放課後、日の坂高校のグラウンドには九人の男女が集まっていた。
「みんな集まってくれてありがとう。とりあえず自己紹介といこうか! 俺は橘優吾。一応野球部のキャプテンってことになってる。よろしくな」
野球部四人での話し合いでキャプテンも決めておいた方がいいだろうとの意見が出て、満場一致で優吾がいいとの結論が出た。
翠と巻風はともかく友沢はただ自分がやるのが面倒だっただけかもしれないが……
優吾に続いて翠、巻風、友沢と簡単な自己紹介を終えて行く。
続いて対面に立つ五人の番。
それぞれが勧誘して連れてきた新しい野球部員達だ。
「矢部明雄でやんす。パワフル中学出身でポジションはセンター。走塁には自信があるでやんす」
まずは優吾が勧誘したパワフル中学出身の矢部。
それに隣に並んでいた三人が続いていく。
「俺は田辺。ポジションはファースト。バッティングには自信があるぞー」
「俺は横山。ポジションはライト。守備は得意だぞー」
「俺は坂本。ポジションはレフト。ガンダーロボが好きだぞー」
「ガンダーロボの良さがわかるなんて坂本くんはセンスが良いでやんす!!」
好きなものの話題で盛り上がり始める坂本と矢部。
(この三人雰囲気が似てるな……)
顔の作りと雰囲気がなんとなく似ている三人であった。
最後の一人、自己紹介の為に一歩前に出たのは肩に届かないくらいのボブカット。可愛らしいピンで前髪を止めている……女の子だった。
「速水雪歩(はやみ ゆきほ)です。ポジションはセカンド。一応中学の頃はシニアで野球やってたから硬球には慣れてるよ。男子に負けるつもりはないからそこんとこよろしく」
明るく活発な印象。流石に女の子なのでパワーがありそうには見えないが、負けん気はかなり強そうだ。
「川奈さん久しぶりっ!」
「うん、久しぶりだね速水さん」
「川奈、知り合いなのか?」
「あ、うん……リトルリーグの時同じチームで」
リトルリーグ時代、男女の差別もあり試合に出させてもらえなかった翠にとってはあまり思い出したくない記憶だろう。
同じチームだったという雪歩も状況は同じだったはずだが、彼女からは男女の差に対する劣等感のような物は見えない。むしろ男子に対して対抗心を燃やしているようだ。
「んじゃ各自自己紹介も終わったところで、早速だけどポジションと打順を決める為にみんなには簡単な体力テストをやってもらおうと思う。もちろん俺も参加するぞ」
キャプテンとして堂々たる態度で指示を飛ばす優吾。
正直言って新設校の日の坂高校でこれ以上の戦力増強は望めない。むしろ九人集まっただけでも奇跡のようなものなのだ。
この九人で大会に臨むには一刻も早く体制を整えなければならない。
「待て橘、テストはいいがグラウンドの使用許可は取ってあるのか?」
巻風が問う。
人数が揃ったのは今日だ。今日グラウンドを使う予定もなかったので当然の疑問、それに優吾は呆気からんと答える。
「もちろんだ。言い忘れてたけどもう顧問の先生も見つかってるし野球部の届けも出して受理されてるよ」
「お前、いつの間に……」
「矢部くんにだけ先に入部届け書いてもらってな、顧問の先生に関しては目星付けてたからそのまま5人分の入部届け持って頼みに行ったんだよ」
「それならそうと言ってくれても良かったろうに」
「急いでたからなぁ。今日中にやれることはやっておきたかったし、それに……みんな早く野球したいだろ?」
「……ふっ、違いない」
優吾のそんな一言に笑う巻風と友沢。
大会の為に一刻も早く体制を整える。もちろんそんな目的もあっただろう。
だがもっと単純な理由、優吾はもちろんみんな野球が好きなのだ。早く好きなことをしたい。根本にあるのはそんな単純な気持ち。
「まぁそういうわけだから俺たちは今日から正式な日の坂高校野球部だ。みんな、甲子園目指して頑張ろうぜ!」
優吾の言葉に答える野球部の面々。
強豪ひしめくこの地区で甲子園を目指すべく、日の坂高校野球部が始動した瞬間だった。