「んじゃ、最後は俺だな」
友沢を除く7人のテストが終わり、防具を脱いでバットを手にする優吾。
「なんだ、お前も打つのか? 俺には知ってるから必要ないと言ったくせに」
「しばらく打ってないからなー、自分で思ってるより打てないかもしれないし、僻まないで付き合ってくれよ」
「……別に僻んでない」
少しふて腐れたように土を蹴ってマウンドを慣らす友沢。
「それなら俺が捕手を務めよう」
「巻風、キャッチャーもできるのか?」
「ボールを受けるくらいならな」
簡単に言ってのけるが、打球を捌くのと投手の投げる球を捕るのではまた違った技術が必要となってくるものだ。
だが、巻風の『目』ならそれも問題にならないだろう。
「二年ぶりだな、友沢の球を打つのは」
そうと決まればと右打席に立ち構える優吾。
「そういうセリフは……打ってから言うんだなっ!」
大きく振りかぶり、オーソドックスなフォームから初球を放つ友沢。
強靱な手首のしなりを持ってして放たれたボールは内角低めに構える巻風のミットに、ズドンという音を立てて収まった。
「………えー?」
呆然と立ち尽くす優吾。
ベンチでは矢部と坂本がスピードガンを片手に何やら騒いでいた。
「す、すごいでやんす! 今のボール140㎞でやんすよ!」
「おー、すごいなー」
昨今の高校野球では超高校級と呼ばれるような豪速球を投げる投手が後を絶たない……とはいえ、一年生にして140㎞の豪速球を投げるような投手は名門で野球をしてきた優吾でも片手で数えるほどしか心当たりがなかった。
「いやいや、というか俺八割くらいの力で投げろって言ったよね!?」
「……これで八割だ」
「嘘つけぇ! 友沢さーん、もしかして自分だけ打たせてもらえないからって怒ってます?」
「……ふっ、そんはわけないだろう?」
「あ、これ絶対図星なやつだ」
もう何も言わないとばかりに2球目の投球動作に入る。
こんなやりとりをしながらも、優吾は内心ワクワクしていた。
140㎞の生きた球を打てる機会など早々ない。
友沢とチームメイトである以上彼に投手を頼めばその限りではないのだろうが、そもそも友沢はケガで投手を引退した身であり、本人は直球を投げている分には問題ないと言っているものの気軽にバッティングピッチャーを頼めるような相手ではない。
そんな友沢が事情はどうあれ全力で勝負してくれるのだ。
橘優吾という人間が、それを喜ばない筈はない。
日の坂高校のチームメイト達が見守る中、2球目に放たれたストレートのコースはまたも内角低め。
このレベルの直球ならば内角の膝下は振り遅れて差し込まれる……というのがリードを取る巻風の判断だろう。
しかしーー
カキィィィンッ!!
「っ!?」
一閃。
これまたオーソドックスなフォームから振り抜かれた優吾のバットはほぼ同じコースに滑り込んできた2球目わ完璧に捉えた。
『ファール!』
打球は痛烈なライナーで飛翔するも、惜しく三塁側ラインを割ってファールとなった。
「相変わらず、スイングスピードは友沢に引けを取らないな」
優吾を打撃に感嘆を漏らす巻風。
「いやいや、流石に友沢には勝てねぇよ。けど俺だって名門あかつきのクリーンナップを打ってたんだ。簡単には打ち取られてやれねぇんだよ」
少年のように目を輝かせながら3球目を待つ優吾。
そんな優吾を見ながら巻風は思い出す。
(確か、中学時代からストレートには滅法強かったな。事前にその情報を得ていた友沢は橘を相手には変化球主体で組み立てていたはずだ)
しかし、今の友沢は変化球を投げれない。
相性の良さという点では優吾に傾いていると言えるだろう。
『ボール!』
3球目も内角低め。けれど今度はボール一つ分内に外れたボールを優吾はバットを止めて見送る。
矢部が持つスピードガンは138㎞を記録していた。
(やはり釣られてはくれないか……仕方ないな)
ただ速い球に押し負けない力があるだけでは直球に強いとは言えない。
優吾はそれを見定める選球眼も持ち合わせている。
釣り球を振らせることを早々に諦め、巻風は4球目の勝負球を友沢に要求した。
(外角低めのストレート。教科書通りだがこれしかないだろう)
教科書通りというのは決して悪いことではない。
外角低めにキッチリと投げられたストレートはプロでも打つのは至難の技だ。
巻風のミット目掛けて寸分の狂いなく投げ込まれたそれを、優吾は教科書通りのレベルスイングではじき返した。
『アウトォ!』
痛烈なセンター返し。それを投手の友沢が華麗なフィールディングで捌いて見せ、この勝負の決着となった。