ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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ハジメテの夜

一回だけ使った木の剣に原木を2つ組み合わせてクラフトすると、木の無銘刀「木偶」の完成です。

羊さんを犠牲にして作ったこの木刀、一本残して全て使い潰す予定の物ではありますが、どれも夜を越えるには頼もしい武器となります。

 

Mod「抜刀剣」

 

マインクラフトに日本刀の要素を追加する和製Modです。

そして、ボクがゲームで愛用していたよく知るModのひとつでもありました。

バニラの近接武器はボクにはどうも間合いが掴み難くて、たびたび蜘蛛やゾンビの攻撃を受けてしまってたんですが、このModで作られる刀剣はリーチが長く、一対一であれば無傷制圧もそれほど難しくありませんでした。

ともすれば、スケルトンの弓矢攻撃だって切り落とす事ができる凄いヤツです。

リーチさえ届けば壁を挟んだ向こうにいる敵を切り伏せる事が可能と言う、アヌビス神のスタンドみたいな能力も標準装備!

……まあ、この透過攻撃はこの世界では出来ないみたいですけども。

アレは狙った仕様じゃなくて、ゲーム上のテクニック的な感覚があったからね。仕方ないね。

しかもボクは剣の心得なんて全くないごくごく普通の一般ぴーぽー。飛んできた矢を切り落とすような神業が出来るとは全く思ってません。

が、それでもバニラの剣と並べられたら抜刀剣を選びたいです。

ロマンは大事。超大事。

 

ゲームでは夜が来たら即刻ベッドに入れば夜をスキップ出来ました。

この世界では、さすがにそんなの出来ないに決まってます。

ボクが寝ている間にもきっとモンスターは動き回るし、家を壊す事すらやってのけるかも知れません。

注意すべきはクリーパー。

全身火薬の爆発リフォーマー。

死角から音もなく忍び寄り、その一帯ごと自爆で吹き飛ばすテロリストモンスターです。

ゲームでは窓越しブロック越しだとプレイヤーを認識出来ず、その状態で自爆する事はありませんでした。

この世界でもそれが通るかはかなり疑っています。

例えボクの姿が確認できなくとも、「あ、人工物だ。爆破しよ」みたいなノリでドカンと行かれても不思議ではありません。

「結婚しよ」みたいなノリでボカボカやられたら堪ったものではありません。特に理由のない暴力はボク宛ではなく筋肉かベル何とかさんにお願い致します。

……ああと、しまったぞ。

家の回りを、3m程度の石レンガの壁で囲っとけば良かったんだ。

蜘蛛が登れないように返しも付けて。

そうすれば、クリーパーのあんちくしょうがリフォームに来ても対応出来たのに。

……今からでもやっとくべきかな?

いや、でも壁の構築はさすがに資材が足らないだろうし……

せめて石フェンスだけでも囲っとくべき?

 

――もやもやとやり残した作業を検討することしばし。

ガサリと外から何かの気配がして、ボクは身を固くしました。

無銘刀「木偶」の柄に手を当てて、バクバク心臓の音を聴きながら外の気配に注視します。

――何が出る?

骨か死体か、はたまた蜘蛛か。それともまさか自爆テロ……?

外の気配はそのまま家の出入口まで移動すると、トントンと家の扉をノックしました。

 

「あのぉー……ごめんくださぁーい」

 

え?しゃべっ、ええ??

えええっ!?

 

「誰かいらっしゃいませんかー?」

 

――それは、女性の声でした。

 

なんなんでしょう。

世の中にはクリーパーなどの敵性Mobを萌え化して、ギャルゲーのように遊ぶ事ができると言う未来過ぎるModがあると聞きますが、もしかしてそれの要素だったりするのでしょうか。

マインクラフトの住人は基本的に「ハァン」とか「フゥン」とか鳴くだけの、鷲鼻の村人だけのハズです。

 

「は、はぁい……」

 

無銘刀「木偶」は腰に差したまま、すぐに抜けるように警戒しつつ。

おっかなびっくり扉を開けるとそこには……

 

「ああ、良かった!人がいました!」

 

黒い髪の上に乗った白いカチューシャ、ほのかに紫がかった黒い瞳。

150cmちょっとの小さな背丈でフリルの入ったエプロンを着こなす、ホッとした表情のメイドさんが居ました。

 

……って。

 

「メ……メイドさん??」

「はい!メイド妖精のニソラと申します」

「そ、それはご丁寧にどうも……?」

 

――そう言えば、ありました。

ギャルゲーModと同じく未来に生きる、マインクラフトにあろう事か「メイドさん」の要素を追加してしまった和製Mod。

なぜ全力を尽くしたのかとツッコミを入れたくなってしまう程作りこまれた有名な萌え系筆頭。

 

Mod「little Maid Mob」

 

おおざっぱに言うと、野生のメイドさんを雇用するModです。

凄い字面だけど間違ってないのがヒドイ。

彼女の口にした「メイド妖精」なんて単語は聞いたことありませんが、きっとハリポタの屋敷しもべ妖精みたいな物なんでしょう。

この世界ではメイドさんは「なる」ものではなくてスポーンするものだと……おかしいよね?リアルに考えると絶対これっておかしいよね?

 

「私、旅をして回っている者です。日も暮れたので寝床を探していた所、この家の明かりを見つけまして。もしご迷惑でなければ、夜露を凌ぐ場所と……できればお砂糖など分けて頂けないかなぁ、なんて」

 

固まっているボクの姿が先を促しているように見えたのでしょう。

頭をカリカリしながら理由を語るニソラさん。

よくよく見れば、大きなカバンに小さな外套、木の杖と、メイド服以外の部分はちゃんとした旅人ルックです。

バイタリティー溢れるメイドさんですねぇ……

使い込まれたそのアイテムの数々に道中を想像したりすると、なんだか尊敬してしまいます。

こんな小さな体で一人旅かぁ。すごいなぁ……

せっかく訪ねてくれたんだし、おもてなししてあげたいのはやまやまだったんですけども。

 

「そ、そうですか……いや、困ったな。見ての通りの家なので、おもてなし出来るような物がありませんで」

 

何せ椅子もテーブルもない拠点です。

お茶すら出せません。

寝床だって、ベッドを作れる羊毛はもう使ってしまいました。

どうしようかなと辺りを見回すボクにニソラさんが慌てます。

 

「あああ、ご無理をされる事はないです!あわよくばと思っただけですので!野宿を続けて来たのでお断りされても問題ありませんし!」

 

いやあ、さすがにそれは後味が悪すぎます。

 

「うーん、本当に場所とお砂糖位しかお分け出来ません。大したおもてなしもできなくて恐縮ですが……5分ほどお待ち頂けます?」

 

チェストを漁ると木材と原木がいくつか残っていました。

この量なら、2m×3m×2mのスペース位は出来そうです。

ニソラさんのこの体躯なら十分でしょう。

 

「こっちの壁で良いかぁ……」

 

まだスペースの空いている壁を撫でると、ボクはおもむろに石の斧で穴を開けました。

 

「ほえええぇ!?」

 

ニソラさんがごっつ驚いています。

気にせずポンポンと床を張り、壁を作って屋根を設置します。

もう慣れたものです。

後ろで「ちょっ!?ちょっっ!!?」と声が聞こえるけどガン無視です。

トドメに松明を壁に掛けて、ドアをつければ小部屋の増築が完了しました。

後は……お砂糖だっけ?

サトウキビは紙にしようと思って余った2つしかありません。

サトウキビひとつから砂糖をひとつクラフト出来ます。

明日になればまた収穫できるし、全部あげても別に良いかな。

と言う訳で即席クラフト砂糖を2つ。

アイテム状態じゃ困るだろうと木のボウルも作ってその中にドサッと入れました。

ううん、5分も要らなかったなぁ。3分で十分でした。

 

「ええと、こちらでよろしいですか?」

 

ベッドを置けなかったのが悔やまれますが、野宿して来たと言ってましたし、その点は我慢して貰いましょう。

流石に無い袖までは触れません。

驚愕を顔に張り付けたまま開いた口の塞がらないニソラさん。

完全にフリーズしています。

……ふうむ、マインクラフターはもしかして存在しないんですかねえ?

ますますリアルっぽい世界です。

「おーい」と声をかけると「……ふぁっ!?よ、よろしいです!よろしいですっ!」とコクコク頷くニソラさんの仕草が何だか可愛らしくて、思わず小さく吹き出してしまいました。

 

 

@ @ @

 

 

床材にして余った木のハーフブロックを腰掛に置きました。

木のボウルは1度のクラフトで4つ作れます。あと3つ残っているので、せっかくだから今日のご飯はキノコシチューにしましょう。

森の中で見つけた茶キノコと赤キノコをボウルと加えてクラフトです。水の要素なんてどこにもないのに、手元にはキノコシチューが生まれます。

質量保存の法則?

マインクラフトの世界ではそんなものウンコ拭く紙以下ですよ?

考えすぎるとSAN値が下がります。

 

対面で、ボウルに盛ってあげた砂糖を口に運ぶニソラさん。

その視線はキノコシチューに向いていました。

食べたいとかそう言うのではなくメチャクチャ怪訝な顔しているので、今まさにSAN値が下がっている最中なのかもしれません。

 

「あの……ええと……」

 

行き場のない声を口の中で転がして。

 

「……そう言えば、お名前を伺っていませんでした」

「ああ、そう言えばそうでした」

 

名前。名前かぁ……

この世界にスポーンしてしまったからには、元の名を名乗るのもなんとなく憚れます。気分的に言うなら、ネット上のハンドルネームに本名を使うぐらい憚れます。

とは言え、マインクラフトの主人公の名前を使うのも違うと思います。

スティーブ、もしくはアレックス。公式ではそれが主人公の名前な訳ですが、それ以前にこの名前は「山田太郎」とか「ジョン・スミス」みたいにありふれた名前と言うニュアンスを持ちます。

そも、ボクは日本人です。英名は違和感が酷すぎました。

 

――日本風で、マインクラフターで、かつ違和感の無い名前……

 

考えてみたらすんなり浮かびます。

これしか、あり得ませんでした。

 

「――タクミ。ボクは、マインクラフターのタクミです」

 

クリーパーにつけられるあだ名のひとつではありますが、本来の「匠」の意味から鑑みれば、これほどしっくり来る名前もありませんでした。

ボクは今から、タクミを名乗ろうと思います。

 

「タクミさんは、魔法使い様なんでしょうか?」

 

さっきのデタラメクラフトの事を指しているんだと思います。

確かにボクもリアルの世界で見れば、幻覚でも見たのかと疑ってしまう気がしました。

さて、まず出てきた魔法使いという単語。

どう言った意味で口にしたのか気になる所です。

マインクラフトのModには魔術を追加する物があり、ボクが最初の目標に決めた「ProjectE」の錬金術も、大別すれば魔術Modに区分されます。

気になるのは、「魔法」と言う技術が認知されているかどうかですが……

 

「うーん……いずれは魔法に手を出したいのですが、今はまだその前段階にも至れていないんですよ」

「アレで!?」

 

お、興味深い反応が返って来ました。

取りようによっては、魔法の存在を肯定する反応です。

 

「ニソラさんは、魔法を見た事があるんですか?」

「はい。旅をしているとそう言った不思議な技にも結構出会う事があるんです。最後に見たのは……あんまり良いものでは無かったですが。あの、紅の教団ってご存じですか?」

 

……ご存じでした。

魔術系Modの二大巨頭のひとつ、Mod「Thaum Craft」の中に出てくる敵性集団です。

「魔術系Modを入れて遊んでます」と言えばまずこれの事を指すほど定番かつ有名なModで、その例に漏れずボクも入れて遊んでいました。

自然界に満たされている魔法の力を集め、強力なアイテムを作ったり術を使ったり出来るようになるのですが……

その奥義を追えば追うほど「歪み」と呼ばれる現実との剥離を引き起こします。

深淵を覗く者は、また深淵に覗かれている――なんて言葉がありますが、まさにそれです。

肉体と精神がねじ曲がり、狂気に侵されてまともに生活する事すら困難になります。

永続的な「歪み」に囚われれば、もはや回復する事はできません。

「紅の教団」は、そんな魔術にドップリ嵌まっている方々の集団です。

 

「……もしかして、エルドリッチの祭壇を祀っている現場にでも出くわしました?」

「爆発する光の弾を杖からこう、どわあああっ!!って出してきて……死ぬかと思いました」

 

世界に点在する「エルドリッチの祭壇」と呼ばれるオベリスクは、紅の教団の儀式の要です。

祀っている所に出くわしたら殺されます。

逃げても執拗に追いかけられて殺されます。

 

「よく無事でしたね……」

「まったくですヨ……」

 

思い出したんですが、Thaum Craftではその「歪み」をある程度緩和する用途としてですが、バスソルトや石鹸を作れるんですよね。

きっとそのうちボクも片足突っ込みます。

ゲームでは「歪み」により解放される要素が多かったから、チート防具に身を包んで自分から「歪み」に突っ込んだりもしましたが、この世界ではやる気になれません。

 

「まあ、ああ言う人達が使う魔法だけではない事も知ってますけどね。……私、そう言った魔法とか、景色とか、色んな物を見たくて旅をしているんです」

 

そんなヒドイ目にあったにも関わらず、彼女の好奇心は留まる事を知らなかったご様子。

 

「私達メイド妖精は、別の世界から来たやって来た、なんて言い伝えがあるんです」

「……へえ?」

 

面白い話が飛び出してきました。

この話は、知りません。

Mod「little Maid Mob」にもそんな設定はなかったハズでした。

 

「そこは妖精達が住まう世界で、魔法の森が広がり輝く大地に満ちた、とても綺麗な世界なんだと寝物語に聞いた事があります。命の力が溢れ出ていて、妖精はその力を生活の糧にしているんだそうです。――いつの日か、私達はその地に帰り眠りにつくんだって。語り継がれてきた神話のひとつです」

 

……当然の事ではありますが。

ボクはマインクラフトやMobを知っているだけで、彼女を、この世界の事を知っている訳ではありません。

この世界はきっと、ボクがこの地にスポーンするずっとずっと前から此所にあり続けて来たのでしょう。

ゲームとの違いも沢山あるに決まっています。

ボクは今、その違いの最たる場所にある壮大な物語を聞いているのでしょう。

沸き上がった感動をそのままに、「素敵な神話ですね」と相槌を打ちました。

 

「別の世界を行き来する方法がある事を、旅の合間に知りました。そんなことが叶うなら、ぜひ神話に出てくるような妖精の世界をこの目で見てみたい――それが、私の夢なんです」

「妖精の世界ですか……」

 

ボクはまだこの世界に来たばかりで、目標は立てても夢なんてまだ考えてはいませんでした。

でも、マインクラフターはそう言った夢を真っ先に持つべきなのかもしれません。

かつて、バニラで遊んでいた時代。ボクは高度限界一杯まで伸ばした世界樹を作り、その幹の中に人々が生活する村を作りたいと言う夢を抱いていました。

……地下採掘の最中、雷雨に打たれた幹が燃え上がり、その夢の半分まで完成した世界樹が、一夜にして消滅してから諦めましたけども。

これと同じ夢は例え成っても危険すぎるので見れませんが、彼女のように大きな夢を見るのは憧れます。

 

「ある程度落ち着いたら、ボクも世界を渡って冒険してみようかな……」

 

それは、とても素晴らしい考えのように思いました。

 

「――タクミさんは、世界を渡る方法をご存知なんですか?」

 

ニソラさんが目を丸くしています。

 

「ええ、まあ――」

「ほんとですか!?」

 

さすがの食い付きでした。

妖精の世界、と言える物にあまり心当たりはありませんが、別世界に渡るだけならいくつか知っています。

 

「行き先は妖精の世界とは違いますけどね。準備が整ったら別の世界への扉も開ける予定ですし……妖精の世界とは真逆の場所ですが」

 

なんてったってグロウストーン。

これの確保の為に、「ネザー」と呼ばれる世界に出向く必要があるのです。

日本語では「地獄」とも訳される溶岩と赤い岩石に覆われた、光の差さない灼熱の世界。

バニラ環境ですら厳しい難所ですから、Mobの要素が加わったネザーは一体どれだけ危険なのか考えるのも怖いです。

相応の準備をしないと流石に行く気になれません。

……と言うか、まだ行けないんですけどね。

行くには黒曜石が必要で、黒曜石を採取するにはダイヤピッケルが必要です。

 

「つ、連れてって貰えませんか!」

 

目をキラキラさせながらのその台詞は予想出来たものでした。

 

「いえ、さっきも言いましたけど妖精の世界とは本当に真逆の厳しい世界なんですよ。ニソラさんの夢とは違うでしょうし……」

「構いません!別の世界に行けるのですよ!?その冒険が良いんじゃないですか!あ、危険とかも大丈夫です。そこらの有象無象より運動能力とか戦闘能力は自信あります私!」

 

あらやだこのメイドさんたくましい。

 

「ええと……それに、準備にどれぐらい掛かるかもわかりません。装備を作るための鉄と、黒曜石を掘れるピッケルの作成が必須です。と言うか黒曜石を採取するための溶岩溜まりもまだ未発見です。遠距離攻撃の手段も欲しいし、運にもよりますが準備に2週間は見ていますし……」

「では、その間お手伝いさせてください!私はメイド妖精ですので、お役に立てると思います。――あと、溶岩溜まりは心当たりがありますのでご案内できますよ!此所から1kmありません」

 

あらやだこのメイドさんたのもしい。

……しかしさっきの話を聞いてしまうと、行き先がネザーなのが何だかとても罪悪感です。

それに、お手伝いって事は……つまり契約って事ですよね?

Mod「little Maid Mob」は野生のメイドさんを雇ってお手伝して貰うModですから、彼女にとっては普通の事なのでしょうケドも。

 

「嬉しいですが……日にいくつかの砂糖ぐらいしかお出しできないですよ?それに、契約の為のケーキもありませんし」

「……タクミさん。ケーキで契約するなんて絵本の中のお話だけですよ。確かに私達メイド妖精は、砂糖さえあれば生きて行けますけども……」

 

え、マジですか。

ケーキで契約して砂糖の賃金あげて、払えなければストライキするんじゃないの?

すっかりModと同じだと思って居ました。

 

「お願いしているのは此方ですから、賃金とか気にされなくても良いんですけどね。――もしそれが心苦しいのであれば、タクミさんのお話もっと聞きたいです。別の世界以外にも、タクミさんの魔法をもっと見てみたいんです!」

 

好奇心でキラキラしたニソラさんの目を見てで、ボクは自分が絆された事を自覚しました。

何より、この世界の事を何一つ知らない自分にとって、戦闘技能つきのオブザーバーの存在は貴重過ぎます。

利己的な視点から見ても断る理由がありません。

 

「……わかりました。ボクも色々教えて欲しい事がありますし、持ちつ持たれつで行きましょう。これからよろしくお願いします」

「契約成立!ですねっ!こちらこそよろしくお願いします!」

 

握ったその手を元気よくブンブン振りながら、ニソラさんは満面の笑顔でした。

 

「……そうとなれば、口調も崩させてもらうね、ニソラさん」

「ハイッ!……あ、私はこれがアイデンティティですので、お気になさらないで下さい!」

「ア、アイデン……そうなんだ。さすがメイドさんと云うべきか……時にニソラさん。ひとつ聞きたいんですけども」

「はい?なんでしょう?」

「この辺、モンスター出るのかなぁ?」

「――え?此方に住んでいらっしゃるのでは無いんですか?……私が見る限りでは、平和な物だと思いますケド」

「……そっかぁ」

 

どうやらはじめての夜を迎えるボクの心配は、本当に杞憂だった模様です。

石レンガの壁を築いていたら、恐ろしく異様に見えたんだろうなぁ……


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