ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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約束の剣

その邪悪な厄災は 嘆きの魂が集まる砂漠に

火と閃光を伴って 叫びと共に現れた

 

それはみっつの頭を携え 足はひとつで空を漂い

骨のような体は黒く 分厚く硬い鉄にも見えた

 

その厄災が声をあげると 嘆きの魂は形を取り

石の剣を振り翳す 無数の嘆きの戦士が生まれた

 

その厄災は彼らに命じた

汝ら呪いの剣をもて この世に等しく滅びを与えよ

仇なすものも 仇なさぬものも

ただただ等しく滅びを与えよ

 

彼らは嬉々としてそれに従い 生きとし生けるるものすべて

戦士もそうでないものも 呪いの剣で斬り払った

 

彼らに斬られた者たちは 命の力を失って

次第に体が黒く濁り 干からびたように死んでいった

 

多くの戦士が彼らに抗い 金の剣を握りしめ

誇りと大いなる勇気を持って その厄災に立ち向かった

 

されど嘆きの戦士に阻まれ 誇りの剣は厄災に届かず

やがてそのまま黒ずんで 戦士達は倒れていった

 

民はただただ逃げ惑い 厄災の目につかぬよう

誰もいない地を探し 身を潜めるしか出来なかった

 

ある時二人の戦士達が 嘆きの大地に訪れた

その頭から長い毛が生え 体の何処にも骨が見えず

ひとりは青き鎧を纏い ひとりは輝く杖をいだく

聞けば赤い大地ではなく 緑の大地より来たと云う

黒い骨の頭を追って 嘆きの此の地に来たと云う

 

彼の者たちは嘆きに挑んだ

青く輝くその剣は 死を否定する力があった

嘆きの戦士を斬り払うと たちまち崩れて動かなくなった

白く輝くその杖は 光の力を宿していた

嘆きの戦士に振りかざすと 光の槍が迸った

 

戦士の槍が厄災を撃ち 戦士の剣が厄災を斬る

黒い呪いが降り掛かろうと 戦士は輝く薬を飲み干し

呪いを破って立ち上がり 邪悪な厄災を追い詰めた

 

遂に厄災は叫びをあげて 戦士の前に倒れ伏す

しかし厄災は滅びを知らぬ 戦士の剣から逃れる為に

ひとつの星と剣を残して 幻のように消え去った

ひとつの星と剣だけが 厄災のあった証となった

 

緑の大地の戦士は言った 厄災はまだ滅んでおらぬ

光の技を持ってしても 滅ぼすことは叶わない

いつの日かまた厄災は 嘆きの戦士を伴って

すべてを滅ぼし尽くすため 再びこの地に現れるだろう

 

されどこの世は移り行く 厄災を絶つその時は

いつの日かきっとやって来る

緑の大地の戦士は言った もしその日が来たならば

再び青き剣をもて 赤き大地に訪れよう

 

いつの日か来る約束のため

星は緑の大地の民が 剣は赤い大地の民が

いつか来るその約束の日まで 子供へ孫へと受け継ごう

 

我ら赤い大地の民は 約束の日が訪れるまで

戦士を育て剣を守り 邪悪の厄災を語り継ごう

緑の大地の戦士を迎え 今度は共に剣を並べて

我らを守って散った戦士と 我らの誇りを示すために

 

 

@ @ @

 

 

「ムドラに伝わル古い詩だヨ。――我々ハずっト語り継イで来タンだ。コの詩ガ忘れテハなラなイ実話から転じテ、只の伝説ダと思われるグらイ……長い間、ズっと語り継イで来タ」

「寝物語に聞いて育った、厄災に立ち向かった勇者の詩――そして地上の戦士の詩だ。ムドラの戦士はこの詩を胸に、その腕を磨き続けたのだ。勇者と肩を並べる為に……自身が勇者と成る為に。地上の戦士に助けて貰ってばかりでは何より性に合わないからな」

 

……壮絶な歴史を目の当たりにして、ボクは胸の奥から震えるなにかが込み上げてくるのを感じました。

地上には勇者の物語が残っていました。ニソラさんから聞く限りではウィザーがドラゴンになっていたり、ネザー進出の理由がお姫様奪還になっていたりと細部が違いますが、元が児童向けの書籍のようですので、現実で言うグリム童話のように改編されているのでしょう。

それでも、青い勇者がウィザーを倒して怪しく輝くクリスタルを手に入れるところまでその冒険譚では語られています。

ネザーの人達と同じように、地上の人達も語り継いでいたのです。

それが実話から児童向けの冒険譚に変わるほど、ずっと長い間語り継いでいたのです。

 

「私達が通って来たあの道は……あの道は、本当に勇者様が通った道だったんですね……!」

 

感極まった震えた声でした。

両手で口元を抑えておかないと、思わず感動で叫びだしてしまいそうな……ニソラさんも、そんな気持ちになっているのでしょう。

 

「タクミさん、ありがとうございます。私、ここに来て本当に良かった……!」

 

グロウストーンもネザークォーツも敵わない、ガストの気味悪さがあってなお、両手いっぱいで色褪せる事の無い最高の宝物でした。

 

「……アリがとウ。オレも久々ニ誇らシい気持チになれタヨ。地上人カら見れバ只の厄介事なノに、今まで語り続けらレていタ。……こんナに嬉シいコとはなイ」

「ふふ……不謹慎だが、約束の日は是非私の動いている間に来て欲しい物だ。地上の戦士と肩を並べて厄災に挑む――なんとも血沸く話じゃないか」

 

ムドラの人(?)達も、滾りを抑え切れないようでした。

 

「……さて。感動に水を差しちゃうかな……?もう少し話を聞かせて下さいますか?」

「ウム。サっきの詩ダけデは私ノ持つ情報ニ足りテなイかラナ」

 

頷くギヤナさんに「ほえ?足りませんか?」と首を傾げるニソラさん。

ウィザーと言う名前や、召喚の為の神器について述べられていない事を教えてあげると、「あー、ああー!」と納得したように手を合わせていました。

ボクとしても、ウィザーが残した剣についてとか気になる所です。

ゲームにおいてはウィザーが落とすのは「ネザースター」と呼ばれるクリスタルだけだったのですから。

……ただしバニラにおいては、ですが。

 

「――と言っても、理由としてはシンプルそうだけどね。単純に剣と資料が別途残ってたんでしょう?」

「まさシく。約束の日ガ来た時に、コチらカらウィザーを呼ビ出して滅すル為の剣が、コの町に封印の間ごト残ってイル。今の詩ヨリも更に詳シい石碑と一緒にネ。――文字ヲ読めるやツはほトんどいナイが。

コの町の名ハ、ムドラと言ウ。……古い言葉でネ。「秘密」トか、「封印」と言ウ意味なのだヨ。こノ町ハ――剣と資料ヲ封印すル為に作ラれたのノダ」

 

……古い言葉?

今使っている言語とはさらに違うものが、かつてはあったと言う事でしょうか。もしかしてそれが「遠吠えが発展した言語」なのかもですね。興味が尽きません……が。

 

「うわあ……ぜ、ぜひ見せて頂くことはできませんか!?」

 

ニソラさんがミーハー丸出しで懇願します。

こういう歴史的な代物は保存の為にかなり神経質になるものだと思いますが、以外にもギヤナさんはアッサリ首を縦に振りました。

 

「ソうダね。地上人なラ案内しテも良いカモしれナいネ。タだ、他言無用だヨ。ムドラの者にモ詩だけ残してる「体(てい)」ナのさ。「ソレ」がコの町の事ダとはアマり知られてイないのだヨ。余計な有象無象ヲ引き寄せる事にナってしマウのでね――まア、ムルグの連中にハ何かあると嗅ギ付けられてイルが、これは町の名前カらしテ仕方ないね。タだ、セイぜいが封印の地ニついて伝ワっている、程度の認識の筈ダ」

 

……まあ、そりゃあそうですよね。

そもそも、認識としては実話としてではなく既に伝説になってしまっているって言ってましたし。

物証無して「厄災」の存在を信じ続けるのはやはり難しいのでしょう。

そうなるとウィザーを起死回生の一手に組み込むムルグの人たちは何なんだって話になりますが、そこまで切羽詰まっているかギヤナさんの反応から「実話」なんだと確信したかのどっちかですかねぇ。

――うーん、しかし。

 

「でもそうなるとやっぱり現状が解せません……ボクが言うのもナンですけども。ボクらがムドラに繋がってる可能性を完全に否定できないと、そこまで情報出てこないじゃないですか。スユドさんはともかく、ギヤナさんはその辺りキッチリ計算できる人のように見受けましたけども……」

「……ックは、」

 

噴き出されてしまいました。

本当に君ガ言うセリフじゃアないネと軽く笑われてしまいました。

いやでもね、確かに感情的には嬉しいんですけども、ロジック的に考えたらすっごく危ないことしてると思うんですよギヤナさん。

……と、思っていたんですけども。

 

「――オ客人がムルグの連中ト繋がってイない事を確信しタ上で話すガね。仮にオ客人がムルグと繋ガっていテも、今まで話しタ内容であレばリークされてモ全く問題ないのダヨ。封印の間は確カにこの町にアるが、そノ具体的な場所を知っテいる者は私グらいだトしかムルグも判断でキない。だかラむしろヘイトを集めラれて丁度良イぐらいダ。スユドの言に乗るノモ癪だガ、いざ開戦トなっテもムルグの戦士に後レる事はなイと私は信仰しテいル。ならバ、私が程よク前線に出れば町へノ被害はコントロールでキるとイう訳ダ……と言っテも、コの効果はリークさレヨうとされまイトあマり変わらなイがネ。

タだそれ以前、お客人は遠距離攻撃ヲ持っていル。私がムルグの者ナらば、不確カ過ぎるウィザーとの契約よりモオ客人の遠距離攻撃に頼ルのを優先スル。つマり、お客人がムルグと繋がっテいるなラばそもソモこの町に来テいなイ」

「――あ!」

 

そうでした。ニソラさん、普通にガスト瞬殺できるんですから、ニソラさん引き込めばそれで目的達成なんでした。

そりゃあ、この二つ並べられたら厄災よりもニソラさんを選びます。

 

「チなみに遠距離攻撃がブラフの可能性モ低い。検証さセテと言われレばスグに解る事ダからナ。そンな突けバ崩れるブラフを柱に潜り込マセる度胸は少なクトもオレには無いヨ。

オ客人を鉄砲玉にスる線は、スユドをつケタ事で対応しタ。コチらに攻撃させて大義名分を作ろウとか揺スりの場に引きズリ出そうっテんなら逆に願ったりダ。なぜって、現状ハ既に「後はモう戦争ダ!」ってトコまで行き着いチマっていルのでネ。ムしろ以前の緊張状態まで状況を戻すコトができル。そして逆に、その状況だからコそどう対応しようト悪化する事はアり得ない訳だ――まったくアリがたクないがネ!」

 

うわおスゴい――ボクが危ないと思う線を全部ロジックで潰してくれました。

言われて見ればうん、納得。ボクなんかが心配する隙も無かったんですね。

こう言うのをすぐさま考えられて、情も絡めて即断できる人が施政者になるんだろうなぁと尊敬します。

 

「もちロん、コれカらお客人ヲ封印の間に案内スる訳だガ、コっちの情報ハリークさレると非常にマズイ――マズいが、オレの想定できル範囲外の要素が絡んダ上で、本当にオ客人がムルグと繋がっテいルのでアレば、モう成るヨうに成レだ。ソの時の状況を見キった方が建設的ダ。だガ、敢えテ言わセて貰えば、先のロジックが無クともオ客人の事は信用しテいたと思うヨ。君タちはドウやら嘘ガつけナいタチのようダ。タクミ殿も大概ダが、特にニソラ殿――アレが嘘デ演技なラ、ソもそモオレの手ニ負えル物かヨ」

 

以上、ご納得頂ケたカナ?笑ってみせるギヤナさんに思わず感嘆の声と一緒に拍手を送ってしまいました。

ヨセやイ、照れルじゃナイかと手を振りながら満更じゃないギヤナさんです。

 

「……ええー。今さりげに私ディスられませんでした……?」

 

まるで単純な人みたいに言われた気がしますよぅーと頬っぺた膨らすニソラさんが可愛いです。

安心してください、褒めてますよ。

ニソラさんみたいな人が一番眩しく映るんだろうなぁギヤナさん。素直に振る舞えて心のまま冒険できるなんて、きっと一番夢見てる事だと思います。

責任って大変です。

今までの話を多分解っていなかったスユドさんは、じっと閉じていた眼を開くと深く頷きました。

 

「ふむ……要は、客人達にその真意を問えば良いのだな。是非も無し」

「オ前それヤったらガチで追放ダかラなフザけんな」

……ほんと、責任って大変ですよね。こんな環境なら特に。

 

「あー、ソれと。ダめ押しでモウひとつ加えるとするなラば、ダ。……リークされテも長期的ナらばトモかく、短期的にハあまりダメージが大キクなかったりすル。何セ――」

 

ギヤナさんがギヤナさんが松明の立っている壁に近寄り、何やら操作しました。

 

ガコンッ!

 

軽い衝撃とともに、ガシャンガシャンと機械的な何かが作動して、テーブルの下の床が唐突に抜けました。

 

「ふぁっ!?」

 

唐突に足元が消えた状況に思わず変な声が出てしまいます。

――テーブルの下を覗いてみます。

隠し階段でした。薄暗い地下への階段が続いて居ました。

 

「――何セ、ソの封印の間への道ガこレなのでネ。知らんウチに使ワれたらサすがに気ヅクと言う訳だ」

 

 

@ @ @

 

 

古い通路でした。

隠し通路という性質の為、掃除とかで手を入れるような通路ではないって事なんでしょうけども、それを置いても多少朽ちているように見えます。

所々に、石板のような物も置いてありました。

思わずキョロキョロ見回してしまうボクたちです。

 

「凄い……文化遺産指定モノですよ、これ……」

「フム。当時の通路ヲそのマま使用しテいる。入り口はサスがに増設だガネ」

「存在は知っていたが中に入るのは初めてだ……感謝するぞお客人」

 

スユドさんもなんだか声が弾んでいます。

彼が今まで入った事がなかったと言う事は、本当に限られた者だけが足を踏み入れる事が出来る聖地と言う事なのでしょうか。

聞けば、元はムドラの町もこの通路も、この地に建っていた何かの要塞をどうにかこうにかして作られた場所なのだそうです。

元の要塞であった場所は、厄災の時代には既に放置されており、大部分がネザーラックに埋もれていたとかなんとか。

……ええ?ここネザー要塞だったの?

そんな感じで説明を受けながら歩くのですが、ここはダンジョンと言う訳では無いので説明を全部聞く前に到着してしまいました。

開けた部屋に出ます。

 

「ここが……」

 

ネザーレンガに囲まれていた通路とは違い、そこは削られたネザーラックに囲まれ、設置されたグロウストーンの光で照らされていました。

壁にはネザーフェンスで覆われた面もあります。

ゲームの知識と先ほどの話から、ボクはネザー要塞に生成されるブレイズスポナーの区画を連想しました。

中央にスポナーの代わりに、刀掛台に掛けられた刀が置いてありました。

部屋の至る所には石板が設置され、当時の様相を事細かに物語っています。

 

「うわあぁ……」

 

厳かで神聖で、それでいて禍々しい独特の雰囲気に、ニソラさんが声を上げていました。

ボクも前知識無しであれば同じ反応をしていたと思います。

しかしそれ以前、ギヤナさんの話を聞いてからずっと引っ掛かっていた事が、この部屋を見て氷解した事の方が感動より強かったようです。

ギヤナさんが剣の元まで歩み寄りました。

 

「コれがウィザーが残シた物のひトツ、詩の中デ触れらレていタ「剣」の実物だヨ。ウィザーを召喚する力ガ宿っテイると言われているガ、実ヲ言うと使い方は伝ワってイない。我々にしテハ奇妙に反っタ不思議な形状の剣だガ、タクミ殿が差シテいる物を見るニ、ソコまで珍しいモノでもナいらシイ」

「へぇ……確かに、曲刀は私も何度か見た事があります。しかしこの剣は、私が見てきた曲刀と比べると何処か不思議な雰囲気が漂っていますね。――あの、手にとって抜いてみても良いですか?」

「構ワないヨ。抜くダケで召喚サれる訳でハ無いヨウだしネ。扱いにハ気を付けてくレ」

「ふおおおぉ……」

 

息を飲むままニソラさんがすらりと刀身を抜き放つと、長い間放置されているたとは思えない美しい姿が現れました。

高温少湿な環境だからなのか……いえ、絶対にそれ以外の要素からでしょう。錆のひとつも浮いていないその刀身は、長い時を経てなお、そのまま使えそうな様相を保っています。

 

「これ……銘はあるんでしょうか?」

「アるミたいなのダガ、伝ワっていナイ。……サっきノ召喚の方法ト同じデね。ソの剣の銘ヲ知る者ガ、召喚の方法をモタらすのダそうダ。……地上にハ伝わって無いかネ?」

「うーん、この冒険譚を本格的に追った事は無いので解らないです……少なくとも巷に伝わる物語には、この剣の存在すら出てきませんでした」

 

遠巻きに会話を聞いて、ボクの心臓が跳ね上がりました。

――剣の銘を知る者が、召喚の方法をもたらす?

これは……もしかしてかつては、マインクラフターがいたのでしょうか?

そう、ボクと同じ境遇の……?

 

「散華(サンゲ)――ですね」

 

ボクが口にした銘を聞いて、視線が一気に集まりました。

 

「……鬼哭作「夜叉(ヤシャ)」、道雪作「顎門(アギト)」、天凱作「神威(カムイ)」と並べて四天と呼ばれる紹運の作刀です」

 

元はファンタシースターオンラインと言うゲームが元ネタだそうです。ボク、このゲームやったこと無いので知らないんですが、四天の剣だけは抜刀剣の元ネタとして調べた事がありました。

 

――そう、Mod「抜刀剣」です。

これを入れてると、ウィザーを倒した時にこの「散華」をドロップするようになります。

この刀はその散華のようでした。

刀剣には明るくありませんが散華の外見は特徴的で、金と茶で美しく装飾された鞘に白い柄、そして鞘の鯉口から伸びる四角い札のような飾りがついています。

この辺りはゲームの外見と一致していました。

ちなみにこのMod、夜叉も顎も追加されるんですが神威だけは出て来ません。なんでだろ?

 

「……ニソラさん、ボクも見せて貰って良いかな?」

「へ?……あ、はい」

 

そっと刀を受けとると、刀身に瞳を写す様に覗き込んでみました。

近くで見ると、ますます美しさが際立って見えます。

ボクは少し目を閉じると、ゲームの目線でアイテムを見るように意識を切り替えました。

ゲームでは、アイテムに付いたエンチャントを確認する事ができるのですが、それと同じ要領で「鑑定」を行います。

抜刀剣においてはアイテムに付加されたエンチャントに加え、抜刀剣独自の値である「KillCount」ProudSoul」「Refine」「Attack」と言った値も確認できます。

それぞれ詳しく触れると長くなるので割愛。

ただ、そう言った値から読み取れる事実があります。

 

「――まだ何も斬っていない、本当に新品の刀ですね。そういう刀は総じて力が弱いんですが、これは例外みたいです。魂が宿って妖刀になってます――長い間放置されても色褪せてないのは、それが原因ですね。自己修復してる」

 

KillCountが0なのにProudSoulが10,000とは恐れ入りました。

一口に言えば前者は斬った数、後者はそうやって経験を積んで成長した、刀に宿る魂の強さです。

ゲームではあり得ない代物が目の前にありました。

 

「宿っているSAは次元斬……エンチャントは耐久力、落下耐性、火炎耐性、そして射撃ダメージ増加と……天然モノじゃあり得ないなぁコレ」

 

ゲームの中でボクが「育てた」剣には流石に劣りますが、十分すぎるチートな刀に仕上がっています。

最初から「こう」だったのか、それとも時を経て「こう」なったのかは定かではありませんが……

「使われたがってますよ、この刀。対ガスト戦なら十分な戦力ですね。……まあ、謂れが謂れですから、早々使えないとは思いますが」

ゆっくり鞘に納めると、「特徴的」な刀掛台に戻します。

――そう、この散華。

刀掛台が明らかに特徴的でした。

 

「聞キたい事ハいろいろアルが、トもかク――タクミ殿は、解ルのだネ?この剣ガ」

「はい、見ての通りです」

「でハもしかして――ウィザーの召喚方法モ?」

 

……そう、そうなるんですよね。

散華の銘を知る者は、ウィザーの召喚方法も知る……これは明らかに、マインクラフターを対象にした言葉のように思えるのです。

 

「――はい、知っています」

 

その言葉の反応は顕著でした。

ニソラさんが「ふおおおおっ!?」と本日何度目か解らない声を上げ、スユドさんが「やはり客人達は、詩に出てくる……!」とトンでもない勘違いを呟き。

――ギヤナさんは何やら深く考え込んでいました。

ムルグの最終手段がウィザーなのであれば。その召喚方法はどう言うカードになるかを探っているのでしょう。

ギヤナさんの構想の役に立つ情報かどうかは判りませんが、とりあえず情報を全部委ねてみようと思います。

 

「最悪、ですが。散華をムルグに渡しても問題はありませんよ」

 

その台詞に思い切り眉を潜めるギヤナさんです。

 

「……前提の確認だが、ウィザー召喚に辿り着かれたら終わりと定義している。その上での台詞かね?ムルグが召喚方法に辿り着く可能性が一欠片も無いとでも?」

「無いです」

 

即答しました。

流石にびっくりしているようです。

苦笑しながら種明かしをします。

 

「なぜなら……散華はウィザー召喚となんの関係も無いからです。その刀にウィザーを召喚する力はありません。ウィザーを召喚するのに必要なのはこの、刀掛台の方です」

 

そう言って指し示したのは、「黒いドクロが3つあしらわれている」特徴的な刀掛台でした。

……そう、その刀掛台には黒いドクロが装飾としてゴテゴテくっついていたのです。

 

ウィザーを召喚する為にはウィザースケルトンの頭部3つとソウルサンド4つを使います。

ソウルサンドをTの字に積み上げて、頭の部分にウィザースケルトンの頭部を並べれば完成。

爆発と共にウィザーが顕現する仕組みです。

バニラでは裏ボスみたいな位置にいるのですが、出向いて倒すのではなく召喚して倒すボスなので、多くの場合地の利を取られて苛められる傾向が強い悲しいボスです。

例えば地下深くに狭い通路を作ってそこに召喚すれば、空を飛び回る事が出来ないので容易くひねる事ができます。

例えば黒曜石で箱を作って、その中にアイアンゴーレムを10体ぐらい詰め込んでそこに召喚すれば、顕現した瞬間にアイアンゴーレムに集団リンチを受けて数秒で沈みます。

今はもう出来なくなりましたが、ウィザー実装当時は岩盤ハメと言うテクニックが知られた事もありました。岩盤の直下でウィザーを召喚すると、そのまま浮き上がろうとするウィザーが岩盤にハマり、そのまま動けなくなって哀れなサンドバッグと化すのです。

工業Mod勢にはさらにひどい目に合わされてるんですよね。

ウィザーも壊せない特殊な黒曜石の檻に閉じ込めて、攻撃を代行する装置で壁を透過してボコボコにすると言うとても可哀想な装置の餌食にされる動画を見た事があります。

ボタンひとつで召喚から昇天まで全自動と言う、ウィザー絶対殺すマシンです。

ウィザーかわいそう。

……ボクですか?

その黒曜石の檻に詰め込んで召喚した上で、壁の外から抜刀剣で一方的にぶった斬っていましたよ。

防具の役目はありませんでした。

表ボスであるエンダードラゴンほど経験値落としませんし、ウィザースケルトンの頭部がそもそもレアドロップですし、ProjectE環境下だったのでネザースターをひとつ手に入れれば後は用無しです。ペッ。

……そんな扱いされてたから、この世界で復讐に走ってたとかじゃなあ無いですよねぇ?

ごめんね、ウィザーさん。

 

さて、刀掛台の黒いドクロですが、これこそが先述のウィザースケルトンの頭部だと思われます。

調べてみたらドクロだけ取り外せる造りになっていましたし。

この世界であれば、ソウルサンドのある地と思われる「嘆きの地」に3つ並べれば、ソウルサンドの深さにも依りますが条件満たして召喚出来るんじゃないですかね?

空の利を与える事になるのでオススメは出来ませんけども。

――と言う訳で。

ムドラの人達ですら剣が召喚の為の神器だと思ってたぐらいですので、実は必要なのは刀掛台の飾りでしたとか夢にも思わないでしょう。

「ウィザーを御する術」と言うのが気になりますが、もしそのソースがマインクラフターやそれに類する能力者によるものであれば、わざわざウィザーを呼び出さなくともガストにダイレクトアタックできる筈です。

つまり、この情報を知りそうにないので散華渡すだけでもムルグの人たちを十分騙せるだろうと。

 

――ってな事をあまりにメタい部分だけ伏せて説明しました。

ギヤナさんが頭を抱えてしまいました。

なお、ウィザー虐めは説明した内容に含みます。

 

「知りタクなかったヨ、コんナ真実……我々を絶滅寸前マデ追いやっタ伝説の厄災をナンだト思ってるんダ」

 

あ、はい、そこはホントすみませんでした。

 

「――ウん、5割りホど聞かなかった事にしよウ。我々の方針ハ変わらずウィザー召喚阻止ダ。例エ相手がイジメられっ子でも変ワらんヨ。……トリあえズこのドクロは取り外しテ隠して置こうカ」

 

おお、切り替え早いですね。

取り外して隠すんですね、ラジャりました。

隠すならお手伝いしますよ。チェストも丸石も手持ちにありますのでー。

 

ぱぱぱっと壁に穴を開けてチェスト1個分のスペースを丸石で囲み、見た目で場所がバレないようにその回りをネザーラックで覆います。

丸石の囲いは冗長ですが、ガストの爆撃で吹き飛ぶような保存はちょっと許せませんでした。

作業中に後ろから「マテマテマテマテナニをやっている!?」「オい何でコの深さをソう簡単に掘れルんだオカシイだロ!」「掘っタ場所の繋ぎ目ナくなってんぞナニしたオ前!?」と騒がしいBGMが流れましたが例の如くガン無視です。

マインクラフターは自重しないのです。

「……さすがタクミさん、文化財指定クラスの遺跡にも容赦がありません……」とニソラさんのように遠い目をするのが正解の反応ですよ。

 

――斯くして、ウィザースケルトンの頭部3つは部屋の壁の奥深くに、瞬く間に封印されまてしまうのでした。まる。

 

土木作業は任せろー、ばりばりー!

 




太陽のないネザーの住民に「日」と言う単語や概念を使わせたくなかったのですが、韻を踏んだ別の単語が思いつきませんでした。
地上人との交流で伝わった単語ってことで一つご容赦ください。

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