「練習試合?」
実力テストから二週間。間もなく四月が終わろうとしているとある日の放課後に担任のみゆき先生から呼び出しを受けた優吾は開口一番放たれた一言に目を丸くした。
「ええ、形だけの顧問だけど私もみんなの為に何かしてあげたくて……勝手だけど他校との練習試合の予定を組んでみたの」
「形だけなんてとんでもない! いつも俺たちの為にスポーツドリンクを用意してくれたり、みんなほんと助かってますよ!」
部員が九人ギリギリ、マネージャーのいない日の坂野球部ではその役目を顧問であるみゆき先生と女子部員の翠と雪歩が担っているのが現状である。
「練習指示とか監督業は橘くんに任せっぱなしなんだからそれくらいはしないと……それで、どうかしら?」
「ありがとうございます。練習試合、みんなきっと喜びますよ」
「良かった。相手も今年出来たばかりの野球部らしくて、部員はみんな一年生みたいだからみんなならきっといい試合ができると思うわ」
「へぇ、どこの学校ですか?」
「ときめき青春高校ってところよ。うふふ、変わった名前よね」
「ときめき青春……」
ーーーーーー
「ってわけで、来週末ときめき青春高校との練習試合が決まった」
「試合でやんすー! 待ってましたでやんす!」
「ふっ、漸くか」
腕を組みながらクールに決める友沢の肩はプルプルと震えている。
「めちゃくちゃ嬉しそうね」
「嬉しそうだな」
そんな様子を少し離れたところから見つめる雪歩と巻風。
更にその奥では翠がみんなにとお盆に乗せて持ってきたスポーツドリンクを盛大にブチまけていた。
「し、しししし試合!? わわっ飲み物が溢れちゃっーーきゃうんっ!」
盛大に転んで尻餅をつく翠。
優吾はそんな翠に駆け寄ると右手をそっと差し伸べた。
「おいおい大丈夫か?」
「は、はい。すみませんちょっとビックリしちゃって……飲み物すぐに入れ直してきますね」
「あーそんなのあたしがやるから、翠はそれ、着替えてきた方がいいんじゃない?」
「……ふぇ?」
雪歩に指を指されるがままに視線を下に向ける翠。
翠が着用している練習用の真っ白なアンダーシャツは溢れたスポーツドリンクがかかってうっすらと透けてしまっていた。
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「おおー! 眼福でやんすぶげらっ!!」
「見てんじゃないよこのエロメガネ!」
食い入る様に見つめていた矢部に雪歩が鉄拳制裁。
翠は両手で胸元を隠しながら部室に向かって物凄い勢いで駆けて行った。
「おおー速いな川奈のやつ、タイム計ったら自己ベスト出るんじゃないか?」
「そういうこと、本人の前では言うなよ」
「わかってるよ。俺にだってデリカシーの一つや二つあるんだぜ」
「デリカシーは数えるものではないだろう」
やれやれといった様子の友沢。
「それより橘、わかっているとは思うが練習試合とはいえ川奈にとってはこのチームで初めての登板になる。女房役としてメンタルケアはきちんとしてやることだ」
「おう、友沢が他人のことそこまで心配するのも珍しいな。……はっ、もしかして川奈のこと好きなのか!?」
「……はぁ、そうだな。同情はしている」
ため息を一つ吐いてその場を離れる友沢。
そんな友沢の反応を見て優吾はわけがわからないといった様子で首を傾げた。
来週末、日の坂高校野球部が出来てから初めての実戦。
対戦相手はときめき青春高校。
(まさか、こんなに早くあいつと戦えるなんてな……)
今は甲子園を目指すライバルとなったかつてのチームメイトの姿を思い浮かべながら、優吾は期待に胸を震わせるのだった。