雷の迸る音が遠くから聞こえました。気持ち、下の方からでしょうか。
ラクシャスさんが頑張っているようです。
「みぃーつけた、っと」
ポコンと開けた正方形の穴から顔を出してみると、ネザーレンガで構成された大きな建物が遠くに見えました。
初めて見る、ムルグの町並みです。
ガストから逃れる為、ヘルバークの森林に作られた町だと聞きましたが、なるほどムドラよりも緑が多い気もします。
そして、ムドラよりも起伏が激しいです。
「――見られてないから、今のうちですよ」
開けた穴から這い出ると、続けてカーラさんとニソラさんが出てきました。
「……侵入は無事成功、だな。ラクシャスはまだムルグに辿り着いていないようだ」
陽動が生きているのでしょう。
郊外と言うのもありますが、人の気配が見事にありませんでした。
「時にニソラさん……ラクシャスさんの雷は下から聞こえて来てる訳だけどさ。なんでムルグは上にあるって解ったの??」
居場所が解らなくなったらラクシャスさんの雷の音がする方へ向かえ――そう言う手筈だった訳ですが。
あのポータルを出てから上に向かう事を提案したのはニソラさんでした。
ネザーポータルは高さまでは相似しないと説明していたにも関わらず、です。
問われた本人も余り良く解っていないのか、うーんとアゴに指を当てて首を傾げています。
「……気圧……?」
そんな馬鹿な、と思わず突っ込みました。
上に登ったと言っても、その高低差は20mほどに過ぎません。
と言うか、気圧で自分の位置する高さが分かるものなのでしょうか。
それ以前、ネザーは果たして高低差で気圧が違っていたりするのでしょうか。
「長いこと色々旅を続けていたからですかねぇ?距離とか位置とかそう言うの、頭の中で整理するの得意なんですよ。
でも、具体的にどうやってるのかって言われると――ああ、そうだ。不思議ぱぅわぁですよ、きっと」
うまい説明が見つかったとニッコリ笑うニソラさんです。
……これは一本取られてしまいました。
「不思議ぱぅわぁかぁ」
「不思議ぱぅわぁです」
「――不思議ぱぅわぁなら仕方無いね」
「はい、不思議ぱぅわぁなら仕方無いんです」
「……そろそろコント終わらせて良いか?」
怒られてしまいました。
「さて……タクミ、とりあえずこの穴は塞いでおいてくれ。誰かに発見されてポータルが見つかるのは面白くないからな。
話した通り、先ずは中央指令部に向かうぞ」
「了解です――っと、目印何か用意しますか?帰りに使うんですよね?」
「いや、要らない。このぐらいなら俺も覚えられるし、ニソラも位置を見失う事は無いだろう」
出て来た穴を手早く埋めます。
クラフターのブロック設置は継ぎ目無しの1m単位です。もしこの場所にアタリをつけられたとしても、簡単に見つかる事はないでしょう。
フォーメーションは、予め決めてありました。カーラさんを先頭に、ボクが後ろに着き、さらに後ろにニソラさんです。
白鞘を握りしめ、索敵に意識を向けながらカーラさんの後に続きます。
ラクシャスさんの雷をBGMに、ボクたちは走りました。
ゾンビピッグマンの気配はありませんでした。
ボクの――と言うより抜刀剣の索敵は建物を透過して検知できるのですが、幾つか家の側を通ってもその気配はありません。
その疑問をカーラさんに伝えてみます。
「――非戦闘員は避難しているのかもな」
なるほど、言われてみれば当然の事です。
今ムルグは空襲を受けて警報がなっている大日本帝国みたいな状態なんですよね。
ラクシャスさんがあそこまで派手にやってれば、そりゃあ逃げますよ。
――ええと、元よりガストの危険に晒されていた訳ですから、避難ルールは出来ていた筈ですね。
集合避難場所か、防空壕的な所に固まっていそうです。
「大歓迎だ――仕事がやり易くなる」
それでも視界の通る場所への警戒を怠らないカーラさんです。
素早くクリアリングを済ませると、クイッとハンドサインで前進を促してきます。
遠くの方で大きな盾を持った哨戒が立っているのが見えます。その死角を縫うように、ボクたちは中央指令部を目指します。
カーラさんは、ムルグに来た事は無かったそうです。ブリーフィングの時にそんな話になりました。
カーラさんに限らず、ムルグに明るい戦士はムドラには余り居ないそうで、居たとしても中央指令部の様な重要施設を把握している人は皆無なんだとか。
だから本当はギヤナさん、この潜入班にムルグ出身のネートルさんを入れたかったと思います。
道案内役が居るだけで成功率跳ね上がりますしね。ターゲットの顔を知ってるのがネートルさんだけって言うのもありますが。
もっとも、ネートルさんは情報提供こそしてくれましたが本格的にムルグを裏切る事は無いでしょうし、それ以前に「寄生」されている可能性も捨てきれないので作戦の内容も知られていない訳ですけども。
その代わり、ネートルさんにヒヤリングして大まかな地図を作成してきました。ムドラが元々持っていた少ない地形情報と突き合わせ、何とか作戦に使えそうな地図に仕立てあげたのです。
そうやって出来た地図は今、カーラさんの懐に収まっています。
ブリーフィングの時に地図を頭に叩き込んできたカーラさんは、特に地図を広げる事もなく、警戒ついでに記憶した地図から現在地を確認しながら足を進めます。
ボクは白鞘片手に索敵しながらムルグの町並みを眺めました。
建築様式はムドラと大して変わっていないように見えます。
文化としては似たような物なのでしょう。
ムドラはネザー要塞跡地に出来たそうなので、建築技術や文化の派生元はもしかしたら二つの町ともネザー要塞を起源にしているのかも知れませんね。
大きな違いと言えば、やはり町全体の起伏が激しい事でしょうか。
好んで崖の近くに家を建ててる、と言い換えても良いです。
そしてぽつりぽつりと人がやっと入れる程度の穴が壁から空いている光景が見えます。
――ずっと昔、子供の頃の遊び場だったお寺の一角で、ボクは同じ様なものを見たことがあります。
そのお寺は小さな崖に隣接していて建っていて、崖には人為的に作られた洞穴が空いているのです。
ずいぶん簡素ですが……きっとこれは、防空壕と言う奴なのでしょう。
穴が比較的近い位置にあるのは、きっと中で繋がっているから。逃げ道を複数作る為でしょうか。
入り口のサイズが小さいのは、ガストから逃れる為なのでしょう。
――ムルグは、ガストから逃れる為に作られた町です。
ムドラと相似する文化の中に、ガストから逃れる為の努力が滲み出て来ているのです。
それを意識した時、ボクはまるで映画「火垂るの墓」の町中にでも入り込んだような、空襲から逃れんとする焦燥と怯えの空気に浸された様な錯覚を覚えます。
これも、戦争と言う奴なのでしょう。
ムドラとはまた違う、歯を食いしばって戦火を耐え抜く民達の空気です。
「……そこの曲がり角。左から二人来ます」
そんな空気を感じながらも、抜刀剣の索敵はしっかり機能していました。
カーラさんが素早く辺りを見回します。が、隠れられそうな所がありません。
「む……眠ってもらうにしても……二人、か」
「壁掘って隠れましょうか?」
「そうか、そういう反則が使えるのだったな。頼む」
「了解」
ネザーラックは柔らかいのです。ブロンズピッケルを使えば、4m×1m×2mの横穴を掘るのに3秒かかりません。
素早く壁の中に逃げ込んで、入り口を蓋しました。
数秒後に、蓋した向こう側から小さく声が聞こえてきます。
「――今、何か音がしたか?」
「うん?……特に何もないな」
続けて、更に小さくラクシャスさんの雷が響きます。
「――この音かもな。……クソッ、好き放題やりやがる」
「……持ち場を離れる訳には行かないぞ」
「……わかってるよ」
――聞こえたのは、そこまででした。
そこから更に数秒待って、捉えた気配が遠ざかっていくのを確認します。
「……行ったみたいです」
入り口をあけて、ピョコンと首を出してみます。
「……君はなんと言うか、本当に反則だな。向こう側が見えているのか?」
「便利でしょう?」
「――もうそれで良い気がしてきたよ」
額を覆いながらカーラさんが疲れたように溢します。
実際便利なのでツッコミするのは諦めたみたい。
良い傾向でした。
――潜入は特に問題もなく進みます。
時々見つかりそうになる度に、壁やら床やらに隠れられるボクの能力がチートでした。
それでも数秒を必要としますが、抜刀剣の感知とカーラさん、ニソラさんの気配察知を全て抜けて数秒の時間を潰してきた剛の者は居ませんでした。
ひとつ、ニソラさんがしきりに空を警戒していました。ガストへの警戒かと聞くと、ファイアーバットとワスプへの警戒だそうです。
……そう言えば、ギヤナさんも危惧していた事を思い出します。ファイアーバットに寄生してネットワークを作られたら脅威だと。
ネートルさんによれば、少なくともファイアーバットとワスプを一体づつ手駒にしている筈なんですよね。
空を飛ぶモンスターなので寄生の難易度は高い筈。
手駒を揃えようとするならクーデター勃発辺りからでしょうし……恐らく与えた時間は4~5日程度。
その間、クーデターの後処理をしつつ、途中ニソラさんの捜索やムルグ防衛にリソースを裂きつつ、難易度の高い飛行モンスターを手駒に入れる……ううん、出来そうでもあるし出来なさそうでもあるんですよね。判断が難しいです。
――うん?
そう言えば、ニソラさんを探していた時にファイアーバットを一体斬りましたね。
もしかしてアレが手駒のひとつだったりして……さすがに都合良すぎますか。
「アレだな」
カーラさんが遠巻きに視線を投げました。
少し開けた場所に一際大きめの建物がひとつ。
「確認する」と断りを入れて、ここではじめてカーラさんが地図を開きます。
「――よし、間違いなさそうだ。ネートルが裏切ってなければ、だが」
……せめて「間違ってなければ」にしてあげてください、とフォロー入れようと思いましたが、確かに警戒すべき筋ではあるので苦笑いして誤魔化します。
流石に中央司令部は警戒も厳しいようで、他に比べれば警備も倍ほどありました。
「ネートルが危惧していたように、使用されていない……と言うことは無さそうだな」
「戦争中ですからね。ガストとは違います」
警備の数が、その心配が杞憂であった事を証明していました。
――そう、実は機能してない可能性があったんですよ、中央司令部。
と言うのも、ムルグが想定している最大の仮想敵はガストな訳で。いちいち中央司令部を通して兵力出してたら間に合わないって事で、大抵迎撃の際は各地に置かれた詰所から各々の判断でスクランブルしているそうです。
その為、中央司令部はほぼ事後の資料置き場になるだけで、司令塔としての役割は全然こなして無かったとかなんとか。
「――思った以上にあっさり着きましたね」
「反則がいたからな。タクミの能力がムドラに向けられたらと思うとゾッとするよ」
「それもあるんでしょうけど……ここまであっさり着く展開となると、この後に嫌なイベントが入るのが常かな、と」
メタ推理全開のニソラさんです。
「フラグだよニソラさん……と、言いたいけれど。まあ、確かに警戒して然るべきかなぁ――罠のセンは」
視線の開けた場所に複数の警備。
少なくとも、普通に近づけば見付かる可能性は高そうです。
潜入方法は全員一致で「地下からトンネルを掘る」でした。前準備なしでこの手法が取れるのはマインクラフターの強みです。
とりあえず深めに6m。地面を掘って深さを確保。
ニソラさんが中央司令部への距離を計り、ボクが直上の気配を察知して侵入します。
部屋の間取が解りませんから、顔を出す場所によっては見つかる危険もありますけどね。
ポコポコとネザーラックを掘削していきます。
4m進むのに3秒掛かりませんからね……1分もあれば余裕で到着しちゃうわけです。
――直上の気配はありません。
「さて、本丸だ――行くぞ」
カーラさんの静かな号令に、ボクたちは無言で頷きました。
@ @ @
カーラさんを含め、今回のターゲットであるアーシャーさんの容姿は誰も知りません。
ムドラの使者だったニソラさんも知りませんでした。――もしかしたら顔だけは見た事があるかも知れませんが、特に紹介はされなかったそうです。
きっとクーデター勃発以前は、ムルグの代表の一人として紹介されるような立場では無かったのでしょう。
偽臣の書は普通に考えれば軍事機密ですしね。
ネートルさんからの情報も、芳しくありませんでした。
ギヤナさんみたいな一目で判る特徴があればまだしも、敢えて挙げれるような特徴が無いなら、人の容姿を口頭で説明するのは難しい物です。
ので、ボクたちの方針は少し強引な方向に傾きます。
アーシャーさんを知ってそうな人を取っ捕まえてその居場所を聞き出すか。
偽臣の書っぽい物を持ってる人をそれと判断するか。
はたまた、誰かがアーシャーさんの名前を呼んでいる所を抑えるか。
最後の最後な手段としては、誰かがわざと取っ捕まってアーシャーさんと顔を合わせるのを待つ「囮作戦」なんてのも。やらないですけどね。
「先ずは居場所を絞り込む。それっぽい部屋にいるそれっぽいヤツを浚って平和的に話し合おう」
「フワッとしてますねぇ……」
「流石にこの辺りになると、なるようにしかならんからな」
ごもっともです。
――と、言う訳で先ずは「それっぽい部屋」探しから。
ここは中央司令部ですからね。名前の通りに運用されているなら、警備以外の人は皆「それっぽいヤツ」に当たるでしょう。
その警備もムドラ襲撃により最低限に押さえられている筈です。
中央司令部とは言え、外から見た感じではそこまで広くは無さそうでした。大体15m×15mの2階建て。
部屋数は解りませんが、仮に全部回ったとしても、それほど時間は掛からないでしょう。
実際、作戦室っぽい所はすぐに見つかりました。
「――この向こうに、人の気配がしますね」
「うん。5つ反応があるね」
「……お前達ちょっと便利過ぎないか。頼むからムドラの敵には回らないでくれよ……」
手早く聴診器のような物を壁に当て、少し待てとジェスチャーするカーラさんです。
ニソラさんが少し視線をさ迷わせ、そっと壁に耳を寄せました。
これで聞こえてたらスゴいですが……
ボクだけ突っ立っているのもなんなので、ニソラさんに倣い壁に耳を寄せてみます。
ネザーレンガ製の壁です。
クラフターが作るような1mの厚さでは流石に無いようですけども、それでも音を遮るのには十分な代物です。
無駄かなと思いつつ意識を集中してみると――
<挟撃も、効果が見られません>
……なんか、視界に小さく小さく、そんな文字が飛び込んできました。
驚いて壁から耳を離します。
ニソラさんがきょとんとこちらを見ていますが、その表情はボクがやりたいのです。
その「文字」は、壁の向こうから滲み出るようにボクの視界に現れるのです。
<ええい、どれだけ好き勝手するつもりだ、ラクシャスめ!>
<まだ消耗が見られません。このまま波状攻撃するのは逆効果では?>
<解っている!……奴らの目的は判るか?>
<ムドラの使者の奪還では無いでしょうか。軍を用いてムルグの戦力を足止めし、その間に少数でムルグに突入。そのまま使者を解放し、ムルグの情報と出血を狙う……>
壁の向こうから、会話が文字になって出てくるのです。
漫画の吹き出しをリアルにやったら、こんなんなるんでしょうか?
……Minecraftの当該機能、ちょっと心当たりがあります。
これ、もしかしてアレですか?ゲーム内の音を字幕にする機能。
きっと耳が遠かったりする人のためのユーザビリティ。
ボクは使ったことがありませんが……
<見方としては全うだな。……しかし解せない部分もあるぞ。少数による突入であるならば、その行動は隠密であるべきだ。しかしラクシャスは盛大にぶっ放しておる>
<なるほど……ムドラのリソース不足でしょうか?もしくはラクシャスの独断か>
<ギヤナはバカではない。終始隠密が必要ならば、最低限それを貫ける人材を選ぶはずだ。これは明らかにケンカを売りに来ている>
<……まさか使者の解放ではなく、直接頭を獲りに!?>
<いいやそれも違う。やり方がずさんに過ぎる。直接獲りに来るならなおさら奇襲が有効だ。最後の最後まで一撃は隠さなければならん。ワシがギヤナなら……>
自身の新たな能力に驚きつつも、とりあえず恩恵は利用します。
この「文字」は、ボクの聴力よりもさらに高性能に音を拾ってくれるようです。
<――そうか、これは陽動だ!!二重の陽動を起こしつつ、ムルグに潜入した本命から目を逸らす……あわよくば、潜入組とラクシャスで挟撃を行う構えだ!>
カーラさんが聴診器をしまい、ニソラさんが壁から耳を離しました。
「<――移動するぞ、ここはマズい。説明する時間はないが、>」
「<ドアの死角に移動しましょう>」
あ、カーラさんとニソラさんの口からセリフが飛び出して見えます。なにコレ面白い。
事情は分かっているので即刻うなづいて、足音を極力立てないように曲がり角にダッシュで飛び込みました。
……数秒おいて、ドアを乱暴に開いた音と誰かが走り去っていく足音が「文字」と一緒に聞こえます。
たぶん誰かが伝令に走ったのでしょう。もしくは収容所的な所に人を送ったのかもしれません。
――うん?……人を送る?
なんか引っ掛かりますね……
曲がり角にぴったりくっついてリーンするカーラさん。
どうやら見つかってはいないようですが、ココからさらに警備は厳しくなるでしょう。
コッチに振り返って口を開きます。
「<……あー……もしかして部屋の中の会話、聞こえていたのか?>」
「<はい、途切れ途切れでしたけど>」
ニソラさんと一緒にボクも頷きます。
「<何と言うか……酷いな。いろいろ酷い>」
諦めたように天井に視線を向けるカーラさんです。
いや、ボクも今回ちょっと驚いています。
普通に話す分には、文字がちらちら視界に入ってチョッとうっとおしいですねコレ。
うーん……?切り替えはどうやるのかな、っと……?
「――なら、状況は解っているな?我々の存在に気づかれたようだ。まだ見つかってはいないが、楽観視はやめるべきだろう」
お、直りました。
「……1人、ラクシャスさんの進撃をリアルタイムで報告していましたね」
「ああ、そうだな。それが出来るのは「寄生」された者か、アーシャーだけだろう。あそこにいた5人のうち1人がアーシャーである可能性が高い」
作戦司令室で寄生されてるだけの「ダミー」を置くのは普通に考えたら上官の心象悪いですからね。
何らかの理由があれば別なんでしょうけども。
「でも、ちょっと意外でした。――状況を報告させてたって事は、指示を送ってた人は「寄生」されていないって事ですよね。もし「寄生」された人であれば、報告させるまでもなく状況解っているハズですし。ボクは、このクーデターの頭がアーシャーさんだと思ってましたが……」
「ああ。アーシャーの「寄生」を考えるなら、下に置くのは無謀に思える。それでもその構図になると言う事は……もしかしたらこの件はアーシャーの独断では無かったのかもしれないな」
「無謀と思えるウィザーの兵器化に賛同する人間が一定数居たってことですね」
「それも、トップの方にな」
偽臣の書による恐怖を利用して君臨していると思っていたのですが、チョッと意味が違ってきました。
ボクたちの目的はアーシャーさんと偽臣の書の確保なわけですが、それだけだともしかして黒幕を取り逃がしてしまう可能性があるんでしょうか……?
「指示を出していた人の声、覚えがあります。紹介を受けた人です。――確か、ムドラの兵の総括である、ハヌマトさんだったかと」
「……兵を総括するほどに大局を見れる人間が、弓よりも厄災を選んだと言うのか……?」
やはり「寄生」されてるのか?と混乱に陥るカーラさんです。
「寄生」されている者同士で指示を飛ばしあう……部下に対するポーズか何かとか?
疑いだしたらキリがありません。
「人を出したのも気になりますね。外にいる「寄生」された人材を使えば良いのに、それをしなかった訳ですから」
「――そうだな、確かにそれで事足りた筈だな。単純にリソースが不足していたのか?」
「方便と思われていた「回数制限」の話……もしかしたら、本当だったのかもしれませんね」
単純にリソース不足であれば、それがしっくりくるような気がします。
「とにかく、やる事は決まったな……あの部屋にいる推定アーシャーをかっさらう。うまい事偽臣の書を持っていたら本物認定して良いだろう。あの部屋にいるのは……一人出て行ったから、4名の筈だな」
カーラさんがこちらに視線を向けました。
「俺たちの存在に気づいたのなら、わざと騒ぎを起こしてあの部屋から引っ張り出しても良いが……指示を出す地位にいるのなら、自ら動く可能性は低いかもな」
「つまり――強行突破、ですか?」
相手は4人。こっちは3人。
不利ですが、コッチには戦闘力が振り切ったニソラさんがいるので制圧は可能かもしれませんが……
「――さすがに偽臣の書の前に飛び出すのは勇気がいる。何らかの策を練りたい所だ」
ニソラさんが「寄生」されたら、ボクも理性を保っていられそうにありません。
きっといきり立って白鞘抜いて斬りかかり、あっけなく「寄生」されちゃう未来が見えます。
「……策、かぁ……」
天井を見上げてぼうっと呟きました。
陽動として騒ぎを起こすレベルでは成果が見込めないならどうするか。思考としては、アーシャーさん達が外に出てくる理由を捻り出す形になるんでしょうけども……
うーん……「わざと捕まってみる」とか?
いやいや、下策が過ぎる気がします。
「――タクミ」
一案思い付いた、と言うような目でカーラさんが口を開きます。
マスクで隠れた口元ですが、獰猛に笑っているのが見て取れた気がしました。
「ここはひとつ、破壊工作と行こうじゃないか。――盛大にな」
――カーラさんが提示してきた策は、まあその、なんと言うかその……ぶっ飛んでいました。
@ @ @
中央司令部の二階です。
どうも、このフロアは兵の宿舎的な居住エリアになっているようです。
一階フロアでは物資のやり取りや作戦会議と言った実務的な要素を総括し、それ以外の要素を二階に回して効率化してるんですね、きっと。
お陰で、二階フロアには誰もいません。
工作し放題でした。
「良いのかなぁ……こんな事やっちゃって……」
ポコポコ壁やら床やら天井やらにツルハシを振るいながらボヤきます。
「シンボル化」を切ったり切らなかったりうまく調節することで、極端に過重が掛かる部分をわざと作っています。
他には壁抜いたり通路を揃えたり……
全体的にこの建物、そこまで複雑ではありませんし規模としても中程度なのが救いでした。
わりかし計算が楽です。
「構わんさ。俺たちは戦争をやっているんだからな」
「タチの悪いドッキリの間違いじゃあ無いですか」
「タチの悪いドッキリで終わるなら、十分人道的だろう?」
ごもっともではありますけども。
「後で元に戻せって言われても知らないですよー?」
もう元の間取りとか忘れちゃいましたよボクは。
「そう言うのは全部ギヤナが処理してくれるから大丈夫だ」
悲しくなるほどヒドイ暴論を見ました。ラクシャスさんと言いカーラさんと言い、メンドクサイ事をギヤナさんに押し付け過ぎのような気がします。
ギヤナさん、どうか強く生きて下さいと心中で祈りを捧げました。
ポコポコと目ぼしい部分を崩し終わり、静かに息を吐きました。
「……こんなものでよろしいかと」
「よし――ニソラも配置についていることを確認した。出入り口を塞いだ後で、状況を開始するぞ」
配置に着きます。
一階入り口の真上に当たる部分です。
誰にも気付かれないように、白鞘を通して真下の気配を探ります。
別動隊の存在が示唆されていた事が上手いこと作用しているのでしょう。
恐らく人的リソースは収容施設とかそっちの方に行ってるようで、下には誰もいませんでした。
素早く二階から床に穴を開けて、一階の出入り口を塞ぐようにネザーレンガブロックを積み上げます。
マイクラの妙技です。3ブロック=3m下までなら手が届いて無くともブロック置けますからね。
下に降りるまでも無くブロック積めましたよ。
これでもう、ここから入る事も出る事も出来なくなりました。
遠くで壁に張り付いているニソラさんに親指を立てて、準備完了の合図を出します。
ニソラさんの合図が返って来たのを確認し――
――ボクは「シンボル化」を切ってツルハシを振るい、容赦なく天井を落としました。
@ @ @
作戦としてはシンプル。そしてダイナミック。
え?本命が作戦室に籠って出てこない?
なら作戦司令部まるごと崩せば流石に泡食って出てくるべ、と言う頭の悪いゴリ押し作戦です。
マインクラフターが居るからこそ出来る強行策。
外からの増援や予測不能な方向への逃亡を防ぐために、出入り口を塞いだ上で逃走経路を限定します。
……いきなり建物が崩れだすとか、やられた方はトラウマになるんじゃ無いですかねこれ?
下の方から叫び声が聞こえてきます。
何で塞がってるんだ、どう言うことだ、何が起こっているのだと阿鼻叫喚の様相です。
ほんと申し訳ありませんと心中で両手を合わせながら、次々と天井を落とし、壁を崩し、少しずつ建物を倒壊させていくボクです。
階下が瓦礫でどんどん埋まっていきます。
その傍らで白鞘を握りしめると、哀れな被害者さん達がこちらの思惑通りのルートで逃げ回っているのが確認できました。
彼らを観察できる位置にいたカーラさんが、ハンドサインを投げました。
――ヒットです。赤い本を確認した、と言う合図でした。
つまり、被害者のうち一名はアーシャーさん本人と見て良いと言う事です。
ちなみに、赤い本を確認できなかった場合そのままトンズラするという迷惑極まりない所業を行うまでが今回の作戦だったりします。
まあ、無駄にならなくて良かったです。
「さて……」
今一度気配を確認すると、うまい具合に1名さっきの崩落で隔離できていました。
つまり、カーラさんから見える3名のうち1名がアーシャーさんと言う事になります。
偽臣の書の前に出る訳にはいかないので、このまま適当に追い込みつつ、ひとりひとり奇襲をかけて無力化して行く事になります。
結構細工の時間貰えましたからね。更に分断することも、ボクらであれば可能でしょう。
――ボクはニソラさんに「攻撃開始」の合図を投げると、白鞘を握りしめそのまま階下へ飛び込みました。
危うくエタるところでした…
要所要所のプロットは決まっているのにシーンごとのイメージが出来ていなかったので紆余屈折してしまいました。
最終的にはダイジェストみたいな形になってしまいましたが、最近なんかそれでもいいような気がしてきました。
おかげでムルグ潜入が次で終わりそう。
さて、投稿までの間、私のマイクラ環境は1.7.10→1.10.2→1.12.2とガラッと変わりました。
抜刀剣の挙動はその間随分と変わったようで、1.7.10時代は壁を透過して敵をサーチできた(と思う)挙動が、1.12.2では出来なくなっていました。
劇中では「障害物を透過して敵をサーチできる」と言う設定で書いております。
そして1.9からのバニラ要素である音の字幕化も能力として覚醒。
これからどんどん新旧バージョン入り混じった描写が増える事になると思いますので、この小説を見てModを試そうとしている方がもしいらっしゃる場合はご注意ください。