ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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ムドラの民

ゾンビピッグマン。

ネザーに生息するバニラの中立Mobです。

豚の表皮を腐らせて、二足歩行させたような外見をしています。

手には金の剣を持ち、複数体で緩いグループを作りネザーをうろつくモンスターです。

先述の通り中立Mobなんですが、ひとたび攻撃を加えてしまうと、回りにいるゾンビピッグマンも含め一斉にプレイヤーに襲い掛かって来ます。

剣を持っているから攻撃力が異様に高く、敵対する時は集団なので、例え防具で身を固めていたとしても前後左右を囲まれてタコ殴りです。

ネザー開発中に何食わぬ顔で湧いて出て、つるはしの前に飛び出して来たピッグマンを意図せずひっ叩いてしまい、あえなく集団リンチされたクラフターは絶対ボクだけではないハズ。

建設した建物の中や線路の上まで無遠慮にスポーンする彼らはさながら当たり屋そのものに見えました。

 

――この世界基準で考えるのならば。

仲間を攻撃されたら集団で報復する辺り、仲間意識は強いのでしょう。

剣を持っているのですから、道具を使う知能は元より、製鉄技術すら保持していてもおかしくはありません。

腰巻きで局部を隠しているため、羞恥心や社会性も持ち合わせているでしょう。

……そう。

それは、さながら「人間」と言えるのではないでしょうか。

 

「――こりゃ凄い。地上人(ちじょうびと)か?」

 

豚のようにフゴフゴとくぐもった、低い声でした。

町へ続く道を守るように佇む彼は、おそらく守衛のような方なのでしょう。

近くで見ると、腐ったゾンビと言うよりも、豚の皮と骨の合の子のような外見でした。

腰巻きではなくキチンとズボンを穿いていました。茶色を基点としたマントを纏い、その下には金で作られているのでしょうか、使い込まれたプレートメイルが除いています。

手には剣ではなく、穂先の長い槍を携えていました。

顔面のおよそ3割は骨が剥き出しになっており、残りは土気色をした肉厚のある肌に覆われていました。

口には、タバコのような物を咥えてすらいます。

……確かにゾンビです。ゾンビなんですが、これは心配していたガストのような気持ち悪い系ではなく――

 

「――ワイルドなカッコイイ系ですね」

「へ?お、おう、そ、そうか?そりゃどうも……?」

 

アレです。

一昔前の映画ですがゴーストライダーみたいなダーク系ヒーローのワイルドさが滲んでいました。最近で言えばオーバーロードのモモンガさんとか。

……おっとっと、そうでした。質問に答えなくては。

ブロンズの兜を外して挨拶します。

 

「お察しの通り、地上から来ました。マインクラフターのタクミです」

「私はメイド妖精のニソラと申します!」

 

気持ち悪い系ではなかった為か、心なしかニソラさんの機嫌も上向きに見えました。

 

「お、おう、ご丁寧にどうも……俺は見ての通り防人やってるアディスタってモンだ」

 

自己紹介の文化はネザーにもあるみたいです。頭をゴリゴリ掻きつつも、名のり返してくれました。

 

「――なんと言うかボクは今、普通に言葉が通じる事に感動を覚えてます。生態も文化も歴史もまるっと違うハズなのに、何で普通に喋れてるんですかねボクたち?」

「あんん?……まあ、言われてみればそうだよなぁ。そっちは骨も出てねえもんな。言葉なんて普通に通じるモンだと思ってたからよ。俺にもわかんねえよ」

 

そう言えば今気づきましたが、ニソラさんとも普通にお話しできたんですよね。

アレでしょうか。テンプレだからで納得した方が良いんでしょうか。

 

「あー、くそ。お前ら地上人って事なんだよなぁ……この時期に来るかよ。いや、この時期だからなのか?」

「……はい?」

「――いや、俺の仕事じゃねえや。ギヤナのとっつぁんの仕事だ。お前ら別にムルグのヤツってワケじゃねえしよ」

「……あの、すんません。話がよく解らないんですが」

 

ボクの混乱に答えずに、アディスタさんは大きく息を吸い込むと、町に向かって重低音の響く声で吠えました。

内臓を揺らすような声です。

……少しすると、町の方からも2~3度、同じような声が響いて来ます。

犬の遠吠えみたいな物なのでしょうか。

 

「通んな、渡り付けといたからよ。ギヤナのとっつぁんトコに案内されると思うぜ。……まあ、詳しい話はそこで聞いてくれや。俺は説明とか苦手だからよ」

 

ぱちくりとニソラさんと顔を合わせました。

なんだかよく解りませんが、向こうはどうやら地上の人間に何か事情がある様子です。

このまま流されて良いのだろうかと思わないでも無いのですが、ボクたちはお礼を言って町に歩を進めました。

 

「……タクミさん。私達が地上の人間かどうかって、地上の人間を知らないと判断出来ませんよね……?」

 

ニソラさんが凄くそわそわしています。

 

「うん、ボクも同じ事考えてた。……例えば、以前に地上の人がネザーにやって来て交流を持つなりしていないと、ボク達が地上の人間だって判らないよね」

「ネ、ネザーに来た事のある地上の人間なんてきっと一人しかいませんよね!?」

 

それはどうかなーと思うので、返答はしないで笑ってお茶を濁します。

――言葉が通じた事が、かつて何らかの交流があった事の証明のような気がするんですよねぇ……

アディスタさんは、さっき遠吠え(?)で連絡を取りました。

あの遠吠えにどれだけの意味が込められていたのかは解りませんが、ゾンビピッグマンの間で意思疏通が発達するなら、それはあの遠吠えを延長した言語になると思うのです。

勇者様は多分、お姫様を助けたらそのままとんぼ返りでしょう。言葉を教え、浸透させるまで滞在したとは考えにくい気がします。

――でもまあ、ほら。

あくまでこの考察は地上とネザー間を行き来したのは勇者様一人のみと言う仮説を否定しただけで、勇者様がこの町を訪れたと言う夢を否定するものではありません。

機嫌よさげに鼻唄を歌うニソラさんの頭の中ではきっと、この町を訪れた勇者の姿に想いを馳せているのでしょう。

ボクも胸の辺りがむずむずして来ました。

地上に戻って炭鉱町に入ったら、本屋か何かでニソラさんの言う物語を調達しようと思います。

 

「ようこそムドラヘ、地上人よ」

 

町の入り口には、帽子を被った背の高いゾンビピッグマンがボクたちを待っていました。

先ほどのアディスタさんとは違い、マントや武器防具のような物は見受けられません。その代わりなのでしょうか……バンテージの様なものを手に巻き、作りの良いベストを羽織っています。

骨が剥き出しになっている部分以外は、細身の体の中に筋肉がミチミチに詰め込まれたような体をしていました。

「……徒手の使い手ですね、それもかなりの」と小声で感心したように教えてくれるんですが、そう言うグラップラーな情報は結構ですニソラさん。

向こうもなんかニソラさんに思う所があるのでしょうか。

「ほう……?」と目を細めて「コイツできるな」とでも言いたげな表情です。

ボクは完全にアウェーでした。ここは一発ネタとしてエア味噌汁でも敢行すべきなのでしょうか。

 

「私はスユド、この町の戦士を束ねている。――地上の戦士よ、ムドラに来た理由は察している。ギヤナの元に案内しよう」

「……はい?」

 

ついてこい、とスユドさんは踵を返して歩き始めました。

いや違いますよスユドさん。今の「はい」は肯定の「はい」ではなくて、疑問の「はい?」ですよ。

察しているって何の事ですか。

……なんかとんでもない勘違いが始まっている気がするのはボクだけでしょうか。

取り合えず後については行きますけども。

 

「私たちの目的……観光、になるんですかねぇ?」

「え?……うーん、まぁ……そうかも?採掘は一応ノルマ終わってるし、途中から勇者の物語を追う方にシフトしちゃったし……?」

 

でも地上の戦士ってなんなんですかねぇ。タダのクラフターとレベル100のメイドさんなだけなんですが。あ、レベル100のメイドさんはタダ者ではないですよね、ごめんなさい。

と言うか、戦士がこの町に来る理由って何なんでしょうか。

ボクら観光に来ましたとか言える空気じゃないんですけど。

 

「あ、あのぅ……アディスタさんも口にしてたんですが、ギヤナさんって誰ですか?」

 

てくてく歩きながらスユドさんに声を掛けます。

 

「ギヤナはこの町を纏めている。要所の判断は適切で、知識も深い。汝らの疑問はギヤナが答えてくれるだろう」

 

ああ……町長さんですか、つまり。なんとなくそんな気はしてたけど。

しかし、戦士が町長さんの所に招かれる?なんかファンタジー物のクエストを彷彿とさせる流れなんですけども。

 

「タクミさん――私、気づいてしまいました……!」

 

ニソラさんの目が凄い輝いています。

彼女もどうやら、このシチュエーションに覚えがあるようです。

 

「ひょっとして私たちは今――勇者認定されているのでは!?」

 

ビンゴでした。

 

「やっぱりニソラさんも、そう思う……?」

 

ボクが返した肯定に、ニソラさんのテンションが「ふおおおおおっ!」とさらに上昇しました。

ぱたぱた動く両手が可愛いです。子供さながらにハシゃぐ彼女の外見からは、とても戦闘力が振り切れてるとは思えません。

 

「良いですねぇ!良いですねぇ!!今の私、大抵の無茶は無条件で聞いちゃいますよきっと!」

 

ヒロイックサーガ大好物なようです。

クエスト受けて人助けして、とかまるでゲームのようなサブカルチャー。きっとこの世界でも何らかの形で出回っているのでしょう。

今のニソラさんの中では魔王討伐ぐらいなら許容範囲に違いありません。

 

「あー……じゃあ、ガスト100体ほど沈めて来て下さい」

「イヤです。パスです。ストライキです」

 

……一瞬で凄い冷たい声になりました。

オーバーヒートしそうだったあのテンションがこの灼熱のネザーで氷点下です。

声の色がガチでした。

 

「ご……ゴメンナサイ」

「フカーッ!」

 

威嚇されてしまいました。

ジョークにしてもタチが悪かったようだと、ひとしきり反省しました。

 

案内された家は、てくてく歩いて見て来た家とあまり変わらないように見受けました。

町長の家と言うと、なんかこう、比較的大きかったり装飾が付いてたり、そう言う差別化がされてるのがセオリーと思っていたのですが……RPGとは違うって事なんでしょう。

 

「地上人カ……ホんとに骨が出てなイんだねネ」

 

それは、アディスタさんやスユドさんと比較すれば、二回りほど体格の小さいゾンビピッグマンでした。

顔の下半分は完全に骨が剥き出しになっていて、もしかしてその影響なのでしょうか。喋る度にカタカタと骨がぶつかる音がして、なにやら喋りにくそうです。

所々で音がスカスカ抜けていました。

 

「スユド。状況ガ状況だカラ、最も腕の立ツお前に行って貰っタガ。……まサかとは思ウが、イつもの病気を拗ラせてはなイだろうネ?」

「心外だ、ギヤナ。確かに客人は腕が立つと見受けるが。この状況で腕試しに襲い掛かるほど愚かではない」

 

あ、この人バトルジャンキーな方なんですね。どーりでウチのメイドさんを見る目が怪しいと思いました。

そのメイドさんを見ると、少しばかり複雑そうな表情をしています。

少なくとも、うちのメイドさんはバトルジャンキーではないようです。

安心しました。

 

「……オまエがムルグの使者ヲ叩きのメス前だったラ、その言葉モ多少は信じラレたのだガね……」

 

彼らの会話は続きます。

 

「あれはムルグの真意を武にて問うたまで。事実、あの使者は我らに服従を強いて来た」

「結論を出ス過程で武をツカう所二、そろソろ疑問を感じテくれナいかネ……武と云うモのはそもソも、結論が出タ後に示スものダよ」

「無駄に時間を使うだけだ。この手に限る」

「コの手シカ知らんダろう、まっタク……」

 

あー、凄い苦労人のオーラが出てますねこの人。

ゾンビピッグマンの顔色なんて解りませんが、部下に恵まれない管理職の人みたいな疲労感が滲み出ています。

 

「……失礼しタね、オ客人。アディスタにも会っタよウだが、脳筋とコの戦闘バカが相手じゃア、ロクに説明モ受けテないだロウ……まア、掛ケてくレ。火の子ハ……口に入レる系のモてなしは、止メテおイた方が良さソうだネ」

「心配は無用だ。私が食べよう」

「オまえバカじゃないノ?」

 

あはは、好きだわこの二人。

なんか漫才見ている気さえしてきます。ワイルドでイカついイメージが先行していましたが、一気に親しみが沸きました。

まあ、ギヤナさんの心中の苦労はお察しですけども。

 

「――ムルグと言う単語を度々伺いました。どうも敵対しているような印象を受けましたが」

 

勧められた席について、こちらから切り出してみます。

本当にクエスト受注みたいな展開であれば、この後はさしずめ「ムルグの進攻を阻止せよ!」みたいなタイトルの防衛イベントな訳ですが。

 

「あア、別の町の事ダよ。敵対……トは言いタくないガね。向こウが強行策を取っテしマったカら、コちらとしテも過敏になラザるヲ得ないのダガ。もとモと目的は同じナのさ」

「目的、ですか?」

 

「ああ……」と小さく嘆息するギヤナさんです。

 

「――オ客人。キみタちはこの町にクる前に、襲われナかっタかね?白ク大きナ頭に、触手ナのか手足なノか、ようワからん物を引っ付ケた化け物サ」

「フカーッ!!」

 

突如、ニソラさんが両手上げて威嚇を始めました。

今の彼女とって、その話題はワクワクをそのまま反転させるような禁忌でした。

ああ……ステイ、ステイですよニソラさん。ギヤナさんが「ウヌッ!?」て驚いちゃってるじゃないですか。

 

「イヤですーっ!ホントに無報酬でガスト100体沈めるのなんてイヤですーっ!」

 

受注クエストが「ムルグの進攻を阻止せよ!」から「迫り来るガストを殲滅せよ!」にシフトしそうになっているのを感じ取ったニソラさんの叫びでした。

 

「ニソラさん落ち着いて!……すみません、ここに来る時に4体ほど墜として来たんですけども。あまりの醜悪さに気が滅入っているんです」

「ほう……墜として来た?」

 

ピクリと反応したのはバトルジャンキーのスユドさんです。

 

「アレを4体墜とすか……素晴らしい腕前だ」

 

向けられた称賛は、彼女にとって不可解過ぎるものでした。

 

「……?そこまで言うほどの相手ですか?アレが?」

 

ほぼ瞬殺できるモンスターに何をそんな手子摺るのかと眉を潜めます。

 

「客人の戦う所を是非見せて頂きたいものだ……未熟を恥じるが、私には難い相手なのだ。手の届く場所に居れば是非もないが、奴らは大抵空を飛び、我々の手の届かない所から爆撃を仕掛けてくる。投擲なりなんなりで何とか追い詰めたら、今度は仲間を集い始める。もう、手がつけられなくてな……」

 

――ああ、なるほど。

遠距離攻撃の手段が無いんですねつまり。

近接しか出来ないと、追い立てるなり火の弾を跳ね返して直撃させるしか対応出来ません。

そしてこのネザーはグランドキャニオンもかくやと言うほど起伏が激しすぎる世界です。

崖の向こうに陣取られたら追い立てる事すら出来なくなるでしょう。

――て言うか、習性として仲間を集めるのは初めて知りました。

そう言えば、メイド妖精の特製ポイズンを眼球に受けてL5発症してたあのガスト、確かに仲間を呼んでましたね。死に際に。

 

「……弓はないんですか?私はそれで瞬殺しましたが」

 

抱えている弓を見せるニソラさんですが、スユドさんが首を横に振りました。

 

「それがどうやって使うものかは判らないが、おそらく遠距離で攻撃できるモノなのだろう。羨ましい限りだ……我々ムドラの戦士は遠距離攻撃を持っていないのだ。……いや、今はもう無いと言うべきか……」

 

過去に思考を向ける、遠い声でした。

ふと、スユドさんがギヤナさんに視線を向けます。

 

「ギヤナよ。ラクシャスは呼んではいないのか?確認が必要かとぼやいていたが」

「使いハ出シたヨ。来ルかドうかは怪シイものだがネ」

「そうか……客人よ。以前まではムドラにも手の届かぬ敵を葬る技があったのだ。それがラクシャスであった。今はもう、その技に頼る事が出来ぬ」

 

……膝に矢でも受けてしまったんでしょうか。

呼ばれたってことは、お亡くなりになった訳では無いのでしょうけども。

 

「ジっさイ、ムドラはラクシャスに頼リ過ぎタヨ。彼は弟子を頑なニ作らなカったかラ、彼が戦えなクなっタだケでムドラの防衛力ハ激減しタ。仮に彼が復活したトしても、コんな危ナい防衛システムをモう一度デザインしたいトは思わナイね」

 

おっと、話が反れ過ぎたとギヤナさんが頭を振りました。

 

「話をモとに戻そウ。ムルグとムドラの目的ハ同じ、ガストへノ対抗ダ。なゼかこコ最近に至ってガストノ被害が激増シた為、皆の危機感モ増大シてイる。

――奴等を討滅出来ルなラ願ったりダが、奴等がドこカラ沸いて出テいるノかも解らナイ。ダから取レル策は長期的ナ防衛、及び断続的な討伐シか無い……ガ、絶望的なコとにその手段すラ無イ。

ムルグは我々ムドラにソの対抗手段の一端ヲ見出だシ、ソれを要求シてキた。我々ハその手段ヲ認メる事が出来ナかっタ為、同調せズに対抗しタ。……その結果ガ、ガストを前にしタ同族同士の緊張状態ト言うワけダ。

……嘲笑っテくレても構ワんヨ。コんな阿呆な茶番をヨそがヤってタら、オレだっテ嘲笑うヨ……」

 

……重いです。このクエスト、思っていた以上に重いです。

RPGお約束の勧善懲悪で「ムルグの連中を追い払ったぞヤッター!」で済まそう物なら、容赦なくバッドエンドです。

頭痛を耐えるようにギヤナさんが頭を覆います。

 

「……ムルグにはラクシャスすらラ居なカった。戦士ノ数もガストの被害デ急激にヘッテ来てイる。ツい最近防衛手段ヲ失ったムドラにクラぶレば、ヨほど崖っぷチに違いナイだろうサ……どウあがイても絶望じゃア、強行策にデルのも理解デキる話ダ。その少ない戦士をソコの阿呆がサラにブチノめしたカら尚更だヨ!」

「む……確かに彼らに同情は出来るが、それとムドラの被害や従属は別の問題だ」

「ワカっテるよンな事は!ダかラせめテこの緊張状態を同盟マデ持って行ク方法を考えてタのに、ソれを使者ノ腕と一緒にパキポキへシ折りヤガッて!コれでもウ、アいつラ死兵同然にムドラを攻めルシか取レる手が無くなっチまったンだゾ!?」

「問題ないさ。空を飛ぶ敵ならば兎も角、地に立つ者が相手なら遅れを取るつもりは無い」

「ソう言ウ話じゃ無いってンだヨ!そのドヤ顔ヲやメロ!」

 

本当にギヤナさんみたいな立場には立ちたくないなぁと思いました。

スユドさんはどうやら「ムルグの連中を追い払ったぞヤッター」でトゥルーエンドだと思っているようでした。流石に引きます。

 

「し、心中お察しします……」

「解ってクレるかイ?オ客人……さらに頭が痛いこトにね、ウチの手駒は全員コう言うオツムなんだヨ……!」

 

ギヤナさんへの印象が、親しみ沸くのを通り越して同情にシフトしました。

胃腸とか大丈夫でしょうか。

 

「……マたまた失礼しテしまっタネ。お客人に向カって愚痴マで吐いテしまっタ事を心カラ詫びるヨ……」

 

いや、ギヤナさん。あなたもうチョット吐き出すかなんかした方が良いと思いますよ。

 

「疑問に思っテいルダろう二つの事ニ回答しよウ。まず、ムルグが求メる対抗手段ト言うやつダガ……一口に言エば、強力なモンスタート契約を交ワし、その力ヲ持って対抗手段としヨウと云うウものダ。彼らは御せル方法を見つケタと言うが、ソのモンスターに多少ハ明るいオレは、そレを欠片も信ジル事が出来なかっタのだヨ」

 

確かに負けフラグが香りまくる対抗手段です。そのモンスターが暴走したら滅亡待ったなしだと思うのですが。

……いや、どうせこのままガストに蹂躙されるぐらいならいっそ、と言う感情なのかもしれません。

追い詰められた最後に残ったかイチかバチかなら、すがりたくなるのも理解できます。

例え暴走したとしても、ガストに一矢を報えるなら――なんて自暴になってもおかしくない状況にも聞こえます。

……あれれ?スユドさん、そんな人たちの腕をパキ折って、最期のハシゴ外しちゃったんですか?

……ヤバくね?(震え声)

 

「私、解ってしまいました……」

 

まるで推理小説の探偵役のように、ニソラさんが口を開きます。

無数の疑問がこれで一本に繋がりました、とかなんかドヤ顔をキメています。

……ああ、うん。何言い出すかはなんとなく察しました。

 

「ムルグの人達が契約しようとしている強力なモンスターって――もしかして、魔王ウィザーでは無いですか!?」

 

メタ推理も甚だしいですが、実際ボクもそんな気がしちゃっていたり。

 

「……ヤはり、知っテイたカ。ソウだよ。魔王かドうカは知らなイガ、彼ラが求メていルのはウィザーと呼バれる3つ首のモンスターサ。オ客人の言うウィザーと恐らク同じもノだロうネ」

「ふおおおおおおっ!!」

 

今日はテンションの浮き沈み激しいですねニソラさん。……まあ、気持ちはわかりますけども。

 

「――アレ?でもそうなると、勇者様は魔王ウィザーを倒していなかったんでしょうか?物語の通りなら、もう居ない筈ですよね……?もしかして契約しようとしているのは、魔王ウィザーのお子様的な的な誰かです?」

「……!」

 

スユドさんの雰囲気が、何やら怪訝なものに変わります。

 

「……オ客人。二ツ目の質問ハてっキりこれマデの話を踏まえタ上での我々の要求にツいてダと思ってイタんだガ……チょっと認識が変わっタヨ。先ニ質問をさせてほシイ。

――君たチ、ムドラには何用かナ?」

 

何が問題だったのかは解りません。

……ただ、おそらく今のやりとりの中で、ボクたちがムルグ側の人間の可能性が浮上したのだと思います。

ギヤナさんは身を乗り出し、一切の嘘は許さないとボクたちに目を合わせます。

ボクらは互いに目を合わせ、別に隠すコトでもないので嘘偽りなく正直に答えました。

 

「観光です。道を見つけたので辿ったらココにつきました」

「あと地上にはない素材の採掘ですね。別にムドラでするつもりはないですケド」

 

固まって数秒。

ぎぎぎぎぎ……っとギヤナさんの状態が倒れ、テーブルにゴツンと頭をぶつけました。

 

「紛ラわシイんだよォ……コんなタイミングで……!」

 

絞り出すような苦悩でした。

 

「あう……いや、そこについては、まぁ……ゴメンナサイ」

 

ボクとしては一発で信じてくれた所にびっくりですが。

何か感じ入るものでもあったのでしょうか。

 

「……イや、イイ。どっチにしロ我々ノ不明がモトだヨ。オ客人を責めルのはスジ違いダった。申し訳なイ」

 

……この人、本当にマジメだなぁと思います。

 

「質問に答エよウ――ウィザーは倒シ切れル物ではなイのだヨ。コの世界から撃退すルのガ精イっぱいダった。ダかラ完全に倒シ切れるソの日が来るマデ、ムドラに保管さレ続けているのサ――ウィザーを召喚すル為の神器がネ。そレがかツテ、ムドラが地上の戦士ト交わしタ契約だった――」

 

そこから語られるのは、ネザーに伝わった青い戦士の物語でした……


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