

 

――なるほど。同じ洗脳でも、捉えていたイメージが考え違うんですね。

ボクがイメージしていたのは、対象に植え付けた意識が対象の一字一句を操っていると言うもの。

例えるなら他人のお腹に手を突っ込んで自分のコピーとするマトリックスのスミスさん。

この場合、対象者の記憶を継承しないと「違和感のない受け答え」は出来ません。

一方、ギヤナさんがイメージしていたのは、対象の考え方自体を変えてしまうもの。

例えるなら肉の芽を植え付けるDIO様ですね。

この場合、記憶の継承は出来ないので知ってる情報を報告させる事になります。

 

「――仮に、コの情報を持って居なかっタ為にソう言った判断が出来なカったと仮定すル。……ソウ考えるト現状の布陣にモあル程度辻褄が合ってクるナ。

洗脳をスれど情報ハ抜けなイ――偽臣の書はソう言うシステムだと言う事になル。

……訳が解らんガ」

 

――少し、考えてみます。

記憶の継承が出来るのであれば、現状の判断が納得行かないので『出来ない』と仮置きします。

同じ理由で、洗脳した人から口を割らせるのも『出来ない』と仮置きします。

――しかし、敵対したスユドさんは普通に受け答えしていたので、『出来ない』理由は喋れなくなるから、と言う訳では無い筈です。

洗脳されていたムルグの代表が『違和感無く受け答えしていた』と言う部分と矛盾するのもモヤッとします。

……スユドさんと会敵した時の事を思い出してみます。

何か違和感のある出来事は無かったか……

 

「――ガストのバックアタック。なんであのタイミングで仕掛けられたのか疑問でしたが、もしかしたら洗脳した対象とはテレパシーみたいに指令を送れるのかも知れませんね。情報を抜けなかった理由にはなりませんけども」

「……そう言えば、遠吠えも狼煙も無かったのに、スユドさんを退けた後は全然エンカウントしなかったッスね」

 

ワシャさんが納得したように相槌を打ちました。

そう言えば、遠方とやり取りする手法があるなら奪おうと言ったんでしたっけ、ボク。

洗脳しなくちゃいけないのか……

――ニソラさんを洗脳?

却下です。大却下。

 

「洗脳シたヤツでネットワーク作れバ、カなり有利になルなそレ。ファイヤーバットを10体も洗脳すレバ手が付けられナくなル。

――ネートル殿、こレにツいては何か解るカ?」

「いえ……申し訳ありませんが、私はアーシャーが口にした以上の情報は持っていません。

洗脳したモンスターにも逐一指令を出していましたし、何よりその数は少なかったモノですから。

私の知る限り、洗脳した数は四体程度です。ガスト二体とフャイヤーバット一体、それとワスプを一体」

「ハチミツ狙いかヨ……」

 

ここでも甘い物を求めるムルグ魂を目の当たりにして脱力するギヤナさんです。

 

「使用者の意識を対象に植え付け支配する…………

…………ちょっと待てよ?」

 

思い起こすスユドさんの台詞。

あれ、特に違和感は覚えなかったんですが、実は別の意味があったのでは無いでしょうか。

――地上人とラクシャスは残せ。二人は使える。他はどうしようと構わん。

違和感はありません。命令としても正しいです。

けど……けど、今思い返してみれば……

 

「スユドさん……ボクの名前、呼んでませんでしたよね、最後まで。ラクシャスさんは名前呼びだったのに。

それに、裏切りを問い質すワシャさん達の声はほぼ無視してました。説得でムルグに引き入れようって素振りもありませんでしたし」

「……!」

 

アレは一応、指令ですからね。

タクミを残せ、みたいな事を言ってもダンシトルラの面子に取っては「誰だよ」ってなりますし。あの言い方で正しいです。

しかし、コレを違和感に無理やりカウントするならば?

取った戦術も違和感を持ったとラクシャスさんが言っていましたね。

 

「――コう言うのはドウだ?」

 

ギヤナさんが纏めた仮説を口にします。

 

「使用者の意識ヲ対象に植え付けル。ソの意識が表に出るカどうかモ任意に出来ル。

使用者の意識ガ表に出てル間は洗脳されタ奴の意識ハ休眠しテ体を操られる訳だガ、ソの記憶は使用者の物に準拠すル。

使用者ノ意識が引っ込ムと、体の支配ガ元に戻ル。対象者の意識ハ休眠から覚めルダけで、支配さレていタ事に気づかナイ。

――体の支配権ヲ乗っ取れる『意識』を寄生さセる能力」

 

……なるほど!確かにそれならば色々腑に落ちますね。

視線がネートルさんに集まります。

 

「――確かに、そのロジックから外れるような事はしてませんでしたね。

……そうか!人語を解す者の洗脳を行っていなかったのは、そのロジックを隠す為でもあったと言う事か!!」

 

植え付けた意識が表に出てる時に会話すれば違和感が出るハズですし、引っ込んでいる時に会話したら洗脳中の記憶が無いことが直ぐに分かりますしね。

そうすると、「知らない間に自分の中にアーシャーの意識が入っているかもしれない」と疑心が生まれますから。

洗脳された人達を送り込んで来ないのも納得です。

支配中の記憶は使用者に準拠するなら、記憶喪失設定でも押し通さない限りまずバレますからね。

最初から最後まで隠密のまま意識を植え付け、なにも知られないまま使者を返せればそれもアリだったのでしょうが――洗脳したスユドさんと交戦させてますからね。

恐らく、何人かにバレて抵抗されたのでしょう。

ムドラを探ったり偽情報を流す事も出来なくなった訳です。

 

「マだ裏付ケは取れてないガ、モしそうナら朗報だ。向こウはまだタクミ殿の能力モ厄災に関わる諸々モ知らない事にナる。

――ウまクすれば、ムルグの出方をコントロールすル事も出来るカもしれナイ」

 

ギヤナさんがバシンと手のひらに拳を打ち付けました。

 

「――戻っテ策を練って来ル。恐らク3~4本ほど後に作戦会議ダ。

……タクミ殿。不本意だガ、甘えサせて貰ってモ良いのだネ?」

「ええ。ニソラさんとも確認しました。お手伝いさせて頂きますよ。

――但し、ニソラさんと離れなきゃイケナイような配置は止めてくださいね?」

「アあ、モチろん解っていルヨ。ニソラ殿が出発してかラのタクミ殿ハ、正直見てられナいほド焦燥していタからネ」

 

軽く苦笑されてしまいました。

 

「それと……4本程だと間に合うか微妙なんですが、ラクシャスさんお借りしても良いですか?」

「?――構わんガ、何スるつモりだネ?」

「ええ……大抵の物語だと、こう言う「封印された物を守り抜く」シチュエーションって、最後の最後で封印解ける展開になるじゃないですか。そうなっても良いように、ウィザーいじめの準備しておこうかなって」

 

見も蓋もない言い方に、ギヤナさんの顔が引きつりました。

 

「……タクミさーん、そう言う伏線立てると、余すとこ無く回収されちゃうのも定番なんですよー?」

 

ニソラさん大好きな英雄譚だと特にそう言うの多いですよね。

でも大丈夫。そう言うのは最終的にラスボス倒して大団円ですから。

それに、確実に仕込める訳ではありません。

この四時間弱で準備出来るかは、正直賭けの部分があります。

――おっと、これは賭けに勝つフラグを立てちゃいましたかね?

 

「そー言えば、ラクシャス師が用意してた予備の杖、使わなかったッスね。あの伏線なら、激戦の後に最後の決め手になる流れだったッスけど、フツーにムドラまで戻って来れたッス」

 

ああ、そもそも回収せずに投げっぱになってたフラグがありましたね。

 

「ソう簡単に物語のようナ展開にナって溜まるかヨ。――シかし、ソの仕込みが出来るのハ有難い。存分に使っテやってクれ。

……イじめはホドホドにナ」

 

お許しが出たので、少し落ち着いたらラクシャスさんを探しましょう。

――杖星の研究をしているのなら、たぶん持ってると思うんですよね。

 

「あ、ギヤナさん!……いや、タクミさんになるッスか?」

「アん?」

 

ワシャさんがピョンピョン跳ねてアピールします。

 

「オレも食べたいッス!!オレもこの白いの食べたいッス!!」

「……」

 

呆れ顔のギヤナさん、再び。

……そのまま中空に視線を投げて、考える事しばし。

 

「……マあ、お前ナら良いカ。構わんヨ」

「おおおおっ!ありがとうございます!」

 

小躍りするワシャさんを背に、ギヤナさんがポータルに戻って行きました。

「いやぁー、「お前なら良いか」だって。勝ち取っちゃった?オレ信頼勝ち取っちゃったっスか?うひひひひ……やっぱり真面目なお勤めと修練の果てにご褒美が待ってるものなんスね!

ーーあ、ここの食器借りるっスよ。甘味~、か~んみ~♪」

鼻歌を歌うほど超ご機嫌なワシャさんがケーキを取り分けています。

あまりに上機嫌なその背中を見て、ボクたちは互いに目配せしました。

――お腹を壊す可能性があるから、わざわざネートルさんに毒味を頼んだのです。

その上で、ギヤナさんはせめて2時間弱程様子を見ないと怖くて食べられないと手をつけるのを躊躇っていました。

それを食べて良い、と言う事は……

「――ンマーイ!!なにこれメチャクチャうまいッスよぉーッ!!地上の甘味ッスか!?ハチミツを舐めた時以上の感動がここに!!」

……余計な事は、言わないでおいてあげましょう。

ボクたちは互いに頷いて静かに合意しました。

戦士ではないボクだって、「武士の情け」と言う言葉ぐらい弁えているのです。

ちなみに、ケーキはワシャさんが参加しても流石に捌けきらなかったので、泣く泣く処分――ではなく。

イタチっ屁でNot Enough Items からレシピ探してみたら、なんと「冷蔵庫」なんてトンでもない物を見つけてしまったのでこれに保存しました。

鉄ブロック7つと言う驚異のハイコスト。確保してた鉄でもまだ足りず、ムドラの人達に鉄を分けて貰うハメになりましたよ!

ネザーでも鉱石は産出するそうです。そりゃあ、金の剣を作れる位ですからね。

しかし、これで持ってた鉄が全部溶けちゃったよ……使い道決めてたのに、また集めなきゃ。

まあ、この冷蔵庫にスゴい機能を見つけたので良しとしますけども。

最初からコレを見つけていたらなぁ……

 

 

@ @ @

 

――そして3時間弱の時間が過ぎます。

ワシャさんはケーキ食べ過ぎで胃もたれ起こしましたがそれ以外に異状もなく、ゾンビピッグマンにとってのケーキの安全性を身を持って証明してくれました。

ネートルさんとダンシトルラ、ウパスタトリオもピンピンしています。

此方はちゃんと自制していたようで、胃もたれは起こしていない模様。

さて、散華の試し斬りに使った修練場にミーティングルームが付いていました。

作戦会議は其処で行われます。

万が一「寄生」されているケースを想定して、ネートルさんは見張りの人と一緒に別室で待機です。

……と言うか、それ以前にムルグの人ですからね。仕方ないっちゃ仕方ありません。

「――作戦ハ3チームに別れテ行う」

用意された黒板にはざっくりした地図が描かれています。

骨の粉末をベースに作られたと言うムドラ独特のチョークを握りながら、ギヤナさんが説明を始めました。

「第1のチームは『陽動班』ダ。現在、ムルグへの街道ヲ溶岩流が塞いでイる。コの辺りに陣取って、ムルグの目ヲ釘付けにスる。

使者の安否ガ判らズ、ツいにムドラが開戦の火蓋を切って落としタ――ソう言う姿勢を取るのダ。

ムルグの斥候、オよびガストとの激突が予想サれル。ソの中で、ナるべく時間稼ぎに努めロ。人員もこコに多く割り振ル事になル」

 

溶岩流と街道が交差する場所に印が描かれます。

ギヤナさんがこの地点に「交戦ポイント」と名前をつけました。

 

「陽動班にはオレも入ろウ。適時コこから指示ヲ出す事になル。実質、ムドラの防衛線の性格モ併せ持つ事にナる。

コこを抜けられタらムドラの守りは数人の防人ダけになル――ツまり、小隊規模を通したラ絶望一直線とイう訳だ。シっかり気張れヨ?」

 

戦士達を見回します。

その眼光は決意と覚悟に溢れ、誰一人として怖じ気づく人は居ませんでした。

「第2のチームは『突入班』ダ。陽動班が視線ヲ集めてムルグが兵を投入シたタイミングで、脇ヲ逸れテ溶岩流を逆行シ、一気にムルグへ向かウ。

タクミ殿が整備しタ道がアるから辿りヤすいと思うガ、追加されタ溶岩流で塞がれてイる可能性も考えられル。ソの場合のルートは任せるのデ、兎に角ムルグを目指セ。

陽動班に反応シ、ムルグが交戦ポイントに派遣しタ追加兵との会敵ガ予想されル。

この班にはラクシャスをツける――ラクシャス、構わンので存分にブッ放セ」

「応よ!腕が鳴るわい!!」

 

ラクシャスさんが獲物を前にしたような獰猛な笑みで答えます。

 

「――タだ、欲を言えバ。今回のムルグ兵はアる意味アーシャーの被害者ト言えル。

……余裕があれバ、心に留めルだけで構わン。過度な殺生は勘弁しテやレ。

オ前の閃光なラ、気絶に留める事モ容易な筈ダ」

「ム――盛大にやれと言ったり加減しろと言ったり、無茶苦茶奴だな。

……まあ、理解はしてやるが」

 

頷いて、ギヤナさんが先を続けます。

「第3のチームは『潜入班』ダ。地上ルートからムルグを目指ス。

但し、タクミ殿が帰還ニ使ったルートは既にバレて囲マれていル可能性が有るたメ、これは使用しなイ。

ニソラ殿の感覚ヲ頼りにシーホークでムルグの地点ト思わしキ場所へ飛び、ムルグ領内に直にポータルを開けテ突入すル。

マさかコんな非常識なルートで来るなんテ向こうモ思わんだろウ。

目的はアーシャーの無力化と偽臣ノ書の確保ダ。

コの班はステルス性を最優先に動く。会敵は極力避けてくレ。

ナお、ブっつけでポータルを開く事にナるたメ、目測を誤ると別の場所にポータルが開カれる事にナル。

ネザー再突入時に位置に迷ったラ、ラクシャスが撃つ閃光の音を頼りにしテくレ。ラクシャスもムルグに向かうのデ、ソの音を辿れば結果的にムルグに着く筈ダ」

「……なるほど、ブッ放せと言うのはそう言う……つまり、私達突入班は第2の陽動でもある訳か」

「ソれもあるガ、潜入班失敗時の保険の役割も担ウ。ムルグ突入後、潜入班が間に合っテなければそのまま潜入班の目的を引き継ゲ。潜入班と合流シてなオ目的が未達成であれバ、ソのまま分かれテ陽動に回レ。潜入班はギリギリまでステルスに努めロ。

潜入班と突入班は『寄生』サれる可能性がカなり高くなル。ステルスに努めて奇襲ガ成功するカどうか……ソの要素が作戦成功のカギを握る筈ダ」

 

この配置だと、突撃班の負担が一番大きいようにも思えますね。

作戦の性格上、ボクとニソラさんは潜入班に割り振られる事になります。

……ボク達への負担の分散を狙った部分もあるのでしょうが……片方が保険にもなり、切り札にもなる、良くできた配置だと思います。

「――作戦成功・失敗ト言っタ合図は情報混乱を防ぐ為にラッパを使って行ウ。雄タけびでモ大丈夫かもしれんガ、タクミ殿もいるしナ。地上人には恐らク判断出来んだろウ」

 

ギヤナさんが金色のラッパを取り出して、テーブルに置きました。

吹奏楽で使うような物とは随分違います。

音程を操作するピストンボタンはついておらず、持ち手に握りこむようなレバーがついていました。

音が出る、漏斗状の金属管はそれぞれ違う長さで3つに分かれています。

 

「少し吹いテみてくレないカ。レバーを握りこムと高い音が出テ、握らナいと低い音が出ル」

 

――戸惑いながら、言われるままに手に取ります。

そう言えばラッパを始めとした吹奏楽器って、音を出すのにちゃんとしたテクニックが必要じゃありませんでしたっけ?

ボク、こう言うの初めてなんですが……ちゃんと音出るかなぁ?

緊張しつつ息を吸い込み、まずはレバーを握らずに吹き込んでみました。

ブオオオオオ―――!

「あ、すごい……普通に吹くだけで音が出た」

 

しかも、結構音が凄いです。

 

「ソう言う楽器だからナ。今度はレバーを握りこンで鳴らシてみてクれ」

 

レバーをギュッと握ってもう一度吹き込みます。

ピュオォォォォ―――!

甲高い音が響きます。

握らない時と比べて、かなりの音程差がありました。

 

「作戦成功時は高イ音で3回鳴らしてくレ。逆に、作戦続行不可能事は低イ音で3回ダ。

基本的に作戦成功の合図ハ潜入班か突入班しカ使わなイ。我々陽動班がラッパを鳴らす時ハ、ソのまま作戦の失敗を意味すル。心して欲しイ。

ナお、ラッパが聞こえタ、モしくは鳴らした後は音程関係なク速やかに撤収すル事」

 

ギヤナさんは更に同じ形のラッパを二つ取り出し、その内のひとつをラクシャスさんに渡します。

 

「ナお――薄情に思うかモしれないガ、「寄生」サレているダろウ使者の面子の対応は後回シにしロ。モしかしたラ牢屋に入れられてイるかもしれナいシ、事態を把握しナいまま合流しヨうとシて来る事も考えられルだろうガ……無視しロ。潜入班は特にダ。

立ち塞がれタ時は逃げるカ気絶さセるかデ対応しロ。

彼らニついてハ作戦成功後に対応方法を吟味すル」

「……スユドさんもですか?」

 

戦士の誰かが口を出します。

これは、心情的にどうと言うよりも、スユドさんを相手にした場合逃亡も気絶も難しいだろう、と言う意味での発言でした。

 

「ソの為の2班突入でもあル。逃げルなり時間稼グなりすれバ、ドっちかの班が成シ遂げてくれル――そう祈レ。

アの阿呆ヲ相手取った実績があるノは、ラクシャスかニソラ殿の二人のミ。コの二人を分ケさせたノはそう言う意味合いモあるんだヨ」

 

敵に回ルとホント厄介ダよなあの阿呆、と忌々しく吐き捨てるギヤナさんです。

――「理外」のスユド、でしたっけ?

「閃光」のラクシャスは解るんですが、「理外」って何ですかとネートルさんに聞いてみたんですよ。

何でも、あの人の戦闘能力は次元がひとつふたつ吹っ飛んでいて、もはや同じゾンビピッグマンだとは思えない有様なんだとか。

アイツだけなんか別の世界で生きてるんじゃないの?とまで揶揄され、付いた二つ名が理を外れた者と言う事で「理外」のスユド。

相対した人からしてみれば悪夢その物なんでしょうねぇ……

ちなみに『ダンシトルラ』の訓練において、対ラクシャスさん、対ムドラの戦士の想定は何とかなっても、対スユドさんは対策のしようが無かったそうです。

……数で囲む?

相手は良く訓練されたゾンビピッグマン27名を無傷で制圧する人なんですが?(白目)

「――良シ、作戦の概要は解ったナ?ソれじゃあ班分けと、詳細を詰めテ行くゾ――」

ギヤナさんの説明が続きます。

スユドさんと会敵したら高い確率でアウト。

アーシャーさんに「寄生」されたら確実にアウト。

一つ間違えれば事故死――そんな危険度の高いムルグ攻略作戦。

……正真正銘、ムドラ vs ムルグの「戦争」の幕が開きます。

 




ギヤナさんの口調が面倒過ぎて疲れます。
平文で書いてから、後からランダムで平仮名をカタカナに置き換える作業がちゅらい……

早くネザー編終わらせてレギュラーから外れてくんないかなこの人(理不尽)

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