ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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今回は再びユイメインの話です。
ただし一人称ではなく三人称ですので、ご注意を。


第十六話 「白の剣が父への愛情」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第十六話

「白の剣が父への愛情」

 

「お願いしますベルさん、付き合ってください!」

「ちょ、お嬢!? そ、それはいくらなんでも…」

「べ、ベル…?」

「く、クルミ!?」

 

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐から数日が経ったある日の黒閃騎士団ギルドホームにて、ユイがベルと向かい合っていて、それを目撃したクルミが持っていたマグカップを落としてしまい、マグカップがそのままポリゴンの粒子となって消えてしまう。

 

「ベル…長いようで短い付き合いだったわ」

「ちょま!? 誤解! 誤解ッスーーーっ!!!」

 

 

 話は遡り、この日の朝、ユイは笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐後から元気の無い父の様子に心を痛めていた為、何とかしたいと思いギルドホームに来た。

 元メンタルヘルスカウンセリングプログラムだったが故に、ユイはその機能を失っても人の心という物に敏感で、キリトが落ち込んでいるという事にも直ぐ気がついた。

 だから、両親には内緒でキリトを元気にする為の方法を考えていたら、一つだけ良い方法を思いつき、とある人物の所に行く前にベルの所に来たのだ。

 

「あ、ベルさん!」

「お嬢? おはようございます、こんな朝早くにどうしたんスか?」

「あの、ですね・・・ベルさんにお願いがありまして」

「お嬢が俺にッスか? 珍しいッスね」

 

 ベルが心底驚いたと言わんばかりの表情をしいている。確かに、ユイは普段からあまり我侭を言ったりキリトやアスナ以外にお願いをする事は無いので、本当に珍しい事だ。

 

「パパが最近、元気が無いんです」

「キリトさんが? …ああ、確かに。やっぱまだ引きずってんスかねぇ」

「それで、どうしたらパパを元気付けられるか考えたんですけど、パパに新しい剣をプレゼントしたら喜んでくれると思ったんです!」

「剣って…今のキリトさんが使ってるのはエリュシデータとシャドウロードッスよね?どっちも良い剣ッスよ?」

 

 確かに、エリュシデータは50層フロアボスからのドロップ品で、ドロップ武器としては最高峰の性能を誇る剣だと言って良い。

 そして、シャドウロードは黒閃騎士団後方支援部隊のリズベットが作成したプレイヤーメイド、それもマスタースミスになって間もない頃の一番良い作品だ。

 

「性能的にはエリュシデータの方がシャドウロードより良い剣なので、シャドウロードに代わる新しい剣をリズベットさんに作ってもらって、それをパパにプレゼントしようと思うんです」

「なるほど、シャドウロードよりも良い剣が出来上がればキリトさんの助けにもなるし、良いかもしれないッスね」

「はい! それで、リズベットさんにも後からお願いに行くのですが、一つだけシャドウロードを超える、エリュシデータ並の剣を作成出来るインゴットを知っているんです」

「お、ならそれを取りに行けば良いんスか?」

「はい! ただし、そのインゴットはマスタースミスと一緒じゃないと入手不可なので、ベルさんにはリズベットさんと一緒に取りに行って頂きたいんです…本当はわたしが取りに行けたら一番良いんですけど」

 

 ユイの気持ちは理解出来るが、インゴット入手という事は当然だがフィールドやダンジョンに出るわけなのだから、プライベートチャイルドであって戦う力の無いユイにそんな真似はさせられない。

 だからベルは気にするなとユイに首を振って、取りに行くのを了承した。

 

「では、これからリズベットさんの所に行きましょう!」

「ええ、でもそのインゴットって何処で手に入るんスか?」

「第55層西の山にあるドラゴンの巣ですよ」

「……え?」

 

 ドラゴンの巣と聞いてベルの動きが止まった。

 55層なら今のベルのレベルでも問題は無いのだが、ドラゴンという事はボス級とは言わずとも中ボス級はある可能性がある上に、後方支援職という事でベルほどレベルの高くないリズベットまで一緒に行くとなると、実質戦闘はベル一人になるわけで、しかもリズベットを守りながらの戦いでドラゴンと戦うのは無謀だ。

 

「い、いやお嬢…俺、ちょっと用事が」

「え~!? ベルさん、さっき了解してくれたじゃないですか!」

「いや、でも…」

「お願いしますベルさん、付き合ってください!」

「ちょ、お嬢!? そ、それはいくらなんでも…」

 

 ついには頭を下げだしたユイに戸惑うベルだったが、何かが落ちる音と共にビクリと振るえ、その方向に顔を向ければ…青褪めた表情でこちらを見ているクルミの姿があった。

 

「べ、ベル…?」

「く、クルミ!?」

「ベル…長いようで短い付き合いだったわ」

「ちょま!? 誤解! 誤解ッスーーーっ!!!」

 

 そして話は冒頭に戻る。

 まるでゴミを見るような目でベルを見るクルミに必至に事情を説明すると、何とか信じてもらえた様で、クルミがベルを見る視線がゴミを見る目から変質者を見る目に変わった。

 

「よかったわ…最悪アンタがキリトさんとアスナさんに殺される所だったもの」

「いや、本当に一時は死ぬ運命を感じたッスよ……」

 

 キリトとアスナの親馬鹿っぷりは黒閃騎士団でも有名だ。万が一にもユイを泣かせたり、ユイに手を出したりしようものなら、即座に胴体に風穴開けられて27連撃で粉々にされる。

 

「それでユイお嬢様、55層の西の山にあるドラゴンの巣に、そのインゴットがあるの?」

「はい、クリスタライトインゴットっていう水晶を食べたドラゴンのお腹の中で生成されるんです」

「腹の中で? 腹の中で生成された物が何で巣に……って、まさか」

「それって……」

 

 嫌な予感がした。いや、むしろそれしか無いだろうと予想しながらも、何処か縋るようにユイを見る2人に、ユイは満面の笑みを浮かべながら答えを返す。

 

「そうです、ドラゴンの排泄物がクリスタライトインゴットですよ」

「うわぁ…」

「ンコがインゴットって、マジッスか……」

 

 だが、クリスタライトインゴットと言えば鍛冶職プレイヤーでも話題になっている希少金属だという話だ。

 クリスタライトインゴットから作られる武器防具はどれも高性能、ハイスペックな物ばかりになるという噂もあり、多くのプレイヤーが探したのだが、何処で入手出来るのかまでは判明していても、どうやって入手するのかまでは誰も知らなかった。

 

「あ、でも普通に考えれば判るわね、ドラゴンのお腹の中で生成されるって情報までは出回ってるし」

「普通それってドラゴンを倒すって方に考え行かないッスか?」

 

 仮にもRPGゲームの世界なのだから、ドラゴンを倒して希少金属ゲット、と考えるのが普通だろう。なのに、まさかの排泄物として巣にあるなどと、誰が考えようか。

 

「茅場晶彦の趣味なんじゃない?」

「…嫌な趣味ッス」

 

 ドラゴンのンコを希少金属にしようなど、茅場晶彦の趣味の悪さを実感してしまう。

 

「それで、取りに行っていただけますですか?」

「アタシは良いわよ、ただしモスキートも一緒だとありがたいかな? 盾役が欲しい」

「モスキートは盾ッスか」

「だってアタシ達と同等の実力者で盾持ってんのアイツくらいだし」

「まぁ確かに」

 

 こうして、モスキートも巻き込んで55層の西の山へベル、モスキート、クルミ、リズベットの4人が向かうのだった。

 

 

 結果として2日は掛かってしまったが、4人は無事に帰ってきて、クリスタライトインゴットも無事に入手出来たみたいだ。

 

「んじゃ、早速作るわね」

「お願いします、リズベットさん」

「ん、ユイの団長やアスナを想う気持ちを大事にしないと、その気持ちに報いる為にもあたしが持てる全てを注ぎ込んであげるわ」

 

 第48層リンダースにあるリズベット武具店の工房で、現在ユイはリズベットがクリスタライトインゴットを炉に入れているところを見学していた。

 リズベットもユイの見学には特に何も言わず、ユイの両親を想う気持ちに精一杯応えようとマスタースミスとして、そして黒閃騎士団専属鍛冶師としての誇りを賭けて作業をしている。

 

「(団長は、親友であるアスナの旦那…そして、あたしが駆け出しの頃から色々と手助けしてくれて、黒閃騎士団に入れてくれて、騎士団の中という最高の環境で鍛冶スキルを鍛える機会をくれた。だからこれはあたしの恩返しでもある)」

 

 思い出すのは親友であるアスナとの出会いと、そのアスナから紹介されたキリトとの初対面、その後の当時白黒(モノクロ)騎士団だった頃のギルドへの勧誘、ギルド加入後の日々、様々な面でキリトにもアスナにも世話になり、ユイとも随分と親しくなった。

 今のリズベットがあるのは三人のお陰だ。だから、今までの分の恩返しをする為に、今持てる全てを賭けて、クリスタライトインゴットにハンマーを振り下ろす。

 

「っ!」

 

 何度打ち下ろしただろうか、遂に輝きだしたインゴットがゆっくりと剣の形に変わって行き、光が収まると台座の上にはクリスタライトインゴットの色であるエメラルド色の刀身をした片手用直剣が鎮座していた。

 

「……ダークリパルサー、団長が使ってるエリュシデータに若干は劣るけど、それでも魔剣クラスの剣ね」

 

 少なくともシャドウロードより数段も上の剣が出来上がった。

 後はこれに合う鞘を作って作業は全て完了する。出来上がったダークリパルサーはユイのストレージに保存して、残るはキリトへ届けるだけだ。

 

「ありがとうございました、リズベットさん」

「いいのよ、アタシも団長には随分と世話になったし、これで恩返しが出来たと思えばなんとも無いわ」

「早速、パパの所に行ってきますね」

「送ろうか?」

「いえ、ここは圏内ですし、転移門まで直ぐですから大丈夫です」

「って言ってもコラルの村からホームまでは圏外じゃない、いいから送るってば」

 

 丁度55層に行ってレベルも上がったので、メイス使いとしてのリズベットもユイの護衛くらいは簡単にこなせるだけ強くなった。

 結局、渋るユイを言い包めて武具店にcloseの看板を下げるとリンダースの転移門に向かう。

 そこから22層のコラルの村へ転移して、その後は圏外に出て黒閃騎士団のギルドホームではなくキリトとアスナ、ユイの三人が暮らすログハウスへ向かった。

 

「パパ、喜んでくれるでしょうか?」

「あの親馬鹿団長が可愛い愛娘からのプレゼントで喜ばないわけ無いって、寧ろ踊りだしちゃうくらい喜ぶんじゃない?」

「そうですか?」

 

 踊りはしないだろうが、キリトなら絶対に喜ぶという自信がリズベットにはあった。

 愛娘であるユイからのプレゼントであり、高性能な片手用直剣なのだから、親馬鹿で、生粋の剣士であるキリトが喜ばない筈が無い。

 話をしている内に三人の家であるログハウスが見えてきた。

 

「着いたみたいね、じゃあアタシは店に戻るから、パパにちゃんと喜んで貰いなさいよ?」

「はい! リズベットさん、ありがとうです」

「どういたしまして」

 

 そう言って来た道を戻るリズベットを見送り、ユイは家の中に入る。

 家の中では既にキリトもアスナも帰ってきていたのか、キッチンからは良い匂いがしてきて、リビングのソファーではキリトが座って新聞を読んでいた。

 

「パパ! ただいまです」

「お、ユイ、リズ達と一緒だったんだって?」

「はい! 楽しかったです」

「そっか、そろそろ飯だからもう少し待ってろよ」

「…あの、パパ」

 

 頭を撫でてくれたキリトをおずおずと見上げるユイに、何かあったのかと不思議そうな顔をするキリト、そんな父にユイはアイテムストレージに入れていたダークリパルサーをオブジェクト化して、重いので持てないため、テーブルの上に置いた。

 

「だ、ダークリパルサー!? 何でユイが!?」

「あの、パパが最近元気ないみたいでしたので、何かプレゼントしようと思ったんです…それで、リズベットさんやベルさん、クルミさんやモスキートさんにお願いしたらクリスタライトインゴットを取りに行ってくださって、取ってきたインゴットでリズベットさんに作ってもらいました」

「…そういえばあいつら2日ほど見なかったけど、55層に行ってたのか……まぁ、あいつらのレベルなら安全マージンも確り取れてるし、問題は無い、か」

 

 迷惑かけてしまったようで申し訳ないと思いつつ、ユイの気遣いとプレゼントが嬉しかったキリトはユイを抱き上げて自分の膝の上に座らせると、ギュッと抱きしめた。

 

「ありがとう、ユイ…凄い嬉しい」

「あ、えへへ…喜んでもらえて、わたしも嬉しいです」

 

 早速、キリトのアイテムストレージにダークリパルサーを入れると一度立ち上がって部屋着からいつものブラックウィルム・コートとエリュシデータ、そしてダークリパルサーを装備する。

 そこには、2年前のままのキリトの姿があり、あまりの懐かしさに涙腺が緩みそうになった。

 

「やっぱり、パパはそのお姿が一番カッコイイです!」

「そ、そうか? ありがとう、ユイ」

 

 その後、キッチンから料理を運んできたアスナがキリトの姿を見て、同じく懐かしさに涙腺が緩んで涙を流しながら、キリトにダークリパルサーをプレゼントしたユイの優しさに感動し、優しい愛娘を抱きしめるワンシーンがあった事を、ここに記する。




次回からは原作キリトの装備復活! ブラックウィルム・コートにエリュシデータ、ダークリパルサー装備で最強状態のキリトです。
魔剣エンシュミオンと対で使う聖剣についてはもうそろそろ出しても良い頃合かなぁ?

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