------------
「お待たせしました」
キッチンから出てくる翠。
部屋の中央に置いてあるちゃぶ台にご飯、味噌汁、目玉焼きといったシンプルな朝食メニューが並べられていく。
「おー! まともなご飯だ!」
「え、もしかして私バカにされてる?」
「いやいや、川奈じゃなくて俺の話! まともなご飯なんてしばらく食べてなかったからさぁ」
「そういうことですか。冷蔵庫にあったもので作ったから対したものは出来なかったけど」
「俺にとってはご馳走だよ。ほんとありがとな」
「うん……どういたしまして」
自炊が出来ないので普段からろくなものを食べていないと言っていた優吾。
それを聞いた翠は今日のお礼に朝ごはんを作ると提案。
優吾としてはお礼をされるようなことをした覚えもなかったが、女の子の手料理がいただけるという魅力的な提案には抗えずお言葉に甘えることにして現在に至る。
「それじゃ、冷める前にいただいても?」
「あ、うん。お口に合うかわからないけど……」
「またまたご謙遜を。んじゃ、いただきまーす! ……………………うん、普通に美味いっす!」
「……良かった」
ホッと胸を撫で下ろす翠。その表情は嬉しそうに綻んでいた。
同い年の女の子を家にあげて手料理を振舞ってもらう。優吾は翠の笑顔を見てそんなリア充真っ盛りな状況を改めて認識してしまい、急に気恥ずかしくなってきた。
「そ、そうだ! 走って汗かいたままじゃ気持ち悪くないか? ご飯食べたらシャワー浴びる?」
「え…………?」
瞬間固まる川奈翠。
数秒間固まった翠を眺めた後、優吾は自分が今何を口走ってしまったのかを理解し、赤面した。
「ああ!? いや、違うよ!? その、変な意味はまったくなくて、ただ単に汗かいたままいたら風邪引いちゃうかもしれないから、その…………ごめん」
「あ、ううん。大丈夫……いきなりだったからビックリしちゃったけど、ちゃんとわかってるから」
「そ、そっか。それなら良かった」
「えと、そうだね。確かにこのままだと風邪引いちゃいそうだし、お言葉に甘えちゃおうかな。あ、でも着替えが……」
「俺のジャージとかで良かったら貸せるけど、流石に大きすぎるかな?」
「た、橘くんのジャージ!?」
ついに沸点を越えたのか、顔を真っ赤に染める翠。
優吾もまたまたやらかしてしまったことを理解し、先ほど食べたりんごのように赤くなった。
「じゃあ、ジャージ……お借りしてもいいですか?」
「あ、はい。どうぞどうぞ。ちゃんと洗濯はしてるから臭くはないと思う……多分」
「た、橘くんのこと臭いだなんて思ったことないよ!? じゃ、じゃあ行ってくるね」
すでに朝食を食べ終えていた翠は優吾からジャージを受け取ると、シャワールームへと姿を消した。
一人残された優吾は改めて今自分が置かれている状況を考えてみる。
同年代の女の子を家にあげて、手料理を作ってもらって、風呂から上がってくるのを待っている。
「俺はなんてことを……」
これまでの軽はずみな言動を深く反省した。
「やばい、落ち着かない。こういう時はどうすれば……素数を数えればいいんだっけ? よし、2……3……5……7……」
そうやって無理やり平静を保とうとしていた優吾。
そんな時、不意にピンポーンとインターホンがなった。
色々テンパっていたのと、普段ほとんど来客などないことが重なって、優吾は何も考えずにドアを開けた。開けてしまった。
「はーい、どちらさま…………なんで、お前がここに?」
そこに立っていたのは自分のよく知る人物だった。
背丈は自分より頭一つ分くらい低く、鮮やかな水色の髪を片側でチョコンとまとめている女の子。
優吾を引き取ってくれた人物の娘であり、優吾の義理の妹に当たる……
「やっほーお兄ちゃん。遊びにきてやったわよ」
……橘みずきだ。