ボクのMod付きマイクラ日誌   作:のーばでぃ

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戦士よ、立ち上がれ!

 

「おお……戻ってきたか」

 

 

隠し通路から出て見ると、ローブを纏い、杖を持ったゾンビピッグマンが椅子に座っていました。

見た目が思いっきり「魔法使い」と言った様相です。

顔左半分の肉が残っていて、やけにギョロっとしている眼が印象に残ります。

なんとなくアレを思い出しました。某魔法学校な話に出てくる「油断大敵!」な人。

 

「来テいたカ」

 

ギヤナさんとスユドさんに警戒の様子はありません。彼もまた、この通路を知る一人と言う事なのでしょう。

彼の視線がボクの手元に向けられました。

――そう、ボクの手には散華が握られていました。

別に貰い受けた訳ではありません。この剣、対ガストの切り札になりそうな為、重要度が低いなら試してみようかと言う話になったのです。

……しかし、ムドラのもろもろの事情を知っている人には案の定勘違いを誘発しました。

 

「おおお……その剣はまさしく……!」

 

残った眼球をひん剥いて近寄ってくるのはちょっと怖いんですけども。

 

「その姿、メイガスに伝わる言い伝えその物じゃあ……」

 

スユドさんが反応しました。

 

「――ラクシャス師よ。ムドラの詩とは違う伝説が他にも?」

 

なるほど。どうやらこの人が、さっきチラッと話題に出たラクシャスさんのようです。

ムドラ唯一の遠距離攻撃の使い手だったと言う話でした。

……今はもう戦えないとの事でしたが……?

スユドさんの問いにうむ、と重苦しく頷いて、吟うように口にします。

 

 

「――その者、蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし……」

「ブッッフォ!?」

 

 

ちょっっ、待ってそのフレーズは待って!アレぇ!?

 

「……見タ目も場所モまったくカスっテないが大丈夫カ?視力とカ」

 

ジト目のギヤナさんに「カアアーーッッ!!」と渇を入れて暴走は続きます。

 

「思慮が浅い!この者が纏っているのは青銅と言う金属である。青き銅……つまり、青き衣、と言うことが出来る」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!?」

「斬新な解釈ですねぇ」

 

あれ、なにコレ。ボクは暴走する巨大芋イモムシに両手広げながら轢かれなきゃイケナイんですか。

「あー」とガリゴリ頭を掻いて、ギヤナさんが紹介してくれました。

 

「ラクシャスだ。ムドラ唯一ノ魔法使いニシてガストへの対抗戦力ダった。魔法の使イ過ぎでオツムごと不調を来たシ、今は一線を退いでイル」

「失敬な!私はまだ現役じゃ!この辺のオーラが枯渇したから術が使えなくなっただけじゃい!――て言うか今オツムごとッつったかオヌシ!?」

 

あ、はい。把握しました。こういうキャラなんですね。

「油断大敵!」とか言いながら凄い大ポカやらかすタイプのキャラだこの人。

……ええと、でもまあ好意的に考えるなら――魔法使いなんでしたっけ?

辺りのオーラが枯渇したとか言っていました。

「オーラ」と言う単語には心当たりが有ります。Mod「Thaum Craft」で登場する、自然界に存在する魔法の力の事です。

Thaum Craftでは杖を使ってオーラノードと呼ばれる「オーラ溜まり」から魔法の力を吸収し、様々な魔法を行使できます。

逆に言うと、そのオーラノードが見つからなければ魔法を使用できない訳です。

オーラノードに宿っているオーラは無限ではありません。ある程度時間を置けば奪ったオーラが回復していくのですが、オーラを枯渇するほど奪ってしまったりオーラノードそのものが破壊されてしまうと、もはや回復はできなくなります。

おそらくムドラを守るために、オーラを使い切ってしまったのでしょう。

そしてThau Craft系の魔法使いであるならば、きっと「歪み」にも近づいてしまったんでしょう。

まだ紅の教団ほど深淵に片寄ってはいなさそうですが、日常生活に支障が出るほどには「歪み」に染まってしまったのでしょうか。

かくして戦闘能力がなくなり「歪み」で思考も怪しくなってボケ老人認定と。

……あれ、最後のオチがなんか悲しくありませんか。もっとほら、闇落ちって言ったらダースベイダー卿みたいなアレとか、ねぇ?

 

「あー……ええと、その。そう!そういえば、さっきの詩の中でも杖から光の槍を出す人が出て来ましたけれども!もしかしてその魔法の技術が残っていたんですかね!?」

 

とりあえずラクシャスさんをさり気にフォローする意味でも別の話題を提供してみます。

 

「イや、良いヨ無理して空気ヲ変えんでモ――まア、そウ言われてイるヨ。タだ、コレは詩の戦士カら直接学んだモノではなク、詩の戦士が残シて行っテくれたモノから独自ニ発展させタらしいノダがネ」

 

わお凄い――確かに、よく見ればラクシャスさんの手にしている杖はシルバーウッドの杖身に魔道金属の杖星です。

シルバーウッドでは地上でも珍しい部類の白い魔法の木で、魔道金属は特殊な方法で錬成した高い能力を持つ素材。

このネザーでは手に入れる事は困難でしょう。

 

「戦士にとっては、当時の装備をほいっと提供するほど何でもない代物だったんじゃろうな……おかげでずいぶん助かっているが、未だ戦士には届いてない事を嫌でも自覚しておる。研究書まで残してくれたというのに……」

「!?ソーモノミコンまで残されてたんですか?」

 

Thaum Craftのチュートリアル的な魔法の研究書です。

ゲームだと研究を進めれば自動筆記されて行く訳ですが、この世界ではきっと手書きなのだと思います。

それを残して行ってくれたって言うのは相当ですよ。

 

「地上の客人……お主も魔導の者かの?その名はあまり一般的では無いはずだが」

「ええと……いずれは学びたいとは思っていますが、まだ手を出してはない……感じです。多少知識はある程度です」

 

Modによる経験を知識と呼んで良いのかどうかは知らんですけども。

少なくとも、ボクの知識と現実の大きな剥離は今のところ無い気がしています。

ふうむ、とラクシャスさんが顎を撫でました。

 

「もし知っていたら教えて欲しいのだが……ガストめを滅ぼすのに使っていた風の力がここいらから消えてしまってな。何とかしてそれを取り戻したいのだ」

「ああ――」

 

皆まで言わずとも大体想像がつきました。

ラクシャスさんも詩と同じように、「光の槍」を使っていたのでしょう。

すなわち、Thaum Craftで言うところの「衝撃の杖星」です。

これをつけた杖から風のオーラを消費して、対象に雷を放出する事が出来ます。

 

「ゴメン、ニソラさん!悪いけど、おやつに取っといているサトウキビをラクシャスさんにあるだけあげて貰って良い?拠点に戻ったら好きなだけサトウキビ渡すからさ」

 

お砂糖舐めるのも良いんですが、サトウキビを直接しゃぶるのも好きなんです――そう言って砂糖に精製せずにサトウキビを荷物に入れてるニソラさんです。

彼女の嗜好がベストマッチしました。

あ、ニソラさんがしゃぶるのが好きだからって変な想像した人は、後で自分のお腹をノコギリでギコギコして死んでくださいってシックスさんが言ってました。

 

「良いですけど……どうするんですか?ただのオヤツですよそれ」

 

突然のお願いにニソラさんが目をパチパチしています。

 

「サトウキビで魔法の杖を作るとね。風の力を自動で回復、補充してくれる杖になるんだよ。あと、風の力の消費を抑えてくれるようになる」

「私のオヤツがトンでもないアイテムに!?」

「何か良い方法があるか聞こうとしたらスキップして素材の現物が出て来たんだがどう言う事だ!?」

 

あれ、ニソラさんの反応はいつもの事ですが、ラクシャスさんの反応はちょっと予想外でした。

この杖にたどり着いている訳じゃなかったんですね。てっきりネザーじゃ手に入らないから素材が欲しかったのかなと思ったんですが。

 

「あー……普通の木の杖身作るようなやり方じゃダメですよ。儀式が必要になりますが大丈夫です?」

「――うむ!杖身作成の儀式には心当たりがあるぞ!地上の戦士よ、感謝する!」

 

あ、戦士とは違いますのでその辺りよろしくです。

 

 

ギヤナさんが興味深そうに横からサトウキビを覗き込んでいます。

 

「フム……?随分固ソうな棒だネ。地上の民はコンな物を食べルのカネ?」

「ああ、食べるんじゃ無くて……それ、中に蜜のような水分を蓄えていまして。割ってしゃぶって甘い水分を吸うんです」

「やらんぞ!?これは杖身を作るのに使うんじゃ!」

 

がばちょとサトウキビの束を胸に掻き抱くラクシャスさんです。

理由が理由だから仕方ないんですが、端から見たらオヤツを独り占めするワガママおじいちゃんの図ですねコレ……

 

「……例えラクシャスが戦エルようになっタとしてモ、今まデ通りニ任セきりになルのは危なスぎるネ。ソれに、これ以上変調をキたされテも困ル。――妙な幻聴や幻覚ガ見えるのだロウ?」

「うるさいわ!私はまだまだ戦うぞ!戦えるんじゃ!!」

 

うーん……幻覚や幻聴程度の「歪み」であれば、「禊ぎの石鹸」とか「神秘のスパ」とかで灌げると思うんですけどね。

ボクがお風呂に使う石鹸欲しさに将来のクラフト予定に入れた奴です。

そう言えばゲームではアレってある程度の「歪み」を蓄積しないと研究が解放されないんですよね。

同じく「歪み」に迫らないと作れなかったりするんでしょうか。

――今の時点で何か言うのは止めときましょう。

で、もし作れたら適当におすそ分けしに来れば良いでしょう。

 

 

散華の力の検証には、ラクシャスさんも着いて来ました。

対ガストの戦力かになるか見極めるデモンストレーションです。

――とは言え散華は一本しかありません。ラクシャスさんを戦力から外すとしても、ギヤナさんが危惧した「一人に防衛を押し付けるシステム」から脱出することは出来ません。

おそらくそこから始まる青写真がギヤナさんの中にある筈ですが、まあ後の話です。

到着した修練場は想像していたよりもずっと広く、既に何人もの人達が熱気盛んに模擬戦を行っていました。

ガストの被害が増加しているからでしょうか。剣を合わせている人達の形相からは、決死の覚悟すら見えて来るようです。

 

「――スユドさん!」

 

かなり濃いメンツにボクたち地上人二人の組み合わせです。かなり目立っていたようで、すぐに声を掛けられました。

剣を合わせていた人達も手を止めて此方に視線を投げています。

 

「――精が出るな、カンガ。済まないが的をひとつ空けられるか?」

「お疲れ様です、スユドさん。俺が使っていた的をお使いください。――あの、その方々は!?」

 

カンガと呼ばれたゾンビビッグマンは、とても興奮しているようでした。

まあ、明らかに外見違いますもんねボクたち。

あの詩を聞いて育った人からしてみれば答えはひとつです。

 

「うむ――詩に出て来た、地上の戦士だ!」

 

 

うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッッッ!!!

 

 

大歓声が響きます。

こう言う紹介やめて欲しいんですが。さすがにこの空気で「勘違いです」とか言えません。

――ああ、ほら。ヒロイックサーガ大好きなニソラさんが凄く嬉しそうにむずむずしてますよ。

ギヤナさんは「ダメだこりゃ」とでも言わんばかりに空を仰いでいました。

テンション上がった人達が集まったらどうなるか身に染みているご様子です。

 

「すげえ!おとぎ話じゃなかったんだ!!」

「――と言うことはスユドさん!ついに、約束の日が来たって事ですよね!?しかも俺たちの代で!!」

「青の戦士と肩を並べて戦えるのかよ!うっひゃあーっっ!!」

「アレ?でも剣は青くないな……でもいっか!うっひゃあーっっ!!」

 

興奮度がMAXをさらに振り切っています。

スユドさんが苦笑して制しました。

 

「あー、待て待て。気持ちはとてもわかるが、落ち着け。……それなんだが。残念だが約束の日はまだ先だ。彼らは地上の戦士ではあるが、まずは別の目的で参られた」

 

ヘイちょっと待ちましょうかスユドさん。

その説明だと、一段落した後にウィザーと一戦やらなくてはイケナイ気がするんですが。

ヘイちょっと待ちましょうか外野ども。声を揃えて「えええぇぇぇーーー」とか言うんじゃありません。

 

「……もしかして、あの白キモ野郎についてですか?」

「そうだ。その対抗策として遠距離攻撃の手段をもたらしてくれるそうだ。これから、それを見せてくれる」

「おおおおおおっっっ!!」

「あいつらに一泡吹かせられるのか!」

「遠距離から攻撃出来れば、あんな奴!!」

 

再び場が盛り上がります。

……ただ、そんな中でも浮かない顔をしている者もいました。

 

 

「――気に入らないス」

 

 

ぽつり、とつぶやいたその声は、この歓声の中で不思議と良く通りました。

皆の視線が集まります。

 

「――気に入らないスよ!確かにオレら助けに来てくれた事は素直に凄い嬉しいス!伝説を目の当たりにしてメチャクチャ感激っス!!――でも、気に入らないスよ!厄災の時にも助けて貰って、あの白キモ野郎の時も助けて貰って、オレ等の修業は何だったんスか!?

オレ等、ムドラの戦士っス!誇りと勇気の剣を持った、ムドラの戦士の筈っス!!この町を守るのはオレらの誇りっス!!

――いくら緑の大地の戦士でも……オレ、これだけは絶対絶対、譲れないっスよ!!」

 

――熱い魂の叫びでした。

若く、雄々しく、そして誇りに溢れた熱い叫びです。

 

「……確かにそうだ!」

「俺たちはムドラの戦士だ!」

「あんな奴相手にするのにイチイチ力を借りる訳にはいかねぇ!」

 

天に突きあがる剣と声。同調の叫びが次々と沸き上がります。

 

 

「……バカバカしくないですか?」

 

 

――驚くことに、水を差したのはニソラさんでした。

「……何を!?」「俺たちの誇りを馬鹿にするのか!?」……批判と反発の視線を一身に受けて、それでもニソラさんは前に歩み出て身を晒します。

 

 

「……どなたか仰いましたよね、「あんな奴相手」だって……ホント、そうですよ。

私、皆さんの誇りは理解しているつもりです。その強さも、この修練場と皆さんを見ていれば強い戦士なのだと判ります。事実、ガストが空さえ飛ばなければ、遠距離攻撃さえ持たなければ、皆さんの脅威になる筈も無かったでしょう。

――あんなの、武器を揃えてコツさえ掴めば一撃で沈む雑魚ですよ?私は今日こっちに来てから同じ手で2体沈めました。同じやり方を皆さんに向けたとしても1撃では到底無理な筈です。そして、皆さん相手であったならば私も相当な覚悟が必要でしょう。

……その皆さんがですよ。ただギャースカ喚いて空から火の弾垂れ流すだけの気持ち悪い生首お化けに良いようにやられているんですよ?バカバカしくないですか!?

――皆さんは、ガストなんか一掃できる筈なんです!なのに、戦術が嚙み合っていないからってだけで町同士の抗争を引き起こすほど良いようにやられてしまってるんです!こんなバカバカしい事無いですよ!

……私は、私たちは、ガストを葬りに来たんじゃありません。皆さんに力の使い方を伝えに来たんです。この町を守るのは皆さんです!ムドラの戦士の皆さんです!

あんな気持ち悪いモンスターなんて、一蹴出来るようになってください。皆さんには……私たち特製の弓を、手解き致します!」

 

 

――気合一閃。

無駄のない自然な動きで瞬く間に矢をつがえて玄を引き放ちます。

その先には何時からいたのか、ファイヤーバットが炎を纏いながらふらふら空を飛んでいました。

――空気を切り裂いてまっすぐに、その矢はファイヤーバットに突き刺さります。

実に2~30mは先にある小さな的を、ニソラさんの矢は正確に射抜いていました。

断末魔の声が、小さく響きました。

 

「す……げ、え」

 

それが誰の声だったのかはもはや判りません。

ふらふら動くあんな狙い難い的を、大したエイミングもせずに一撃必中です。扇の的で有名な那須与一宗隆でも怪しいんじゃないでしょうかこれ。

魅せるには最高のデモンストレーションでした。

何より、ニソラさんの「バカバカしい」がムドラの戦士を貶める物ではなく、逆に「ガストを雑魚にしなくてはならない」と言う鼓舞だと解り、最初の不満も氷解します。

 

「すげえ!こんなマネができるなんて……!」

「あのクソッタレの火の弾よりずっと早い!コレさえあれば……!」

 

驚愕は感嘆となり、感嘆は希望となって、瞬く間に戦士たちに伝染していきました。

そして最後には大きな鬨の声となって修練場を響かせます。

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!

 

 

今まで良いようにされるがままになっていた、ゾンビピッグマンの反撃の雄たけびでした。

 

 

 

 

……そして、完全に散華を試す空気が掻き消えた瞬間でした。

え、この空気の中で一品物の散華を披露しなきゃイケナイんですか。気マズ過ぎる事果てしないんですがコレ。

ボクの心境を察したのか、ギヤナさんが小さく肩を叩きます。

 

「スマン、ウちの連中チョロすぎテ――実際、コレには解決しなきゃあナらなイ課題がアる。コれは後デ話ヲさせてホシい……ニソラ殿の提案ハ、正直コのまま乗っテおきタイ」

「あ、はい……それは別に構いませんけども」

 

この熱からは結構冷めているボクとギヤナさんでした。

信じられます?ボクらが何しに来たか知ってるハズのスユドさんとラクシャスさんがあの輪の中に加わっちゃってるんですよ?

恐るべし――恐るべし、ニソラさん。

……所で、ボクの中にあった定義が完全に間違っていた事に今気が付きました。

どなたか、改めて「メイド」の定義をボクに教えてください。お願いします。

 

 

@ @ @

 

 

――あの熱気に水を差すのはかなり勇気が要りました。

ので、買って出てくれたギヤナさんに感謝です。

大阪のおばちゃんか何かみたいに手をパンパン叩きながら、「ハイハイハイハイ何時まデも溜ラれたらコッちの試し斬りガ出来ないだロウが退けオラ!」と切り込んでいく姿はどことなく哀愁が漂っていました。

そしてニソラさん。弓を乞おうと周りに集まる人たちの中心で一人我に返り、「あ、そうでした!散華の遠距離攻撃見に来たんでした!弓は後でお願いします!私アレ見たいんです!」と無碍なく一蹴するのは流石にヒドすぎると思います。

ここまで焚き付けた張本人がそれって……!

ガビーンと固まる戦士の皆様方を放ってボクの傍にピューッと駆け寄るニソラさん、実に小悪魔やでぇ……!

しかも悪戯っぽくペロッと舌を出したりなんかするのです。

 

「これで、私がガスト100体相手する必要なくなりましたよね」

 

あらヤダ誤用の意味で確信犯だったのねこのメイドさん。恐ろしすぎる。

 

 

……まあ、ニソラさんがこっちに来たからでしょうか。

まばらに散華に気が向く方々もちらちら出て来ました。

多くの人はムドラの詩を知っているだけですので、ボクの手にあるこの刀が詩に出てくる「剣」だとは誰も連想していないようです。

ギヤナさんやスユドさんが持っていたらまた意味が違っていたのかもしれませんが。

何だ何だ、何が始まるんだと戦士たちが遠巻きに眺めます。

 

「アー……紆余屈折アったガ、オ客人。ヒとまず的はアレを狙って、実演を頼ム」

 

場の提供ありがとうございますギヤナさん。その哀愁漂う目がホントもう同情を誘います。

あははと軽く苦笑して、それでもせっかく整えてくれたんだからボクも意識を切り替えなきゃと、一歩前に歩み出ました。

――的まではざっと10m程でしょうか。

ふらふら動くファイヤーバットにヒットして見せたニソラさんに比べたら、10mの動かない的なんて何でもない難易度なんでしょうけども。

ボクは鞘に入ったままの散華にこつんと額を当てて呼びかけます。

 

「――初めてのお披露目がこんな事になっちゃって、ごめんなさい。でも、この試し斬りもキミの実践投入を占う意味ではとても大切な事なんだ。担い手がボクじゃあ不満があるだろうけれど……お願い、力を貸してください。ボクに、そしてこれからのムルグの人たちに……その魂の力を、誇りと勇気を、貸してください」

 

――ズクン、と脈動を感じます。

それはまるで、散華がボクのお願いに、歓喜で答えてくれたように思えました。

ゆっくり抜刀の構えに入ります。

「もしかしたら出来ないかもしれない」と言う考えは不思議と湧いて来ませんでした。

それどころかボクは、この刀に応えているような奇妙な一体感を感じていました。

 

「参ります――」

 

宣言して、調息。

乗せた意志に、ボクの体は自然と奔りました。

 

 

「――疾ッッ!!」

 

 

抜刀。

振り抜いた先はもちろん虚空――しかし、その刃の先のそのまた先に「斬り裂く」意志を解き放ちます。

 

 

ザシュッ!!

 

 

10mほど離れたいた筈のその的は、黒い渦のような本流に斬り裂かれて宙を舞いました。

どよめきの様な歓声があがります。

Mod「抜刀剣」の神髄――刀に宿った力を開放する特殊攻撃(SA)です。

妖刀と呼ばれる域まで達した刀は総じて特殊な力を宿します。

この散華に宿っていたのは、離れている敵をその空間ごと巻き込み斬り裂く奥義「次元斬」でした。

――そしてもう一つ。

エンチャント「射撃ダメージ増加」が付加された刀にのみ許された技を開放します。

 

「狙って」

 

空に舞う的に切っ先を向けて意志を乗せると、ボクの周りに青く輝く、実体のない剣が浮かびました。

 

「――行けッ!」

 

解き放ちます。

 

 

ズガンッ!!

 

 

その剣は舞っていた的にまっすぐ突き刺さり、更に追い打ちを掛けました。

はじかれて吹き飛んだその的は、かろうじて原型を留める程度まで破壊され、修練場に転がります。

その的が地に転がり停止した頃、追い打ちとなった青い剣は光の粒子となって崩れるように消え去って行きました。

 

――幻影剣。

 

もとはデビルメイクライと言うゲームから来た技で、魔法のような何かでできた実体のない剣を、敵に向かって突撃させる遠距離攻撃です。

次元斬に幻影剣――まるで対ガストの為に生まれたかのような刀でした。

 

 

歓声が沸き起こりました。

剣で遠距離攻撃を行うと言う不可思議な技もさることながら、特にムドラの人たちにとっては幻影剣が特別な物に映りました。

 

「おい――青く輝く剣だ!」

「厄災を下した伝説の剣だ!」

 

その歓声を聞いて苦笑します。

この剣はその厄災が残した、ある意味で忌むべき剣でもあります。それが詩に出てくる勇者の剣になるなんて、なんとも小気味の良い話ではないですか。

 

「――ありがとう、応えてくれて。キミの魂、皆が称えてるよ――勇者の剣だってさ」

 

語りかけたその先に、誇らしげに胸を張る何かを幻視したような気がしました。

 

 

文化財として保存しなければならないレベルの刀ではありますが……

この様相を見て、ギヤナさんの結論も固まったようでした。

 

「――戦士ガ宿ってイルのだネ、ソの剣にハ。ムドラの戦士ト同じよウニ、誇り高イ戦士が。……ソうとアれば、大事に祀っテオくわけにモいくまイヨ」

 

散華をギヤナさんに渡します。

 

「この剣は応えてくれました。願わくば、ギヤナさんも応えてあげて下さい」

「承知しタヨ。強イ戦士に渡さナけれバな。――ハハ、取り合イになルなコレは」

 

ムドラに新しい戦士が加わりました。

 

 

弓を知り、散華を得て、魔法が蘇ろうとしています。

――ガストへの反撃が始まろうとしていました。

 


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