エレベーターを使いビルを上り、屋上のバッティングセンターに着いた一同はその施設の充実感に驚愕した。
スタンダードなタイプの球小僧はもちろん、多彩な変化球を放る球仙人やはたまた160kmの豪速球を投げてくるボールゴッドまで様々な種類のバッティングマシーンが置いてある上に30球百円という驚きの安さ。
「これ経営成り立ってんのか?」
「なんでも、このバッティングセンターを経営しているのは橘もよく知る猪狩コンツェルンらしいぞ」
「はー、ほんとなんでもやってんだな猪狩の家は」
優吾は改めて自分がバッテリーを組んでいた男の凄さに感心しながら、辺りを眺める。
すると、いくつか埋まっているバッティングケージの中でも、一際目立つ身なりをした男を見つけた。
鮮やかな金髪に頭にかけたサングラス。ド派手な格好をしたその男は多彩な変化球を操る球仙人相手に快音を響かせている。
優吾達はそれを認めるとすぐに駆け寄った。
「おい! 友沢!」
優吾が声をかけると、金髪の男、友沢亮は丁度最後の一球を弾き返したところで、優吾の声に反応してゆっくりと振り向いた。
背後ではバッティングセンター再奥に貼り付けられているホームランボードが点灯し、ファンファーレを鳴らしている。
「…………橘優吾か。久しぶりだな。それに巻風まで」
「おう、久しぶり。相変わらずいいバッティングしてんな」
「フッ、一緒にいるってことは巻風から事情は聞いているんだろう?」
「ああ、友沢、俺達と一緒に野球部を作ろう! お前のバッティングはあの猪狩にだって十分通用する」
「猪狩守か……」
友沢の目つきが鋭くなる。
視線の先には猪狩コンツェルンの看板。
中学時代猪狩に敗れた友沢としてはなにか思うところがあるのだろう。
やがて、友沢は視線を優吾に戻して口を開く。
「橘、お前は新設校で野球部を作って何がしたいんだ?」
「そんなもん決まってんだろ」
優吾は歯を見せながらのまんべんの笑みを見せる。
「あかつきも含め、この地区の高校全部倒して甲子園に行く!」
「本気で行けると思ってるのか?」
「中学二年までしか見てないけど、友沢のバッティングはすでに全国レベルに達していると思う。巻風だって十分全国レベルの選手だし、俺はお前らとなら甲子園だって不可能じゃないと思ってるよ。それに、頼りになるエースだっている」
そう言って、初めて優吾は翠を友沢の前に出す。
いきなり無茶振りされた翠は軽くパニックに陥っている。
「エース? その子がか?」
「ああ、まさか野球は女のやるスポーツじゃないとか言わないよな?」
「そんな偏見を持っているわけではないが、俺はその子の実力を知らないからな。エースだと言われてそうですかと納得することもできない」
「それなら、勝負しようぜ」
「勝負だと?」
「うちのエース、川奈が投げて友沢が打つ。一打席勝負だ。打ち取ったら俺達の勝ち。ヒットなら友沢の勝ち。俺達が勝ったら友沢には野球部に入ってもらう」
「俺が勝ったら?」
「俺が友沢の言うことをなんでも一つ聞くってのでどうだ?」
「なんでも……か。フッ、面白い」
「決まりだな」
当の本人にまったく確認を取らずに勝負を決めてしまった優吾。
翠はすでにパニック通り越して失神しそうになっている。
「た、橘くん!? わ、私勝負なんて無理だよぉ!」
「大丈夫だよ。川奈には十分な実力がある。それに俺もついてる」
「で、でもぉ……」
「やるなら早くしてくれ。俺は暇じゃないんだ」
そう言って先にバッティングセンターを出て行く友沢。
優吾達もそれを追う。
自信を持てない翠。大きな不安を抱えながら、友沢亮との勝負へと向かった。