Fate/Bloodborne「血に酔った狩人が侵入しました」   作:アメントス

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言峰綺麗「やあ僕、きれいなマーボーだよ!」
言峰理性「あめんどーず、あめんどーず」


読者諸君。

かねて血をおそれたまえよ。


第一夜 暗殺者

 この世界の外側には、あらゆる出来事の発端とされる座標。次元論の頂点に在る“力”があると言われている。

 それこそが全ての魔術師の目標であり、到達点。曰く『根源の渦』と号される、この世全ての始まりと終焉を司る神の座だ。

 

 その世界の外側へ至る目論見を、二百年前に実行した者達が居た。

 遠坂、マキリ、アインツベルン。後に始まりの御三家と呼ばれる魔術師達が企てたのは、幾多の伝説に綴られる万能の願望器『聖杯』の再現だった。

 試行当初、三家の秘術により召喚した、古今東西の勇名を馳せた英雄の魂――即ち、叶えるべき願いに匹敵するエネルギーを聖杯の器に封じ込める試みは順調に事を運んでいた。

 

 だが、その聖杯が叶えられるのはただ一人の祈りのみ。

 その事実が知れた途端、根源に至るという目標のもと協力関係にあった御三家は楔を別ち、血で血を洗う闘争へと形を変えた。

 これが聖杯戦争の起源である。

 以来、六十年に一度の周期で聖杯は、かつて召喚された極東の地『冬木』に再来する。

 

 そして聖杯は己を手にする権限を持つ七人の魔術師に、聖杯の中身たる燃料、『サーヴァント』と呼ばれる英霊召喚を可能とさせ、いずれが己を手にするに相応しいかを競わせるようになった。

 

「なるほど。興味深い……」

 

 雨竜龍之介なる獣に召喚された日より、およそ二日後の草木も眠る丑三つ時。

 召喚された“彼女”は今、冬木郊外の森林の中で自身の知る聖杯と異なる性質の、『冬木の聖杯』から供給される知識を吟味していた。

 

 何故二日もたって行っているのかといえば、単純に召喚された彼女の好奇心を現代日本の社会が刺激したからだった。

 日中は市街にて奇異な目に晒されながら“現代”の街並みを観察し、夜は『定められたレギュレーション』に従って魔力供給の名目で獣狩りに勤しむ充実した日々。

 ヤーナム市街に慣れた彼女に、平穏な日常の空気は心地好すぎた。

 

 そうして、擦り切れた心がある程度癒されたこの日。とある教会の前を横切った彼女は、嗅ぎ慣れた臭いに気付いた。

 それはイかれたビルゲンワース学院に足を踏み入れたときのような感覚で、幻の月で真実の隠蔽していた、メンシス学徒の如き浅ましい陰謀の香り。

 あの夜を駆け抜け、啓蒙の高まった彼女だからこそ看破できたのは、言葉にする意味もないだろう。

 

 結果、獣染みた嗅覚を頼りに、狩りの準備を始めて現在に至ったわけである。

 

「セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー」

 

 供給された知識の中にある、己が刈るべき獣の名前を諳んじる。口に出せばより一層深みのある名前だと彼女は感じていた。彼等の保有戦力も、高位の上位者相当と想定するべきだろう強敵ばかり。

 

「ふふ、ふふふ……」

 

 ヤーナムの獣狩りに参加した時同様、流されるような参戦ではあるが、彼女の気分はこの異常事態に高揚していた、

 血戦を、血で血を洗う、素晴らしい狩りを愉しもう、と。

 

 

 

『第一夜 暗殺者』

 

 

 

 アサシンのクラスにて現代に召喚されたそのハサンは、世闇に紛れながら森を駆け抜け、アーチャーのマスターである、遠坂時臣の命を狙っていた。

 

 彼の与り知らぬ事情だが、ハサンのマスターである言峰綺礼。

 本来魔術師と敵対関係にある聖堂教会に属する彼は、此度の戦争で確実な勝利を得るため、御三家の一画“遠坂”と同盟を組んでいる。とは言え、それは彼自身が望み行動した結果ではない。

 彼の父――言峰璃正と形式上の魔術の師である遠坂時臣。両名の協定の下、戦争の駒の一つとして行動しているに過ぎないからだ。

 

 そうして三年という月日を費やし、事前の準備が全て整った今夜。

 各陣営の役者達が見守る中で、戦争のため、欺瞞の決別として師である時臣を襲うことで、他の陣営にアサシン陣営は敵対していると示す。

 傍から見て何とも疑わしい関係だがしかし、時臣氏曰くこのタイミングで行わねばならない。

 

 傍から見れば三文芝居もいいところの軽薄な筋書き。

 二流どころか三流にすら成れないだろう脚本だが、それを知らぬ暗殺者は、仮面の下で余裕の表情を浮かべた。そして宵よ時刻は規定通り、月の位置から強襲の時と判断した暗殺者は、開戦の号砲たる茶番を演じる――筈だった。

 

「良い身のこなしだ。特別な生まれと見える」

 

 冬木の一等地、瀟洒な豪邸へ侵入するべく人外染みた跳躍を行ったハサンの耳元(・・)に、柔らかな声が囁いた。

 

「なッ!?」

 

 想定外の緊急事態。何の前触れも無く、何者かに背後を取られていた?

 

 決断は瞬時に。声の距離からして自身の背にピタリ、と謎の敵は張り付いているだろうと判断したハサンは、暗殺者の英霊たる証明をするかのように、宙を舞いながら敵を絡めようと振り向き様に肢体を伸ばす。

 

 軽業師の如き身のこなし、蜘蛛の巣の様に敵を捕えんとする手足の胎動。

 その全てが一流以上の、対格闘戦を想定した動き。教本にも載せれそうな、理想的とも言える対処術。

 

「だが、それだけでは勝てんよ」

「……!!?」

 

 激痛、恐怖、そしてそれに勝る驚愕。なにが起きたのか理解出来ないハサンをよそに、襲撃者たる彼女は細く笑みを浮かべた。その左手には、ハサンの生きた時代に名前すらなかった鉄の筒。

 “アレは武器だ”認識した瞬間、ハサンに向けられた筒の口から、稲妻のような光と轟音が放たれる。

 反射的にハサンは女の腹を蹴り飛ばし、草木の茂る森林へ逃走を図った。

 

「お、ぐッ……」

 

 筒の口が跳ね上がり、斜線がずれると、辛くもハサンは生き延びる。

 右の鼓膜は破れ、伸ばした右手が肩から消し飛んでいるが、対象との距離が離れた。互いに起伏のある緑の大地に着地すると、油断無く視線を交わす。

 

(マスター綺礼、緊急事態です。他のサーヴァントに強襲されております)

 

 半身を血で染めるハサンは、霊的パスで繋がったマスター。言峰綺礼へ念話を飛ばし、状況の報告に努めた。

 

(背格好から見て、恐らく未だ確認が取れていないキャスターと思われます)

 

 肩で大きく息をしながらも、四肢は緩やかに。即時行動を取れるよう染み付いた歴戦の暗殺者たる臨戦態勢。

 敵は一歩、また一歩と、優雅な足取りでゆっくりと距離を詰めてくる。

 正面戦闘で三騎士に遅れをとる暗殺者は、湧き上がる焦りを堪え、未だ応答の無い主人へ指示を仰ぐ。

 

(マスター! 指示を!!)

 

 何も知らない、憐れな蒙昧。

 懐かしい姿でも被ったのか、そんなハサンの様子を、心底おかしそうに見ながら彼女は嗤った。

 

(マスター、マスター綺礼! ……?)

 

 パスは繋がっている、供給される魔力からそれは確かなことだ。しかし、念話に反応は無い。

 言峰綺礼という男は、ハサンの目から見ても寡黙な印象を受けた。必要なこと以外、会話した憶えもない。

 例えるなら、雇い主と下僕の関係に近いだろう。だが、だからこそ、このような事態で一切の反応を返さないのは異常だった。

 

 では何故?

 

 考察する必要など無いだろう。なにせ眼前の敵は、恐らくキャスターである。ならば妨害工作に類する宝具や魔術を想定せて然るべきだ。ハサンはそう判断した。

 彼の考えは、あながち間違いではない。実際に念話の妨害を行っているのは、彼女なのだから。

 

 思案は一瞬だった。未知の敵と相対し、逃走しようにも深手を負ったハサンは、状況が詰んでいる事に気付く。同時に、彼我の距離が英霊にとって一歩で詰められる程度に縮まっていた絶望にも。

 

 だが、天は彼を見捨てては居なかった。

 突如として遠坂邸より飛来した黄金の閃光が、彼女を背後より貫いたのだ!

 

「おや、これは……油断したな」

 

 そして貫通した黄金が、ハサンの頭蓋までも破砕する。

 彼女の胸からは止めどない血が流れ落ち、ハサンの身体は魔力の粒子となって消えて逝く。彼女もまた、膝から崩れ落ちるとその身体を霞の様に霧散して消えて往った。

 

 先までの緊迫した状況と一転した、あっけない幕切れ。

 原初の王が漁夫の利を得るような形となってしまったが、これが第四次聖杯戦争初戦。

 開戦を告げる戦いであった……




我様「トキオミェ……」
アッサシーン「これって、魔貫光○砲と似たような構図なんじゃ……」


今回登場した左手武器(獣狩りの銃器)はこちら!


『獣狩りの散弾銃』

狩人が獣狩りに用いる、工房製の銃。
獣狩りの銃は特別製で、水銀に自らの血を混ぜ、これを弾丸とすることで、獣への威力を確保している。

また、衝撃により獣のはやい動きに対処する部分も大きく、特に散弾を用いるこの銃は、当てやすく効果が高い。

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