友沢亮……中学レベルを遥かに凌駕した大きく曲がるスライダーを武器とした名投手。
中学二年時の大会ではあかつき中学の猪狩守と互角の投手戦を見せた。
その時は内野安打で塁に出た優吾を四番の小波がタイムリーで返して取った一点が決勝点となりあかつきが勝利したが、投手の差は無いに等しいものだった。
そんな名投手が肘を壊して投手生命を終わらせていた。
「友沢……」
「なぁ、橘。お前は友沢が野手に転向するって言い出したら、反対するか?」
「いや、確かに友沢は凄い投手だったけど、俺は前から友沢は打者としての方が大成するんじゃないかと思ってたんだ」
事実、中学二年時の大会でも猪狩から安打を放ったのはこの巻風と投手である友沢の二人だけだったのだ。
長年投手として鍛え上げてきた友沢の強靭なリストは細身の肉体からは考えられないような驚異のスイングスピードを叩き出す。
「猪狩の速球を引きつけて流し打ちする奴を俺は初めて見たよ」
「……そうか。お前なら、橘なら……大丈夫かもしれないな」
「大丈夫って、なにが?」
「友沢も入学してるんだ。この、日の坂学園に」
「友沢が!?」
「ああ。……なぁ橘、頼みがある」
巻風は椅子から立ち上がり、優吾に向かって深く頭を下げる。
「友沢に、もう一度野球をやらせてやってくれ」
「頭を上げろよ。そんなの、頼まれるまでもない。俺も友沢と一緒に野球がしたいよ」
「……ありがとう。……川奈さん」
「ひ、ひゃい!?」
突然声をかけられた翠はビックリして声を裏返す。
慣れたのか、巻風はそれを気にも止めず続けた。
「野球部への誘い、喜んで受けさせてもらうよ。君達となら俺が好きだった楽しい野球ができそうだ」
「は、はい! よ、よろしくお願い申し上げます!」
「固すぎるよ川奈……巻風、これからよろしくな」
「ああ。橘……」
「わかってる。早速友沢を迎えに行こうぜ」
「ああ! 中学の時、友沢はいつも時間があれば近所のバッティングセンターに行っていたんだ。もしかしたら今日も行ってるかもしれない」
「オーケー。なら近場のバッティングセンターを片っ端から回ってみようぜ。あっと、川奈は時間大丈夫か?」
「あ、はい。まだ大丈夫ですよ」
「よっしゃ。それじゃあ、ウチの四番候補を探しに行くとしますか!」
新たな仲間巻風恭治を加えた三人は友沢亮を探す為に街へと繰り出して行った。
日の坂学園はその名前の通り大きな坂を登った山の上に存在しており、山を降ればデパートや映画館、ミゾットスポーツなどがある大きな街に出る。
そこならバッティングセンターもいくつかあるはずだと思い、街に出た優吾だったが……
「やべぇ、あっちもこっちもデカい建物ばかりでどっち行けばいいのかさっぱりわかんねぇ」
「見た目通り考えなしなやつだな」
「うるせぇな。お前は見た目通り嫌味なやつだな」
「なんだと……」
「ひゃう!? 喧嘩はやめてくださーい! 私がバッティングセンターさがしてみますから!」
翠がそう言って鞄から取り出したのは可愛らしいピンク色のケースに包まれたスマートフォン。
Googleマップを使って検索をかける翠を横目に、優吾と巻風の二人は自分達が持つ旧式のガラパゴス携帯を見て落胆した。
「時代はスマートフォンか……」
「興味はあるんだけどどれがいいかとかよくわかんないんだよなー」
「えっと、もし私で良かったら多少は教えてあげられるかもですけど……」
「マジで? じゃあさ川奈、今度買いに行くの付き合ってよ!」
「ふえぇ!? そ、それってもしかして……二人でってことですか?」
「ん? 携帯買いに行くのに大人数で行っても仕方ないだろ」
「そ、それはそうなんですけど、二人でって、それってまるで……」
「仲良くデートの約束をしているところ水を差してしまって申し訳ないんだが、バッティングセンターは見つかったのか?」
「ひゃう!? で、でででデートだなんてそんなこと考えてなななないですよ!?」
巻風の気を使わないツッコミに翠は動揺を通り越して今にも倒れそうな程に赤面している。
とにかく落ち着かなければと三度大きく深呼吸をした後、翠は再び口を開いた。
「えっと……すぐ近くに一件ありますね。あのビルの屋上みたいです」
そう言って翠が指刺した先のビルの屋上には、大きなネットがかかっている。
「おーほんとだ。ビルの屋上にバッティングセンターかー。都会ってすげーなー」
見上げながら感心する優吾。
とりあえず行ってみることにした一同は、屋上にネットがかかったビルに向かって歩き出した。