実況パワフルプロ野球〜あの夏を目指して〜   作:北条恋

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第4話

 

見覚えのある男子生徒を追いかけてたどり着いたのは一年B組の教室。

優吾は教室の扉をガラッと勢いよく開けると、そのままの勢いでお目当ての人物に歩み寄った。

 

「よっ! 久しぶり!」

 

机に突っ伏していた男子生徒は優吾の声に反応して顔を上げる。

優吾の顔を確認した男子生徒は一瞬驚いたような表情を見せた後、口を開く。

 

「……橘、だよな?」

 

「なんで疑問形なんだよ。俺の顔忘れちまったのか?」

 

「そういうわけではないが、世代ナンバーワンの化け物捕手がこんなところに居れば例え同じ顔だったとしても疑いたくなるだろう」

 

「猪狩といいお前といい、あんまり俺のことを買い被らないでくれよ。中学の時は猪狩が凄かっただけで本当なら俺より凄い捕手なんていくらでもいたんだから。大体、そんなこと言ったらお前だって無名の新設校にいるような選手じゃないだろ? 元帝王中学の巻風恭治さんよ」

 

巻風恭治(まきかぜきょうじ)。元名門帝王中学校の正三塁手で、中学の地区選抜などで何度か優吾とも顔を合わせていた猪狩世代の名選手の一人だ。

 

「あ、あのぅ……」

 

そんな名選手同士の会話をそばで聞いていていたたまれなくなったのか、優吾の後ろに控えていた翠が申し訳なさそうに声をかける。

 

「おっと、ごめん川奈。紹介するの忘れてた」

 

「あ、いえ。そんなっ!」

 

「なんだ、橘の彼女か?」

 

「か、かの……ふえぇぇぇぇっ!?」

 

「そんなんじゃねーよ。川奈に失礼だからそういう冷やかしはやめてくれ。なぁ川奈?」

 

「あっ……はい……」

 

顔を真っ赤にしたり、落ち込んだりと忙しく表情を変える翠。女心は複雑だ。

 

「遅くなったけど紹介するよ。この子は川奈翠。ウチのエースだ」

 

「……エース?」

 

「おう。この日の坂学園野球部のエースだよ」

 

「…………橘、お前はここで野球をやるつもりなのか?」

 

「ああ。一から野球部を作って甲子園を目指す。そのために巻風、お前を勧誘に来たんだ」

 

「…………俺は、高校では野球を続けるつもりはない。だから新設校であるこの日の坂学園に入学した」

 

巻風の口からハッキリと発せられた拒絶の言葉。

優吾は説得しようと口を開きかけるが、それよりも早く……翠が前に出た。

 

「巻風さん! 」

 

優吾より前に出て声を張る翠に、優吾も巻風も目を見開く。

一瞬止めようか迷った優吾だったが、翠の小さな、けれど不思議な安心感を持った背中を見て、ここは任せようと一歩下がった。

 

「あ、あの……私は……野球がしたくてこの学校に来ました」

 

「新設校で、なんの用意もないこの学校にか?」

 

「はい。私は小学校の時も、中学校の時も、女の子だからって理由だけでほとんど練習に参加させてもらえませんでした。試合に出たことは一度もありません」

 

「……女子選手の大会参加が正式に認められたとはいえ、やはりまだ女子選手に対する風当たりは強いからな。俺が通っていた帝王中学でも女子選手の入部は認めていなかった」

 

「はい。だから私は野球部のないこの学校でなら、グラウンドを使わせてもらえるかなって思って……それで、グラウンドの隅を借りてボールを投げていたら、橘くんが声をかけてくれたんです。一緒に野球部を作ろうって、バッテリーを組もうって言ってくれたんです。……夢みたいでした」

 

「川奈……」

 

後ろで聞いていた優吾は、翠の素直な気持ちを受けて込み上げる気持ちに胸を熱くしていた。

優吾にとってはなんでもない、ただ良い投手に巡り会えたが故の行動であったが、今まで誰からも必要とされてこなかった翠にとっては優吾がかけてくれた言葉はこれ以上ないほどに嬉しいものだったのだ。

 

「私、この学校で野球がしたいです。部員を集めて、みんなで試合がしたいです。だから…………お願いします巻風さん! 野球部に入ってください!」

 

「…………」

 

深く頭を下げる翠をじっと見つめる巻風。

やがて、一つ大きく息を吐いてから、口を開いた。

 

「友達が、肘を壊してしまったんだ」

 

「……え?」

 

「同じ帝王中学に通っていてな、俺達の世代でダントツのエース候補だったんだが、オーバーワークが祟ってな。肘を壊して、投手ができなくなってしまったんだ」

 

「そんな……」

 

「リハビリはしたんだが、どうしても変化球を投げようとして腕を捻ると痛みが走るらしくてな、あいつは投手を諦めた。けれど、野球は諦めなかったんだ。あいつは監督に言った。『野手に転向させてください』ってな。そんなあいつに、監督はなんて言ったと思う?」

 

「……なんて、言ったんですか?」

 

「『簡単に肘を壊すような軟弱者は帝王野球部にはいらん』だとさ」

 

「!? ひどい。そんなのひどすぎます!」

 

「当然、俺も抗議したさ。けれど聞き入れられなかった。帝王の野球部は勝利が全て。俺達部員はみんな監督の駒でしかなかった。俺はそんな野球部が嫌になって、あいつと一緒に野球部を退部したんだ」

 

それを聞いて、後ろにいた優吾が口を開く。

 

「中学最後の夏の大会。帝王のスタメンは大きく変わっていた。確かに巻風は出ていなかったな。不思議には思っていたんだけどまさかそんな事情があったなんて……それにもう一人、まさかその肘を壊した友人ってのは……」

 

「そう、あの猪狩守に勝るとも劣らないと評されていた怪物、友沢亮だよ」

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