強制ミュートメモリー   作:バンビーノ

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《フルボイスのシナリオモード!ただし強制ミュート》みたいなっ!

 人生はクソゲーという言葉は耳によく入ってくる。

 俺としてはリセットボタンもなく、それなりに苦しいことはあれど、それ以上に楽しいことある人生をクソゲーなどと思うことはなかった。

 

 なかった、過去形だ。

 人生をクソゲーと例えるなら俺のクソゲーはまだリリース前だった。こう、なんかリリース前の期待値の高いシーズンだったんだ。事前登録とかでそこそこ盛り上がってるシーズンだったんだ。

 ただ、リリースは唐突だった。

 

 他では対抗できない絶対的な戦力、唯一無二の代替えの効かない兵器。それひとつで一国を落とせると謳われたソレ。

 ──IS、正式名称インフィニット・ストラトス。

 たった一機、これが世界に姿を見せた日に世の中のパワーバランスはひっくり返された。数千のミサイルを撃ち込もうが、数百の戦闘機を繰り出そうが、IS一機に制圧された。ただのひとり、死傷者を出すことなくだ。

 

 超近代的お伽噺じゃないの? と数年前の俺なら言っていた。けどそのすっとんきょうな事件は実際に起きたし、そのあと世界に大きな波紋を残した。波紋というか傷跡というか。性別によっては大きな恵み、反転して性別によっては大きな損害だったかもしれない。

 

 ISは女性にしか扱えない。製作者が意図して設定したのか、未だに謎が多いとされているブラックボックス的なところに元よりプログラミングされていたのか。

 しかし、事実として女性にしか操縦できず、つまり世界最強の兵器を扱うのは女性。結果的に男性は守られる立場という枠に押し込まれることとなった。

 男からすればとんでもない欠点、女性としてはこれ以上ないメリット。かつての社会的風潮を裏返したかのような女尊男卑と移り変わった。

 

 それがISが世の中へ進出してからの常識、不動の現実だった。だった、これまた過去形。あと一歩で現在形。

 つい先日、織斑一夏という男子学生がISを動かしてしまった。世間はもちろん大慌てだ。男は一縷の希望に、女は己の地位を脅かす存在に。そして行われた男性IS操縦者の炙り出しとでも言えるかのような、全国での男性のみのIS適性テスト(強制)。

 

 連日に渡って行われているこのテストだが未だに織斑一夏以外に動かせたというニュースはなかった。

 どうせ動くはずない。俺は目の前のISを見上げ、この無駄になる時間を惜しんだ。受験が終わってからのせっかくの自由時間、満喫したいに決まってるだろう。予定? 家で親に勉強しろとせっつかれることなくゴロゴロする予定が台無し。

 こんなテストは人生にとって意味のあることなのかな、私は悲しい。とか言いつつカンテレだか竪琴をポロロンと鳴らしたかった。

 

 俺の目には記念にもならない、時間を浪費するものとしてしか写らないIS。さっさと終わらして一刻も早く帰ろうとぞんざいな気持ちでIS(それ)に触れる。触れてしまった。

 

 

 ──触ったフリで終わらせなかったこと、それがクソゲーリリースの引き金となった。

 

 

 

 ISに触れたときハイパーセンサーによって視野は広がり、鋼の脚の高さだけ目線は高くなった。世界が広がる、今までの生活とはステージが変わったとなんとなく感じるほど、高揚感にほんの一瞬満たされた。ほんの一瞬だけ。

 なんか音が聞こえなくなってるんですが、ISってこういうもんだったっけ。違うよな、世界最強で蝶最高と謳われる兵器がこんな欠陥秘めてるとか聞いたことねぇもん。病気引きずって超人になったパピヨンだって五感は健在だったぞ。

 周りが慌ただしいのに声もなにも聞こえないからサイレント映画のよう。色彩認識までなくなってたら完全にそれだった。

 

『今すぐ降りなさい!』

 

 試験官が寄ってきた。なにも聞こえないがジェスチャーで手のひらを下へ向かわせ、大きく手招きをしているようなので近づく。指示には従うべきだろう。

 

『ちょっとなんで寄ってくるのよ!? 降りなさい! 降りなさってぁぁぁあああ!?』

 

 いつまでたっても制止しないもんだから壁とゴシャった。危うく女性を潰しかけたが何がしたかったのかこの試験官。地団駄踏んで頭上で手をクルクル回して愉快なダンスってるし。

 取り敢えず聞こえないアッピル。耳に手のひら当てて政務活動費を私的に使った政治家のような顔をすると更に謎ダンスが激しくなった。

『なに!? あんたIS動かせたからって調子のってんの!?』

 何言ってるかサァーパッリよ。ただ顔見たら激おこなのはわかった。それしかわからないとも言う。そうとしか言えない。

 

 サイレントジェスチャー試験官と戯れること数分、いざというときのために控えていたというIS乗った方に取り押さえられた。三回くらい試験官轢きかけた、ソーリーソーリー反省してる。

 

 その後は耳が聞こえないことを理解してもらうのは簡単だった。耳が聞こえなくても喋れなくなったわけじゃないもんな、初めから口使えばよかった。急な事態で口の前に頭が働いてなかったんだ。まぁ、今は何故か耳が聞こえんので発音がおかしかったかもしれないが、そこは許してほしい。耳が聞こえないまま話すって存外難しいのな。

 

 紆余曲折はあったがISを降りた。降りても耳が聞こえなかった。ここまでくると、さすがにISに疎い俺でもおかしいと確信できる。

 隣では、はてなと疑問符とクエッションを頭の上で踊らせるIS整備士に操縦者、試験官とがパネルを叩いてるがなにも変わらなかった。真剣な視線が徐々に焦りを帯始め、最後には憐れんだ視線を向けてきよった。おこだった試験官までそんな目をするとかそんなに深刻なの? ヤバいの?

 

 

 ヤバかったらしい、病院に有無を言わさず連れていかれた。MRだかCTだかよくわからない検査にスキャンをされて、視診聴診打診とされるも医者の顔は晴れない。俺の顔も晴れない。IS乗れた瞬間のハレルヤな気持ちはどこいったのか。

 長らくかかった診断後に医師のもったボードには簡潔に一言。

 

《理由不明だけど耳が聞こえることはもうないだろう》

 

 ISに乗れたことによってブレイジング(焼けつくような)メモリー(記憶)で彩られるはずだった俺の人生。

 それは原因不明の不具合により強制ミュートメモリーに成り下がった。

 

 あぁ──

 

「人生はクソゲーだぁ!」

 

 リセットボタンどぉーこ、だッ!

 

 

▽▽▽▽

 

 

 静けさが覆い尽くした教室のなか、騒がしい景色が鬱陶しい。我ながら意味不明な文章だけど、結局聴覚が治らなかったんだから仕方ない。

 女三人よれば姦しいとは言うものの、クラスの9割以上が女なこの室内はどう表せばいいのか。姦しいと表すにも、耳は聞こえないから不適さしかないけど。

 

 だが問題はない! 何を隠そう俺は読唇術の達人! 視覚さえ生きていれば十全、所詮聴覚など五感のなかでも最弱よ……そう思うじゃん?

 自己紹介が始まると最後列よりひとつ前の俺はほとんど皆の顔が見えなくて、もう誰が誰だか趣味はなんなのか丸っとわからなかった。唇すら見えないとか予想外。

 

 辛うじてわかったことはもう一人の男子生徒が自己紹介していたとき。後ろから入ってきた教員にしばかれたアイツは『なにしやがる!?』的な反応をしてもう一度出席簿で打たれたこと。表情と教師の反応的に間違いないだろう。

 読唇術? 角度が悪かった、決して読めなかったとか読唇術を習得してなかったわけではない。まあ、出来れば筆談が楽でいいよね。

 

 後ろから不意に肩を叩かれた。教室を見渡せば、好奇心にまみれた視線が集まっていること。後ろの子を見ればわかりやすく口を動かしてくれている。

 

「────」

 

 い、お、お、う、あ、い。読唇術完了! 母音しかわっかんねーわ!

 何度か同じ単語を繰り返し口にしてくれる彼女だが読唇術のアマであった俺には子音までは読めない。少し思案した彼女は背中に指を沿わせてきた……これは小学生のときとかよくやったあれだ。背中に文字を書いて伝言ゲームするやつ。妙なくすぐったさと周りの視線に耐えつつ書き終わるのを待つ。

 

 じ、こ、し、ょ、う、か、い。

 

 ああ、自己紹介の番が回ってきたのか。センキューと礼をいうと軽くお辞儀をされた。親切な子だと思う、でも筆談でもよかったと思うのは無粋なんだろうか? 発音が乱れないように喉の震えを気にしつつ、そんなことを思う入学初日の朝。

 

『座右の銘は百聞は一見にしかず、なにせ耳が聞こえないから!』

 しかし、このジョークは受けなかった。皆に視線を逸らされた……渾身のネタだったのにな。

 

 

▽▽▽▽

 

 

 同室の織斑一夏とは仲良くなれた。わざわざ手頃なメモ帳を用意してくれたお陰で意思疏通に困ることはなかった。授業で教師が言ったことはノートに取り、あとで見せてもくれる。手間だろうからそこまでしなくていいぞと伝えれば、水くさいこと言うなよ友達だろ! というメモに爽やか笑顔。

 なにこのイケメン、ちょっと惚れそう。

 

 他にもクラスメイトのなかには手話を使ってくれたりする人もいた。優しさに涙が出そうだ。でも俺が手話わからないんだ、涙が零れちゃう。後ろの子だけは何故か背中に文字を書くという手段しか取らないけど、まぁ伝わればなんだっていっか。

 

 今はホームルームではクラス代表を決めている。前のボードに書かれた文字でそれだけはわかった。後ろの子がリアルタイムで話してるであろう内容を背中に書いてくれる……助かるけど話聞けてるの? なにやら一夏と俺が他薦されたとかなんとか。こんな耳聞こえない奴を選ぶとかどうかと思う。

 話を聞かない、もとい話を聞けない独裁者的なクラス代表になっちゃうよ。やってほしいならやるけど、どうせクラス代表っていっても先生の手伝いとかの雑用とかだろう。

 

 背中の筆談の問題点はこっちから意思表示できないことだよね。実況見てる気分。ただしリアルタイムで自分が関わってるって落とし穴。

 

“お待ちください! そんな凡夫がクラス代表になるなど納得いきませんわ!”

 

 背中にツラツラと書かれる内容が急にお嬢様口調になった。流れ的に立ち上がった金髪ロールの台詞だろうけど、外国人がこんな“ですわ!”とか言いそうな口調なわけないだろ。後ろの子がちょっと遊び始めたに違いない。しかし、なんか雰囲気的には似合ってて笑ってしまう。

 一夏がそれに反応して言い争いが始まった。ふたり分の台詞が背中に伝えられ、情報量が一気に増えるが典型的なお嬢様っぽさに楽しくなってきた。ゲームでしか見たことねぇもん。

 

“このような島国の猿に任せるなど恥ですわ! それにあちらの方は耳も聞こえずどうやって勤めるつもりですの!?”

 

 猿とか言われたでござる。まさに聞か猿なんつって……あれ、今の台詞って俺に向けられたのか。ビシィッ! と人差し指が俺に向けられてるし、如何にも異議あり! って感じ。法廷でやってろ。

 

 耳聞こえないのに声でコミュニケーション取ろうとしないでほしい。バッチリ目があったけど聞こえてないので華麗にスルー。背中に伝わる内容はヒートアップしてるけど聞こえていないから反応できなくても仕方ない。というか途中で“手が疲れてきました”とか明らかな感想が混ざってきた。お疲れさまです、ありがとう。

 

 気づくと織斑先生が横に立っていた。手で荒々しく破ったメモ用紙が机に置かれる。一夏と金髪っ子はいつの間にか口をつぐんでいる。

 

“クラス代表をやる気はあるか”

 

 一言だけ書かれたメモ用紙に織斑先生の顔を見るもポーカーフェイスは崩れない。蛍光灯に透かすが別になにも浮かばない。まぁ、やっていいかやりたくないかってことでいいのか?

 別にやってもいいっすよーと返事する。一夏と金髪お嬢様からは嘘だろお前!? って視線が集まったけどクラス代表って雑用するくらいだろうに。それくらいはやるよ……え、なに? 違うの?

 

“ではお前と織斑、オルコットの三名で総当たりの試合を行う。勝者がクラス代表、以上だ”

 

 追加で置かれたメモ用紙の内容が明らかに今までの話と繋がってない。いきなり世紀末みたいな発想になった。ヒャッハー!

 待って試合ってなに、明らかに情報が足りてない! 背中からのメッセージが不足してる気がしてならない!

 振り返っても素面で首を傾げられた。一夏を見たらお互い大変なことになったなって顔向けられた。違うから待ってくれ、大変な事態なことだけわかってるけど、なにが大変なのかわかってないから。テスト前にヤバイと思うけど、どこの範囲がヤバイかわかってない学生並みにわかってないの!

 

 あ、ISでの試合でクラス代表を決めるんですか。じゃあ、俺は辞退しま……え、駄目なんですか。始めに言った? 聞いてないよ! てか聞こえてないよ!

 

 

 

 やっぱり人生ってクソゲー。

 




ここまで読んでくださった方に感謝を。
一年足らずで終了したブレ○ジング・○モリーとは関係ないです。
ブ○イジング・メモリ○は関係ないですがフルボイスをリリース前から謳い、ストーリーでは強制ミュートになるソシャゲが発想の元です。続きは考えてません。
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