幻想郷は博麗神社。周囲には沢山の桜が綺麗に咲いている。各地から集まった皆がワイワイ叫んでいてとても楽しそうだ。というのも、今日は博麗神社で花見が開催されているからだ。様々な人や妖怪が一斉に満開の桜を背に語らい、笑い合うその姿は、見ていてなごやかな気持ちになる。
「あらあら、随分楽しそうね」
同じく自分の隣に座って周囲を見つける女性━━西行寺幽々子さんが、笑みを浮かべて話し掛けてきた。彼女も楽しそうである。
「はい、ここの花見は活気があって、とても楽しいのでつい……」
こんな大規模な花見は初めてだった。いつもは数人いた程度だったので、この光景を見た途端感銘を受けた。こんなに凄い花見が存在するのかと。
「それに、ここの桜は綺麗ですし、ただ見てるだけでも満足しちゃいますよ」
何より、ここは桜が美しい。その数もさることながら、それら全てが立派だ。これ程の桜を見られたことに感動すら覚えた。
「まぁ、一番は嬉しいのは幽々子さんと一緒に花見をできたことですけどね」
「フフ、嬉しいことを言ってくれるじゃない」
「ッ!?」
不意に、後ろからヒヤッとした感触を全身に感じた。その冷たさに体が震える。その理由は、もう分かってる。
「ちょっと幽々子さん、嬉しいからってここで抱きつくのは……」
「これくらいいいでしょ。なんならここで私達がどれだけ仲良しか見せつけてやりましょう?」
「それはまずいですって……」
白玉楼でやるならまだしも、ここは博麗神社で、沢山の人妖がいる。この状況を誰かに見られたなら、イジられること間違いなしだ。彼の巫女や白黒、文屋……数に限りがない。うぅ、面倒だ。
「バレたらどうするんです?色々と面倒じゃないですか」
「紫に知られてる時点でどうもこうもないと思うわよ?」
「あっ……」
八雲紫。幻想郷内では妖怪の賢者として知られ、その存在は神出鬼没。彼女は幽々子さんの親友で、白玉楼にもよく来る。紫さんとは何回か会っているが、毎回からかわれる。何が一番まずいかって言うと、紫さんは口が軽く、どこにでも現れること。しれっと話す可能性は大いにある。一番知られたくない人に知られたなぁ、とつくづく思った。
「でも、貴方って案外こういうの嫌いじゃないでしょう?だって抵抗しないもの」
「うっ、それは……」
幽々子さんの言う通り、こういうことは嫌いという訳ではない。寧ろ好きである。自分を好いて触れてくれるのは嬉しい。幽々子さんの冷たい肌が妙に心地よくて、気持ちいい。ただ、もの凄く恥ずかしい。隙あらば触れてくるし、当たる所はしっかり当たるし。とにかく、刺激が強すぎる。
「まぁ、嫌いではないですけど……恥ずかしいんですよ、凄く」
「やっぱり好きなのねぇ。貴方、口では恥ずかしがってるけど内心は嬉しそうだもの」
完全に看破されてた。ホント、幽々子さんって切れ者だな。いつもおっとりとした様子でいる人とは思えない。
「でも、こうして触れあってると私も嬉しいのよ」
「え……?」
唐突に、幽々子さんの声が悲しげなものに変わる。
「桜を見て思ったの。桜は満開になっても、すぐに散る。人も同じ、命は長くない」
「幽々子さん……」
それは事実だ。人間は妖怪のように永い年月を生きることはできない。妖精とは違い死という概念が存在する。そして、幽々子さんは亡霊だ。亡霊は未練を成就することで成仏するが、彼女は例外である。閻魔様から冥界の管理を任されていて、成仏することはできない。故に、幽々子さんは永遠の時を過ごす。
「だから、貴方が生きている内にもっと温もりを感じていたいの……」
幽々子さんはより強く自分を抱き締める。……そうか、自分のことをこんなにも想ってくれていたのか。それを感じることはあるが、今日程感じたことはない。だからか、生きて幽々子さんと過ごせる時間に限りがあることに歯痒さを感じた。だが。
「確かに、生きて過ごせる時間には限りがあります。でも、その時は俺を殺すなり何なりしてください」
「何言ってるの……?私は……」
「そうすれば、俺と幽々子さんはずっと一緒ですから……幽々子さんになら、俺は何されたって大丈夫ですから……」
幽々子さんには“死を操る程度の能力”がある。文字通り、対象を死に至らしめるもの。この能力によって殺された者は幽々子さんの支配下に置かれ、成仏できなくなる。この能力で死ねば、俺は亡霊として未来永劫幽々子さんと一緒に過ごせる。我ながら狂気的な考えだ。
「話がずれましたね、ごめんなさい」
「━━━━バカ」
「……?」
「バカ……それって死んでもいいって言ってるのと同じじゃない……!」
「ッ……!」
確かに、そうだ。自分は死んでもいいと言った。それは事実だ。
「貴方には生きていて欲しいの……それが、私の一番の願い」
幽々子さんは自分を亡霊にして永遠に、そして幸せに暮らせると知っている。それでもなお、自分に生きて欲しいと、そう願っている。子どものように泣きじゃくる幽々子さんを見ていると、それが痛い程伝わってきた。
「……幽々子さんがそう言うなら、そうします」
答えは、ただ一つ。肯定する以外に存在しない。幽々子さんがそう願っているなら、自分はそうあるべきだと心の底から思う。
「ありがとう……貴方、本当に優しい人だわ」
幽々子さんは微笑んで、感謝の言葉を告げる。その端正な顔で彩られた笑みはとても綺麗だ。頬に残る涙が、それに拍車を掛ける。咲き誇る桜さえ霞む程の美しさに、ただただ魅了されるばかりだった。
※※※
そんなこんなで、楽しい花見の時間が過ぎていった。ドンチャン騒ぎも今では静まり、皆帰り支度を始めている。それは俺らも例外ではなく。
「どう?今日は楽しめた?」
「はい、とても楽しかったです」
荷物をまとめながら、幽々子さんと他愛のない会話をする。本当に、今日は楽しかった。博麗神社の桜は、人里の桜を軽く凌駕していた。何より、幽々子さんと一緒に桜を見ることができた。それに、自分をどれだけ愛してくれているか分かった。これ程嬉しいことはない。
「で、幽々子さんは?」
「う~ん、そうねぇ……」
幽々子さんが、いつになく真剣に考える。なんだか……嫌な予感がしてきた。
「あ、そうそう!貴方、さっき何されてもいいって言ったでしょう?」
「━━ッ!!」
はい知ってた。絶対にこんなこと言う気がしてましたよハイハイ……はぁ。
「いや、それはアレで……」
「言ったからには、とことん付き合ってもらうわよ?」
「……はい」
幽々子さんには逆らえない。まぁ、それはそれで役得……なんて最近は思ったりしてる。
「じゃあ、まずは……」
早速何か言う気だ。もう、何も言うまい……。
「━━━━これから私とずっと一緒にいなさい。約束よ?」
幽々子さんの口から放たれた言葉は、予想外のものだった。余りにも予想外過ぎて認識に少し時間がかかった。
「……はい!」
「これからも、改めてよろしくね?」
……幽々子さんに振り回されて過ごす毎日も悪くないかなって、ちょっとだけ思った。
どうも、儚夢想です。
春と言ったら桜、桜と言ったら幽々子様……と思って我慢できなくなったので書きました。後悔はしてません、えぇ、してませんとも……。今回は桜が満開の時に投稿してやるぞと意気込んでたら案の定遅れました。今や葉桜です。早いもんですねぇ。これも全てモンスターハンターダブルクロスって奴の仕業なんだ(こじつけ)。次回書く時は予定通りに投稿したいです(できるとは言っていない)。
それではこの辺で。楽しんで頂ければ幸いに思います。