「ほんっとーーーーーにすまん!!」
ときめき青春高校の野球部部室で目を覚ました優吾の眼前に映ったのは中学時代のチームメイトである小波晴人が土下座の体制を取り床に頭を擦り付ける姿だった。
「…………とりあえず、久しぶりだな晴人」
「おー! 卒業式以来だなー優吾っ!」
久しぶりの再会はアクシデントこそあったもののあかつき中を卒業して以来の顔合わせとなる二人にはやはり感慨深いものはあるようだ。
名門あかつき中のレギュラー。それもクリーンナップを任されていた二人の名前は同世代の選手達の中では有名である。
小波がこのときめき青春高校に進学したことを聞かされていた優吾以外の面々はなぜこんな所に? という疑問が頭から離れない。
「橘くんといい友沢君たちといい猪狩世代の有名人はよくわからないでやんす……」
「友沢? ん? ほんとだ! 友沢いるじゃん!」
日の坂高校の面々の中に友沢亮の姿を認めた小波は足早に友沢の元へと駆け寄る。
「友沢も久しぶり! 俺の事覚えてっかー?」
「…………記憶にないな。誰だ?」
「ガーン!」
友沢に素っ気ない態度を取られその場に崩れ落ちる小波。
当然元あかつき中の4番バッターを友沢が知らないはずもないのだが、中学時代に敗れたあかつき中の面々には思うところがあるようで落ち込む小波の姿を見て友沢はしたり顔である。
「まぁまぁ、友沢もあまりいじめないでやってくれよ。多分晴人のやつ間に受けちゃってるから」
「ふっ、いい気味だな」
「おいおい……」
普段のクールな様相はどこへやら、まるで子供のようなことを言い出す友沢に困惑する日の坂高校の面々。
どうやら友沢は中学時代に小波に打たれたことを少なからず根に持っていたようだった。
「なんだよ、中学時代は俺に打たれまくってたくせにー」
「…………なんだと?」
「ひぃっ!!??」
そんな心の内を見事につかれた友沢の表情が強ばる。
強ばるどころか最早鬼の形相。たまらず小波は冷や汗を流しながらその場を離れる。
「じゃ、じゃあ優吾の目も冷めたことだし、準備が出来たらグラウンドに来てくれよな! また後でなー!!」
逃げ出すように部室を出ていく小波。
そんな小波を眺めながら優吾と友沢の二人は中学2年時の夏の大会を思い出していた。
「まさか小波晴人がこの高校にいるとはな……橘、あいつに対する勝算はあるのか?」
「さぁな……元から簡単にいくとは思ってねぇよ。晴人は俺なんかとは違う、猪狩と同じ本物の天才だからな」
帝王実業高校のエースとして剛腕を奮っていた当時の友沢が唯一個人対戦で負け越している打者、それが元あかつき中の主砲小波晴人である。
「小波が高校に進学して更に成長しているのだとすれば、例え肘を怪我してなかったとしても俺には抑えられる自信はないな」
「友沢にそこまで言わせるなんてな……まぁでも、俺はバッティングに関してはうちの主砲だって負けてないと思ってるぜ」
「……ふっ、そうだな。投手として小波にリベンジすることはもう叶わないが、中学時代の借りはあいつの土俵で返させてもらうとしよう」
思わぬ強敵との戦いとなった初めての練習試合。
闘志を滾らせる二人に触発されてか、日の坂高校ナインのモチベーションは最高潮に達しようとしていた。