もうすぐGWも終わりですね。
「いやー、本当に久しぶりだねー! 元気してた!?」
「お主は相変わらず陽気じゃのう」
ダンジョンの主、キールと呼ばれたアンデッドと農家のお爺ちゃんは親しげに会話する。
彼らはなんと、五十年来の付き合いだというのだ。
「カズマ君や。アルマちゃんをしっかり押さえておいておくれよ」
「は、はいっ!」
「ははは、何を言っているのですか? 私だって我慢ぐらい出来ますよのやっぱ殺したいすぐ始末したい」
「出来てないじゃないですか!?」
どうも、カズマです。ただいま、小さな神様ことアンデッド絶対殺すウーマンなアルマ様を羽交い締めしているところです。手を離せば直ぐ様目の前のリッチーを抹殺しかねない勢いで、もう必死です。
アルマ様に誘われて、農家のお爺さんと一緒にダンジョン探索に来たところ、そのダンジョンの主がなんとお爺さんと旧知の中らしくびっくりですハイ。
なので、二人の旧友の久しぶりの会話が終わるまでアルマ様に我慢してもらっている。なお、『お兄ちゃん』効果のおかげでアルマ様の拘束が出来ているのだーがー、絵面が事案ものなので割愛するしだいである。
「成程、彼女が……約束を守ってくれてありがとう、友よ」
「うむ、待たせてすまなかったなキールよ」
二人がそう言い合うと、こちらを向いてリッチーであるキールがアルマ様にこう言った。
「済まないねお嬢ちゃん。どうか私を浄化してくれないだろうか?」
王国一の腕前を持つアークウィザードのキール。彼は、言い伝えでは王様の妃を拐って逃げた悪い魔法使いだった。
しかし真相は、王宮内で邪魔者扱いされていた側室の王妃と愛の逃避行をした情熱的な魔法使いだったという。
欲にくらんだ貴族が、王様に取り入るために自分の娘を側室として差し出したが、王様も欲しくもなかった彼女を大事にすることもなく、それが周知される頃には彼女の味方は一人もいなくなっていた。
彼女に一目惚れした一人の魔法使い以外は。
キールはその胸の内に宿した恋心を押し隠しながらも研鑽を磨き続けながら功績を残し、国一番の魔法使いと言われた頃に王様にこう言われたという。
「お前に一つ、好きな褒美をやろう」
そうすると彼は。
「ならば彼女をください」
王様のそばに控える沢山の側室の中から、愛する女性を指してそう言いのけたという。
これには王も困惑した。正直なところ、王様はその願いを聞き届けてもいいと思った。何せ、その側室はいらない存在だったからだ。しかし、側室とはいえ王の所有物をおいそれと一介の平民に与えるわけにはいかない。
だから声高に拒否した。それはダメだと。他の褒美にせよと。
しかし、国一番の魔法使いは諦めなかった。なにせ、欲しいと言った側室の女を拐っていったのだから。
王様は面子を守るためにも魔法使いへ追手を差し向けた。いらない側室とはいえ、王のモノを奪ったのだから許すわけにはいかなかったのだ。
そしてそれは、魔法使いにとって吉とでた。
王は追手の数を最小限とし、国力に支障が出ないよう抑えた。国内一の腕前を持つ魔法使いにとってありがたいことだったのだ。
キールを追う王様の刺客は弱くもなく強くもなかった。数も一人で相手するには多かったが、相手できないほどの数でもなかった。本当に最小限の規模だったのだ。
しかし、それでも体力の限界はあった。相手は国であり、戦えるのは魔法使いだけだったのだから。
逃避行の末、魔法使いは重傷を負った。追手は退けたが死は目前だった。
だから魔法使いは、選んだ。人間をやめ、アンデッドに堕ちる道を。
愛するものを守るために。
「それで最後はこの山まで逃げ延びてダンジョンを造り、二人仲良く慎ましく暮らしましたというわけさ」
「アンデッドになるくらいならその場で死ねばよかったのに」
「台無しですアルマ様」
一人の魔法使いの壮絶なラブロマンスを死ねばよかったのにと斬り捨てるアルマ様。ブレない御方だと思うよホント。
「じゃぁお爺さんとは何時知り合ったんだ?」
「このダンジョンを造ってすぐだよ」
「……山に見慣れないダンジョンが出来ていたからの」
なんと、腕試しだったという。
若かりし頃のお爺さんがまだ修業中の農家だったころ。山篭りをしていたところにダンジョンを発見し、攻略したのだという。
「まさか、冒険者や追手よりも先に、農家に攻略されるとは思ってもいなかったよ」
「儂らは作物を収穫しても財宝は収穫せんからのう」
ハッハッハと笑う老人達を見ながら、そんな問題か? と疑問に思う。やはりこの世界の農家はオカシイ。
で、攻略した最奥の部屋でリッチーとなった夫と疲れきった妻を見つけた若い農家はこう言ったそうな。
「腹が空いているのか? 俺は農家だ」
と。
そこから修業中の農家に新たな仕事が生まれた。食料を求める夫婦への食料供給という仕事が。
リッチーとなったキールには食事は要らなかった。しかし、妻は違う。人間である彼女にはダンジョンでの生活で食料の確保は必須であった。
しかし、お尋ね者だった二人には山を降り、街へと赴いての買出しなど不可能だった。金銭の問題もある。
だがそこはダンジョン。攻略しようと乗り込んでくる冒険者がいた。彼らには悪いが、探索中に命を落とした者から所持金を頂戴することで懐だけは温めていたのだ。
それでも。金はあっても使うことはできない。ダンジョンの奥で、つき始める食料の前に、もはやこれまでかというときに現れたのが、一人の農家だった。
夫婦には彼が救いだった。
「儂は修行するのに好都合で商売もできる。正に一石二鳥の環境じゃったよ」
「修行しやすいようにモンスターの強さや量を調整したりしたんだ。いやぁあの頃は楽しかったなぁ」
とんでもない話である。
なんとこのダンジョン、実質お爺さん専用の修行場だったのだ。酷い。
このダンジョンが攻略されたとギルドに報告はされていない。ダンジョンの主を討伐していないからだ。だから、モンスターは発生し続けるし、ギルドの攻略依頼も出たままである。
しかしそれがなんとまぁ。蓋を開けてみれば農家とダンジョン主の間で癒着があったという事実が隠れていたわけだ。
農家は世界を救わない。ただ耕すだけだ。
だから冒険者を支援などしないし、ギルドにも貢献しない。
自分たちが育てた野菜や家畜を売るのみ。その相手が人間でも魔王軍でも、正しく買って食ってくれるのなら関係ない。
この二人はそう言う関係だったのだ。客と友という関係。
お爺さんの食料の訪問販売は人間である奥さんが老衰で亡くなるまで続いたらしい。
つまり数年前だ。
「妻が逝ったので、今度は私もと思ったのだがね? なにせリッチーになっていたものだから死ねなくてね。彼には私を浄化できる程のプリーストが現れたらここに連れてきてくれるようお願いしていたのだよ」
「なるほど」
そういうことか。
つまりお爺さんは、アルマ様ならこの友人であるリッチーを浄化できると思ってここに連れてきたのだ。それは俺もそうだと思うので納得だ。
でも。
「つまりこのリッチーを始末すればいいのですね? 安心してください秒殺です!」
この方に慈悲はないです。
本職のプリーストでキール程のリッチーを浄化することはできない。可能なのは女神であるアクアとアルマ様レベルが必要だというのだから驚きだ。
アクアって本当に凄かったんだな。普段が駄女神だから忘れがちだけど、やっぱり神様なんだなと思い出す。
「これ」
「あイタ!」
俺に拘束されたアルマ様の脳天にお爺さんの軽いチョップが降りおろされた。それでアルマ様の勢いがしぼむ。
「……なんですかお爺ちゃん。あの死に損ないのミイラを処分すればいいんでしょう?」
「その通りじゃが、おぬしはもうちょい死者にも心遣いというものを持たんといかんの」
あ、ハイ。俺でもそう思います。
でも、それは難しいと思う。アルマ様にとってアンデッドは神の理に背いた存在だというので、憎さ余って殺意百倍な相手。そんな相手に慈悲はなく、手心を与えてもそれは安楽死という浄化。許すと書いて殺すと読むらしいのだ。
「お爺ちゃん。この世の理を背くということは世界のルールを破綻させるということです。一つの綻びが全体を崩壊させます。それは許されないことなのです」
「そうじゃのう。金を払って野菜を買ってくれる客を差し置いて、タダで野菜を配る奴がいれば儂もしばき倒すしの」
いやお爺さん。確かにそれも大事なルールだけど今言うことなのだろうか?
「死んだ者は生き返ってはならない。例え死者蘇生の方法があったとしても、それは許されないことです。アンデッドという存在そのものが禁忌であり、地獄の釜の
「すまないねぇ」
頭をかいて謝るキールさんだが、アルマ様の言うことには恐ろしいモノがあった。俺はこの世界がファンタジーなのだからアンデッドとかゾンビとかが居ても、そんなものかと受け入れていたがその考え自体がアンデッドを産むのだという。『死んだ人間が生き返ってはならない』。転生者の俺には耳が痛い言葉だが、この『理』が守られないということはアンデッドが生まれてもいいのだと認めているのようなものだ。
アンデッドは死者が生き返った訳ではない。けれでも、結果だけ見れば死者が意志をもって活動している。それを『生き返った』と思う者がいないと誰が言い切れるだろうか?
それを認め、許容してしまう世界になってしまえば、確かにそれは『理』が崩壊した壊れた世界なのかもしれない。だからこそ、アクアも駄女神ながらもアンデッドを許さないのだろう。
「アンデッドが死者の未練から生まれるというのならそれを癒すために女神がいるのです。その女神の慈悲を無視し、なおも現世に留まるというのなら死神を差し向けます。それでも駄々をこねるのなら魂を消滅させます」
「怖いのぅ」
うん、怖い。本当に怖い。俺、次死んだら絶対に生き返れないわ。アクアが蘇生呪文使えるって言うけど、アルマ様のいるところじゃ無理かもしれない。
「アルマちゃんはまるでピンと張り詰めた糸のようじゃ。余裕を持たんとはち切れてしまうぞ?」
「当たり前です。『理』が揺らいでいれば示しが付きません。蜘蛛の糸を垂らす同僚はいても、私が揺らいでしまえば支えをなくした者達は何を信じられましょうか」
お爺さんはアルマ様に『柔らかくなれ』と糸に例えて言う。アルマ様はそれでは
どっちもそのとおりだと思う。アルマ様は頭が硬すぎるし、『理』がコロコロ変わってたら世界は混乱するだろう。
あれ? じゃぁそれって、もうどうしようもなくね?
アルマ様に変わって欲しいな、なんて考えはつまり、世界を変えることと同義なのだ。
アルマ様がアンデッドを許してしまうとアンデッドの存在を世界が肯定してしまうことになり、下手をすれば死んだ人間がその場でアンデッドになる世界が出来上がってしまうのかもしれない。
「(世界の『理』を決めた時から、アルマ様は考えを変えてはいけなくなったってことか)」
めぐみんが爆裂魔法に誇りをもってそれだけを極めようとするように。
ダクネスが頑なに攻撃補助系のスキルを取らないように。
それを変えてしまえば根底から狂ってしまう矜持というものが人にはある。それが、アルマ様にとっては世界規模、いや宇宙規模ってことなのだろう。
でもさ。
「大丈夫だって、ちょっとくらい」
「お兄ちゃん?」
肩肘貼ってばかりじゃ疲れちゃうからさ。
「アンデッドを見つけたら浄化するのは当然としてさ、もっと気楽にやれば? なんなら鼻歌まじりでもいいし」
もっと楽しもうぜ。アルマ様が創ったこの素晴らしい世界を、創った本人がさ。
「でも、」
「ほんのちょっとの真心じゃよ。ほんのちょっと、一摘みの真心があればいいんじゃ」
「そうそ。俺なんて、それがなきゃ今頃馬小屋で凍死してるぜ!」
実際、幽霊屋敷のマッチポンプとかアレとかコレとか見逃して貰ってなきゃ俺は犯罪者ですよ?
「……なんですかもう。これで文句を言ってたら私が人でなしみたいじゃないですか」
まぁ人ではないしね。神様ですし。
不満タラタラな神様ではあったが、キールというリッチーは穏やかなまま満足して浄化されたという。
「という訳で、私としては大変不本意なこととなりました。お兄ちゃんに汚された気分です」
「待ってアルマちゃん。それだとなんか如何わしい意味に聞こえるから」
仕事が終わり、ギルドへの報告も終わったので私はエリス教会へと足を運びました。今度はこちらから天界へ報告しなければなりませんので。
「でもアレですよ? 嫌がる私を後ろから力任せに羽交い締めし、もっと力抜けよ? と耳に囁いたのは本当ですよ?」
「冒険者ギルドの掲示板に幼児を狙う不審者として手配書貼ってもらうよ!」
嘘は言ってませんよ?
「それはさておき。久しぶりですねクリス。天界の様子はどうでしたか?」
「……それがもう大変だったよ」
そうクリスです。
エリス教会の懺悔室。私たちしかいない密室で天界への報告書の受け渡しが行われていました。これ、実は定期的に行なっているんです。
前の私が下界に降臨したときもそうですが、どうにも天界とのアクセスが不調でして。この世界で唯一天界と下界を行き来できる
「あ、これ『命』様からのお土産です」
「なんですかこの薄い本」
聞いといてなんですが、予想はついています。今年の分が書き上がったんですね。酷使された天使達に祈りを捧げていると、クリスがとんでもないことを報告してきました。
「え? 『物質』のがやらかした?」
「はい! もう、天界のお父さんもカンカンで。見つけしだい縛り上げてこいって通達が出ているんです」
「……だからですか」
「はい?」
先日から『物質』のことテンちゃんが押しかけてきた理由。つまりは説教が嫌で逃げ出してきたということですか。
「来てますよ、アクセルに」
「え?」
「『物質』の。この星を治しに来たってもっともらしい理由を並べて逃げてきてます」
「灯台もと暗しとはこのことだよ!! 今まで色んな宇宙をしらみつぶしに探してたのに!?」
「なに無駄なことに時間を使っているんですか」
こうしちゃいられないと、クリスが私の書いた報告書を持って天界へと戻る支度を始めました。『理』のの本体へと伝えに行くのでしょう。
何をしたのかは分かりませんが、尻拭いを私に任せる気満々じゃないですか……。
クリスは今まで探していたといいますが、どうにも初めからこの世界に狙い済ましていたとしか思えません。なにせ、『理』のが探せと命令し、下界にいる私にも手伝わせようと言うのです。ならば元からこの世界にいると考えていたということではないですか。
「ふむ……逃亡を見逃していた、なんのために、あぁ押し込める……面倒は纏めてですか……なら事態はそこそこ大規模なことになりそうですね」
目には目を、歯に歯を。神の行いには神の行いを持って解決せよ。
つまり、『暴れて』もいいという許可が出たのだと。
私はそう
その頃の『物質』のアルマことテンちゃんとアクア。
「あ、そろそろ時間切れっぽい」
「何がですかテンちゃん様ー?」
アクセルの外壁に『神気ジャミング』の効果のある魔方陣を書き込み、地面のタイルには『神気ドレイン』の魔法効果を付与した。その他もろもろ、億とも兆ともある様々な魔法効果のある陣をアクセルに仕掛け終え、創造神の一柱は『時間切れ』に気付いた。
「アルマちゃんに気付かれないように妨害してたけど、もう必要ないか。いんや、もうちょっと必要かな?」
「?」
「あぁ、アクア達女神クラスには効果ないから安心して」
「え、だから何がです?」
アクアに話しているようで、アクアを見ていない。そんな独白に、『水』の女神は恐怖を覚える。こういう時の神々の放っている雰囲気は恐ろしい。
まるで、嵐の前の静けさのようであるし、もしくは起こした火を自分に非はないと対岸の火事を決め込んでいるような。そんな薄ら寒さを感じるのだ。
「もうすぐ来るね。きっと来る」
世界を正面からでなく、天上から見る神の視点。そこに映るソレを『物質』のは見て笑う。
「楽しい愉しい、玩具が来るよ」
遠く、地響きが近づいてくる。
『理』 「………なんでこのタイミングでリンクが回復するかな」
『魂』 「のうのう? 今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? アンデッドに情けをかけた自分に対して今どんな気分?」
『理』 「……とりあえずお前にイラっとくるな」
『魂』 「(あ、ダメじゃ。これブチギレてるの無理矢理押さえ込んどる)」
『命』 「(黙って、ゆっくり、離れなさい)」
嫌がらせと時間稼ぎは大成功な『物質』です。
アルマが考えを変えた例(時間編)。
「あ、老化するのが嫌なら若返るようにしてやろうかな」
生物は死体で生まれて赤ん坊まで『成長』して死ぬようになりました。
「あ、カップ麺出来るの待つのめんどくせ。三分すぐ経てよ」
1秒が180倍になりました。
「遅刻した。時間巻き戻すか」
時間を自由に操作できる、歴史という概念が不確かな世界になりました。。
皆さん、『時間』はきちんと守りましょう。