ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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狩る側が実は狩られる側~。


第十二話 「オレンジギルド」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第十二話

「オレンジギルド」

 

 シリカと共にレストランへとやって来たキリトとアスナはそのままレストランでの夕飯を終えて2階にある宿泊スペースに来ていた。

 キリトとアスナは一つの部屋に2人で泊まる事になり、今現在はその部屋にシリカも入れた3人で話し合いを行っている。

 

「と、いう訳で・・・キリト君が使っていた二刀流はキリト君のユニークスキルなの」

「近々公表するつもりだから、それまでは口外しないでもらえると助かる」

「わかりました。でも凄いですね、攻略組最強っていうのもありますけど、そこに加えてユニークスキルだなんて」

 

 確かに、現在のアインクラッド攻略組最強2大ギルドは黒閃騎士団と血盟騎士団で、その両ギルドの団長が共にユニークスキル使い、余りにも出来すぎているというか、ゲームバランス崩壊するのではと思えてならない。

 

「それとシリカにはどうしても教えておかなければならない事があるんだ」

「教えておかなければならない事、ですか?」

「そう、さっきシリカちゃんが喧嘩別れしたっていうロザリアさんの事なんだけど」

 

 ロザリアの名前が出た時点でシリカの身体が少し強張った。やはり喧嘩別れした事を少し気にしているようだが、それは無用な気遣いというものだ。

 

「あのロザリアって女は、オレンジギルド、タイタンズハンドのリーダーだ」

「・・・・・・え?」

「プレーヤーからのレアアイテム強奪やMPKなどを積極的に行う犯罪者ギルド、タイタンズハンドと言えば中層辺りで有名だった筈だけど、聞いた事無い?」

 

 確かに、シリカにもタイタンズハンドの名前は聞き覚えがある。だけど、まさかあのロザリアがそのギルドのリーダーと言われて、そうだったのかと、いきなり頷くなど出来ようか。

 

「で、でもロザリアさんのカーソルはグリーンでしたよ?」

「犯罪者ギルドっていうのは何も全員がオレンジカーソルになっている訳じゃない。主にグリーンカーソルのメンバーが獲物を見繕って誘い出し、オレンジの仲間が仕留めるっていうのが通例パターンだな」

「それに、今はカルマ回復イベントも出回っているから、オレンジカーソルからグリーンカーソルに戻すのは面倒でも不可能じゃないんだよ」

 

 更に、オレンジカーソルだと街に入れば鬼の様に強い警備兵NPCが追いかけてくるので、実質的に主街区にある転移門は使えず、他の層には迷宮区を歩いて移動するしかない。

 なので、大半の犯罪者ギルドはグリーンのメンバーを半数近くは残しておくのだ。

 

「そして、タイタンズハンドはリーダーがグリーンで動いて敵を油断させるのが得意なんだ。あの通り、女である事を利用してな」

「あ・・・・・・」

 

 そう言われて、シリカは先ほどまで組んでいたPTのメンバーがロザリア加入の直後から随分とロザリアを優遇しようとしていたのを思い出す。

 彼女は年齢的にも色気のある大人の女性、更には美人でもあるので、大抵の男はコロッと騙されてしまうだろう。

 

「そうして、油断し切った獲物を待機させておいた仲間が襲い、レアアイテムなどを強奪した後に殺すか・・・麻痺毒ナイフで動けなくしてフィールドに放置し、モンスターに襲わせてMPKする」

 

 それがタイタンズハンドのやり口だ。

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の様に直接的に殺しに来る訳ではなく策を巡らせて来るだけに、発覚が遅れてしまったりするので、ある意味厄介なのだが、戦闘能力という点では笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の方が厄介極まりない。

 

「シリカちゃん、多分だけど今回のタイタンズハンドの目標は君になるの」

「っ!? ど、どうしてあたしが?」

「ビーストテイマーだからさ」

「?」

 

 訳がわからないと首を傾げるシリカに、使い魔蘇生用アイテムの話をする。

 確かに、死んだ使い魔を蘇生するアイテムともなればレアアイテムであるのは間違い無い。それはビーストテイマーだからこそ判る事だ。

 

「じゃ、じゃあ・・・ロザリアさんはピナを、殺すつもりで」

「そして、君が何らかの方法で使い魔蘇生アイテムの情報を知るか、もしくは偶然を装って自分が教える事で取りに行かせて、シリカが蘇生アイテムを入手した所を襲い、奪う」

 

 一瞬でシリカの顔色が真っ青になり、目尻に涙が浮かんで全身がガタガタと震えだした。大切な相棒を殺されるかもしれない、自分が殺されるかもしれない、そんな恐怖に怯えだしたのだ。

 

「・・・なぁシリカ、良ければ黒閃騎士団に入団しないか?」

「・・・?」

「少なくとも、このままだと明日には俺もアスナも自分のギルドに戻る。君とはお別れだ・・・そうなれば君は確実に危険に陥る」

「でも、わたし達のギルドに加入したら明日にはギルドホームに一緒に行けるし、そのままホームで生活したら安全だよ」

 

 それに、タイタンズハンドについても罠に掛けて壊滅させる事が出来る。その為の用意も既に手は打ってあるのだ。

 

「でも、あたしってレベルが全然低くて・・・最強ギルドって呼ばれている黒閃騎士団に入るなんてとても」

「それは気にしなくていい。入団には特にレベル制限なんて設けてないし、入団後なら訓練やレベリング任務なんかでレベル上げも可能だ」

「それに、最近加入した子なんてまだレベル20台だから、今のシリカちゃんでも全然問題無いんだよ?」

 

 黒閃騎士団は基本的に最前線に立つ攻略組部隊と、ホームや団員の店などで武器・防具を作ったり、ホーム拡大をしたり、情報集めや資金稼ぎなどする後方支援部隊、武器や防具の材料などを集めたり、低レベル団員のレベル上げをメインに行う育成部隊に分けられている。

 

「最初はシリカは育成部隊に入って、レベルが上がれば育成する側になったり、後方支援部隊に回っても良い、戦いに自信が付いて最前線に出ようと思う様になれば攻略組部隊に移動しても問題は無い」

「ビーストテイマーなら何人か所属してるし、シリカちゃんのレベル上げやビーストテイマーとしての戦い方の指導なんかも的確に行えるよ」

 

 黒閃騎士団の説明を受け、悩みに悩んだ末、シリカは顔を上げ、立ち上がってキリトとアスナの2人に面と向かって頭を下げる。

 

「まだまだ未熟ですが・・・どうぞ宜しくお願いします!」

 

 こうして、ビーストテイマーのシリカ・・・後に最前線で【竜騎士】と呼ばれる事になる少女が、黒閃騎士団に入団するのだった。

 

 

 シリカが正式にキリトからのギルド入団申請にYESをした翌日、早速だが三人は第22層にあるギルドホームに行く事となった。

 後ろから三人を追跡している存在の気配については既にキリトもアスナも気付いているが、何も言わないのは罠に掛ける為であり、そのまま22層に来て貰う予定なのだ。

 そして、22層へ転移完了してシリカが先ず思ったのは、凄くのどかな街だという事、そして街から少し離れて圏外に出ると、近くの村まで行くという事で、それに付いていったのだが、もう少しで村というところでキリトとアスナの足が止まる。

 

「キリトさん? アスナさん?」

「ずっと俺達の事を追跡してきてるけど、そろそろ顔を出せよ」

 

 キリトが背中に背負っていたエリュシデータを鞘から抜くと、漸く観念したのか、10名の人間が物陰から姿を現した。

 そして、その集団の先頭に立っているのは、紛れも無くロザリアで、彼女は槍を、他の男は剣や斧、ダガー、短剣などを構えている。

 

「へぇ、アタシのハイディングを見破るなんて坊や、随分と索敵能力が高いのね」

「狙いはシリカちゃんの使い魔・・・ピナですね?」

「ええそうよお嬢ちゃん、ついでにあんた等からも色々とアイテムを頂くけどね」

 

 キリトのエリュシデータやアスナのランベントライト、防具たコートからそれなりに良い代物だと当たりを付けたらしい。

 なるほど、レアアイテム強奪を主な罪状としているだけあってアイテムを見る目はあるようだ。

 

「さぁ、殺されたくなければ持ってるアイテム全部置いていきな! まさか三人でこの人数相手に勝てるとは思ってないでしょ?」

「・・・別に」

「・・・なんだって?」

「オレンジギルド、タイタンズハンドのリーダー・・・ロザリア、あんたは、タイタンズハンドは今日、この場でもって終わりだと言っているんだ」

「へぇ、面白い冗談ねぇ・・・お姉さん、そういう冗談嫌いよ」

 

 ロザリアが後ろの男達にやれと命じた。

 命令に従い、男達が前に出てきて武器を三人に向けようとしたときだった。全員、突然武器が破壊あるいは弾き飛ばされてしまう。

 

「な、何だ!?」

「おいテメェら、俺っち達のリーダーに何やってくれちゃってんの?」

「よっぽど死にたいお馬鹿さんたちなのかしらねぇ~」

 

 いつの間にかロザリアの首筋に片手剣ストライクパニッシャーと深蒼の槍ブルーボルトの穂先を添えているモスキートとクルミが鋭い視線をロザリアに向けて威嚇していた。

 他にも男達には黒閃騎士団のメンバーが30名ほど囲って武器を向けている。ある意味恐怖を感じざるを得ない光景だ。

 

「ひ、ヒィッ!? な、何なんだいアンタら!?」

「見てわかんねぇの? 俺っち達は黒閃騎士団の団員で、あそこに居るのは黒閃騎士団の団長、【黒の剣士】キリトさんと、副団長、【閃光】のアスナさんだぜ」

「こ、黒閃騎士団だって・・・・・・!?」

「あの、攻略組最強の!?」

「そ、そういえば22層って、黒閃騎士団のギルドホームがあるって噂の場所じゃあ・・・・・・」

 

 漸く自分達が狩る側ではなく狩られる側である事を理解したタイタンズハンドのメンバー達は、揃って顔色を真っ青にして命乞いを始めた。

 ロザリアも、顔色が蒼白になり、自分が獲物だと思っていた相手がアインクラッド最強夫婦と名高い存在だと知って涙を浮かべながらガタガタと震えだす。

 

「お、お願いだよ・・・もう悪さしないから、こ、殺さないでおくれよぉ・・・」

「キリトさん、どうするんですか?」

「モスキート、クルミちゃん・・・悪いけど剣と槍、下ろして」

 

 キリトに言われた通り、2人が剣と槍を下ろすと、腰が抜けた様に座り込むロザリアの前にキリトが立った。

 キリトは険しい表情でロザリアを見下ろし、右手に持ったエリュシデータを天高く振り上げる。その光景に誰もがキリトがロザリアを殺すつもりだと思い、止めようとするも、その黒い刀身は無常にも振り下ろされる。

 

「キリト君、ダメ!?」

 

 だが、振り下ろされたエリュシデータの刃はロザリアの直ぐ傍の地面に突き刺さるだけに終わった。

 始めから殺す気など無かったキリトは信用無いなぁとか思いながら懐から回廊結晶を取り出し、ロザリアに無理やり持たせる。

 

「死にたくなければそれを使え、行き先は黒鉄宮の牢獄に設定してある」

「あ、ああ・・・あ・・・・・・」

「勿論、逃げても良いけど・・・鼠の情報網から逃げられると思わない事だな」

 

 黒閃騎士団だけでなく、攻略組の大半がお世話になっている情報屋の鼠のアルゴは、アインクラッドでも有名で、その情報収集能力は恐らくアインクラッド一。

 当然だが逃げてもアルゴの情報収集能力の前には無駄だという事だ。

 

「それから、他のメンバーもだ・・・残りのタイタンズハンドの全メンバーの情報を話して、それから回廊結晶を使え」

 

 もはや、逆らう者は居ない。

 後日、タイタンズハンドのメンバーは一人残らず黒鉄宮の牢獄へ送られ、ゲームクリアのその日まで、明るい太陽の下を歩けた者は、一人も居ないのであった。




タイタンズハンド、壊滅。
次回は漸く圏内事件の話になりそうですが、時期的にまだ圏内事件の時期じゃなかったりする。黄金林檎がまだ時期的に存在しているので、もしかしたらグリセルダさんを救出できるかも。

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