「今日はダンジョンに行ってきます」
「はいよ。気ぃつけな」
よく晴れたいい天気。そんな清々しい朝を農場で迎えた私はお爺ちゃん、お婆ちゃんに今日の目的地を伝えて出かける準備をしていました。
すると、行ってらっしゃいと言ってくれたお婆ちゃんとは違い、お爺ちゃんが。
「どこのダンジョンに行くんじゃ?」
と、聞いてきたので。
「『キールのダンジョン』に行こうかと」
そう答えたら。
「儂も行ってもいいかの?」
と尋ねられました。
断る理由もなかったので勿論オーケーしました。
………それがまさかあんなことになるとは、私は予想だにしていなかったのです。
『キールのダンジョン』。
それは、アクセルの街からそうは遠くない山中にあるダンジョン。駆け出し冒険者の街の近くにあることからも、そう難易度の高くない初心者~中堅冒険者のレベルにちょうどいい塩梅の難易度なダンジョンです。
しかし、このダンジョンは今から数十年前にできたものらしく、既に多くの冒険者が攻略に挑戦したためめぼしいお宝の類は探索され尽くしてしまったそうです。
では何故、今回私がこのダンジョンの探索に来たかというと……内部のモンスターの間引きが目的なのです。
ダンジョンという閉鎖された空間では内部に淀んだ空気、瘴気が篭もり充満していきます。すると、ダンジョン内で発生するモンスターは増えるし、元から居たモンスターは強くなっていきます。
下級モンスターは中級モンスターに。
中級モンスターは上級モンスターに。
上級となったモンスターはダンジョンの支配から脱却しダンジョンの外へと出ていき、層が薄くなったダンジョン内ではまた下級モンスターが生まれ、繰り返す。
この流れを止めるために、ダンジョンには定期的に冒険者が探索に入り、強力な個体が生まれないように倒していく必要があるのですが、そこはほら、アクセルの冒険者なので。
「ダンジョンモンスターの間引き? 嫌だよ、割に合わねぇし」
と、誰もやりたがらないのです。
これには冒険者ギルドも頭を抱え、クエストを張り出しても大した額ではないため誰も受注しない。かといって驚異度の少ないダンジョンに大きな報酬額をかけるわけにはいかず、放っておけば本当に高額賞金が発生しそうな上級モンスターが生まれかねない。
これには困ったというギルド職員の皆様の前に現れたのが私です。
「それでしたら私が行きますよ?」
「「「ありがとうございます!!!」」」
特にお金に困っているわけでもなく、モンスターだって怖くないどころか最近冒険者にだって怖がられている。そんなしょんぼり気味なアルマちゃんですが、ダンジョンからモンスターが溢れてくるのは見過ごせまん。クエストを受けない理由のほうがむしろないのです。
ですが。やはりそこは駆け出し冒険者。
「でもアルマちゃんだけじゃ心配よね?」
「ダンジョンに入るなら『索敵』と『罠感知』スキルを持った盗賊職がいないと……」
「……え? そう? 心配いらないんじゃ……」
「魔王軍の幹部を殴り殺した人だよね……?」
などと職員の皆さんには大変ご心配をおかけしてしまいまして。
なので。
「あ、ならクリスを連れていきます」
「クリスさんなら最近見てませんよ?」
おや。
どうやらクリスは留守らしいです。彼女は下界での神器探しという仕事をしていますが、元領主であるアルダープの屋敷から二つの神器を見つけてしばらく天界に戻って貯まった仕事を片付けてくると言っていたのでした。
これはうっかり。彼女には後で報告だけしておきましょう。
エリス教の御神体である女神エリス。というのが正体の盗賊クリスにはエリス教の教会で祈れば会話できます。仕事が終わればそこで報告書を読みあげましょう。
では、クリスの代わりとして今すぐ誘える、暇してそうな盗賊職のスキルを持った冒険者を探しましょうか。
「それで俺ですか」
「頼りにしてますよお兄ちゃん」
「ホッホッホ。賑やかじゃのう」
『キールのダンジョン』前。そこに集まったのは私とお爺ちゃん。それにカズマお兄ちゃんのパーティーです。アクア除く。
盗賊スキルを持った暇そうな冒険者と言えば、日頃大きなお屋敷でぐうたらしているカズマお兄ちゃんしか思いつかなかったわけで。
なのでお願いしちゃいました。
「ではダンジョンには私達三人で入りますので、ダクネスとめぐみんはもしもダンジョンからモンスターが逃げ出したら討伐してください。まぁないとは思いますのでのんびりしていてください」
ダクネスとめぐみんの二人はダンジョンの外でお留守番です。めぐみんは爆裂魔法をダンジョンの内部で放つわけにはいけませんし、ダクネスは唯でさえ攻撃が当たらないというのに視界の効かない狭い空間で暴れられても困りますので。
「仕方ありませんね。カズマをよろしくお願いします」
「わかった。しかし、ご老人。何故貴方がダンジョンに?」
「……ちと、会いたい奴がおっての」
お爺ちゃんは腰に手を置いてダンジョンの中を覗いていました。その目には哀愁がこもっていました。
そもそも『キールのダンジョン』とはその昔、お姫様を攫った国一番の実力を持った悪い魔法使いが逃亡の末に生み出したてこんだダンジョンだといいます。
「個人の魔力でこれほどのダンジョンを生み出せるのですね」
バキッ! という破砕音を響かせながらそんな感想を漏らす私です。ダンジョンの内部は真っ暗ですが、神である私には昼間のように明るく見えます。なので、モンスターが近づいてきても余裕で殴り殺せます。
「そうじゃな。昔はこのダンジョンを攻略するのに沢山の人間が挑戦したものじゃよ」
シュパッ! という鋭い音とともにモンスターがまっぷたつに裂けます。お爺ちゃんの手刀での一撃で、曰く、空気の流れで大体の位置が分かるそうです。
「すいません。俺必要なかったんじゃないっすか?」
カズマお兄ちゃんは私達に挟まれて歩いています。先頭は私。後ろにカズマお兄ちゃん。最後尾はお爺ちゃんという順番で一列に並んで進んでいます。
いえいえ。実際役に立っていますよ?
戦闘には関わっていませんが、ダンジョン内の罠とかを見破るのには非常に役立っています。私もお爺ちゃんも戦闘面では遅れを取りませんが、ことトラップに関しては素人ですので。
「あ、下級悪魔……死ねぇ!!」
「プギャアアアアアアア!!」
目の前から気味の悪い小型の犬くらいの大きさの悪魔が走ってきたので神気を纏わせた拳で殴り飛ばします。うん、今日も下界のゴミ掃除ができました。素晴らしいことです。
「これこれアルマちゃん。そんなに殺気を出してちゃいかんぞ? 心穏やかに、殺すのじゃ」
「ごめんなさいお爺ちゃん」
「いやそういう問題!?」
でも悪魔相手で穏やかになんていられません。殺すのなんて一瞬なんですから、殺気を瞬間的に放ってもいいではないかと思うのです。
「あ、今度はアンデッドが……わらわら来てる」
「敵感知ハンパないんですけど!? 前と後ろからどんどん湧いてきてるんですけど!?」
「まるで蜜に樹液に群がる虫のようじゃの」
狭いダンジョンの通路の中。前と後ろから沢山のアンデッドが押しかけてきます。まるで何かを目指すかのように。
あー、これはアレですね。原因は私です。
アンデッドは死者がモンスターに堕ちた存在。現世に残した未練が怨念となって生まれる彼らは浄化されることを望むこともあるのです。つまり、神聖な存在に惹かれるという特性も持っています。これにより、『敬虔なプリーストはアンデッドを引き寄せる』という厄介なことが起こるのです。
ということは。神聖どころか神そのものな私に浄化を求めてアンデッドが群がるのも当たり前なわけで。
「面倒なので……はいっ!」
パァン! と両手を合わせて神気を解放します。
「「「おぉぉぉぉぉぉぉお……」」」
アンデッドが塵も残さず消し飛びます。
「ほぅ!」
「すげぇ……」
更に私を中心に、神気が充満した清浄な空間を作り維持します。そのフィールドは三人がスッポリ入る規模で固定しそのままにしておきます。
すると。
「あのー、アルマ様? アンデッドが近づいただけで消滅して行くんですけど?」
「そりゃだって、全自動昇天フィールドですので」
「プリーストが失業しそうな技ですね!」
カズマお兄ちゃんが言うように、これはプリーストのお仕事を奪いかねない禁じ手です。なにせ、アンデッドが近づいただけで成仏する空間を作るのですから。
「大丈夫ですよ。この世界でこれができるのは私以外だとアクアだけです」
「あぁなんだ。よかったような、そうでもないような……え、今なんて?」
……アクアは本気を出せば凄い子なんです。本気が出せるようなヤル気さえあれば……どうしてあぁなった。
まぁ育てた『魂』ののせいなんですが。仮に、私があの子を育てていればどうなっていたのでしょう? エリスの様に真面目で礼儀正しいアクア……それはそれで面白くないかもしれませんね。
ちなみにエリスにはこの技は不可能です。あの子はこういう能力には秀でていませんので。
「アルマちゃん。その技は儂が言う場所で止めてくれんかの?」
「もちろん構いませんが、どうしてです?」
アンデッドが断末魔をあげながら消滅していく中ダンジョンを進んでいくと、お爺ちゃんが道すがらそう言いました。
「これから会いたい奴に会えなくなるからのう」
思いがけずにダンジョン探索が楽になったこともあり、私たち三人はサクサクと奥まで進んでいきました。すると、最後の部屋であり終点の最奥までたどり着きました。
そしてその部屋は、とても臭かったのです。
「やっぱなんにもねぇなー」
「やだ、こそ泥みたい」
タンスやツボの中身を漁るお兄ちゃんの姿はとても盗賊らしいものでした。冒険者から立派に転職できそですね。
お爺ちゃんはというと。
「……この壁も変わらんの」
ダンジョンの再奥の壁に手を付いていました。すると、その部分の壁が消失し、左右に広がって通路ができたではないですか。
「隠し部屋っすか!?」
「うわぁ、アンデッド臭ッ!」
お爺ちゃんの目の前の壁は無くなり、通路が現れました。その奥から臭ってくるアンデッド臭もより濃くなります。
「それじゃぁ、キールの奴に会いに行くとするかの」
「久しぶりじゃなキール」
「あぁ、本当に久しぶりだね。友よ」
隠し部屋の中は質素なものだった。ドレスを纏った白骨が眠る大きな天蓋付きのベッドと小さなタンス。その上に僅かばかりの金銀財宝があるだけの空間。
しかし、そこにはとんでもない存在がいた。
アンデッドの王、リッチー。このダンジョンを生み出した悪い魔法使い、キールその人である。
その頃の『物質』のアルマことテンちゃんとアクア。
「親方ァッ! どうですこの出来? 完璧でしょう!!」
「す、スゲェ……、二ヶ月かかる工事が一日で!?」
なんということでしょう。アクセルの土木作業者が総出で奮闘していた外壁工事を、テンちゃんとアクアの二人だけで一日で終えてしまったではありませんか。
アクセルの街をぐるっと囲む外壁は完全に修理され、全てのレンガにはびっしりと魔方陣が一つずつ書き込まれています。これには親方も驚きです。
「では浮いた工費で好きにしていいよね!!」
「待ってテンちゃん様! 本当に待って! アクセルの外壁の次は街のタイルなんて、一体何するつもりなんですかッ!?」
テンちゃんが魔方陣の刻印されたレンガを恐ろしい速度で積んでいきながら、アクアがセメントの水分を飛ばしてあっという間に乾燥させる。その作業を涙目で頑張ったアクアがテンちゃんの足に縋り付いて止めてくださいと泣きつく姿を誰が笑えようか。
「もちろん、最高にドッキリビックリな芸術さ!!」
「ドッキリとビックリの桁が怖いことになるから止めてくださいよー!!」
この星の修復は順調に進む。
順調に。
『命』 「新刊も出来たし、冬コミの準備しなきゃ……あ、そうだ」
エリス 「え。なんですか『命』様? え、お土産? これを下界に? なんで?」
『命』 「布教よろしく」
エリス 「私に別口の信者を募れと!?」
エリスは同人作家あるまんの新刊を手に入れた!(R18女性向け)
ちなみに『命』の子機は地球在住の在宅イラストレーターです。(2●歳独身)
ひとつ屋根の下に『理』の子機の義弟(高校生)がいます。