Monster Load ~Over Hunter~   作:萃夢想天

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御存じの方はお久しぶりです。そうでない方は初めまして。
残り少ないわずかは日々を怠惰に過ごしてしまっている萃夢想天です。

前々から書きたかった作品を、息抜きのために短編として書くことにしました。
これなら友人にも怒られなくて済みそう………済む、かなぁ(絶望


本作はタグの通り、残酷な描写やモンスター無双が非常に目立つ作品なので、
グロに耐性の無い方や俺の知ってるモンスターと違うという方は、悪い事は
言いませんので、ブラウザバックを推奨します。
読んでくださるアダマンタイト級冒険者並に心の広い御方は、どうぞこのまま
作品を閲覧なさって下さいませ。

加えて本作は、書籍版を御読みでない方には少々ネタバレが過ぎる可能性が
ございますので、そちらを御了承ください。


それでは、どうぞ!





アゼルリシア山脈・異世界の轍

 

 

 

"異変"というものは、本来であれば中々気付きにくいものだ。

 

何かが変わっている場合もあれば、何もかもが変わっている場合もありうるのだから。

 

そしてそれは、誰の身にも起こりうるからこそ、無自覚に受け入れざるを得なくなってしまう。

 

 

 

これは、魔王が世界に君臨させられようとする裏側で起きた、知られざる"異変"を紡ぐ物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレはふと、目を覚ました。

 

理由は特にない。充分な睡眠を取ったからでもあるし、空腹によって身体機能が栄養を欲したから

とも言える。とにかくソレは、それまで浸かっていた湯船のような微睡みから意識を揺り起こし、

真横を向いていた自分の身体を立ち上がらせた。そこでソレは、あることに気付く。

 

___________ここは何処だ?

 

 

ソレは周囲を見回し、自身の記憶の中にある生息域から現在位置を割り出そうとするが、

今自分がいる場所にソレは一度も来たことが無かった。というより、存在していなかったのだ。

普段ならば、溶岩があちこちから噴き出している火山地帯にある、噴火が止まった小さな火口に

寝転がっているというのに、現状はまるで違う。うだる様な暑さも、流れる溶岩も、何もない。

変わらずあるのは見渡す限りの岩肌ばかりだが、これらもどこか、自分のいた場所とは若干の

違いがあるように思われた。自分の生息域とは違う環境に自分がいる変化に、ソレは混乱する。

 

 

___________ここは何処だ?

 

 

再び自身の中にある記憶に問いかけるものの、明確な答えは出ない。ソレは考えることを諦めた。

いくら考えても分からないことは分からないし、時間の無駄だ。この世界では、生きる事以外に

時間を割いている余裕がある者など存在しない。そんな事をするものは、誰しも命を落とす。

『弱肉強食』こそ自然の摂理であると、ソレは理解していた。

ただ、ソレの場合は肉ではなく鉱石こそが(・・・・・)食べるべきものなのだが。

 

ソレは生きる事に必要な、食べるという生存本能からくる欲求を思い出し、行動に移す。

まずは身体を動かして、何処にあるかも分からぬ餌場へと向かわねばと、その鈍重な巨体を

揺すりながら両の足で大地を踏み鳴らす。それにしても、この洞窟のような場所は窮屈過ぎる。

 

 

___________掘って抜けるか

 

 

生物としての進化を遂げて以来の特技の一つ、地面に穴を掘っての移動をここにきて思い出し、

ソレは自分の目の前の地面に向かって、その強靭かつ分厚い、鎚のような顎を突き出してみる。

すると思っていた以上に地盤が柔らかく、自分が生息していた場所の地盤より掘りやすい事が

分かったソレは、さながらシャベルのようにして地面をどんどん掘り下げて進んでいった。

 

身体がすっぽりと覆えるほどの深さまで達したので、今度は進む方向へ向けて顎を突き出す。

これまで自分がいた生息域では、格好の餌場として認識していた場所からは磯の香りがしていて、

それを頼りに掘り進んでいった記憶がある。火山地帯では滅多に見ない、水が大量にある場所だ。

 

ちなみにそこは、人間という知性体から『海』と呼ばれるエリアの一部だったのだが、もちろん

今地面を掘り進もうとしているソレが、知る由も無い。

 

どうにかして体内から湧き起こる食欲を満たさねばならない。しかし肝心の餌場が分からない。

見知らぬ場所に自分がどうやって来たかも不明なのに、都合よく餌となる鉱石が散らばっている

場所など、それが知っていようはずもないのだが、不意にソレの聴覚に音が響いてきた。

 

 

__________何かがいる

 

 

巨体を覆い隠すほどの深さまで地盤を掘ったためか、そこを振動が伝わって音を届けてきていた。

聞こえてくるのは様々な種類の音だが、ソレにはこういう乱雑な音を立てる者に心当たりがある。

二足歩行で大地に立ち、様々な種類の生き物や鉱物の匂いのついた外殻をまとった、小さき者。

一番上が小さく丸く、真ん中が一番大きく、そこから生えた二本の足と二本の腕を持った者たち。

 

ソレが唯一天敵と認めた存在。ソレは知らないが、彼らは『狩人(ハンター)』と呼ばれる人間である。

 

そいつらは小さいながらも四匹程度の群れで、こちらを見るなり様々な方法で攻撃を仕掛け、

世界を真っ白に染め上げる物や、強烈な臭いを発する物を投げつけたりして自分を苛立たせる。

的が小さい分こちらの攻撃が当たりづらく、そいつらは数に物を言わせて囲んでくるなど、

一匹一匹は大したことがないのに、群れとして襲ってくると厄介な一面を持っているのだ。

 

それらと他の巨体を持つ者とが戦う時、今も響いてくるような硬い物をぶつける音が聞こえる。

目覚めた時に周囲の環境がほとんど変わっていても、アイツらはいなくなってはくれないらしい。

ソレは元々、自分の食事の邪魔さえされなければ手を出そうなどとは考えていなかったのだが、

どうもアイツらは自身の背にある物体が欲しいらしく、有無を言わせずに痛みを与えてくる。

 

 

__________先に潰しておくか

 

 

どうせ向こうはこちらを見るなり襲い掛かってくるのだから、こちらから攻めても同じだと

考えたソレは、聞こえ始めた時よりも激しくなっている音の方向へと、突き進んでいった。

 

顎を前に出して地面を掘削し、掘り進む。単調な作業だが、ソレはあまり得意ではなかった。

あくまで出来ると言うだけで、好んでやるやり方ではない。ソレが本来する移動の仕方は、

全身を内側に折りたたむような姿勢に、つまり車輪のような形状になって地面を転がっていく

方法なのだ。今は狭くてそれが出来ないため、仕方なく地面を掘り進む方法を選択している。

 

ガスガスと地盤を削り掘っていくうちに、とうとう音の聞こえていた地点の近くに到達した。

ところが、接近するまではあれほど響いていた音が、今ではまるで嘘のように静まっている。

どれだけ聴覚に意識を向けても、何も聞こえてこない。一体この大地の上で、何が起きたのか。

気になったソレは、顎を前から上へと向けて突き出し続け、数秒の後に地表へ浮き上がった。

 

完全に全身を地中から地上へと出し終えたソレは、眼前に広がる光景を奇妙に思った。

 

 

__________コイツらは何だ?

 

 

ソレが予想していたのは、幾多の生物や鉱物の外殻をまとった小さな生命体だったのだが、

現在目の前にいるのは、やたらとずんぐりむっくりな体格の者と、全身毛だらけの者のみ。

 

自分が警戒していたアイツらは何処にも見当たらない。では、あの音はコイツらが原因か。

何故か自身を見上げたまま硬直している者たちを見下ろすソレは、そこまで思考を巡らせて、

どうやら見当違いだったようだと自己の中で折り合いをつけると、すぐ別のことを考える。

目下のところは生きるために必要な食糧、つまりはある程度の純度を保った鉱石類だ。

自分の好物である重金属類を含んだ鉱石が欲しい。自身の中にある食欲に素直になった

ソレは、いわゆるレアメタルと呼ばれる鉱物を探るべく、その自慢の嗅覚を頼る事にした。

そしてソレは、ある事に気付く。

 

 

__________匂いだ、イイ匂いがする

 

 

幾多の鉱石類を嗅ぎ分けられるソレの嗅覚が、食べられそうな物の匂いを即座に探知する。

だが、漂ってくる仄かな香りは、やけに近く多く感じられる。すぐそばにあるかのように。

 

自身の嗅覚が感じ取った匂いを追って、その方向へと視線を向けてソレは驚く。

眼下に見下ろす毛むくじゃらの小さな生き物から、鉄やライト鉱石の匂いがしてくるのだ。

隠し持っているわけではない。コイツら一匹一匹の体そのものから、微かに香ってくる石の

匂いを再度嗅ぎ分けて、やはり間違いない事を知る。その瞬間、ソレの食欲は限界を迎えた。

 

 

__________ああ、美味そうだ

 

 

目が覚めてから何も食っていなかった事を思い出したソレは、餌を前に高らかな声を上げる。

自分の胴体と長さも太さもさして変わらない尻尾を張り、口腔を上へ向けて内なる衝動を

解放するような雄叫びで大地を揺るがす。そこでソレは、ここが初めて"外"ではないことを

知ったのだが、次々と湧き上がってくる貪ることへの欲求を、抑える気にはなれなかった。

 

自分が歓喜の声を上げた後で、毛むくじゃらの小さな生き物が何故かこちらに迫ってくる。

どうやらコイツらも、あの二足歩行する天敵たちと同じように、自身を狙う存在らしいが、

その身体から漂ってくる食欲をそそる匂いを前に、ソレは我慢できずに顎を振るった。

 

途端、跳びかかってきていた毛むくじゃらの内の一匹が潰れ、真っ赤なモノに成り果てる。

 

普段口にしている鉱物に比べれば柔らか過ぎるが、それでもやはり香りは本物だった。

生々しいピンクの臓物や、赤い血が数秒前まで流れていた故に赤い肉片からはちゃんと、

好物である鉱物の匂いが漂ってくるのだ。見た目は悪いだろうが、この際食えればいい。

そしてソレは、続けて跳びかかる三匹を尻尾の薙ぎ払いで岩壁に叩きつけて潰し、

一番最初に物言わぬ肉塊へと変わったモノへ顔を近付け、顎で器用に口腔内へ流し込む。

 

 

__________ああ、美味い

 

 

いつもならバリボリという小気味良い音と感触が、自分の口の中で鳴り響いているのに、

今口に入れたものはベチャッ、ブチュッ、と不快な音を立てるだけで、硬さが足りない。

しかし、それを補って余りあるほどの味覚への満足感に刺激され、ソレは無心で喰らいつく。

最初に潰したモノはたった一口で終わった。次に潰したのは、あの壁に埋もれた三匹か。

岩壁に亀裂を生みながら沈んでいた三つの赤いモノへ、ソレは近付いて口を大きく開き、

周囲にある岩や石ごと豪快に飲み込んでいき、溢れ出た赤い鉄分の汁が吹きこぼれていった。

生物独特の生臭さと、鉱物特有の岩臭さとも言うべき匂いが、ソレの口内から立ち昇り、

同時に生きている間には絶対に聞きたいとは思えないほど、耳障りな咀嚼音が漏れ出る。

 

たった三口で岩壁の餌も喰らい終えたソレは、物足りなさを訴えようと体の向きを変え、

一様に震えたまま棒立ち状態になっている毛むくじゃらの大軍を見て、笑みを浮かべた。

 

 

__________まだこんなにいるじゃないか

 

 

四匹程度じゃ腹の足しにもならない。ここにいる全部を食べて、ようやくという程度と

認識したソレは、口腔内からだらしなく垂れている涎と鉄汁を気にする素振りも見せず、

こちらに背を向けて一斉に逃げていく毛むくじゃらに向かって、その歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アゼルリシア山脈の内部にある鉱脈に沿って暮らす種族、【ドワーフ】

彼らの体躯は、分かりやすく言えば雪だるまに近い。(ひげ)をたっぷりとたくわえた顔に加えて、

食べ過ぎの中年男性のような太っ腹、短いと言うより短すぎる手足など、想像するには苦労を

しそうにないほどイメージしやすい種族であろう。そんな彼らは今、危機に瀕していた。

 

彼らは元々、鉱脈とともに生きる種族で、基本的な暮らしの拠点は当然地下にある。

小柄な体躯と見かけ以上の力を加味すれば、むしろ地上などよりよほど暮らしやすいのだ。

日夜炭鉱夫として鉱石を掘り、武器や防具を職人が繕い、それを商人が売りさばく。

人間に近い種族という事もあってか、人間種やそれに類する種族の者たちからは彼らの

作る物を買いたいという声がよく上がる。つまり、ドワーフの生業は炭鉱業にある。

 

しかし、地下に生きる種族は、彼らドワーフだけではなかった。

 

土堀獣人(クアゴア)】と呼ばれる、全身を体毛に覆われた【獣人(ビーストマン)】系統の種族がいる。

クアゴアという種族は特殊で、幼少期に食した鉱物の純度や硬度によって、成長後の肉体の

強さが大きく変わるという性質がある。喰えば喰うほど強くなる、という言葉通りの性質だ。

大地の鉱脈から日々の糧を得るドワーフと、鉱石そのものを糧とするクアゴア。

両者がその存在を認めた後で分かり合って共存共栄することなど、出来ようはずもなかった。

ドワーフからすればクアゴアは、自分たちが使う鉱石を喰って強くなる、厄介な敵性種族。

クアゴアからすればドワーフは、自分たちが食す鉱石を奪い去っていく、面倒な敵性種族。

 

だが、両者の間には決定的な戦闘能力の差があった。

 

魔法というものが存在するこの世界においても、純粋な肉体の強靭さは侮れるものではなく、

逆にその身体的能力値の差によって、ドワーフたちは一方的に狩られ、殺されていった。

ドワーフの中にも当然魔法が使える者はいたが、せいぜい第二位階魔法程度でしかない。

しかも一発に威力があっても、数で攻め込まれてはひとたまりもないのは自明の理であり、

それでもみすみす滅ぼされゆくことなどするはずもなく、両種間の抗争は激化していった。

 

これまでドワーフたちは、かつて暮らしていた首都を一度放棄したことがある。

クアゴアたちの侵略によって、有事の際に避難できるようにと作っておいた別の都市へと

逃げ延びた故に今も暮らしていけてはいるが、クアゴアはその気になれば攻め落としに来る。

さらにクアゴアの背後には、アゼルリシア山脈生態系の頂点に君臨する【霜の竜(フロスト・ドラゴン)】の群れが

待ち構えているのだ。竜種系統の生物は共通して、比類なき強さを持つことで知られている。

クアゴアを支配下に置いた霜の竜(フロスト・ドラゴン)の群れは、ドワーフたちの持つ金銀財宝を目当てにこの

種族間抗争に介入しているわけだが、とにかくドワーフが圧倒的に不利なことは変わらない。

 

戦闘能力に劣っているドワーフでは、クアゴアの強靭な鉱石の如き体毛防御を突破できず、

戦闘能力に勝っているクアゴアには、ドワーフの貧弱な装備や都市など恐るるに足りない。

 

 

それが、今日この時に至るまでの、常識であった。

 

 

移転した都市の防衛を任されているドワーフの一団は、目の前の現実にただ茫然とする。

都市防衛の任についた者は大概、調査に派遣されて死ぬか、攻め込みに来たクアゴアから

市民を守るための一時的な盾になって死ぬかの二択しか、用意されていなかった。

 

ところが今、目の前で一方的な蹂躙が行われている。

 

ドワーフが、クアゴアに、ではない。

クアゴアが、ドワーフに、でもない。

 

突如として現れた、謎の巨大生命体(モンスター)によって、クアゴアが蹂躙されているのだ。

 

 

「な、なんじゃぁ、ありゃ………」

 

 

血飛沫の舞う異常な光景に、仲間の一人がポツリと言葉を漏らした。

別に血を見るのに慣れていないわけじゃないし、悲劇に遭遇するのも珍しい事じゃない。

仲間の誰かが茫然自失な声色でそうこぼしたのは、あまりにも一方的な光景だったからだろう。

 

都市とその西側に広がる巨大な裂け目とをつなぐ大きな橋の隅で、ドワーフの一団は震える。

三十体あまりのクアゴアに奇襲を仕掛けられ、何としてでも都市を守らねばならないという一念で

あてのない防衛戦を繰り広げていたところで、都市の北側から何かが大地を削りつつ迫ってきた。

徐々に大きくなる音にクアゴア同様固まっていると、地面から巨大な生物が現れたのだ。

 

その大きさは、ドワーフの身長で一体何人分になるのか見当もつかぬほどに大きかった。

ただ、その生物が異様だったのは、その巨大さだけでなく、見るも不思議な外見をしてたからだ。

全身に歪な形の円柱状の突起を生やしたソレは、地下のわずかな光を反射して黄金色に輝き、

これまでに掘ってきたどの鉱石よりも、美しさ、深さ、硬さ、強さを凌駕すると思わせられた。

胴体と変わらぬ長さと太さの尻尾の先にまで、先に挙げた特徴の突起が生えそろっており、

ソレが大地を踏み鳴らして歩を進めるごとに、ゆらゆらと空を薙ぐ尻尾が威圧感を放っている。

そして何より目を引くのが、その生物の顔面__________というよりも、その巨大な顎。

鉱石の精錬職人が何千何万と振り下ろした鎚のようなその顎は、丸く厚く重たげであった。

 

 

ゴアアアアアァァァァアアァァァ‼‼

 

 

現れた直後にも行った、生物独特の威嚇行動のようなこの咆哮が、アゼルリシアの山さえも

揺るがしているかのように感じられる。それほどまでにこの生物は、個としての格が違った。

自分たちの向かい側にいたクアゴアたちは、現れたこの生物をすぐに脅威だと感じ取ったのか、

仲間を切り裂いて貫いた強靭な爪と牙で、動くだけで大地が震える巨体へと跳びかかっていく。

 

次の瞬間には、そのクアゴアは赤い肉の塊へと変わった。

 

本当に驚いた。ドワーフである自分たちでは手も足もでない連中を、顎をただ普通に振った行為

一つだけで殺してしまうなど、誰が想像できようか。しかも、その肉を一飲みで喰らうなどと。

あっさりと仲間が喰われた現実を見ていなかったかのように、その後も何体かのクアゴアたちが

巨大生物に立ち向かっていったものの、身じろぎ一つでその強靭な肉体を一片の肉へと変える。

 

七体ほどが生物の中へ消えていった頃、指揮官らしきクアゴアの一声で一目散に逃げていくが、

それを手放しで喜ぼうとは思えない。なぜなら、まだそこに脅威中の脅威がいるのだから。

警戒しようにも恐怖で足がすくんで動かせない。もはやこれまでかと涙混じりの覚悟を決めようと

下唇を噛んだ直後、なんとあの巨大生物は逃げたクアゴアを追うようにしていくではないか。

 

 

「………行った、のか?」

 

「………さぁ?」

 

「…………ワシら、助かったんじゃな?」

 

「…………さぁ?」

 

 

ズンズンと揺れる巨体に大地が悲鳴を上げるのを、ドワーフの一団は見つめるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クアゴアの王、ペ・リユロは盛大に焦っていた。否、恐れていた。

 

数時間前にドワーフの動向を探るために派遣した密偵部隊が、交戦したと連絡を受けた彼は、

そのまま連中の新たな都市部の現状をハッキリさせてこいと追加で命令を下していた。

彼らクアゴアはドワーフなど恐れてはいないが、連中が作る武器の中に、魔法の力を込めた

特殊な物がある事を知っていたため、なるべく慎重な手でいくことに決めていたのだ。

ただ、クアゴアはドワーフを倒す理由はあっても殺す理由は無い。いや、殺せなくなった。

ペ・リユロというクアゴア種の王に立つ者すら上回る絶対的強者、フロストドラゴンの王。

それがこのアゼルリシア山脈に君臨して以来、クアゴアは彼らの傀儡にさせられている。

無論、食糧調達のための奴隷でもなければ、種を残す苗床としての雌の提供でもない。

竜系統の種族は大抵、金銀財宝というものに目が無く、その王もまた例外ではなかった。

 

ドワーフが掘り当てた金銀や珍しい鉱石や宝石などの存在を知り、連中はクアゴアたちに

都市を襲ってそれらを奪い取れと命じてきたのだ。当然ながら、逆らえば命は無い。

種族としての格が違いすぎるため、逆らっても一族が滅び去る結末を辿ることとなる。

それだけは避けねばならないと決意を固めたペ・リユロは、霜の竜の王(フロスト・ドラゴン・ロード)からの命令を

一切の抵抗なく受け入れて、見事それを果たしてきた。

 

隷属することで繁栄を許されている。従うからこそ自由でいられる。なんと皮肉な事か。

しかしそれでも構わない。ペ・リユロには王として種を背負って立つ義務と責任がある。

だからこそ彼は、フロストドラゴンからの命令にへりくだってきたのだ。

 

 

「何という事だ、クソッ‼」

 

 

そんな彼の苦悩の日々は、突如として終わりを迎えることとなった。

喜ばしい限りだと字面では思うかもしれないが、それはとんでもない誤りである。

 

「クアゴアを喰う化け物が、ドワーフの側についただと⁉」

 

竜たちは肉を食らうが、クアゴアは好んで喰わない。鉱物が主食のクアゴアは不味いらしい。

ところが今しがた帰還した勇敢なる戦士の口からは、想像だにしない存在が確かにいる事を

教えられた。強靭な肉体を持つ部族の戦士たちが、一挙手一投足で物言わぬ死骸と化したと。

そしてその亡骸を、唐突に地の底より現れた巨大な化け物が美味そうに貪り喰ったと。

 

最初は何かの冗談かとも思ったが、自身の前でひざまずき報告する戦士の身体が恐怖で

ブルブルと震えていることに気付き、言い返すことのできない現実だと知らしめられた。

それに加え、逃げるクアゴアを追ってその化け物が、彼らが占領したドワーフ最初の都市へ

急速に接近してきているのだという一報を受けた。ぺ・リユロは苛立ちのまま舌打ちする。

 

こうなればもう、どんな手を使ってでも同胞を守らねばならないだろう。

 

覚悟を決めたクアゴアの王は、自分たちを支配する山脈の食物連鎖の頂点のいる王城へと

その足を進めていき、元はドワーフの玉座の間であった部屋の扉を開き、願い入れる。

 

 

「偉大なりし白き竜王、オラサーダルク様!」

 

「何用だ」

 

広間の中央で寝そべっていたその巨体、白い体躯と翼を宿した霜の竜の王(フロスト・ドラゴン・ロード)に向かって、

仰々しい御辞儀と謁見の許可を頂けたことへの感謝の意を表し、ペ・リユロは語った。

 

 

「実は、我々クアゴアを喰らうという未知の化け物が、ドワーフの国から出現しまして。

よろしければ、偉大なる白き竜王様の御力をお借りしたいと思い、参った次第です」

 

「ふむ……」

 

「貴方様の御力添えさえあれば、いくら未知の存在といえども容易く滅ぼせるでしょう!

何卒(なにとぞ)、気高き竜王の強さを我々や謎の敵に知らしめていただけませんでしょうか!」

 

「それをして、この私に得があるのか?」

 

「御力をお貸しくださるのなら、献上品をこれまでの倍ほどはお出しさせていただきます」

 

「ほほぅ、それは魅力的な案だな。いいだろう、その敵とやらに我らが牙を立ててやる」

 

「ははっ! ありがたく存じます!」

 

 

その後、献上品は現在の五倍にしろと言う"ごね"があったものの、ペ・リユロが何とか

首を縦に振ったため、竜王オラサーダルクは十六いる息子の中で特に腕の立つ次男である

トランジェリットを迎撃として向かわせた。当然、すぐに帰ってくるだろうと思って。

 

だが、息子は帰ってこなかった。

 

 

一時間経っても戻らぬ息子に痺れを切らしたオラサーダルクは、三男と四男を引き連れ、

化け物が侵入してきたという東側の都市区画へと飛んでいき、そこで現実と邂逅した。

 

 

「と、トランジェリット兄さん………」

 

「兄上が、まさか、そんな」

 

三体の竜が見たものとは、言うまでもなく帰ってこなかった次男の変わり果てた姿だった。

三角錐型の頭部は見るも無残にひしゃげ、白い鱗に覆われているはずの体の、さらに内側を

力なくボトボトと垂らし切っている。砕けた骨や竜鱗の白と、潰れた肉の赤がいやに映えた。

全身の至る所に、何かによって穿たれたような跡と、弾け飛んだような残骸が散らばって、

あたかも力比べで完全に押し負けたと、現場を見なくとも分かる構図で次男は死んでいた。

哀れな亡骸を前に狼狽する弟たちをよそに、父親であるオラサーダルクは憤慨していた。

けれどこれは、家族への情によるものではない。強い個体が多い竜種はそもそも家族などの

群れを成して暮らしたりはしない。よって、血の繋がりなど、あってないようなものなのだ。

では何故オラサーダルクは激怒しているのか、それは自分の血を引いている息子の癖に、

敵に一切の手傷を負わせないままみじめに死んでいったことへの、情けなさと悔しさから。

もはや物言わぬ躯となった息子を見下ろすことさえ嫌になったオラサーダルクは、

視線を地に落ちた息子だった肉塊から、その先にいる未知の存在へと向け、目を見開く。

 

 

「なっ___________」

 

 

この言葉にすらなっていない声だけ。

 

それだけが、彼ら霜の竜一族の息子たちに許された、最後の一声だった。

 

 

ゴアアアアアァァァァアアァァァ‼‼

 

 

洞窟内を揺るがす咆哮に続いて、ソレは自身の太く巨大な尻尾を身体を使って振るう。

すると尻尾の上部分にあった岩塊がそこから離れ飛んでいき、上空から見下ろしていた

三体の竜の身体に着弾する。遠心力と地力によって射出された岩塊の威力はすさまじく、

並の鋼鉄では刃が立たないと言われる竜種の鱗ごと、簡単に皮膚と肉骨を砕いて穿つ。

 

悲鳴を上げながら墜落していく三体を目視したソレは、勢いをつけてから身体を丸め、

この都市部へ来た時と同じように前方へと、ゴロゴロと音を立てて突進していった。

 

ちょうど着地地点に合わせて転がっていくソレは、目算通り数秒後に、落ちてきた竜の

二体を巻き込んで都市部の端から端までを横断し、白い鱗と赤い肉の(わだち)を刻みつける。

最初は耳障りな悲鳴が聞こえていたが、頭部が地面と強靭な顎との接触でブチュルと

抉り潰されてからは抵抗も何もなくなった。そのまま悠々と、白と赤のモノを岩壁へ埋める。

グチャッという気味の悪い音と同時に、水晶玉のような眼球が零れ落ちるも、ソレは意に介する

事すらせずに振り返り、突進をすんでのところで回避したオラサーダルクに向き直った。

 

竜王は焦っていた。否、恐れていた。

今まで自分たちはこの山脈の、ひいては食物連鎖の頂点に君臨し続けていた。

天敵と呼べるものは存在せず、せめて対等に戦える敵はいたが、それでもそれだけである。

真に脅威と呼べる相手などどこにもいないと、オラサーダルクたちは確信していたのだ。

 

それが、たった今、覆った。

 

ソレが、たった今、覆した。

 

 

「こ、の、化け物め‼ 何だ貴様は、同じ竜王(ドラゴン・ロード)だとでも言うのか⁉」

 

 

恐怖と驚愕の混じり合った声で問いただすも、相手は何の反応も示さない。

ただ、こちらの様子をうかがっているだけで、先ほどから一歩も動かない。

であるのなら、勝機はある。オラサーダルクは、とっておきの切り札を使うと決めた。

 

彼らが霜の竜(フロスト・ドラゴン)と呼ばれているのは、その体躯が霜のように白いからというだけでなく、

冷気をまとう息の攻撃を有しているから、そう呼称されている。よって、その切り札とは。

 

 

「去ねッ‼ 凍吐息(フロースド・ブレス)‼」

 

 

零下を越える息吹がオラサーダルクの口内から放たれ、ソレに直撃する。

 

そして、ソレはただ、大地を顎で打ち鳴らす。

 

次の瞬間には、オラサーダルクの純白の肉体は、内側から爆裂していた。

 

 

(な、にが、起きた……‼ 魔法、なのか⁉)

 

 

自身の内部で起きた衝撃によって肉や骨は爆ぜ散り、鱗は粉雪のように舞い散る。

見る者が見れば「幻想的だ」と言わしめるような光景も、ここでは生命の散り際であった。

 

何が起きたかも分からぬままにオラサーダルクは沈み、ソレは自らの勝ち名乗りを上げる。

 

 

 

クアゴアを支配していた竜の王が破れ、数週間。

王城の中にいた竜たちが敵討ちとばかりに攻め入り、ことごとく爆散させられて一週間。

 

かつてとある世界で、【爆鎚竜・ウラガンキン】と呼ばれていた黄金色のソレは、

未知の脅威に怯えるドワーフの思惑をよそに、アゼルリシアの全てのクアゴアを残らず

喰らい尽くしていき、この鉱脈と山脈を治める新たな生態系の頂点として君臨した。

 





いかがだったでしょうか?
息抜きのつもりが、ここまで伸びるだなんて………予想外です。

さて今回は、作者が3rd時代に討伐数500を超えていたお気に入りモンスターの
ウラガンキン様でいらっしゃいました。キラークイーンじゃないよ。

書籍版11巻のクアゴア族の設定を知った直後から、鉱石を喰らうガンキン主任の
特性を活かせるんじゃないかと思い、構想を練ってみました。
ええ、オリジナル展開に独自設定です。そこはご了承ください。

あと、思っていたよりもグロくないですかね?
ほどよいグロさを表現できるよう、精進する次第です!


それではまた次回を、お楽しみに!
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