ソードアート・オンライン・リターン
第十一話
「ビーストテイマーの少女」
そもそも、前回より良い結果を残そうとキリトやアスナが活動していた為、SAOは1年で死者は2000に満たない数で抑えられていた。
このまま行けば前回は2年で4000人近くが死んでいたのに対し、今回はそれを下回る数が生き残る事が出来る筈だったのだ。
だが、生き残りが多いということは積極的なPKを行う悪質なオレンジプレイヤーやレッドプレイヤーにとって獲物を多く残したという事にもなる。
結果として、これまでにオレンジプレイヤーやレッドプレイヤーがこれまでにPKして、その犠牲となった数は既に200人を超えている。その半数以上は
そして、タイタンズハンドと言えばキリトにとっては小物であろうと、アインクラッドでは名の知れたオレンジギルド、悪質なオレンジプレイヤーやレッドプレイヤーを擁する最悪ギルドの一つ。
「たしか、前にシリカに聞いた話だと、モンスターとの戦闘を終えた後にヒールクリスタルの分配でロザリアと口論になったって話だ」
「ヒールクリスタルの分配で?」
「ああ、シリカはビーストテイマーだから相棒にピナって名前のフェザードラゴンが居るんだ。基本的にシリカの回復はピナが行うからロザリアはシリカにヒールクリスタルは必要無いと主張したらしい。でもシリカは前線に出て来た事も無いロザリアこそヒールクリスタルは必要無いと主張したんだって」
「うん、それはシリカちゃんが正しいよ。見た感じロザリアって人は槍使いだよね? 中衛武器だけど、前線に出られない訳じゃないのに、それで前線に出ないなら正直ただのお荷物。ヒールクリスタルを持たせるだけ無駄だもん」
もっとも、タイタンズハンドの意図は正直興味が無いので、何故シリカにヒールクリスタルを持たせなかったのかは知る必要は無い。
そして、丁度シリカ達がモンスターと戦闘しているのを確認、その戦闘が終わり、やはり前回と同様、シリカから聞いた通りの口論をしていた。
「あ、シリカちゃんがPT解除したみたい」
「ああ、ピナと一緒に離れて行ったな」
ならば後を追うしかない。
だが、何となくだがキリトは気になってシリカのPTだったメンバーの方を振り返る。すると、キリトは衝撃の光景を目にした。
「・・・っ! (あいつ、嗤ってる?)」
シリカの後姿を眺めながら、ロザリアが嗤っていたのだ。まるで、予想通り、計画通りとでも言わんばかりに。
「アスナ、もしかしたらロザリアの目的が判ったかもしれない」
「目的?」
「ああ、あいつ・・・多分、始めからピナを死なせる事が目的だったんだ」
流石にプネウマの花の事までは知らないのだろうが、何処かで知ったのだ。使い魔を失ったビーストテイマーが、とあるアイテムで死んだ使い魔を復活させる事が出来るということを。
そして、獲物として見繕っていたPTの中に運よくビーストテイマーで低レベルのシリカが加入したため、あわよくば使い魔を死なせてアイテムを取りに行かせようとしていた。
「使い魔蘇生アイテムともなれば貴重なレアアイテムに違いないと当たりをつけたんだな」
「タイタンズハンドって、確かレアアイテムなどの強盗などを主としていて、その手段にMPKすら平気で使用するっていうオレンジギルドだよね?」
「ああ、しかもあいつ等はSAO内で殺しても本当に現実で死んでいるなんて証拠は無いって言って殺す事に躊躇いを持たないんだ」
ある意味、現実に戻ったときに実は本当に殺してしまっていた事に気付いたら発狂でもするのではないかと思える集団でもある。
「さて、急ごう。少しスピードを上げないとシリカを見失う」
「うん」
この森でシリカが危機に陥るのはソロになってしまった事と、場所が迷いの森であった事が原因だ。
この迷いの森でソロであると、迷いの森最強のモンスター、ドランクエイプという猿人モンスターが複数で出現し、しかもスイッチや回復アイテムを使っての連携までしてくる。
安全マージンが十分過ぎる今のキリトやアスナにとってはソロで挑もうと雑魚に過ぎないモンスターだが、今のシリカで勝てる相手ではない。
「確か、前にこの森で会った時のシリカのレベルは44だった。だけど・・・」
「まだ30台の可能性が高いね、時期的に」
走りながら今のシリカのレベルを予想する。前回会った時はレベル44だったが、今は間違いなく30台の中盤辺りか良くて後半、最悪なのは前半である事だ。
「ピナを死なせてもアウトと考えた方が良い」
「思い出の丘に行くには装備を整えても安全マージン十分とは言えないもんね」
そうして、漸くシリカに追いついたのだが、ハッキリ言おう。最悪のタイミングで追いついてしまった。
現在、シリカは10は居るであろうドランクエイプの群れに囲まれていて、殆ど防戦一方・・・否、完全に押されている状態だったのだ。
「アスナ!」
「うん!」
キリトよりも足の速いアスナが先行して腰から最近になって前回よりも早い段階でマスタースミスになったリズにより作成してもらった前回でも使用していた最高の愛剣、ランベントライトを抜き、ソードスキルを発動させた。
「はぁああっ!!!」
現在の自分の位置と、シリカの位置を確認し、射線上に敵のみが入るよう調整しながらアスナは一瞬にして閃光となった。
白い閃光は瞬きする間も無くドランクエイプの背後から襲い掛かり、そのまま胴体を貫通。更にその向こうに居たシリカの真横を通り抜けて、その先にも居たドランクエイプをも貫通する。
細剣最上位スキル、フラッシング・ペネトレイター。正にアスナの異名である閃光をそのままソードスキルにしたかの様なスキルで、アスナの最強奥義とも言えるソードスキルだ。
「え、え? えええ!?」
「大丈夫?」
「あ、あの・・・えと」
「その様子なら大丈夫みたいね・・・後はわたし達に任せて」
「わ、わたし・・・達?」
アスナ一人だと思っていたシリカは“達”という複数形に疑問を持つが、丁度聞こえたドランクエイプの悲鳴でそちらを向くと、キリトが黒い残光を残しながら高速移動からの二刀流ソードスキルをドランクエイプに叩き込んでいた所だった。
「せぇりぁあああ!!」
二刀流ソードスキル、ダブルサーキュラーによる突進からの二段斬撃により、まとめて二体のドランクエイプがポリゴンの粒子となって消える。
これで10体の内、4体が倒された事になる。残る6体だが、そこまで問題ではない。
「はぁああ!!」
アスナもシリカの後ろにいるドランクエイプ2体にパラレル・スティングによる2連撃を入れてポリゴンの粒子に変える。
残る4体はキリトの側だ。キリトは両手の剣をエフェクトライトにより輝かせると、二刀流ソードスキル、シャインサーキュラーによる15連撃を発動、そのまま4体を葬り去った。
「す、凄い・・・」
「ふふ、凄いでしょう? 彼」
「は、はい! でも、何で剣二本でソードスキルが発動したんですか?」
「それは・・・ここではちょっと話せない内容になっちゃうかなー」
残心を終え、エリュシデータとシャドウロードを鞘に納めたキリトはアスナと、その隣に居るシリカの所に歩み寄る。
シリカの肩にはピナが健在で、多少のHP減少は確認出来るものの、ピナもシリカも、なんとか無事に救出する事が出来たことに安堵した。
「危ないところだったね、大丈夫だった?」
「はい! あの・・・危ないところを助けていただいて、ありがとうございます」
「いや、間に合ってよかったよ」
「あ、あの私、シリカって言います、この子はピナ」
「ピュイ!」
「俺はキリト、ギルド黒閃騎士団の団長だ」
「わたしはアスナ、同じく黒閃騎士団の副団長だよ」
黒閃騎士団の名はシリカも聞いた事があった。
アインクラッド攻略組に属する数あるギルドの中でも最強のギルド、最強夫婦と呼ばれる団長と副団長が率いており、未だかつて攻略において死者を出さず、ハイレベルプレーヤーばかりが所属するギルドだと聞いている。
そんなシリカにとってみれば雲の上のような存在、しかもその最強夫婦と名高い黒の剣士キリトと閃光のアスナにこんな所で出会うとは思いもしなかった為、彼女は大層驚いていた。
「な、何でそんな凄い人たちが、こんな森に?」
「ああ、ちょっと熟練度上げに来ていたんだ」
「な、なるほど・・・」
流石は攻略組最強、熟練度上げに高難易度のダンジョンを選ぶなんて、シリカとは実力が違いすぎる。
「もしよければ街まで一緒する? 俺達もそろそろ街に戻るつもりだったから」
「い、良いんですか?」
「勿論! それに、シリカちゃんとピナだけでこの森を脱出するのは少し危険だし、ボディーガードだと思って?」
確かに、この森をシリカ一人で抜けるのは不可能だろう。そう考えて、シリカは2人に付いて行く事にした。
時折出現するモンスターはキリトかアスナが倒し、時々出るシリカでも倒せそうなモンスターはシリカの経験値稼ぎの為にと、シリカが倒しながら森を歩き、出口が大分近くなってくる。
「そういえば、シリカちゃんは何であの森に一人で?」
「あ、その・・・最初はPT組んでた人達が居たんですけど、喧嘩別れしちゃって」
やはりそうだった。
それから、そのPTを組んでいたという人達の内、女性の名前が間違いなくロザリアであるとシリカから聞かされて、キリトは少しだけ思案顔になる。
「・・・(あいつは、もう森を抜けて先に街に戻っている筈だな。どうする? このままだとシリカはまたあいつ等にあの手この手を使ってピナを死なせることになる)」
シリカを完全に助けたと言えるのはタイタンズハンドを如何にかしてからの話だ。
このままキリトとアスナがシリカと別れれば、再びロザリアはシリカに接触し、同じ事の繰り返しとなる。
しかも、その時はもうキリトとアスナはシリカの傍に居ない上に、未来での知識も当て嵌まらないだろうから、前と展開が異なるため、助けられない可能性が出てくるのだ。
漸く森を脱出して35層の主街区に着いた三人は、案の定と言うべきか、先に迷いの森を脱出して街に戻ってきていたタイタンズハンドの面々と出くわす。
「あら~? シリカじゃない、あの森から脱出出来たの?」
「っ!」
「へぇ、あんたみたいな低レベルのお子ちゃまでも簡単に脱出出来るくらい程度の低い森なのねぇあそこは」
話し掛けてきたロザリアはシリカを嘲笑うかのような視線を向け、その後キリトとアスナにも目を向ける。その目は明らかにキリトとアスナの見た目から格下だと判断して見下している目だ。
「ま、そこの2人に助けてもらったんでしょうけど、どっちも弱そうねぇ」
キリトは見た目こそ強そうに見えないし、アスナもその纏っている高貴な雰囲気からどこぞのお嬢様と思えなくも無い。
当然だが、2人とも見た目だけなら強そうに見えないけれど、名乗ればロザリアは間違いなく腰を抜かす。
「シリカ、行こうか」
「あ、はい・・・」
ロザリアを無視する様にキリトとアスナはシリカを諭して宿も兼ねたレストランに向かう。
そんな三人の後姿を見つめるロザリアの目は、標的・・・獲物が増えた事への歓喜からか、怪しげな光を宿しているのだった。
次回はVSタイタンズハンド
因みに回廊結晶は持ってます。
※感想にて、原作でシリカがロザリアとPT組んでいた際に一緒に居た男達は一般プレーヤーだとの情報を頂きましたので、十話と十一話を修正しました。