ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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新章突入です。


冒険者たちの不協和音
反逆の羊


そりゃあ、一騒動ありましたよ。

 

いくら当事者のボクが推薦したと言っても、鶴の一声で納得する人は少なかった訳ですし。

「チょっト何言ってるカわかラないデすネ」とはギヤナさんの言です。

いや、戦後処理と言うくそ忙しい時にややこしい案件ぶつけたのは悪かったとは思いますけども、ノータイムで理解を拒否するほどアウトな人選かなぁ?

 

その当事者と言えば、インフィニティスタイルにシャバドゥビタッチヘンシーンでもするような体勢で天井を仰いでいるわけです。

 

「来た……!私の時代が来た……っ!!」

 

口からなんか漏れてました。

 

「解っテるのかタクミ殿……!?コれハ、ムドラの今後ヲ左右するトても重大な案件ナんだゾ!?

イくら当事者の君ガ希望するト言っテもだナ!?」

「――安心せい、ギヤナ」

 

わなわなしているギヤナさんの肩に、大丈夫、全てワカっていると自信に満ちた手が置かれます。

突き刺さるギヤナさんの視線を浴びて、逆の手の親指で自らの顔を指し示しながら、キュピーンと奥歯を光らす笑みがキャラを著しく崩壊させています。

 

「――しっかり創ってきてやるともさ……"伝説"をよ?」

「テメエが作ルのは地上トの交易基板だっツってんだロうがコの伝説の腐レ脳ミソがアアアァァァーーーガハッッッ!?」

 

……あ、ついに胃に穴開けちゃいましたかねアレ。黄緑色の飛沫が口から飛び出ました。

ほらほらギヤナさん、負傷のポーションですよ。

 

「チクショウ……何テ良く効く胃薬ナんだチクショウ……!!」

 

グロウストーンでブーストされたそれはギヤナさんの胃を瞬く間に修復せしめました。

果たしてそれが望ましい事なのかはともかく。

 

 

ニソラさんがムルグに使者として向かう前の話です。

弓を作る資材に乏しいムドラが今後も弓を維持できるように、ギヤナさんは地上との『交易』を考えました。

しかしボクはここに定住するつもりなんてさらさらないのです。ちゃんとその意思は伝え、納得もされています。

――ではどうするか。

ネザーゲートを開放し、ムドラが自分で地上との繋がりを作るのです。

 

しかし地上とネザーは常識も何もかも違う筈。体当たりしたところで最悪の事態になるのは目に見えています。

必要なのは『理解』です。地上への『理解』があれば、歩み寄るきっかけも掴めるでしょう。

その為に――ボクらの旅に誰かひとり『留学生』を入れる事にしました。

 

それが――

 

「むはははははは!!良い選択をしたぞタクミ殿!ああ、とても良い選択をした!!安心せい、おぬしの行く手を阻むものはすべて、このラクシャスの閃光にて余さず撃ち滅ぼしてくれるわ!!」

 

テンションが天元突破したラクシャスお爺ちゃんでした。

目的がさっそく交易基盤の構築から戦闘にすり替わってる気がします。

 

「んんー、その前にギヤナさんの胃の方が撃ち滅ぼされそう」

 

どうせ滅ぼすんだったら、今からでも良いからあのスユドさんの方を……

あ、ちょっと待ってニソラさん。その連続ちょっぷ地味にイタイ。

 

ラクシャスさんをリクエストしたのはボクの方です。

ギヤナさんはダメな理由をつらつら並べていたんですけど、最終的には折れてくれましたよ。

 

「――ねえ、ギヤナさん。『ムドラとの交易基盤を作る』と言う役目は、結局誰を選んでも結果に差はないと思うんですよ。

だって結局……

 

……ここの人、みんな余す事無く脳筋ですもん」

 

――折れてくれたと言うより、崩れ落ちたと言う表現の方が正しかったかもしれませんね、アレは。

たとえばギヤナさんが来るんだったらまた違ったんでしょうけど……さすがにギヤナさんはムドラから離れられませんしねぇ。離れた瞬間にムドラが崩壊するとも言いますが。

 

誰であっても大して変わらないなら、ラクシャスさんが良いかなと思ったのです。

弓の導入によりラクシャスさんの存在はムドラにとってマストではなくなったため、体が空きやすいだろうなと思ったのがひとつ。

そしてもう一つは……ニソラさん捜索隊のメンバーだったから気心も知れている、と言うのもありますが……あんな話を聞いてしまったから、でしょうかね。

思い出すのは顔を背けながら、それでも師の事を語ってくれたラクシャスさんの背中。

……もしかしたら、旅の間にThaum以外の魔術や『歪み』の解消方法を得る事が出来るかも……なんて思ったんです。

 

ラクシャスさんには感謝しています。

やり方は脳筋極まりなかったとは言え、結局ニソラさんを見つけられたのは彼のおかげでもありましたから。

だから借りを返すと言う訳では無いですが……出来るだけ力になってあげたいなと、素直にそう思ったのです。

 

 

「――シーホークでオーラノードを探し回っていた時、遠くの山のふもとに街が見えました。まずはあそこを目指してみようと思うんです」

 

 

ボクの目下の目的はレッドストーンとダイヤの確保。しかし通常プレイのようにブランチマイニングしても、鉱山でもないこの近辺で掘り当てる確率は低いだろうと判断している為、取引にて入手する事を考えています。

ならばボク達と一緒にいるだけで、勝手程度なら十分学べるでしょう。

 

「あそこか……空の旅も凄かったが、やはり自分の足で歩いて見たかったのでな。今からワクワクするわい!」

 

シーホークはガッタガタのスクラップになってしまいました。足が消えたので、目的地までは必然的に徒歩移動になります。

シンボル化してインベントリに入れる事までは成功しましたが、修理する事はもはや出来ませんでした。派生レシピも存在しないただのジャンクです。

ほんとにもう……物語最序盤で飛空艇手に入れた瞬間にスクラップになるとか、斬新過ぎる展開ですよねぇ。

 

でもまあ、ラクシャスさんの言うように徒歩と言うのもオツな物でしょう。

 

「――羊の群れがいる区画もあったね。ちょっと寄ってこうか」

「え……?なんでです?」

「新しくベッドを3つ作る必要があるやん?」

「日が沈む度に拠点作る気ですか!?」

 

この世界に来て初めての町かぁ……

距離としては、3拠点分ぐらいですかね?

いやいや、拠点っつってもただのプレハブレベルのあばら家ですよ?

 

 

@ @ @

 

 

空気が澄んでいます。

広がる平原と緑や色に覆われた山々。

改めて景色を目に映すと、その様相はどこかアルプスを思い浮かばせます。

口笛が遠くまで聞こえて、あの雲がボクらを待っていそうな美しい景色です。

 

「地上は……本当に美しいなぁ」

 

しみじみとしたラクシャスさんの感想が聞こえます。

 

「ネザーには、旅人さんはいませんか?」

「ほとんど見た事が無いのう。代わり映えのしない景色に険しい旅路だ。ムドラは過去の遺跡を改造して作られた町だが……まともな歴史が残っていると言うのはネザーでは珍しいくらいだからな」

 

そもそも地平線すら存在しない世界。

険しい道を踏破してまで得られるメリットが無いって事なんでしょうね。

端的に言ってしまえばネザーは地上の8倍狭い事になる訳ですし。

 

「ふっふふー。それでは旅初心者の御二方に、超ベテランの私が地上を旅するコツを伝授しちゃいましょう!」

 

ふんすー!と人差し指を立てながら胸を張るメイド妖精さんです。なにこれなごむ。

ニソラさんのパーフェクト旅人教室が始まりました。

 

「――旅を続けるなら、水や食料は当然として、それ以外にも常に気にしておかなきゃいけない事があります。ネザーではあまり意味ないかもしれませんが……なんだと思います?」

「ふむ。――ズバリ、敵を退ける力だな!」

「それ、ネザーで一番必要な奴じゃないですかねぇ」

 

即座に脳筋アンサーが出てくるあたり、ああ、ラクシャスさんだなぁって思います。

タクミさんは?と目で問い掛けられて、ううんと首をひねる事しばし。

水や食料は真っ先にニソラさんが口にしましたからね。

人が生きて行くのに必要なのは衣・食・住。それに照らした上で消耗品を考えるのであれば……

 

「……服や装備、とかかな?なんか、靴下が濡れてるとダメージがあるって何かの映画で見たような見なかったような」

「んんー……?雨季の行軍か何かでしょうか?多分それ、劣悪な環境下での破傷風とかそう言う奴だと思いますよ」

 

――ああ、思い出しました。確かフォレスト・ガンプの1シーンだった気がします。

たぶん、ニソラさんの見方が正しいんでしょう。

 

「正解はですね。ロマンぶち壊す発言になっちゃうんですケド――お金です!」

「えええー……?」

 

身も蓋もない奴が出てきました。

 

「ふむ……身軽になる為、か?」

「それもありますが、何だかんだ言って町の施設は結構な生命線になるんですよ。宿屋、武器屋、雑貨食料品店に病院。そして何より税金です。街に入るのに通行料を取る所も普通にあります」

 

言われてみれば、確かにそんなイメージありますよね。

RPGでもこの辺りを利用しない勇者はいません。ヘンな縛りプレイをしていない限りは。

……お金の事を『先立つもの』って呼び方をする時がありますが、まさしく読んで字のごとくですね。

 

「よーくかんがえよー♪おかねは大事だよー♪……ってなわけで、金策の方法はきちんと頭に入れて置きましょう。交易基盤を望むなら特にです。

定住せずに各地を転々とする旅人が、旅をするに足るお金を得る為の金策は大きく分けて3つあります」

 

そしてアルプスのような山々を背景に、出てくる話題は金策講座。

……なんかシュールですね。

 

「――まず一つ目は『トレード』

旅の途中で手に入れた素材や、他の町で手に入れた物品を転売してお金を稼ぐ方法です」

 

そう言えばニソラさん、初めて会った時はスケルトンの骨を持っていたんですよね。肥料として売れるとか何とか。

旅の途中に生えている薬草やモンスターの素材など、保存状態にちょっと気を遣えばなかなか良い値段で売れるものもあるそうです。

 

「狙い目は鉱石類!少々嵩張りますが、どこ行っても需要があるので換金がとてもしやすいです。まあ、そう言った場所に行かないと手に入らないのが難ですが……鉱山近辺を歩いてると、質の良い鉄鉱石や銅鉱石が落ちてる事があったりします。そう言うのはちゃんと拾っておきましょう。

あと、腕に自信があるならモンスターを狙ってみるのも良いでしょう。それなりに強い個体だと、体内に魔石を作っているケースが結構あります。あとはその体の一部が素材になったり、巣に光りモノを溜めてる事もありますね」

「……魔石?」

「詳しい事は知りませんが、魔法の力が結晶になってるそうですよ?魔法使いの人が良く欲しがってるらしいです」

「ムウ……私は初めて聞くなそれは」

 

ボクが聞きたかったのはむしろ、そんな石が体内に出来るシステムの方だったんですけどね……

ああ、ボクこのシステム聞いた事ありますよ。『ダンまち』ですよねつまり。

 

「何にせよ、こっちにはインベントリとか言う、意味不明な反則運搬能力を持つタクミさんがいますしね。そうでなくともお化けジョウロ作れる人ですし、多分トレードが一番稼げる方法だと思います。

ムドラの人たちだと……ネザーにあるものは大抵、何でも売れるかもしれませんね。

特に光る石……グロウストーンでしたっけ?永遠に光り続けるとか需要爆上げですヨきっと」

 

エントロピーガン無視してますしね。

ネザーラックも良いセン行くと思います。

 

「――二つ目の方法は『クエスト』です。専用の斡旋所を設置している所があるので、そこで一時的に仕事を貰います。オードソックスな所で言えば、特殊な品の入手や指定モンスターや賞金首の調査・討伐、クライアントの護衛とかですね。当然、護衛だのなんだのは一定以上の信用がないと撥ねられますので、それをスムーズに進めるシステムが存在します。

それがこれ――」

 

カバンの中をごそごそしたニソラさんが取り出したのは、一枚の硬質なカード。

 

「国際特殊指定業務斡旋連盟所属証明証――通称、『冒険者カード』です!」

「うっは!」

 

凄い香ばしい物が出てきました!

 

「そ、それ、良く見るヤツか!?物語とかで良く見るヤツか!?」

「よく見るヤツですよー!ネザーにもそう言う話があるんですねぇ……成りあがりモノとしては大定番の職種ですよね!……厳密には職種として認められてる訳では無いんですが、定職に就かずにクエストで稼いでる人の事を普通に『冒険者』と呼んだりします。だから斡旋所もみんな『ギルド』って呼んだりします」

「へえ……って事は、ニソラさんも『冒険者』?」

「そうなりますね」

 

どちらかと言うと、トレジャーしたものをトレードする事の方が多いそうですが、そんなものはクラッカーの歯糞にも満たない些細な問題です。

やっぱり『冒険者』と言う単語は惹かれるものがありますよね。

きっと冒険者ランクとかあるんですよ。んでもって、ニソラさんはきっとかなり高い位置にいるに決まってるんです。

 

がっしとラクシャスさんがボクの肩を掴みます。

 

「タクミ殿!登録しよう!是非冒険者登録しよう!!コレは最優先に解決すべきロマン案件じゃ!!」

 

おじいちゃん張り切ってますねぇ。

 

「面白そうだけど……大丈夫?制限とかない?」

「国際的な証明証ですからね。教習所に通うか、一定の信用を持つ冒険者の推薦が必要です。

――私、タクミさんは推薦しても良いですけどラクシャスさんの事はまだよく知りませんから。ぜひ、推薦に足る所をこれからの旅路で見せてください。

……例えば脳筋だけではない所、とか?」

 

ニソラさんのウインクに、ラクシャスさんの口端が持ち上がります。

 

「フハハハハハ!ムドラを長い間護り続けた私を侮って貰っては困るぞ!余す所なく見せつけてやるわい!」

 

すげえや。ある種、暴走のストッパーになるのかコレ。

 

「ニソラさん……弓の時もそうだったけど、人乗せるの結構うまいよね」

「ぴぃーすっ!」

 

……まあ、『相手が単純』と言うのも少なからずありますけどね。

 

「さて、最後の三つ目ですが……『イベント』とでも称しましょうか?

一口に言うなら、技術を魅せてお金を貰うって感じですね。武闘大会のような催し物に参加したり、芸を見せておひねり貰ったりするやつです。

これは自分でやる場合はプロモ能力が必要な上に得られる額も比較的小さく、誰かがやってるのに混ざる場合はタイミングが必要になります。お祭りみたいなものですから」

 

このメンツだと、イベントで安定して稼ぐのは割と難しいかもとニソラさんが補足します。

……大道芸スタイルなら、ラクシャスさんの魔法とか結構ウケは良さそうですよね。見てて派手です。

しかしこの世界では魔法は一応認知されている模様。

中国雑技団を見るような目で魔法パフォーマンスを見てくれるかどうかはちょっと怪しいですよね。

 

「武闘大会……頻度は如何ほどじゃ?」

 

ああ、ラクシャスさんはそっちが気になりましたか。

 

「有名なのは年1ぐらいですかねぇ……でも大抵、魔法は使用禁止ですよ。ラクシャスさんは徒手も出来るのでしょうか?」

「これでもムドラの戦士なのでな。スユドと比べられたら堪らんが、それでもある程度修めているとも。……地上の戦士の平均値は知っておきたいところだな」

「ふふ……私見ですけど、ムドラのレベルはかなり高いですよ。防衛の意味で考えているなら、そこはあまり不安にならなくても大丈夫です」

「……スユドを下したものに言われてもなぁ」

 

ボクはこの世界におけるニソラさんの立ち位置の方が気になります。

怖いから聞きませんけどね。

 

 

@ @ @

 

 

しばらく歩くと、羊の群れが草を食んでいる所が見えてきました。

今夜のベッド素材の為に目指していた場所です。

オーラノード捜索の時にニソラさんがついて来てくれてて本当に良かったと思います。おかげで目星をつけた所に正確無比に案内してくれます。

 

マイクラの羊はふわもこな羊です。この世界でも野生の羊はふわもこなようです。

……でも実は、ふわもこな羊って野生では生きていけなかったりするんですよね。

アレは人類と関わった為に『毛変わりすることなく毛が伸び続ける』と言う能力を備えた改良種であり、人の手で毛を刈られないとそのうち毛玉になって死んでしまうと言う悲しき生き物だったりします。

カイコガとかもその類。

人類が全滅したら彼らも絶滅する運命にあるのです。

……この世界のふわもこ羊達はそのヘンどうなってるんでしょうか。

実は誰かに飼われているとかだったりすると、毛刈りはイコール泥棒行為に当たります。

 

「今更ですねぇ」

 

いや、確かにそうなんだけどさ。

最初の拠点もニソラさんに毛刈り任せちゃってたし。

ニソラさんと会う前なんて羊肉にまでしちゃったし。

 

「確かに放牧してる所もありますが、ここの羊は大丈夫だと思いますよ。追い込み役の犬もその犬使いも見当たりませんし、毛に手入れの跡が見られませんから。普通に野生でしょう」

 

どうやらこの世界の羊さんは、ふわもこしてても一人で生きて行ける模様です。

 

「――んじゃ、お毛け貰いましょうかね」

 

今はちゃんとハサミを用意しています。羊肉になってもらう必要はありません。

こんだけいればベッド3つ分とか余裕です。町で売れるかもしれないし、貰えるだけ貰って行きましょう。

はーい、右クリック右クリック。

 

「……なんか、頼りない毛だの。燃えちまうんじゃないか?これは」

「燃えちゃいますね。地上はネザーと違って火の気が少ないですから、火耐性を持っている動物はとても少ないんですよ」

「ここらへんはジェネレーション……じゃなくてディメンションギャップだなあ。もしかして、服とかもアレで作るのか?」

「ええ、選択肢のひとつです。もちろん燃えますよー」

「ムドラじゃ扱えんな、これは。

……ちなみに、ああ言う刈り方するのはタクミ殿だけって事でええのか?」

「もちろんです。アレを基準にしてはいけません」

「知っとる」

 

……なんか、後ろでワチャワチャ言われていますが無視しておきましょう。

 

「――うん?」

 

しばらくチョキチョキして羊毛を集めていると、妙な胸騒ぎがして来ました。

二人を仰ぐと、同じく不穏な空気を感じ取ったのか武器を取り出して構えています。

……敵でしょうか?

白鞘――いえ、『葛の葉』の鯉口に親指を当てて意識を切り替えます。

感じ取ったそれは、紛れもなく『敵意』でした。

 

「――何か、来る?」

「なかなかのプレッシャーだな。そこの丘の向こうじゃ」

「この辺は物騒な所では無いと思ってたんですが……」

 

……無駄口を叩けるのはそこまででした。

丘の向こうから飛び出した影が、まるで矢のようにボクに向かって来るのです。

抜刀――

 

「下がれ!!」

 

ズガアアアアアンッッ!!

 

迎撃よりも早く、ラクシャスさんの雷が迸りました。

強烈なその音にビックリして、羊達がメエメエと叫びながら散り散りに逃げていきます。

 

「うわあ、問答無用か……」

「これがラクシャスさんの魔法ですか……、ッ!?」

 

――土煙の中で、『それ』は佇んでいました。

 

泥のように濁った目でこちらを見つめる羊。

いや、羊なのでしょうか……?

その体躯は2倍ほどに大きく、背中が異様に盛り上がっています。

長い足は皮膚炎にかかったように途中から禿げ、肌の色をむき出しにしていました。

気味の悪い緑の涎を垂らす口端には、突き出た大きな牙が見えるのです。

 

クリーチャー。

そんな単語がピッタリ当て嵌まりそうな全容です。

何よりも特記すべきは――

 

「無傷、だとう……!?」

 

あの雷を受けて、堪えた様子がまるでない所でした。

 

「っ、散って!!」

 

突進が来ます。今度の狙いはラクシャスさんでした。あの雷を脅威に見たのかは判断できません。

ボクの合図と共に全員が地を蹴り、突進を回避しました。

長い足が速度を生んでいるのか、その突進は戦慄に値するものです。

――これは、逃がしてくれそうにない――!!

 

「こ、のっ!!」

 

回避と合わせてクリーチャーを流し斬りますが、手応えが異様でした。

妙な力で反発されたように『斬った』と言う感触がありません。

 

「何ですか、この感触……ッ!?」

 

ボクと同じく、ニソラさんも動いていました。

気付けば抜き身のクトネシリカを携え、クリーチャーの上に立つニソラさんの姿。

何をやったか全く見えませんでしたが、既に何発か攻撃を入れていたようです。

クリーチャーがニソラさんに気付いてロデオを始めると、それに合わせて二つの剣閃が奔ります。首と足――完全に意識の外からカウンター気味に入っています。

そして次の瞬間には、間合いを離していたボクの横に陣取るニソラさんです。

――速過ぎました。

ボクは俯瞰できる位置に居たから見えましたけど、クリーチャーの視点から見たらニソラさんの影すら捉えられなかったでしょう。

 

「な、何と言う軽業じゃ……こりゃスユドも捉えられんわ」

 

ラクシャスさんの動きが一瞬、ニソラさんに見惚れて止まっていました。

 

「ニソラさん、今のにカムイノミは?」

「つけてました。が、斬った感触が殆どありません。……恐らく全方位バリアです。どうにかして剥がす必要があります」

 

意識外の攻撃も防がれた事からの判断でしょう。

抜刀剣には幻影刃による貫通攻撃がありますが……

それを伝える前にラクシャスさんが叫びます。

 

「任せい!こう言うのはな――」

 

振りかぶる杖には溜まりに溜まった雷が漏れ、

 

「負荷を掛けてブッ潰すんじゃあああッッッ!!」

 

ドゴォアアアアアアッッッ!!

 

先程に数倍する雷撃が轟音と共に突き進みました。

相性や性質をガン無視する、超高負荷脳筋ゴリ押し攻撃です。

恐らく杖のVisの殆どを注ぎ込んだに違いない雷の暴風が荒れ狂います。

閃光と轟音――鼓膜どころか、こっちにもビリッとした衝撃が突き抜けました。

ああ、耳がキンキンする……ラクシャスさん、ちょっとやりすぎですよこれ。

 

しかし、どうやら攻め方としては正解だったようです。

爆心地には毛皮が剥がれてモコモコの見る影もなくなったクリーチャーが、ふらふらと目を回していました。

これは、防御が剥がれたと見て良いのかな?

……アレで終わってないのが逆にビックリですが。

 

「眠りなさいっ!!」

 

間髪いれずにニソラさんの一閃。

 

――今度はまともに通ったようです。

祈りにより鋭さを増した神威の一撃は、青い血を巻き上げてクリーチャーの首を空に舞わせました。

 

 

@ @ @

 

 

「ふいぃー……地上には厄介な魔物がいるのう。我が全力の閃光を耐えた者など、ちょっと記憶に無かったぞ」

 

サトウキビの杖をくるくる回しながらラクシャスさんが息をつきました。

今のはこれまで見た雷撃の中でも一線を画するレベルのモノでした。

ガチでやったら本当にチートだったんですねラクシャスさん……

ボクの回りは本当にチートばっかりです。

 

「流石にこんなのがゴロゴロしてたら地上は地獄絵図になってますよ……私も見るのは初めてです」

 

良かった、地上のスタンダードがこれだったらどうしようかと思いました。

 

「……これ、アレかなぁ。これはあの羊たちの親玉で、ボクが毛を刈ってたから怒って襲って来たのかなぁ……」

 

もしそうだとしたら、悪いのはボクの方です。

何か罪悪感が……

 

「いや、コレにそんな理性あったとは思えんのだが。あの目を見たろう?この上なく濁って腐っとったぞ」

「もしそうなら世界中の羊飼いさんたちは今頃お墓の中ですね。

……これは多分、例の『世界の悪意』案件ですよ。見てください」

 

ニソラさんがクリーチャーの断面を指し示しました。

オレンジ色の極彩色な肉がぐずぐずと崩れ、コントラストがドキツい青い血が流れています。

……なんか……ほのかに酸のような匂いが……

 

「多分、毒性を帯びてるでしょうね……煮ても焼いても食べれる気がしません。こう言うモンスターはたまに出るんですよ。なべて人を標的とし、理性なく破壊を齎します。

その性質から、害しか齎さない存在。食物連鎖のサイクルから外れた所を蠢くもの……冒険者の間では、そう言ったものを指して『カースド・モンスター』と呼んだりもするんです」

「カースド……呪い、か」

 

確かに、こんなのが進化の過程で生まれたとは思いたくありません。

 

「……どうするんじゃ?これ」

「どうしましょうかね……処理出来れば良いんですけど、生憎その手段を持ってませんし。討伐部位として牙でも取って町に報告しましょうか。ここまで凶悪なモンスターなら、もしかしたら『ネームド』の可能性があります」

 

RPGの例に漏れず、『カースド・モンスター』の討伐クエストも普通にあるそうです。

討伐クエスト、ネームドモンスター、ワクワク感が香るロマン案件ではありますが……最初に目にするのがB.O.Wのごとき羊さんと言うのは、なんとなく気味の悪さを覚えます。

首を落とされたクリーチャーの死骸が、ふとネザーで見たガストのそれにフラッシュバックしました。

 

……『世界の悪意』、ですか。

呪いの魔物……なるほど、まんざらではありません。

 

 

「……?」

 

 

ふと、ラクシャスさんが視線をいずこかへ投げました。

ニソラさんが牙を取りながら何でも無いように口を開きます。

 

「――大丈夫。今の所、敵意は無さそうですから」

 

え……?まさか二体目でもいるんですか?

ボクもラクシャスさんの視線の向こうを辿りますが、生憎ボクには何の違和感も見つけられません。

 

「……コンタクトはせんのか?」

「向こうがそれを望んで居なさそうですので。……気を悪くしないでくださいね?ベテランの冒険者の方はむしろ、『力』に対して臆病な方が多いんです」

「ふうむ……まあ、理解はするが……」

 

ああー……どうやら誰かに見られているようです。

言われても全然気づけないボクは置いてけぼり。

二人とも感覚鋭いなぁ……視力どれぐらいあるんでしょうか。

 

「タクミさんはアレですよね。敵意には敏感ですけど、それ以外にはドンなカンジ」

「もともとそう言うスキルないもので」

 

システムアシストでどーにかしてるだけですからねボクは。

ボク一人だけ捕捉出来てない事はあっさりバレてしまってる模様です。

ニソラさんから牙を受け取りながら苦笑しました。

NEIで見えるアイテム名に目を細めます。

 

……Sheep Fang(羊の牙)?

 

どうやらコレは、羊で良いらしいです。牙生えてるけど。血とか青いクリーチャーだけど。

派生レシピは……何も出ませんね。

本当にボクが作れるレシピが無いのか、それとも解放条件を満たしていないのか。

牙をインベントリにしまうと、ボクたちはクリーチャーの死体を後にして先を進み始めます。

 

 

後々の話ですが……辿り着いた町の冒険者ギルドで、ボクたちはこのクリーチャーの名前を目にする事になります。

この平原に巣食い、横切る人間を目ざとく見つけては襲って食い荒らす悪夢の羊。

 

――『種族名』Walker(殺人鬼)と言う名のモンスターの事を。

 

 

……。

 

……ボクらの波乱万丈フラグは、ムドラ騒動後も留まる事を知らないようです。

 




 
アンケートのご回答、どうもありがとうございました。
結果により、ラクシャスさんが仲間に加わりました。

ラクシャスさんは一応、スユドさんやヘロブラインの件についてちゃんと聞かされています。なんでその場にいなかった自分と頭を抱えはしましたが。

なお、羊クリーチャーはSheepRebellionと言う和製modの物をイメージしています。
本家で牙や緑の涎に言及はありますが、青い血は当方の創作です。
……もしどこかで言及されていたら直します。

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