例えるならNARUTOの影分身みたいなものです。消えれば本体に分身が得た情報を自動的に送ることができる存在。ただし、分身は頑丈なので死ななければ消えないし、自覚もあるから個性が生まれて別人になります。
つまりアルマちゃんは自立したナルコ。
全長およそ百メートルはありそうな巨人ゴーレム。そんなのが現れたらもう逃げるしかない。
「なんだアレ!? なんだよアレは!! おいこらアクア!! お前自称ナンタラで無駄に歲食ってんだから何か知ってんだろ!? なんでデストロイヤーが巨大人型ロボットに変形するんだよ!!」
「今カズマが言っちゃいけないこと言った!! 言っちゃいけないこと言ったぁッ!! 知らないわよ!! 私は地球担当のエリート女神よ! こんな辺境の世界で造られた骨董品のことなんて詳しいわけないでしょ!?」
「「喧嘩してないで早く走れ!!!」」
冒険者達が来た道を逆走してえっちらほっちら逃げ出した。何からって? もちろん、デストロイヤーからである。
「しかし、まさかデストロイヤーにこんな機能があったとは!」
「紅魔の里の者たちが見たら大喜びしそうですね!」
「お前ら実は楽しんでるだろ!?」
俺とアクアは涙目で走ってるのに、ダクネスとめぐみんは大興奮である。この二人、冒険者達がデストロイヤーの内部を探索中に外で置いてきぼりを喰らっていた。そのおかげで巨大蜘蛛が人型ロボットに変形するシーンをバッチリ目撃していたらしい。
う、羨ましくないんだからな!!
「つーか、アレどうやって倒すんだよ!?」
「最初の予定通り、めぐみんとウィズの《爆裂魔法》を使うのはどうだ?」
「………当たるか?」
ダクネスが《爆裂魔法》を使うことを提案するが、俺の言葉に全員が後ろを、デストロイヤーの方を向く。
『HAHAHAHA!!! 待つッスよ~!! あ、そーれ! ワン! トゥー! トロワ! ルンルンスキップでランララーン!!』
そこには何が愉快なのか、軽快なステップで大地をピョンピョンと飛び跳ねる巨人がいた。
魔法なんて素でよけられそうである。
「……どうにかして足止め」
「蹴り飛ばされそう」
「……数撃ちゃ当たる」
「まずアクアの《ブレイクスペル》を当てねぇと」
「……農家(物理)」
「……いや、アレ相手じゃキツイだろ?」
いいアイディアが出ねぇよ。どうやったって全部あの巨体が厄介だ。
元からデストロイヤーという巨大な移動物相手にするつもりではいたが、当初とは状況が違いすぎている。蜘蛛型の時は進行方向と速度が一定で待ち構えることができた。魔法だって回避行動を取る様子もなかったので撃てば確実に当たるという情報もあった。
でも、意志をもって動きまくる巨人、という姿が全部をダメにした。
「でも早くなんとかしないと、あいつアクセルに向かってるぜ!?」
「ヤバイ、もう街が見えてきた!!」
周りの冒険者達もこの状況にとうとう慌て出した。俺達はもう逃げの一手しかなく、目前には守るべき街が見える。このまま街の中に逃げ込んだどころで、あの巨大なデストロイヤーに街を踏み潰されるだけだ。
万事休すか、そう思ったとき。
「このまま街の中へ逃げなさい」
凛とした声が通り過ぎた。
「アルマ様!?」
「「「アルマちゃん!??」」」
耳を撫でるような、柔らかい空気が流れていった方向。その場の全員が後ろへと振り返ると、そこには大剣を持って巨人へと突撃する小さな女の子の姿があった。
「アレは私の獲物です!!」
「んな無茶な!?」
………いや、ひょっとして、無茶じゃないの?
そんな考えが頭を過ぎった。よくよく考えてみれば、アルマ様ってアクアと違ってモノホンの神様じゃん。あの人に任せておけば……助かるんじゃね?
「おい、カズマ! いくらアルマでもアレは無茶だぞ! ……だよな?」
「そうですよカズマ! 早く止めないと……いけませんよね?」
「そこは自信持って言えよ! 俺も同感だけど!!」
ダクネスとめぐみんも不安げに言うが、どこかしらアルマ様ならなんとかしてくれるんじゃないかと期待しているのが分かる。俺だってそうだ。こんなとんでもない事態、人間の手に余るってもんだ。神様が解決してくれるって言うんなら任せとけばいいだろう。
「ねぇ、カズマ? 大丈夫かな? アルマちゃん、身体が小さいからデストロイヤーの正面に立つとホントに米粒みたいに見えるわよ? ほっといて大丈夫かしら? 人としてそれってどうなのかしら? ねぇどうする? どうしよう?」
「お前はそれわざと言ってんのかッ!?」
俺が全部アルマ様に丸投げしようと思ってたのに、アクアの奴が俺の良心をボコボコにしやがる。これで無意識っていうのだから嫌になる。
ちくしょう、そうだよ。ちょっと罪悪感もあったさ。あんなデカイやつに、神様といえ小さい女の子に押し付けるなんてどうかしてる。
それになにより、俺はアルマ様のお兄ちゃんだからな!
「チクショーー!! お前らアルマ様に続けーー!!!」
「「「おぉおおおおおおおおおお!!!」」」
「よく言ったカズマ! 流石ロリマさんだぜ!!」
「アルマちゃんは俺が守る!!」
「アルマたんを見捨てられるかよ!!!」
「女神アルマ様に続け!! これは聖戦なり!!」
この街の冒険者は大丈夫だろうか? あと誰だ、俺のことロリマさんと言った奴。それとアルマ様が大人気すぎる。女神って、バレてないのにバレてるやん。
ま、まぁいいか! 待ってろアルマ様! 今すぐ俺たちも駆けつけるぜ!!
……。
………。
…………。
……………。
あ、はい。俺達、必要なかったみたいです。
「ちぇいさっ!」
『あらーーーーーーッ!!!』
アルマ様がデストロイヤーの足を掴んで放り投げた。自分で何を言っているのかもう意味が分からない。空高く飛んだデストロイヤーは、そのまま空中でぐるんぐるん大回転しながらまた地上に落ちてきた。なのに、地面が全く揺れていない。物理法則さんはどこに行ったのだろうか?
あのな、アルマ様の小さな手でね? デストロイヤーの足の表面にある小さなとっかかりを掴んだと思うと、ヒョイッ! てあの巨体が浮くんですよ。はは、俺、目がおかしくなったんですかね? ダメだな、こっちきてから目医者になんて通ってないから目の調子が悪くなったのかわかんねぇや。
「大変です! カズマが遠い目に!」
「しっかりしろカズマ! こんなところで気が遠くなってちゃ踏み潰されるぞ!!」
「うるせい! ちょっとくらい現実逃避させろ!!」
「大変よカズマ! アルマちゃん、まるで『理』様みたいな戦い方してる! どこで覚えたかしら?」
本人だよ! でも、どういうことだ?
「あのね? 『理』のアルマ様っていうのはこの世の理、つまり法則を管理している御方なのよ。だから、管理者権限で自由に物理法則を書き換えることができるの」
「じゃぁ、あんなに小さいアルマ様が大きなデストロイヤーをポンポン投げてるのは?」
「重力の向きとか互いの質量とか身体の硬度とか、全部『やりたいこと』が可能になるように書き換えてるんだと思う」
「あんなに暴れてるのに一切地面が揺れないのは?」
「この世界の『衝撃が発生する』って決まりを『衝撃なんて発生しない』って具合に書き換えてる?」
「何でもありか」
「何でもありよ」
……デストロイヤーが地面に叩きつけられる。当然、地面が、星が揺れるはずがない。だって当然だ。地面が揺れるはずがないじゃないか。生まれてこの方地面が揺れるところなんて見たことがないぜ。
「……ハッ!? 俺は今何を考えてた!?」
「気をしっかり持たないと、世界の書き換えに常識が引っ張られちゃうわよ?」
こ、怖ぇぇ。これ、宇宙規模の洗脳じゃねぇか!? いや、データの書き換え? アップデート!?
「神様こわぁい」
……。
「なぁめぐみん。地面が全く振動しないネ」
「ハァ? 何言ってるんですか? 地面が揺れるわけないでしょう? 私もアルマと一緒にデストロイヤーを投げに行きましょうかね?」
めぐみんはもう駄目らしい。
「あ、デストロイヤーが山の斜面にぶつかってバウンドしましたね」
「うむ、いい跳ねっぷりだな!」
……ダクネスぅぅ。
「ははは! デストロイヤーが地面に埋まって飛び出したぞ!」
「おいおい、このへんの土は質がいいな! 天然のトランポリンだぜ!」
冒険者は全滅しました。
もうすごぉい。アルマ様がデストロイヤーを投げ飛ばす。それが山に当たるとグニョンと山がたわんでデストロイヤーが跳ね返る。その更に上空に飛び上がったアルマ様がでかい巨体を地面にダンクシュートする。そうしたら地面がゴムみたいに沈み込んでポッカリ穴が出来る。その穴の中に落ちて見えなくなったデストロイヤーがポーンッ! と地中から飛び上がってくる。
そんな摩訶不思議な光景を、この場の誰しもが当たり前のことと受け入れていた。
「駄目だ、俺もう頭痛い、気分も悪くなってきた……」
俺のよく知る物理法則さん、早く帰ってきてください。お願いします。
ははは。そんなに親しんでくれると『理』を定めた甲斐がありますね。
脳内に直接話しかけないでくださいアルマ様!!
俺の嘆きを知ってか知らずか。アルマ様の言葉が頭に響く。貴方、目の前でデストロイヤーを殴りつけている最中ですよね?
まぁそうですが、そろそろ本気を出そうと思うので皆さんに退避をお願いしたいと。
「ハァッ!? 今からが本気!?」
「どうしたのカズマ? 頭の病気なの?」
うるさいわ!!
「おいアクア! 今からやばいのが始まるぞ! もっと離れろ!!」
「さてと」
『こんのぅ! いい加減にするッス!』
デストロイヤーという人型巨人が立ち上がり、こちらを踏みつけてくる。このサイズ差だ。人間でいえば地面に群がる蟻を相手にするようなものだろう。それだと相手はどうしても踏み付けるという攻撃手段しか取りにくくなる。考えてみて欲しい。例えば、地面の蟻を殺すとき、人間はわざわざ地面に座り込んで丁寧に指で潰すだろうか? する人もいるだろう。だが、効率で考えれば足で踏んだほうが早いのだ。
だから、頭に血が登った木偶ならばそんな丁寧な対応はしない。地上の人間を相手にするなら、まだ蜘蛛型の姿の方がよかったくらいだ。
頭上から巨大な『足』が降ってくる。それに対し、私は片手をあげて手のひらで押し返す。ズン!! という音とともに、『足』は止まりそれ以上踏み込めなくなった。
『またッスか!? なんで潰れないんス!?』
「申し訳ありませんが、これ以上この星を傷つけるわけにはいかないんですよ」
私のせいとはいえ、この星がおったダメージは深刻なものだ。『物質』のが修復をしてくれたが、だからといってまた傷つけていい道理などありません。
なので、私が知覚する範囲の空間をいじらせていただきました。
デストロイヤーの攻撃全てを、星自体が吸収・反発するように。今この星は構成物質はそのまま、巨大なゴムボールとなっているのです。当然、そのことに誰もおかしいとは思いません。そういうものだと、この星の住人たちの『常識』と既になっているので。
一部例外をあげるとなれば、この世界の外からやって来た異世界からの転生者でしょうか。今頃彼らは混乱しているかもしれませんね。
なので、早々に決着を付けましょう。
「
大地に足を、心を農業に。星の命を頂くことに感謝を捧げ、己の肉体を育てることに喜びを。
その想いが『大地』の女神に届くとき、彼女が地中より権限する。
「おぉ! あの技は!?」
「知っているのかご老人!!」
農家の老人が唾を飛ばして叫ぶ。アルマの全身を巡る大地の生命エネルギー。それが目視できるほど迸り溢れ出す。その溢れた出した力が形となり、農家が信望する女神が姿を現すのだ。
「いでよ! ガイア!!!」
『大地』の女神ガイア。それは肉体持たぬ女神。だがそれは違う。この大地こそが彼女の肉体なのだ。故に誰も彼女の姿を見たものはおらず、生まれた時から彼女は人々のそばに寄り添っている。その恩恵を特に感じているのが農家。彼らは知っている。ガイアの偉大さ、美しさを。故に日々の恵みに感謝を捧げ、祈るのだ。
そのガイアが今、顕現する。
『ぶるぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
「「「おげぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」
アルマの背後に現れたのは筋骨隆々! 四肢の太さは丸太のように! 鍛え上げられた筋肉は色黒くテカって光る!! そして美しいピンクのレオタードを肌に貼り付け、体のラインを惜しみなくさらけ出している。
翠の長髪を見事な逆三角形の上半身になびかせ、雄々しいその姿の美女の名は!
『ガイアよ~~ん! アルマ様、呼・ん・だ?』
彼女こそ最強の漢女! その鋼鉄の肉体で地上の生物全てを背負い支える者!
その名はガイア!!!
「「「……なんと美しい筋肉なのだ」」」
その姿、農家の感想がこれである。
「オロロロロロ……酷いもん見た! 酷いもん見た!!」
「げぇ……ガイア……久しぶりに見たわー。あの娘、汗臭いし何時も筋トレばっかで近寄りがたいのよねー」
カズマお兄ちゃんとアクアが酷いことを言っています。気配りのできるイイ子なんですよ?
呼び出したガイアが私の身体の中に入ってきます。これこそがこの技の効果。ガイアと一体化し、その力をこの身に宿すのです。
「……《
「農家って凄いんすね」
お爺さんがわざわざ解説してくれていますが、概ねその通りです。カズマお兄ちゃんも律儀に相手しなくていいんですよ?
この技は本来、『命』のアルマのもの。星の生命力の根幹たる彼女が無敵の肉体を持ち、星の生物に生命を与える霊脈の流れ。龍脈。ドラゴンの皇たる魔神の力の源泉。
それを同じ『アルマ』である私が使えぬ道理なし。
この肉体は『物質』のアルマが創り。
この魂は『魂』のアルマが練り上げ。
この精神は『理』のアルマが構築し。
この生命は『命』のアルマに与えられたもの。
故に我は『アルマ』なり。四柱の神の権能を一端とはいえその身に宿す者。
最強の『
「では、
『ド、ドラゴンは苦手なんスよ~~~!!』
全身に廻った
そんなことはどうでもいいか。
早く死ね。
「お仕置きです!」
『メガ様!?』
大地を蹴り、デストロイヤーの腹部をくの字にひしゃげて拳を叩き込みます。そのまま吹き飛ばした巨人を空中で睨み、あの子を呼びます。
「おいで、豊穣丸」
地上からギュンッと飛んできた三メートルの大剣。刀身二メートル、持ち手が一メートルのそれを掴み、魔法を発動させます。
「《ライトオブ…ザンバー》」
中級魔法、《ライトオブセイバー》の派生技。己の腕を刀身にして魔力の刃を生み出すセイバー。それを腕ではなく巨大な大剣に魔力を流すし生み出す魔力刀。魔力でできた刀身の長さは込められた魔力量に比例する。つまり、神の魔力と星の魔力を合わさった刀身の長さは。
およそ五十メートル。
『ちょ、まさかーーーー!!?』
「バラバラになれ」
自分の身体を軸に、超長大な魔力刀を幾度も振り回します。その刀身の乱舞は地上の冒険者達からは遠目に見ても目視できる巨大さで、まるでデストロイヤーを包み込む光の帯びで造られた籠のようだったという。
『生まれ変わったら美術学校の校長先生になりたーい!!! あーーーーー!』
細切れになったデストロイヤーが破片を地上に落としていく。千にも万にも及ぶ破片たち。それらが地上に落ちることはない。
「めぐみん、《爆裂魔法》を撃っていいですよ!」
「いいんですか!」
声を張り上げ、地上の頭のおかしい爆裂娘にご馳走を振舞う。細切れになった残骸に、もはや魔法を防ぐ魔力結界などあるはずばない。
私のご馳走が余程嬉しかったのか、地上に巨大な《爆裂魔法》の魔方陣が二枚、浮かび上がる。
うん? 二枚? めぐみんと……誰です?
アクセルにめぐみん以外の《爆裂魔法》使いがいたのでしょうか? これは私の調査不足ですね。嬉しい誤算ですが、失態は失態です。
この件が終わったらそのもう一人の《爆裂魔法》の使い手にお礼がてら会いに行きましょうか。
それでは、ついでに私も《爆裂魔法》を撃つとしましょう。
詠唱など不要。魔方陣を生み出し、それを配置し、魔力の流れを形作る。作り出した魔法陣の数は二百。その全てを球形の立体魔方陣とし魔力を高速で循環・加速させる。デストロイヤーの残骸全てを包み込む魔法陣の檻は魔力をたっぷりと流し込まれて弾け出す。
唱えよ。
「一片残らず消え去れ。《エクスプロージョン》」
地上の二つの魔方陣と、私の魔方陣。三つの《爆裂魔法》が光を放つ。生まれたのは巨大な破壊の嵐。術者が『壊れろ』と願った全てを吹き飛ばす暴力の塊。その威力たるや留まることがなく、爆発の規模はどんどんどんどん、どんどんどんどんと膨れ上がる!!
……あ、あれ? やりすぎちゃいました!?
しまった。力加減間違えました。
アクセルまで飲み込んじゃいましたけど大丈夫かな?
『魂』 「アクセル死す! 犯人は金髪の幼児だった!」
『理』 「あんれぇぇぇ? なんであんな初歩的なミスを?」
『命』 「新しい身体に慣れていない。初めての制限解除。ちょっと張り切りすぎた。つまり、うっかり」
『魂』 「そういえば、『理』のは運が悪かったのぅ」
『命』 「可哀想に。こんな欠点を引き継いでしまうとは」
『理』 「俺のせい!?」
変態 「いや、お前ら『物質』のの心配しねーの?」
アルマちゃんの爆裂魔法はアレで一発扱いです。