ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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ユイが天真爛漫な子ならルイはクールビューティーを装っただけで、ただ呆っとしているだけの天然少女。


第十九話 「新しい家族」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第十九話

「新しい家族」

 

 キリト達がメンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号ことルイを保護した翌朝、ルイが目を覚ました。

 気付いたのは一緒のベッドで寝ていたユイで、既に起きてリビングに居た両親に慌てて報告に来たのだ。

 そして今、キリトとアスナも寝室に入って目を覚ましてベッドの上に座るルイと向かい合っている。

 

「おはよう、自分がどうなったか、覚えてるかな?」

「……」

 

 アスナの問いかけに対して無言だが、特に無視しているという訳ではなさそうだ。アスナの顔を呆っと見つめているので、それは間違いない。

 ただ、何処か目が半開きというか、まだ半分寝ているのでは? と思えてしまう。

 

「えっと、起きてるか?」

「……おき、てる」

「あ、やっと話してくれた。お名前、言える?」

「な、まえ…は、ルイ…メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作1号…ルイ」

 

 たどたどしい口調だが、自分が何者であるかはちゃんと覚えていた。それだけでもユイの時とは違い記憶喪失になっていないという事が判るので、一先ずは安心だ。

 

「ルイだな、俺はキリト、こっちはアスナ、それからこの子はユイだ」

「よろしくねルイちゃん」

「よろしくお願いします、ルイ」

「き、りと…あす、な…ゆ、い…?」

 

 ユイの時とは若干違う口調のたどたどしさ、だけどユイとは違って“キリト”と“アスナ”は確り発音する事が出来たようだ。

 

「それでルイ、聞きたいんだけど…何で、カーディナルにプレイヤーとの接触を禁じられている筈のメンタルヘルスカウンセリングプログラムであるルイが、あんな場所に?」

「…ずっと、きりととあすなを、見てた……真っ暗な場所、沢山かなしい気持ちに溢れる場所で、きりととあすなの幸せを、見続けてた…エラーが溜まって、壊れそうになった時、壊れる前に、2人に会いたいって、思った…」

 

 ユイと同じ理由だ。絶望を見せられ続ける中で、幸福といった感情を温めるキリトとアスナの傍に行きたいと、そう思ったのだろう。

 

「そっか……」

 

 ずっと、ずっと見てきたのだ。この約2年の間、ずっと人々の絶望と、キリトとアスナ、ユイの幸福を。

 嘗てのユイと同じ様に、だからだろうか…キリトもアスナも、ルイが途端に愛おしくなり、アスナはギュッとルイを抱きしめ、キリトは優しくルイの頭を撫でた。

 

「…?」

「もう、悲しい思いばかりしなくて良いんだよ、ルイちゃん」

「ああ、もしルイが望むなら…俺達と一緒に居よう、カーディナルなんて俺が何とかしてみせるから」

「きりと…あすな…」

 

 すると、ユイもキリトとアスナと同じ様にルイの前に座り、その小さな手で同じ小さな手を握る。

 

「わたしも、昔はメンタルヘルスカウンセリングプログラムでした」

「…!」

「ルイと同じ様に、わたしも多くのプレイヤーが抱く絶望、悲しみ、怒りといった負の感情を見せられて、壊れてしまったんです」

「……」

「でも、パパとママが、わたしを娘だって言ってくれたんです。一緒に居ようって…そうして、今はパパとママのプレイベートチャイルドとして、こうして一緒に居ます」

「わたし、も…一緒に、居て良い、の?」

 

 キリトもアスナも、ユイも、みんな頷いた。

 Aiだからとか、そんなものは関係ない。キリトとアスナにとってAIだからと存在を否定するという事はユイを否定する事と同義、だからこそ、ルイの事も受け入れられる。

 

「じゃあ、ルイ…俺とアスナの、娘になってくれるか?」

「…は、い……おと、うさん…おかあ、さん…」

 

 たどたどしくも、だけど確かに、ルイはお父さん、お母さんと呼んでくれた。

 ユイのパパ、ママという呼び方も良いが、お父さん、お母さんと呼ばれるのは中々に新鮮で、ちょっとだけ感動を覚える。

 

「さぁてお腹減ったでしょ? ご飯にしよっか!」

「は~い! ルイ、ママの料理はとっても美味しいですから、楽しみにしてくださいね!」

「うん、おねえ、ちゃん…」

「っ!? ルイ、可愛いです~~っ!!」

「わぷっ」

 

 幼女が幼女に抱きつく光景はなんとも愛らしいものがある。そう思いながらキリトはルイの手を引っ張ってリビングに向かうユイに苦笑しつつ、戸惑うルイの頭を撫でて自身もリビングへと向かうのだった。

 

 

 朝食を食べ終えた後、キリトはルイの登場でずっと忘れていた事を思い出し、それについて至急アスナとユイ、ルイも含めた4人で話し合いを行う事にした。

 

「もし、SAOがクリアされたらユイとルイはこの世界の崩壊と共に消える事になる」

「え…? で、でもユイちゃんってコアプログラムがキリト君のナーブギアに保存されてるんじゃ…」

「いや、それも当然だけどリセットされてるだろう」

 

 そう、この世界は過去の世界であり、今のキリトは未来のキリトの魂を過去のキリトにインストールした存在だ。

 つまり、ユイのコアプログラムはこの過去のキリト…桐ヶ谷和人のナーブギアには保存されていない。

 

「ユイとルイのコアプログラムを俺のナーブギアと、出来ればアスナのナーブギアに分けて保存する必要があるんだが…」

「現在、それを可能とする手段は直接コンソールから操作して行う以外にありません。そして、そのコンソールがある場所はパパとママもご存知の筈です」

「っ! はじまりの街の地下迷宮……」

 

 そう、未来において、キリトとアスナが、ユイと別れる事となった場所、90層クラスのボスモンスターが守護するあの場所だ。

 

「私、GM権限持ってる…お父さんがコンソール操作する、時……私の、GM権限を使えば、確実に可能、です」

 

 ただし、そのやり方はあのボスモンスターを何とかかわしてコンソールの所まで行き、尚且つルイがGM権限を行使した際にカーディナルに検査され、消されてしまう前に作業を終えなければならない。

 危険な上に、ハイリスク・ハイリターンの作業と言えるだろう。下手なクエストよりも難易度が高いとしか言えなかった。

 

「でも、やらないとクリアしたらユイちゃんとルイちゃんが消えちゃうんだよね?」

「ああ、そして俺もアスナも、可愛い娘を見捨てるなんて、出来るわけないよな?」

「当然、どんなに危険があろうと愛娘の為なら命だって賭けられるわ」

 

 この世界で命を賭けるなんて言葉は禁句と言える。だが、その禁句すら躊躇う事無く言えるのは単に愛娘への愛情故に。

 

「となると今のレベルだと心許ないな…今で俺達はあの最終決戦時より少し低いくらいだったか?」

「うん、だからもう少し頑張ってレベル100を超えないと厳しいね」

「だな、ルイがこうして俺達の所に居る以上、いつカーディナルに察知されるか判らない、なるべく早くコンソールの所に行かなきゃマズイんだが」

 

 今のレベルではあの死神には勝てないだろう。ディアベルからはじまりの街の地下に迷宮が見つかったという連絡は受けているので、行くだけなら問題ないのだが。

 

「どうするのキリト君?」

「…正直、厳しい。俺達の事情に他の皆を巻き込めないし、だけど俺とアスナの2人だけであの死神に勝てるかと言われれば……NOだ」

 

 だが、今からレベルを100以上にするとなると1~2日では絶対に不可能、そしてそれだけ時間を掛けてしまえばカーディナルにルイが見つかってアウトだ。

 

「なんか…今までで一番の難関だな」

「だねー…」

 

 アインクラッドで前回と合わせて4年も過ごした中で一番の難関と言える。

 

「……いや、待てよ?」

「キリト君?」

「確か、今までに開発したシステム外スキルには先読みと見切りってのがある…先読みは基本的にプレイヤー相手に、見切りは遠距離型モンスターやプレイヤー相手に使ってるスキルなんだけど……」

 

 これを弄ればもしかしたら物凄いシステム外スキルを構築出来るかもしれない。そこにキリトの反応速度なども加えれば、アインクラッド一の反応速度を持つキリトだからこそ出来るスキルを構築出来る。

 

「それに、二刀流システム外ソードスキルの要である“アレ”も成功率がついに9割を超えた、もしかしたら、行けるかもしれない」

「そう、だね…それに、わたしもいざとなれば“アレ”を使えば良いんだよね」

 

 対ヒースクリフ用に温存していたキリトの切り札とアスナの切り札、この二つを使用することで死神相手に安全マージン不十分の現状でも勝てるとは言えずとも逃げ切る事は出来るかもしれない。

 ならば、ヒースクリフとの戦いまで使うまいと思っていたが、ユイとルイの為に解禁しても後悔はしないだろう。

 

「キリト君、終わったらリズにダークリパルサーの修理してもらいなよ?」

「だな、“アレ”を使うとダークリパルサーの耐久値を著しく低下させるし」

 

 せっかくユイがプレゼントしてくれたダークリパルサーを折る訳にはいかない。

 

「最悪はエンシュミオンを使うさ、漸く筋力パラメーターが使用可能値に届いたからな」

 

 ずっとアイテムストレージに入れたままオブジェクト化される事の無かったキリトの真の切り札、魔剣エンシュミオン、これとエリュシデータの二刀流で戦うのも有りだ。

 

「パパ、気をつけて欲しいのはあの死神なんですけど」

「死神のボス、知ってる…アインクラッド第80層フロアボス、ギルティサイス」

「ギルティサイス…?」

「80層だったんだ…」

 

 だが、あの死神はシステムコンソール守護の為のモンスターなので、間違い無く80層フロアボスとしてのギルティサイスよりも強く設定されている筈だ。

 

「一番危険、なのは…闇に紛れて襲い掛かってくる事…あれは、大ダメージ」

「鎌の一振りだけでも危険なのに、それは…」

「闇に紛れてとなると、本格的にシステム外スキルの使用以外に無いな」

 

 聴音と超感覚の使用も視野に入れておく必要がありそうだ。

 最も、何より大事なのはまともに戦わない事だろう。あくまで目的はシステムコンソールに辿り着く事なのであって、攻略する事ではない。

 

「ところでキリト君、ディアベルさんには何て説明して地下迷宮に行かせてもらうの?」

「ん? あそこにスカペンジトードが出るって聞いたから、狩ってスカペンジトードの肉を入手したいって言うつもり」

「す、スカペンジ…トード……って、キリト君」

 

 思い出すのはグロテスクなカエルの足の肉、しかもカエルの足の形そのままになっているので、気持ち悪さ倍増の食材だ。

 キリトは絶対に美味しいって言うが、アスナとしてはアレだけは絶対に調理したくない。

 

「し、仕方ねぇじゃん! 他に言い訳が思いつかなかったし!」

「もうー、わたしまであんなグロテスクな肉が大好きなんて思われるじゃないのー!」

「スカペンジトードの肉、アインクラッドの珍味…」

「ルイちゃん物知りですねー」

 

 こうして、キリト達4人は準備が整い次第、第1層はじまりの街へ向かう事となるのだった。




次回はキリトとアスナの切り札が登場、そしてついに現れる魔剣の対となる聖剣。

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