ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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前回って、ちゃんとした攻略じゃなかったから苦戦しましたけど、ちゃんとレイド組んで攻略すればグリーム・アイズってそんなに強くないですよね?


第二十二話 「蒼眼の羅刹」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第二十二話

「蒼眼の羅刹」

 

 アインクラッド攻略も早いもので既に74層に達していた。

 だが、キリトとアスナにとっては少し70層に到達してからのんびりし過ぎてしまったという焦りがある。

 何故なら時期的に言えば今は前回で74層だった時の1ヶ月前、つまり半年近く猶予があったのに、いつの間にか5ヶ月も猶予を失っていた事を意味するのだから。

 

「さて、ではボス攻略会議を始めるとしよう」

 

 この日、ついに見つかった74層ボスの部屋を攻略するため、攻略会議が行われた。

 今回、この会議に参加しているのはお馴染みの血盟騎士団、黒閃騎士団、アインクラッド解放軍、聖竜連合、風林火山、月夜の黒猫団、そして今回より攻略組に参加となる黄金林檎の計7つのギルドだ。

 集まっている面子もヒースクリフ、キリト、ディアベル、ブルーノ、クライン、ケイタ、グリセルダと、それぞれ副団長も一緒に参加している。

 

「つい先日、我が血盟騎士団とディアベル君の軍からボスの部屋偵察部隊15名を派遣したのだが…1名のみ帰還し、残る14名は生命の碑にラインが刻まれたのを確認した」

 

 此処に来て初めて多くの犠牲者が出た。キリト自身は偵察について必ず慎重にするよう忠告をしておいたが、それでも14名が犠牲となってしまったのは、遣る瀬無い。

 

「帰還出来た1名の証言によると、ボスの名は“ザ・グリーム・アイズ”。二足歩行の大型悪魔で、武器は両手用大剣と瘴気のブレスで、攻撃力は今までのボスとは比べ物にならないほど高いとの事だ。それから注意点として、ボスの部屋は結晶無効化空間となっており、転移結晶や解毒結晶、回復結晶といった結晶アイテムの一切が使えないらしい」

 

 特に前回と変わった点は無い。結晶アイテムの使用が不可能なら回復アイテムについてはポーションを用意しておけば問題は無いので、後は高い攻撃力を何とかするだけだ。

 

「今回の戦いにおいて、脅威となるのはボスの攻撃力の高さだろう。なので、私は今回、完全防御に回る。攻撃の要はキリト君に任せたい」

「ああ、それから他のみんなは兎に角攻撃を繰り返してボスのHPを少しでも減らしていくのが良いだろうな。そして俺が二刀流の手数の多さを使って大ダメージを与える」

 

 此処最近のボス戦のセオリーパターンだ。

 ヒースクリフが持ち前の神聖剣による防御力で相手の攻撃を受け止め、周囲から他のメンバーが攻撃して細かなダメージを与えつつ、キリトの二刀流による手数の多さと高レベル故の攻撃力の高さからの大ダメージを与える。

 今までのボス戦でもこれが有効だったので、50層を超えた辺りからこの戦法がかなりの頻度で使われるようになった。

 

「私たち黄金林檎とケイタ君たち月夜の黒猫団は基本的に風林火山の指揮下に入れば良いのかしら?」

「ああ、クラインもいつも通り頼む」

「おうよ!」

 

 風林火山、月夜の黒猫団、黄金林檎、この三つのギルドは攻略組の中では少数ギルドだ。故に、こういった大規模作戦の際には必ず組ませて他のギルドと同等の人数になるよう調整をしている。

 それでも少ない方だが、どうしても他のギルドは人数の多い大ギルドなので、仕方が無いだろう。

 

「キリト君の所からは今回、誰が出る予定なんだい?」

「俺とアスナ、イヴ、ケティア、モスキート率いる防御隊、ベル率いる大剣部隊とエギルの両手斧部隊、それとシリカ率いるテイマー隊を参加させる」

「ほう? シリカ君といえば最近になって黒閃騎士団で頭角を現した噂の竜騎士の少女だったね?」

 

 そう、ヒースクリフの言うとおり、シリカは最近になり実力が攻略組に追いつき、晴れてシリカを隊長とした専用部隊も用意されるに至ったのだ。

 竜騎士シリカ、黒閃騎士団テイマー隊隊長としてビーストテイマーを率いる彼女は、今では黒閃騎士団でも有数の人材になっていた。

 

「俺達、聖竜連合は血盟騎士団と共に防御役に回ろう。この中では俺達が防御力について上だからな」

「となると俺たち軍は黒閃騎士団と一緒にアタッカーだ、人数は如何する?」

「ディアベルの所は人数が多いから、出来れば多めに欲しいな」

「わかった、攻撃力の高い面子を用意しておこう」

 

 凡その作戦も決まり、これにて会議は終了した。

 キリトとアスナも早急にギルドの攻略参加メンバーが居る宿に向かい、到着するや直ぐに会議の内容を伝達、明日は早いので、直ぐにでも休むよう伝える。

 

「キリト君」

「アスナか…」

「14人も犠牲者を出しちゃったね…」

「ああ…注意していても、こればっかりは如何する事も出来ないな…くやしいけど」

 

 ザ・グリーム・アイズは決して侮って良い相手ではない。前回も、キリトの二刀流、それもスターバースト・ストリームを持ってしてもギリギリの勝利となってしまった程、あのボスは強いのだ。

 

「ディアベルの話だと、死んだ人たちの中にはコーバッツも居たんだって」

「コーバッツって、確かあの時の……」

「ああ、この世界でも助けられなかったな」

 

 元々、偵察には向かない性格の彼を偵察部隊に入れたディアベルのミスだ。だが、過ぎた事を言っても死んだ人間が帰ってくるわけではないので、あの場では何も言わなかった。

 

「そういえばキリト君、アルゴさんから情報が入ったんだけど…最近、血盟騎士団の中で不穏な動きがあるって…」

「血盟騎士団で?」

 

 団長のヒースクリフは団員の事には特に不干渉で、興味も無い男だから、何かあれば基本的には人格者の副団長が対処している。

 だが、その副団長ですら気付いていないという事なのだろうか。

 

「因みに、その不穏な動きを見せてるのはクラディールよ」

「…奴か」

 

 前回、アスナの護衛をしていた男であり、半ばアスナのストーカーにもなっていた人物だ。

 キリトとの決闘(デュエル)で完敗したことを根に持ち、卑怯な罠でキリトを殺そうとした最悪の殺人者。

 嗤いながらゴドフリーを殺したあの光景は未だに忘れられない。

 この世界でも、クラディールは血盟騎士団に入団していて、キリトもアスナも会った事はあるのだが、会うたびにアスナを血盟騎士団に引き抜こうとしていた。

 

「アルゴにメールしておくか…奴の行動の裏を取るように」

「そうだね、場合によっては…」

「ああ、場合によっては…殺す」

 

 あの男を殺す事にキリトもアスナも躊躇いは無い。罪悪感を感じる事も無い。あの男はPoh同様に、生かしておく価値すら無いのだから。

 

「さて、そろそろ寝るか」

「うん、明日は早いからね」

 

 嘗て苦戦した相手との戦い、油断など欠片も出来ない相手との戦いに備え、キリトもアスナも早々にベッドに入り、翌日の激戦に備えて確りと眠りに就く。

 翌日には、何度目になるか判らない命を賭けたボスとの大激突が、待っている。

 

 

 

 翌朝、早朝から攻略組メンバーは74層ボスの部屋の前に集まっていた。

 黒閃騎士団からは15名、血盟騎士団から20名、聖竜連合から15名、アインクラッド開放軍からは20名が、風林火山と月夜の黒猫団、黄金林檎は戦闘要員全員が参加している。

 

「それではキリト君、君に号令を任せても良いかな?」

「え、何で俺が…」

「いや、いつもは私がやっていたが、たまには良いだろう?」

「…じゃあ、俺から言えるのは一つだけ、誰一人欠ける事無く、75層へ行こう!」

『応!!』

 

 本当に簡潔に済ませたキリトの言葉だが、そこに込められた思いは大きい。それを誰もが感じ取り、しかと頷いた。

 ゆっくりと開けられる扉、完全に扉が開き、中に入ると真っ暗だった部屋を蒼い炎が照らし、奥に居たボスの姿を照らし出す。

 蒼い巨体に大きな両手用大剣を片手に持った獣の様な悪魔、ザ・グリーム・アイズの名の通り青く染まった目がキリト達を射抜き、開かれた口から覗く鋭い牙に注視する間も無く轟いた咆哮が空気を揺らした。

 

「総員、戦闘開始!!」

 

 ヒースクリフの号令と共に、戦いが始まった。

 キリトもエリュシデータとダークリパルサーを構え、ランベントライトを構えたアスナと共に走り出し、グリームアイズの剣を避けながら巨体に斬りかかる。

 

「ブロック! キリト君とアスナ君の動きを止めさせるな!!」

「俺達もキリトに続けぇ!!」

「おおおおっ!!」

 

 ヒースクリフの合図に血盟騎士団と聖竜連合のメンバーが盾でグリーム・アイズの剣を受け止め、反らしつつ、その隙を突いてクラインやケイタ達も斬りかかった。

 キリトとアスナは兎に角動きを止める事無く動き続け、一箇所に留まらず動きながらダメージを与えていく。

 だが、グリーム・アイズも74層ボスというだけあり、やはりAIのアルゴリズムは従来のボスの物と違いが出ていた。

 今まで一番の脅威として認識して攻撃していたキリトとアスナから注意を外し、突然周囲の軍や聖竜連合のメンバーをロックして瘴気のブレスを放ってきたのだ。

 

「うわああああっ!?」

「ブルーノ!?」

 

 瘴気のブレスが、ブルーノに直撃した。ブルーノのHPが一気にイエローゾーンに突入し、更に毒状態になってしまう。

 

「ブルーノ下がれ! うぉおりゃあああああ!!」

 

 毒を受けたブルーノを後ろに追いやり、クラインが刀の刀身をライトエフェクトで輝かせると、ソードスキルによる斬撃をグリーム・アイズの胴体に直撃させる。

 

「はぁあああっ!」

 

 更にクラインの後ろからサチが槍を構えて飛び出し、ソードスキルを発動させてクラインが切り裂いた所に穂先を突き刺した。

 

「ピナ!」

「きゅる!」

 

 小柄な体格を活かして動き回っていたシリカはクラインとサチの攻撃が有効打になっているのを確認すると、一気に股下を駆け抜け、背後から正面に移動すると正面からはシリカの短剣による斬撃、背後からはピナの小ブレスが決まる。

 同時に、シリカとクライン、サチはその場を飛び退くと、グリーム・アイズの剣が空を斬り、スイッチする形でディアベルが剣を弾き返した。

 

「今だ!」

「スイッチ!!」

 

 ディアベルの反撃にスイッチしてアスナが一気に駆け抜けた。その姿は正しく閃光、フラッシング・ペネトレイターの一撃がグリームアイズの胴体を貫き、風穴を開ける。

 

「キリト君!」

「はぁああああああっ!!」

 

 二刀流スキル、シャイン・サーキュラーによる15連撃が放たれる。手数の多さを武器にするキリトの攻撃は大幅にグリーム・アイズのHPを削り、反撃の悉くはヒースクリフの盾により受け止められる。

 

「最後だ! アスナ! クライン! 援護を頼む!!」

「任せて!」

「判った!」

 

 瘴気のブレスを吐こうとしているグリーム・アイズの背後から回復したブルーノとエギル、ベルが斬りかかり攻撃を中断させた瞬間、アスナとクラインが一気に距離を縮め、モスキートとイブ、ケティアに代わる形で硬直中のキリトを襲うグリーム・アイズの剣を受け止め、弾き返した。

 

「アスナ!」

「スイッチ!!」

 

 硬直が解け、キリトがアスナの名を叫ぶと、アスナがグリーム・アイズの剣を力一杯弾き返した。今の一撃はかなり大きかったらしく、致命的な隙がグリーム・アイズに生まれ、その隙をキリトは逃さない。

 

「うぉおおおおおあああああ!!!」

 

 剣を持っていない方の拳をエリュシデータで切り裂きながらダークリパルサーで胴体を力一杯斬ると、衝撃でグリーム・アイズがのけ反る。

 キリトの最後の一撃が何であるのか、この場に居る誰もが気付いてその行方を見守る事にした。アスナが居る限り、もうこれ以上何もしなくともキリトに攻撃が通る事は一切有り得ないと知っているから。

 振り下ろされた剣を受け止めたキリトは、クロスさせたエリュシデータとダークリパルサーを思いっきり左右に開きながら剣を弾き返し、二刀ともライトエフェクトにより輝かせた。

 

「スターバースト……ストリーム!!」

 

 黒の剣士キリトの代名詞、二刀流上位スキル“スターバースト・ストリーム”が発動、高速の斬撃が次々とグリーム・アイズに叩き込まれ、攻撃中の無防備についてはアスナが全て攻撃を受け止め、弾く事でキリトには一切ダメージが行かない。

 

「せいっ! はぁあっ!! ぜぁあああ!!!」

 

 まるで嵐の如き剣撃の舞、ライトエフェクトが丁度良い演出をしているお陰でまるで光の舞の如き剣舞をキリトが踊る。

 そして、最後の16撃目がグリーム・アイズの胴体に突き刺さり、グリーム・アイズのHPが0になってポリゴンの粒子となって消え去った。

 前回は苦戦した相手、だが今回は多くの仲間と共に戦ったが故の、完全勝利。偵察でこそ犠牲は出したものの、74層はキリト達の完全勝利という形でクリアされるのだった。




次回はついに動きを見せた変態、彼の運命は生か死か。

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