ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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今回は少し短いです。
ヒースクリフさんのキャラ崩壊があります、ご注意ください。


第十七話 「日常の一幕」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第十七話

「日常の一幕」

 

 笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐後以来、攻略組ギルド団長会議は定例で行われる様になった。

 一週間に一度のペースで各ギルドのホームに順番で集まり、会議を行い、攻略のペース配分や迷宮区への調査隊派遣について、それぞれのギルドの近況報告などを行っている。

 この日は黒閃騎士団のホームに集まって会議が行われており、黒閃騎士団ギルドホームの会議室にはキリトをはじめ、クライン、ヒースクリフ、ケイタ、ブルーノ、ディアベル、シンカーが集まっていて、いつも通りの会議をしていた。

 

「さて、話すことは大体これで全部か?」

「ああそうだな、凡そは語り終えただろう」

 

 キリトの問いにヒースクリフが答え、他のメンバーも特にこれといった事は無いのか話し合いはこれで終わりという流れになった。

 

「今日はこれから如何する? 何なら夕飯食ってくか?」

「お、良いねぇ、俺はお邪魔させてもらうぜ」

「じゃあ俺とシンカーも良いかな?」

「お邪魔じゃなければ」

「オレも参加する」

 

 クライン、ディアベル、シンカー、ブルーノが承諾して、ケイタも見れば頷いているので問題ないだろう、残るヒースクリフはというと。

 

「因みに夕飯はなんだい?」

「ん~、アスナが用意するからアスナに聞かないと…何か要望でもあるのか?」

「聞いた話だとアスナ君はオリジナル調味料を作っているとの事だが…醤油なんかはあるのかな?」

「ああ、醤油ならあるけど…」

「ならば!!」

 

 カッと目を見開いてヒースクリフはキリトの両肩をガシッと掴むと、顔を思いっきり近づけてきた。

 

「醤油ラーメンが食べたい!!」

「……は?」

「醤油ラーメンだよ! 醤油ラーメン! 私は大のラーメン好きでね、この世界でもラーメンらしき物は存在するが、あれは駄目だ、あんなものをラーメンと認める訳にはいかない、醤油の味がしないラーメンを私は認めない。だが、見た目はラーメンに近かったから、あれに醤油を加える事で、醤油ラーメンが再現出来るかもしれないのだ!」

 

 幸いにもラーメンに似た何かはヒースクリフのアイテムストレージに入っているので、それを出してきて是非ともこれを使って醤油ラーメンをアスナに作って欲しいと、いつものヒースクリフ何処行ったと言いたくなる形相で迫ってくる。

 

「あ、ああ…わかった、アスナに頼んでみるよ」

「本当か!? いやぁ、夕飯が楽しみになったな」

 

 心底嬉しそうだった。いつもの無表情か不敵な笑みではなく、満面の笑みを浮かべるヒースクリフに、キリトは茅場ってこういうキャラだったのか? などと、嘗て憧れた男であり、殺意を抱いた男の意外な一面にどんな反応をしたら良いのか悩むのであった。

 

 

 キリト達はギルドホームを後にして一路、キリトとアスナ、ユイの家であるログハウスに移動した。

 既に帰宅して夕飯の用意をしているアスナはキッチンに居るのだろう、キッチンの方から良い匂いがしてきて、その中に微かだが醤油スープの香りが漂ってきた時はヒースクリフの表情が物凄い勢いで緩みだしたのは無視する。

 

「あ、パパ! おかえりなさい!」

「ただいまユイ、今日はお客さんが多いから、お行儀良くしていような?」

「むぅ、わたしいつも良い子にしてますよパパ!」

 

 心外です! と頬を膨らませる愛娘の頭を撫でながらキリトはクライン達に適当な所に腰掛けるよう言うと、自身も指定席である一人掛けのソファーに座り、コートと剣を消してシャツとズボンだけの状態にする。

 すると、作業を終えたキリトの膝の上にユイが座ってきたので、ユイのお腹の所に腕を回して抱き寄せてあげると、嬉しそうに足をぶらぶら。

 ウチの娘は何をしても可愛いなぁ、という感想以外浮かばない親馬鹿キリトだった。

 

「あ~キリトよ、娘が可愛いのは判るが、ちったぁ親馬鹿も自重しようぜ?」

「んだよクライン、親馬鹿って…俺そんなに親馬鹿じゃないぞ? ちゃんと躾もしてる」

「嘘だよー、キリト君はユイちゃんに甘いんだもん、いつも叱るのは私の役目なんだから」

 

 キリトの言葉を丁度キッチンから出て来たアスナが切って捨てた。

 

「いや、アスナ、そりゃあ確かに俺はユイを叱ったことは無いけど、それはアスナがやってくれるから、せめて俺はユイに優しくしてやろうとだな…」

「もう、そうやってキリト君が甘やかしてばかりだと教育に良くないよっていつも言ってるのに」

「喧嘩しちゃ駄目ですよパパ、ママ! ぷんぷんです」

 

 可愛く頬を膨らませるユイに慌てて弁解しながら2人して頭を撫でている辺り、どっちもどっちだろうと誰もが思う。

 ところで、ヒースクリフは先ほどからそわそわと落ち着きが無いのだが、それに気付いたアスナが直ぐにキッチンに戻ってトレーに乗せた人数分の丼を持ってきて、テーブルに並べた。

 

「お、おお…おおおおお!!」

 

 感激のあまり、ヒースクリフのキャラが完全に崩壊した。目を輝かせて見つめる丼の中は醤油ベースのスープに、黄金色の麺、焼き目が食欲をそそるチャーシューにゆで卵、メンマに似た物、ネギ、海苔、それらがトッピングされたSAOに囚われた今では懐かしき醤油ラーメンだったのだ。

 スープの色こそアスナの調味料の色で紫色だが、香りは間違う事なき醤油の香りだ。ラーメンに並々ならぬ情熱を持つヒースクリフが間違える筈が無い。

 

「じゃあ、ヒースクリフさんが待ちきれないみたいなので、早速…いただきます」

 

 アスナに続いて全員が手を合わせると、誰よりも早くヒースクリフが麺を啜り、スープを飲む。その味は間違いなく懐かしき醤油ラーメンの味。

 

「あぁ……私は、この日の為に今日まで生きてきたのだな、生きていて良かった」

「オイオイ」

 

 幸せそうな表情で醤油ラーメンの味を堪能するヒースクリフにキリトは苦笑を隠せない。

 確かに美味しい、料理スキルコンプリートの腕前は確かであり、醤油ラーメンの味は何処か懐かしさすら感じられて、思わず涙すら出てしまいそうに…否、ヒースクリフは既に滝の様な涙を流していた。

 

「キリトは良いなぁ、こんな美味しい飯をいつも食べてるんだろ? それも三食」

「ケイタもサチに作ってもらえば良いだろう、サチも確か料理スキル上げてるって本人から聞いたぞ?」

「いや、現実世界の味なんてアスナさんの料理じゃなきゃ無理だろ」

「欲しかったら調味料分けてあげるよー?」

「っ!?」

 

 因みにこれはケイタに言った台詞なのだが、何故かヒースクリフが大いに反応した。

 

「アスナ君!!」

「ひゃい!?」

「……」

「あ、あの…?」

「調味料、分けてください」

「あ、あははは……はい」

「はぁ…」

 

 本当に今日のヒースクリフは如何した、とキリトは苦笑を通り越して頭痛がしてくるのだった。

 

 

「いやぁ美味かったぁ…アスナさん、ごちそうさんです!」

「いえいえ、今何か飲み物とおつまみ持ってきますね」

 

 そう言って席を立ったアスナがキッチンに入ると、キリトは膝の上でこくりこくりと船を漕ぐユイに目を向けると、そこにはこの世の天使の如き愛らしい寝顔を見せている愛娘が居た。

 

「寝ちゃったか…悪い、ちょっとユイをベッドに運んでくる」

「わかった…そうやってるとキリトくん、本当に父親してるね」

「そ、そうですか? でもシンカーさんもユリエールさんと結婚して、プライベートチャイルドのイベントで子供を持てば判ると思いますよ?」

「え、あ…あはは、困ったなぁ……うん、ちょっと考えてみようかな?」

 

 正直、現在アインクラッド唯一のプライベートチャイルドであるユイの可愛さに、子供を欲しがるプレイヤーが急増しているのは事実、ユリエールも欲しがっていたし、シンカーも子供は嫌いではない。

 

「おうキリトよぉ、俺も彼女欲しいぜ~、結婚して子供欲しい~」

「クラインは先ず、そういう所を直してからの話だ」

「ひっでぇ! チクショウ、リア充の余裕かよ~!」

 

 因みにクラインと同じく出会いに飢えているブルーノが慰める様にクラインの肩に手を置いている。

 同じく彼女が居ないディアベルはというと、何でもつい先日に漸く軍の中で彼女が出来たとかで、その話をするとクラインとブルーノに襲い掛かられていた。

 

「アスナ君、味噌はあるかね?」

「ええ、ありますよ」

 

 そして本当に余談だが、ヒースクリフはいつの間にかキッチンに移動してアスナに他のオリジナル調味料の味見をさせてもらい、自分でラーメンを作る為に幾つかの調味料をおすそ分けしてもらっているのだった。




次回はついに、朝露の少女…登場。

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