「はぁ~」
熱い湯船に浸かる。全身がみるみるうちに温まり、体内の血液が活発に動き、意識が少し興奮気味になる。
白玉楼の風呂は露天風呂である。屋根も囲いも存在せず、冥界の空や屋敷の庭の景色をそのまま見ることができる。
そんなわけで、難しいことを考えずにただぼーっと桜を眺める。夜の帳が下り、暗くなる時分だというのに桜はハッキリと視認でき、その凄まじい存在感を放っている。今では花が散って葉が増えたが、それでも美しさは健在だ。優雅に咲き誇る姿とは違ってどこか切ない気分になるのも葉桜の魅力だと思い、センチメンタルになる。
────そう、こうして夜桜に見惚れていたために、その存在に気づくことができなかった。
「ウフフ♪」
その笑い声を聴いた瞬間、全身が総毛立つ。熱湯に浸かっている筈なのに悪寒が止まらない。理由は考えなくても分かる。考える必要なんて無い。理由はいつだってただ一つ、変わらないのだから。
「来ちゃった♪」
「幽々子さん……!」
風呂の入り口の方を振り向くと、タオルを巻いて胸から太ももを覆う幽々子さんが立っていた。普段着ている露出度の低い着物でも凄まじい身体を隠せていないのに、タオル一枚という非常にセンシティブな格好ではいつも以上に目のやり場に困る。良くも悪くも刺激的だ。
「私と貴方の仲よ、混浴くらい問題無いでしょう?」
「俺からしたら大問題です!」
「そう言っても嫌じゃないのは分かってるわよ。案外むっつりよね、貴方」
「うぐぐ……」
自分も健全な男、女性の身体を見れば当然興奮する。そして幽々子さんとなると話。話が違ってくる。愛する人の身体とあらば、その興奮は何倍も増し、計り知れない。できることなら完全なる黄金比のように綺麗な身体をまじまじと見たいという衝動に駆られる。だから、幽々子さんの言うことは正しい。残念ながら否定することができない。
「っ……!」
そして、ここである事実に気づいてしまった。
────隠すものが一切無い。
普段は幽々子さんの乱入を想定してタオルを持ってくるのだが、今日は不幸にも忘れてしまった。この状態では色々と不味いことになる。幽々子さんに見せないようにして取りに戻るか──と思った時だった。
「安心しなさい」
そう言って、幽々子さんは振りかぶって何かを投げてきた。それは薄い布のようなものにも見えた。
「洗面所に置いたままだったから持ってきたわ。いつもここに持っていってるでしょう?」
「あ、ありがとうございます!」
その正体はいつも使っているタオルだった。幽々子さんに見られないように、即座に腰に巻く。
幽々子さんの機転によって最悪の展開は回避できた。もし持って来てくれなかったらとんでもない大惨事になっていた筈、色々な意味で。想像すると恐怖が止まらない。本当にありがとうございます、幽々子さん。感謝してもしきれません。
……なんて束の間の安心に浸る中、次の幽々子さんの発言が、新たな恐怖を自分にもたらすのだった。
「────さて、これで解決したし、背中でも洗ってくれるかしら?」
まさかのスキンシップ要求である。
「もし嫌って言ったら?」
「貴方のこと嫌いになっちゃうかもね」
「……その言葉はずるいと思います」
例え冗談であろうと、そんなことを言われたら大人しく従うしかない。この人、本当によく自分のことを理解している。言われたら嫌なこと、幽々子さん無しに生きられないこと、その他諸々。
そんなことを考えながら、幽々子さんの後ろに移動する。それを確認した幽々子さんはタオルを外し、全身の肌を完全に露出した。
「丁寧に、優しくね。女の子の身体なんだから」
こうして間近で見ると、幽々子さんは白く透き通るような肌をしている。まるで上質なガラス細工を鑑賞しているような気分だった。非常にきめ細かく、輝いているように感じる。最早、一種の芸術品と言っても差し支えないレベルのものだ。同時に、少し力を入れれば砕け散ってしまうような、そういった脆さや儚さも内包していた。
近くに置いてある石鹸を取り、泡立てる。それからできる限り優しく、丁寧に、彼女の雪のように白い肌に触れる。
幽々子さんの肌は柔らかく、ちょっとした弾力がある。絶妙な触り心地であり、中毒性があるように思える。もっと強く触りたいという欲をなんとか抑えつつ、背中に泡を馴染ませる。
「フフ、やっぱり良いわ、貴方の手付き。とっても優しくて安心できる」
「そう言ってもらえるなら何よりです」
「じゃあ、マッサージもお願いできるかしら?揉んで欲しい所があるの」
「は……!?」
唐突の言葉に、思わず怯んだ。マッサージ? 揉む? 女性の身体で揉むような場所といえばあそこしか思い浮かばなかった。
────本当に、揉むのか? そんなことをしてもいいのか? 幽々子さん、もしかして酔ってます?
様々な考えが頭をよぎる。これからどうしろというのか、行動は慎重に判断する必要がある……とか何とか考えていると、幽々子さんが口を開いた。
「ねぇ、揉むのは肩よ? もしかして“そっち”の方を想像しちゃった?」
「……男はそういうのに弱いので止めた方がいいと思います。何が起こるか分かりませんよ?」
幽々子さんの思わせぶりな発言を諫めると同時に、己の愚かさに心底落胆するのだった。こういう状況になると酷く視野が狭くなるのは自分の悪い点だと改めて理解した。
「大丈夫よ、貴方はそんなことしないって分かってるから」
「そうとも限らないかもしれませんけど」
「────貴方は私に対して負い目がある。だから、私には絶対にそういうことはできない……違う?」
「……流石ですね。その通りです」
ここまで言い当てられるといっそ清々しい。心を読んでいるのかと錯覚してしまうほどの洞察力の前では隠し事もできない。
確かに、自分は未だに幽々子さんに対して負い目がある。自分のような人間如きでは彼女とは釣り合わないと思っている。これは自分を認めてくれた妖夢や紫さん、何より幽々子さんに失礼である。早急に払拭しなければいけない考えだ。
「……今はまだ、幽々子さんの想いを全て受け止めることはできません。でもいつか──きっといつか、ちゃんとその想いに応えてみせます。できる限り長くならないように努力します」
「その言葉、信じてるから。女の子を待たせちゃダメよ?」
「はい!」
幽々子さんの隣で心の底から笑い合えるように────そんな決意を込めて、威勢よく答えた。後ろからでは幽々子さんの顔は見えないけど、きっといつものように笑っているだろう。その笑顔に報いるためにも、自分は頑張らなければならない。
「……だから、早く肩を揉んでくれると嬉しいわ。私の想いに応えたいのでしょう?」
「……本当にずるい人ですよね、幽々子さんって」
「人聞きの悪いこと言わないで頂戴。愛するが故の優しさと言って欲しいわ」
「……そういうことにしておきます」
他愛のない会話を交わしながら幽々子さんとの混浴を楽しむ。こういう何気ない雰囲気に包まれていると悩んだり苦しんだりするのが馬鹿らしくなる。これからも、一緒に明るく楽しんでいこうと改めて決意した。
因みに、幽々子さんの肩の揉み心地はとても良かった────。
明るい雰囲気になるよう心掛けて書いたら???って感じになりました。過去の自分はどうやってクリスマス回みたいな明るいはっちゃけた話を書いたんでしょうね。一時のテンションによる爆発力は凄いんだなって思いました。
あと、今回は混浴ということで幽々子さんの身体の特徴を頑張って書きました。やっぱり、その、凄く凄いです(語彙崩壊)。推しを美しく描写するのはとても難しいですね、まだまだ実力不足が否めないです。
それではこの辺で。楽しく読んで頂けたら幸いです。