お日様が昇りました。
昨日までの大雑把に立てていた計画を変更します。
ボク一人ならともかく、同居人がいるのにこんな家具も皆無なお豆腐ハウスで凌ぐのは流石に人間が廃ります。
今日は採掘メインにする予定でしたが、木材の確保と恥ずかしくない程度の家の改築に時間を使いましょう。
それでも時間が余ったら採掘に回せば良いのです。
間に合わせしか出来ないけど、最優先にちゃんと部屋を分けたお風呂場、トイレ、作業部屋とニソラさんとボクの寝室、そしてテーブルと椅子のあるリビングが急務!
「昨日一日で建てた家だったんですか此所!?」
そうなんです……違うな、一日っていうか10分です。他は探索や採掘に資材集め、畑の作成に時間を使っていました。あとは能力の確認かな。
だから色々無かったの、許してね?
「どんだけですかタクミさん……」
資材集めは必要ですが、昨日は10分で拠点を建てる事を最優先してたものですから、生活基盤は完全に後に回していたんですよね。
モンスターも無く、24時間建築に使えるとあればもっとマシな家を作れます。
……改築と言うか、建て直しですねもはや。
あと、昨日木のボウルを作りましたが、それによってレシピが解放され、またありがたいModの要素を見つける事ができました。
「ニソラさんニソラさん。ぶしつけで申し訳ないんだケドも。……骨か骨粉、持ってません?」
「え?……スケルトンを討伐した時の骨で良いなら、売ろうと思ってた奴がありますが」
「よっしゃ!」
やはりこの世界にも居るようです、スケルトン。その骨を砕いた骨粉は良い肥料になるから、村に持って行けば小遣い程度の値段で売れるのだそうで。
ともかく、手を合わせてその骨をひとつ頂きました。
昨日ブロンズツールの作成を考えて鉄の使用を控えたボク、超ミラクルファインプレー!
残っていた鉄インゴット5つと木のボウルと骨粉で、もはやチートと言えるそれをクラフトします。
Mod「Extra Utilities」
日本語訳は「便利ツールたち」ってなトコでしょうか。その名前の通り、半ばチートじゃないかコレっていうほど強力で便利なアイテムを追加できるModです。
コレ凄いんですよ。
いろいろサブカルチャーをネタにしたアイテムもあって、あの海賊漫画「ONE PIECE」に出てくるトラファルガー・ローの刀「鬼哭」がエンドコンテンツに名前を連ねています。
耐久力無限の強力な剣です。
……今回作ったのはそんなネタのあるものではなくて、もうちょっとありふれた代物。
「ジョウロ」です。
「……ジョウロですか?」
「ジョウロだね」
「あの、お花に水をあげるジョウロですか?」
「うん、そのジョウロだね。……見た目は」
「見た目は!?」
不吉に添えたその単語に過剰反応するニソラさんが可愛いです。
次は何が出て来るんだって身構えています。
――うん、その反応は正しい。
このジョウロはなんてったって普通じゃありません。
「このジョウロでお手伝いして貰う内容を説明するね」
家の傍の湖に出ます。
昨日植えたサトウキビは、2本ほど成長が3段階まで延びているようでした。
なかなか成長が早いです。
根元を残して全部収穫。マイクラのサトウキビはとても脆く、いっぱつ小突いただけで軒並み収穫できるのでとても楽です。
ニソラさん、「なんて鋭い手刀……」て呟いてますが違いますからね。そんなグラップラーな技能ありませんからね。
ジョウロ手にとって、水源をチョン。
「ええと、この根元を残したサトウキビにね。こうやってお水をあげるんです」
そしてジョウロでチョロチョロお水を掛けます。
チョロチョロ、チョロチョロ、チョロチョロ……
「あの……タクミさん」
「うん」
「ジョウロにそれだけの水、いつ入れたんですか?」
「今の『チョン』がそれですねぇ」
「出てくる水、尽きないんですけど……?」
「尽きないですねぇ」
「あの、目に見えてサトウキビがにょきにょき伸びて来ているんですけど……!?」
「伸びて来ていますねぇ」
「タクミさんこれ絶対オカシイですよ!?」
「オカシイですよねぇ」
これがMod「Extra Utilties」のジョウロの能力。3m×3mの範囲の植物の成長をノーコストで促進させる能力です。
序盤で作れる作成コストなので、これさえあれば食料に困る事は無くなります。
「ニソラさんがこのジョウロの要になる骨を持っててくれて助かったよ。ありがとうね」
「私もまさかただの骨がこんな伝説のアイテムみたいな物に化けるなんて思って居ませんでしたよ……!」
引き攣った顔をするニソラさんにジョウロを手渡しました。
「こんな風に水をあげて、ある程度育ったら収穫してね。その間、ボクはもうちょっと広くてマシな畑用意するから。今やって貰うのは、新しく作った畑に移す為の種作りならぬ種キビ?作りね。サトウキビだけじゃなくて小麦の方もよろしく」
「あ、はい……って、畑はここのじゃダメなんですか?」
「収穫数少ないし、効率的じゃなくてなんかダサいじゃん?」
「ダサいって……」
「大丈夫、整地と素材集め合わせて30分あれば終わるから」
「30分って……」
まあ、そういう反応しますよねえ。
気持ちは解ります。凄く解ります。
でもまあ、マインクラフターである以上マインクラフトを自重するつもり無いので、早く驚愕から諦めにシフトチェンジしちゃってくださいね、ニソラさん。
さて、種づくりを任せて畑です。作る作物にもよりますが、マインクラフトで効率的に畑を作ろうと思ったら大抵形が決まります。つまり、9m×9mの正方形の畑です。これは一つの水源が濡らせる土が4方4mである事に由来します。
今回はこのサイズを基準に作成します。
小麦畑とサトウキビ畑と予備の畑で3つもあれば十分でしょう。
森に入って木を伐ります。ざっと計算したら原木半スタック、32個あれば十分すぎるので8本ほど切り倒せば良いか、と何時もの様に計算しつつ木こりを開始。
ニソラさんが待っているので手早く終わらせます。
昨日植えた苗木も数本育っていました。
ニソラさんのおかげでジョウロが作れたので、木こり目的で森に入るのは多分これが最後です。
今後は植林しながら木を切る方向にシフトして行くでしょう。
……ちなみにこの木材、畑を作る上でどうしても必要という訳ではありません。
美的感覚として、畑の周りを木材の枠で囲いたかったから採っているだけです。
マインクラフターはつくづく業が深いですが、余裕があるのであればこの業は自重してはいけないのだとボクは解釈しています。
昨日の採掘で有り余っている石を使ってシャベルやクワといったツールを作り、必要範囲を手早く整地。原木から作った木材で畑を囲うと、畑の真ん中に水源を作ってザクザク土を耕します。
サトウキビ畑は水辺にしか作れないので、3本の水路を畑の中に通して、完成です。
残りの木材で作った作業台とラージチェストを畑の傍に設置し、使ったクワや余った資材を放り込んで全課程修了です。
戻ると、ジョウロでちょろちょろ水を上げながら、片手でサトウキビをマヨちゅっちゅしているニソラさんがいました。
視線が合うと、ビクリと肩を跳ね上げます。
「ふあっ!?あ、いや、その、これは……もうこんだけあるなら一本ぐらい良いかなぁなんてつい魔が差して……ご、ごめんなさいいぃ~」
あのMod、メイドさんにお砂糖の賃金先払いしたらつまみ食いされる事があるけど、そこの情報はゲームと合ってるんだなぁ、なんてニマニマしました。
「大丈夫だよ。もとより、収穫したサトウキビの半分はニソラさんに回す予定だったしね」
傍にはすでに、大量のサトウキビと小麦が置いてあります。
ここまであれば、そりゃあ一つぐらい摘みたくもなりますよねぇ。
……まあ、彼女が摘まんだのが本当にサトウキビ一本だけかどうかは気にしない事にしましょうか。
「畑、出来たから場所移そうね」
「もう!?20分まだ経ってないですよ!?」
あー、そんなものですか。作業時間なんて正確に測っているモンじゃないから目途が判りません。まあ、短い分には問題ないでしょう。
置いてある作物に手を伸ばし、「シンボル化」してインベントリに取り込みます。
これは昨日見つけたテクニックです。
どうやら、リアルのアイテムも「マインクラフトのアイテム」という形に変換すれば、ボクがどこかに持っているインベントリの中に格納する事が出来るようです。ボクは見た目からこれを「シンボル化」と呼ぶ事にしました。
この変換能力はとても便利で、採取した木の苗をシンボルからリアルの苗に戻したり、その逆を行う事も出来ます。
リアルの苗はちゃんと手作業で植えないといけませんが、シンボルの苗であればゲーム風に設置を行うだけできちっと植える事が出来るようになるのです。
「……もう、タクミさんのソレには驚かない事にします」
お、早くもいい傾向。
「驚愕」が「諦め」に変わってきましたかね?
――ああ、でも作物を畑に植えなおして行くボクを見て、「このスピードでこの正確さ……巧さんはプロの農家な人だったんですね」と感心するのは頂けません。
そっち方面ではないので、もう少し常識的な思考から踏み外してくださいね。
ええ、無茶ぶりは自覚しています。
その後は植林&水やり&伐採の木材調達エンドレスマーチです。
こちらは時間をかけて、チェストいっぱい溜まるまで粘りました。
木炭作成のための原木や建材と、木はいくらあっても足りません。
贅沢言うなら他の種類の木材が欲しい所でしたが、今はこの辺にあるオークの木だけで我慢します。
まあ、ゲーム内とは言えボクも熟練クラフターの端くれ。オークの木と石だけで家くらい作って見せますよ。
@ @ @
必要な部屋の数を数えます。
生活域として、ボクの部屋とニソラさんの部屋。リビングにキッチン、トイレにお風呂。
それ以外では作業部屋に倉庫、あとは採掘場の入り口になる部屋です。
大雑把な部屋割りを浮かべながら、まずは床材を兼ねた木材を仮置きしていきます。
屋根は台形屋根で二階は作らずに行きましょう。
三角屋根にすると資材がかさむと言うのもあるんですが、なにせ高さが出てくる為、作業中に事故ると「アシクビヲクジキマシタ!!」じゃ済まなくなるんですよね。
でも豆腐は嫌だからせめて台形の屋根です。
また、天井もゲーム時代は5m確保していましたが、実際住むならそんなに要りません。
3mあれば十分過ぎ、5mだと落ち着かないレベルの高さになります。
ゲームだとなんであんなに天井が低く感じたのか不思議でなりません。
……あるいは、スティーブさんの背が高すぎたって事なのかな?ゲーム内での彼の身長は2m弱でした。
家を作る間、ニソラさんには羊毛集めをお願いしました。
初日に視界に入った羊さん達はもうお空に昇って行ってしまったので、羊さんを探す所から始めてもらいます。
毛を刈るための道具は大丈夫かと聞いてみると、自前の山刀で間に合わせられるから十分と言って、腰の後ろに携えていた刃物をすらりと抜いて見せてくれました。最近のメイドさんは恐ろしいモノを常備している様です。
っていうか、頼んどいてなんだけど羊の毛刈りを山刀だけで行うなんて、相当な技量がいるのでは…?
ボクみたいにハサミ右手に右クリックじゃないんですよね??
あんまりあっさり頷いたものだから任せてしまいましたけども。
たくさんあれば困らないけど、そこまで必要なものでもない。量はお任せするから無理だと判断したり良いキリがついたら戻ってきてと添え置いて、ニソラさんを見送りました。
後、びっくりした物があります。
彼女のカバンです。
刈った毛を入れるスペースを作るために、カバンの中の物をある程度置いてったんですが、明らかに見た目以上の質量が入っていました。
なんでも、少し覚悟をすれば買えるレベルの魔法のカバンなんだそうです。
……凄いもんだねと感心したらジト目で見られましたけども。
魔法のカバン、というフレーズでニソラさんのカバンに相当するアイテムをボクは知りません。
いくらこの世界がMod「Thaum Craft」や「ProjectE」と言った魔術要素を含んでいたと言っても、ボクみたいにパパッとクラフト、と言う訳ではないのでしょう。
相応の技術の研鑽やそこに至るまでの過程や応用、そしてそれらを身に着けた職人さんの作業があってこそだと思います。
彼女のカバンもそんなこの世界の中で発展してきた魔術要素の一つと言う事なのでしょう。
――家がほぼ完成し、お日様が真上を大分過ぎておやつの時間になった頃、ニソラさんは帰ってきました。
カバンの中にはキレイに剃り取られた羊毛がいっぱいに入っていて、思わず手放しで拍手したら照れたニソラさんが可愛かったです。