「今日は十五夜よ」
幽々子さんに言われて、今日が十五夜────中秋の名月だということに気が付いた。
「言われてみれば、最近満月が近づいてきましたね」
「お団子の用意、大丈夫?」
お月見に団子は欠かせない。白玉楼には健啖家の幽々子さんがいるのだから尚更必須である。
「あー……」
「まさか、できてないの?」
ここ最近は大きな動きが無かったから、年中行事の準備を怠っていた。恐らく妖夢が準備をしてくれた筈だ。そうだと願いたい。
「いや、多分準備はできてたと思います……多分」
「今すぐ確認してきなさい」
普段は呑気な幽々子さんも、食べ物が絡むと非常に真剣になる。ただ食い意地を張ってるだけなのだが。まあ、いつものことだと軽く流す。こうでもしないとこの白玉楼では過ごせない。
「じゃあ、先に縁側の方に行っててください。あったら持ってくるので」
「は~い」
先に幽々子さんを縁側に向かわせて、自分は団子があるかどうか確認しに台所へ向かう。
「頼むぞ……」
だらけてばかりの自分や幽々子さんと比べ、妖夢は生真面目でしっかりと働いているのだ。団子はきちんと作ってくれたに違いない。
※※※
「幽々子さん、月は出てますか?」
「えぇ、ばっちりよ」
幽々子さんが空の方に指を差す。その先には煌々と輝く満月があった。雲一つ無い綺麗な晴夜で、月を遮るものは何も無い。中秋の名月と呼ばれるに相応しい、非常に美しい光景だった。
「で、お団子は?」
「はい!」
後ろに隠していた団子の乗った皿を彼女の隣に置く。事前に準備してくれた妖夢に最大限の感謝と謝罪を抱く。後で何かお礼をしなければ。そして、次の年中行事はしっかりと確認して妖夢の手を煩わせないようにしよう。
「うふふ、お団子~♪」
「妖夢が作ってくれたんです。俺がちゃんと用意していればこんなに慌てる必要は無かったんですけどね……本当にすいません」
「丸く収まったから大丈夫よ。満月だけに、ね?」
幽々子さんは洒落たことを言って、団子を一つ口に入れる。
「美味しいわ~!」
やはり妖夢お手製の団子なだけあって、味は一級品のようだ。幽々子さんは満面の笑みで団子を食べている。そんな表情を見ていると、団子がどれほどの味なのか気になってきた。一つ手に取って、彼女と同じように口の中に入れる。
「これは……!」
外見は普通の団子だった。たれが掛かってる訳でも、胡麻や砂糖がまぶしてある訳でもなかった。しかし、どういう訳か噛むと甘みがあった。団子の中に餡子が入っていたのだ。
「流石妖夢ね!」
「はい。本当に妖夢のセンスには驚かされます」
非常に手の込んだ作りにだた圧倒された。本当に妖夢には感謝してもしきれない。
「綺麗な月の下で大切な人と食べるお団子は美味しいわね」
「俺もです」
幽々子さんと月を見ながら食べる団子はいつも以上に美味しい。冥界に来なければこのような体験をすることは絶対に無かったと断言できる。外の世界にいた頃はこのような生活をできるなんて考えられなかった。
「どうしたの? そんなにぼんやりしちゃって」
「いや、何でもないです!」
自分は本当に幸せ者だと思う。大切な幽々子さんと共に過ごし、笑い合っている。それが心の底から嬉しくて、明日も生きようと頑張れる。
月は変わらず輝いている。その光に当てられた彼女の笑みはどんなものにも負けない素晴らしい表情だった。