こぽ、こぽこぽ、と。
聞きなれない音が耳に響く。あと、言葉で表せないような雑音のような響き。ずっと遠くから聞こえているような、実はすぐ近くなのかもしれない。でも、そんなに嫌いじゃない。聴き続けてたらうとうとしてしまうような、そんな音を拾い続けていた。
ああでも、ここはどこなんだろう。音だけじゃ分からない。遠いのか近いのかもわからない。だから、わたしは今までずっと閉じていたまぶたを開く。
途端に目の前に広がった光は、どこまでも続く碧色に溶けていった。
(ここは……)
見慣れている、というほどでもないけれど。わたしはその景色を確かに知っていた。
波の模様を描く砂の地面、地上ではあまり見られない形をした岩山、見たことのない鮮やかな色をした枝。
口から零れ出してゆらゆらと昇っていく泡を追いかけて上を見てみれば、明るい光がカーテンみたいに広がっていて、そのカーテンをいくつもくぐり抜けてずっとずっと先に、ここまでやんわりと光を届けてくれている日の光が見えた。
日の光に反射してきらきらしているのは……水面。すっごく高いところにあるそれはまるで夜空の星のように瞬く。
だからこそ、わたしは気付くことが出来た。うとうとした気分のなかでも、そのことだけははっきりしていた。
(これ、夢だ)
その言葉の意味は二つ。人が眠るときに見るものと、いつかの未来を願って見るものと……うん、きっとわたしはそれを願っていた。
これは夢。夢を見ている最中にそれに気づくなんて初めてだ。誰か……誰だっけ?そういう夢に名前がついていることを教えてくれた。誰かが、なにかの名前で…………
むむ、と考え込むわたしの頭の上を大きな影が横切って、私ははっとその影の主を見た。日の光を遮るように、人よりもずっとずっと大きな体と尾びれ、ゆったりとその尾びれを揺らしながら泳ぐその姿は──
(ホエルオーだ……!!)
本の写真でしか見たことのない生き物……そう、ポケットモンスターのホエルオーだった。きっと見間違いじゃない。本で何度も目にしたあのシルエットを間違えるはずがないから。
そして、そのホエルオーが泳ぐ姿を見た途端に、景色が鮮やかになっていく。それは、当たり前のようにそこに生きるポケモンたちだった。
群れをつくって泳ぐテッポウウオ、それを追いかけるサメハダー。タマンタとマンタインも群れで泳いでいる。何匹かのメノクラゲは流れに身を任せてふわふわと漂っていた。
岩山にはサニーゴとシェルダーがとことこ歩いたり、眠ったりしている。タッツーも岩に空いた穴から顔を覗かせているのが見えた。縄張り争いでもしているのか、二匹のクラブが睨み合っている。
岩の隙間を縫って泳いでいるのはハリーセンやラブカス。彼らは群れを作っていないみたいだ。
ざっと見回しただけでもそれくらい。もう全然、数え切れない程にたくさんの生き物がそこにはいた。
これが──
(これが、海)
わたしの夢見た場所。いつか行ってみたいと、ずっと願っていた場所。
どうなんだろう。これは本物の海じゃないのかもしれない。だって、これは夢。本当のわたしは眠っていて、その間に見ている景色。
でも、そのことはわかっているのに、ここの景色はわたしを惹き付けて止まない。わたしが思い描いていたよりも、遥かに大きくて、いきいきとしている。
だからわたしは、その場でじっとしていた足を前に出すことにした。
いや、もう一歩目は踏み出されていた。わたしはそれに付き従う。
気になることはたくさんあり過ぎるくらいだけど、わたしはこの不思議な夢をもっと知りたいと思った。この景色がどこまで続くのか、やがて溶けて消えてしまうのか気になって仕方がなかった。
夢は目を覚ましたときに忘れてしまうものだけど、だからこそ、思い切って行動できる。
本当はあの子と一緒にこの景色を見たかったけど……名前は何だったかな。出会ったのは最近で、でもとても私に懐いてくれた。あの子の名前は……
頭の片隅でそんなことを考えながら、わたしは海の底を歩く。一歩一歩を踏み出す度に、地面の砂が小さく舞い上がった。
今回はとても短いです。申し訳ない。それにしても今作の語り手はは大人びいていますね(開き直り)