IS/勇者王ガオガイガー─白き翼の戦士と勇気ある者― 作:オウガ・Ω
「ギヒャア!」
やめろ……やめてくれと願う。でもボクの体はボクの意思に応えず目の前のゾディアックの首を跳ね飛ばした。ボトリと落ちふらつきながら血が噴水のように吹く。
鉄臭さ、オイルの匂いが鼻につきながらも襲いかかるゾディアック…彼等の命を腕、脚から出た刃を振るい、胴を薙ぎ切り臓物を、頭を撫できり脳漿を撒き散らしヌルリと全身に浴びていきながら殺した
数分前まで会話した大人の人、ボクと同じぐらいの子を…
「フヒャハハハハ!まだまだ続きますよお?更に増援で~す♪」
ピエロの衣装を来たアイツが笑いながら指を鳴らすと大人が数十人現れて、身を震わせゾディアックになる…
やめて、もうやめてよ………もう人を殺したくない!
「燐、早く早く」
「ち、ちょ!?シャル、あんまり引っぱるなって…」
リニアの改札を抜けたのは、プラチナブロンドの髪を揺らしIS学園制服姿の男女…GGG特別隊員でIS学園に通うシャルロット・レオンリーヌに腕を引っぱられるのはGGG機動IS部隊所属兼IS学園生の獅童燐。蹈鞴を踏みながらかけてく姿は恋人にも見え、他校の生徒からも好奇の目が向けられている。くるりと回り燐の腕に抱きついた
「もう、早くしないとリニアに乗り遅れちゃうよ?」
「わ、わかったから…だから離れてくれないかな(む、胸が…柔らかくて挟まれてるから!)」
「やだよ。寝坊した燐が悪いんだから♪ペナルティだよ」
有無を言わさないシャルロットの笑顔に押され、体温が上がりドキドキバクバクする燐と共に、乾いた空気音と共にドアが閉まるとゆっくりとリニアが動き出した。久々の休日をもらった二人が向かうのは最近オープンしたばかりの総合商業施設《ディーヴア》。何をしに行くかというと少し時間を巻き戻すことになる
1日前、IS学園寮での事だった
「ね、ねえ燐…いま、いいかな」
「どうしたんだシャル?こんな遅くに?」
悪夢の10日間、新型サポートIS運用テスト時に現れたゾンダーにより不動統夜君の世界へ転移し帰還したオレたちは報告書を纏め上げGGGへと送り一息ついた時。控えめな声が響きドアを開けるとパジャマ姿のシャルが顔を俯かせもじもじしながら立ってた
「え、えっと…」
空調が効いてるけど夜も遅いし、女の子を立たせるのはいけない。部屋に入れ椅子を勧め冷蔵庫から今朝作ったショウ兄直伝水出し緑茶を薩摩切子の器に入れてシャルに出した
「きれいなグラスだね…」
「前に宇宙開発公団の試作シャトルのテストをした時にいったタネガシマの宇宙開発機構の所長さんから貰ったんだ…」
サツマキリコを手にして目を輝かせながらちょこんと椅子に座る…もしかしたら統夜君の世界で知った事がまだ引っかかってるのかもしれない
アフリカで姿を見せたバイオネット総帥、そして不明瞭だったその目的が見えてきた時に統夜君の世界に跳ばされた時に予備知識として釘を刺されながら語られた《勇者王ガオガイガー》の物語で、ゾンダーを浄解する力を持つ《天海護》くんの素性…緑の星の指導者カインの息子だという真実を聞いて、シャルの様子がおかしい。戻って来てからも、クラスの皆の前では空元気に振る舞ってる
でも一つ疑問がある。オレの命を繋いでいるGストーンは二十二年前に飛来し落着したGクリスタル内部からみつかった《七つのGストーン》の一つだ。調査時に行われた外宇宙よりの飛来物で高度な文明を有する知的生命体の存在、元素測定結果によれば5億345年前に構築されたモノで、クリスタル自体が無限情報サーキットであることだけ…内部透過検査では統夜君が言うGは見つからなかった
そしてシャルが持つGストーンのペンダントを調べたんだけど…別な用途で産みだされたような痕跡と243年前に作られたと旧ID5(GGG前身組織)時代の爺ちゃん達、GGG三式空中研究所スタッフの手で明らかになった
でも22年前にGクリスタルは地球へ落下した。シャルのGストーンペンダントは243年前に作られたモノ…明らかにおかしすぎる?Gクリスタルが無ければ産みだせないはずだし…
「あ、あの燐?どうしたのなんか悩んでるの?」
「い、いや、なんでもないから…」
心配そうな声にあわてて思考の海から抜ける…Gクリスタル、Gストーンペンダントのことは爺ちゃんにまかせるか。それよりシャルに明るく元気になって貰いたいし
女の子を元気にする方法ってどうしたらいいか…蓮童師父やレグルスアニキは教えてくれなかったし…女の子を笑顔にする、元気にする方法…オリエなら……あ!?コレだ!!
「……シャル」
「な、なに燐!?」
「明日、デートしよう!!」
「え、ええ──────!?!?」
切り子のグラスを持つシャルの手の上に手を重ねた…顔を真っ赤にしながら何度も何度もコクコク頷いて、トントン拍子に待ち合わせ場所と時間を決めて、フラフラと部屋を出て行った…うう、オレ。なんかとんでもないことしたかも。躰が熱くなってきた
もう一回、キンキンに冷えた水風呂(氷点下-243°)入って頭を冷やそう!明日は早いし!……入る度にボコボコお湯になるのを繰り返してるうちに眠ってしまって気づいたらデート待ち合わせ時間10分前。あわてて私服に着替えて(冷却システム内蔵)、待ち合わせ場所に向かったオレが見たのは
「────────燐、遅いよ」
笑顔を向けるシャルがいました…迷わずDO•GE•ZAを敢行。だってスゴく怖かったしひたすら何度も拝むように謝ってたら
「…じゃ、ゆるしてあげる。そのかわり」
「?、な、なに?」
「デ、デートが終わるまで、ぼ、ボクとて、手をつないで!そしたらゆるしてあげる」
「え、ちょ?シャル、ひ、引っぱらないで?」
……シャルをデートに誘って遅れたのはオレだし…なにより今日は楽しんでくれるようにしなきゃ、そう心に決めリニアの席に座りながら重ねた手を握った
第二十二.五話 平穏(前編)
IS学園より離れた湾岸部にある建設途上海上都市…その海中にあるGGG本部ベイタワー基地。日夜バイオネットの企みを打ち砕き続ける我等が勇者ISおよび六つのエリアの中央ヘキサゴンにあるメタルロッカールーム。
そこでは異世界より訪れた不動統夜によりもたらされた支援ISライアン、ガンキッド。恐竜型メカダイナドラグーン、《アシストマシーン》、そしてG•ギャレオンの再調査と調整に束、獅童博士、ユーノ、サンジェルマンファウンデーションより派遣されたメイド整備隊が進めていた
「トリアさん、ステルスガオーのウルテクエンジンと展開装甲のクリアランスマッチングをお願いします!」
「ふんふん、よしコレでどうだ!」
端から見れば旧ステルスガオーにしかみえないが。操作すると翼部がスライド、竹が割れるよう展開と収容を繰り返し、ウルテクエンジンユニットが明滅する…メイド整備隊、GGG整備班も息をのんだ
「うん展開時間は問題ないね~。んじゃドリルガオーいってみよ♪」
手早くステルスガオーの各種システムバージョンアップ作業を進めるトリアはドリルガオーをまえにし目を耀かせた…視線はすでに金色の螺線衝角に釘付け息を荒くしながらプログラミングし、最期にキーを軽く叩くとドリルが伸縮と同時に金色に耀き打ち出された。テスト対象に簡単にぶち抜いた
「っしゃあ!重力子コーティング成功!これぞドリルの醍醐味よ!穿て!貫け!天元突破ああああ!!」
ガッツポーズしながらはしゃぐ様にメイド整備隊、GGG整備班も自然と笑みがこぼれる…先の転移事件での技術交換と戦いを共に乗り越えたことで互いの絆は強まり、中には交際を始めたモノも多く、サンジェルマン•ファウンデーションからGGG転属を願いでるメイド整備隊もいるほどだ
「ガオファイガーの戦闘データを移植作業を開始します。トリアさん、休憩をとらないんですか?」
「ふふふ、こんな楽しいことをまえにしたら疲れも吹き飛ぶわよ。ソレにサンジェルマン伯爵からも頼まれてるからね……燐様の為に完璧に仕上げないと」
旧ガオーマシンはGGG整備班、サンジェルマンファウンデーション整備メイド隊の手で重力子技術を組み込まれ新生ガオーマシンとして生まれ変わろうとしていた
「青春じゃのう~さて、ダイナ君やGSライドの稼働効率はどうかえ?」
『ギャオ!』
元気よく答える真紅の恐竜に笑みを浮かべ撫でると尻尾を嬉しそうに振る…彼の名はGDA-02ダイナドラグーン。不動統夜によりもたらされたアシストマシーンの発展型であり、世界十大頭脳の一人《獅童レイジ》博士の思考をコピーした超AIにより自立行動も可能な新たなGGGの仲間である。彼には我々が知らない秘密が隠されているが次の機会に明らかになるだろう
「そうか調子はよいかの。不動君には感謝じゃのう……束くん、ジェネシ……いやギャレオンはどうかの?」
ダイナドラグーンをなだめながら隣にいる束に声をかけた…無数のフローティングウィンドウを開きながら目にも止まらぬ速さでタイピング、HUDを被りながらメカウサ耳が忙しく動く…レイジの声に手が止まりディスプレイが上へせり上がる
「ギャレオンは異常ないよ……でも」
「でも?なんじゃ?」
「…………私は自立行動を組み込んだ覚えはないのに動いてる。三十数年前に確認されたエネルギーがGストーンに融合してる…あり得ないよ」
「見せてくれるかの………………これは!?」
束からみせられた解析結果…ギャレオンの内部透過図にはオリジナルGストーン《Ⅰ》ISコア…エネルギー波形が示すのは三十数年前、オーボスから地球を守った星の勇者等が発するエネルギー波形と同じモノだ。自立行動機能を与える前に封印されたG《ジェネシック》には無かったのだ
顎に手を起き思考の海へ潜るレイジの頭に一つの可能性がうかんだ
(アフリカの解放点、キリマンジャロ、たしか三十数年前に獅子に似た新たな勇者が現れた場所と重なる…まさか!)
「束くん、あくまでワシの推論じゃが…ギャレオンには三十数年前に地球を救った勇者のエネルギー体が宿ってる可能性があるかもしれん…」
「地球を…救った勇者……あ、ありえないよ?だったらリッくんにこれ以上ギャレオンを使わせるわけにはガオファーの再設計を」
「しかしのお。ギャレオンとフュージョンした燐のバイタルを見てくれぬかの?」
「え?な、なんで…」
フローティングウィンドウに映されたのはガオファー、ガイガー時のバイタルと細胞抑制指数値…前者と違い明らかに安定している…なにより驚いたのはガオガイガーへF.F《ファイナルフュージョン》後も変わらない数値に目を疑った
「おそらくじゃがギャレオンに宿る地球の勇者が燐の躰を守り、オリジナルGストーン同士が共鳴し抑制システムが強化されてるのかもしれん」
「地球の勇者…リッくんの躰を?」
「そうとしか考えられんわい。まさに人智を超えた力じゃわい…束くん、今はワシラが出来ることをやろう…」
「はい、あ、あの……レイジ先生、あれは完成したんですか?」
あれ…その問いに振り返りながら手招きする。床が動き出し様々なケーブルにつながれたギャレオンを残し下へ移動していき微かな振動と共に止まり、灯りがついた
二人の前には金…オレンジ色にも似た輝きを持つ巨大なハンマー…あらゆる部分にケーブルが見え厳重に拘束され静かに鎮座している
「…開発自体は転移事件前に終了しておる…本来はガオファイガー用なんじゃがの…」
「じゃあ直ぐにでも使えるんじゃ…」
「ダメじゃ……重力子技術を使って強化されたガオーマシンとFFしたガオガイガー、アシストマシーン、ダイナくんがあったとしても、今の状態の燐が使えば命を…」
「……リッくんの命と引き換えに使わせないよ!」
「…っ…そうじゃの…そうじゃの」
束の懇願にも似た声が木霊する。苦い表情を浮かべレイジはただうなずくしか出来なかった…
同時刻…鳴り響く蝉の声、ときおり流れる風が木々の葉を揺らす。燦々と太陽が輝きの下には土塀に囲まれた古い木造寺院…欄干に力強く《厳光寺》と銘打たれる伽羅の中には大仏が座す眼下にGGG長官《大河幸太郎》、そしてスーツにみを包む眼鏡を掛けた壮年の男性が姿を見せた
「久しぶりだなゴールドタイガー…いや今はGGG長官だったか」
「急に呼び立てして申し訳ありません高杉光一郎元す…」
「今日の私は私事で来てるのだが、まあ夏は元帥でも減衰するからね……ん?どうした?」
夏の暑さが一気に氷点下並みの寒い駄洒落に一気に体温が下がった昔から彼、高杉光一郎。現地球防衛機構軍最高司令官にして元帥の座につく切れ者、かつてオーボスとの会談で停戦まで持ち込むほど互角に渡り合った英雄でもある。年を重ねてもその切れは衰えることを知らない
ID5時代にはバイオネットによるテロを共同作戦を持ちかけ成功に導き、大河幸太郎とは戦友の間柄でもあったのだ
「い、いえ……では高杉さんでかまいませんね……」
「ああ、ソレで私に聞きたいことがあるとは何かな」
飄々としながら板間に座り静かに訊ねる光一郎、大河は衣佇まいを正し面と向かい、発したのは
「三十数年前、この地球をオーボスから救った勇者達、彼等を率いた《隊長》…彼がドコにいるかをおしえてください」
「……」
鹿脅しが鳴り、光一郎は微かに瞳を見開いた…
第二十二.五話 平穏(前編)
了
君たちに最新情報を公開しよう
厳光寺で三十数年前に地球を救った勇者達を率いた隊長の行方を尋ねる大河に高杉光一郎は…
そして、シャルとデート兼買い物をし楽しむ燐…その最中に蘭の買い物に付き合う弾、更には一夏と箒、セシリアと凍也も同じ場所でそれぞれの平穏を過ごしていた
IS/勇者王ガオガイガー─白き翼と勇気ある者─
第二十二.五話 平穏(後編)
次回もファイナルフュージョン承認!
─マイクサウンダース13世─
コレが勝利の鍵だ!