ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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第二十四話 「最後のクォーターポイント」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第二十四話

「最後のクォーターポイント」

 

 アインクラッド75層ボス、ザ・スカル・リーパー。前回は14名の犠牲を出しつつ漸く倒す事が出来た強敵であり、鎌の一撃は攻略組プレイヤーの高いHPを一瞬で全て奪い去るほど強力な難敵だ。

 ついにキリト達攻略組はこのザ・スカル・リーパーのボスの部屋を見つけたという報告を受け、同時に偵察部隊が帰還者を出す事無く全滅したという知らせも受け取った。

 今は血盟騎士団本部の会議室に攻略組ギルドの全団長および攻略組ソロプレイヤーを集めて攻略会議を開いている。

 

「偵察部隊が戻っていないからボスの情報は一切無い。名前、姿、特徴、武器、何もかもが不明のまま我々は戦わねばならん」

「おいおい、そりゃ危険すぎるぜ…偵察部隊と言ってもレベルが高かった筈の奴らを全滅させるような相手だろ? 下手したら俺達まで全滅しちまう」

 

 クラインの言うことは最もなのだが、だからと言って戦わなければ76層へ行く事が出来ない。それはつまり永遠にゲームクリアをする事が出来ないという事になる。

 それは絶対に避けなければならない事で、攻略組である以上、選んではならない選択肢だ。

 

「キリト君、君はどう思うかね?」

「そうだな…先ず考えられるのは74層の時と同じで、ボスの部屋は結晶無効化空間になっているという事だ…下手するとこの先全ての階層ボスの部屋は結晶無効化空間になっている可能性を考慮した方が良い」

「それは、厳しいね」

「そうだな、実質回復はポーションのみで攻略する必要があるって事だ」

 

 回復結晶の代わりにポーションで回復出来るので、回復は問題ない。ただ一番の問題は転移結晶が使えずダメージの大きい者を転移で逃がす事が出来ないという事だ。

 結晶無効化空間は基本的に実力が無ければ簡単に死者を出す死の空間と同じ。甘く見ていれば待っているのは人生からのログアウトという事になる。

 

「それを踏まえて、キリト君は如何するべきなのか聞きたいのだが」

「…戦うさ。だけど犠牲者を出す訳にはいかない。今までの攻略より人数を増やし、盾を多めに配置するのは確定として、アタッカーは俺と明日奈がメイン、ヒースクリフは防衛の指揮を頼みたい。クラインとディアベル、それにウチのエギルとベル、ブルーノ、ケイタは俺達と離れた所から攻撃をしてもらう」

「ふむ、妥当かな」

 

 ソロプレイヤーの指揮はクラインとケイタ、グリセルダがしてくれる。

 今回は今までで一番大掛かりの攻略になるのは間違いないだろう。激戦も予想されるし、犠牲を出さないとは言っても前回の知識から75層のボスを知るキリトとアスナは犠牲が出る可能性が高い事を意識していた。

 あのボスを相手に、犠牲無しで勝利を掴むのは非常に難しいのだ。何通りもシュミレーションしているが、犠牲が出なかった事は無い。

 

「(多分、アスナの神速とエクシード、俺のエンシュミオンとエクセリオンを使ったとしても、犠牲は免れない)」

 

 犠牲は出したくない。でも、確実に出てしまうボスとの戦いに、少しだけ気分が憂鬱になるキリトであった。

 

 

 攻略会議を終え、攻略は翌日の朝にという事になったので、キリトは22層に転移してアスナ達の待つログハウスへ帰宅した。

 帰宅すると、リビングで遊んでいたユイとルイが走り寄って来て、同時に抱きついてきたので、優しく抱きとめて頭を撫でながらリビングに入る。

 

「パパ、攻略会議はどうでした?」

「ん、少し…いや、大分厳しい戦いになるのは間違いないから、今までの攻略より人数を増やす事になった」

「ザ・スカル・リーパーは危険…お父さん、大丈夫?」

「ああ、俺とアスナはな…ただ、やっぱり他の人たちは危険だ…正直、犠牲無しに勝てると思ってない」

 

 恐らくラスボス級はあろうというほど、ザ・スカル・リーパーの難易度は高い。

 最悪は切り札を一つ二つは切る必要があるが、キリトとアスナは大丈夫だ。しかし、他の人間には危険極まりないのも事実、もしかしたら黒閃騎士団からも今まで出なかった死亡者が出てしまう可能性だってある。

 

「未来の知識を話すわけにはいかない、だけど犠牲者は出したくない……こういうとき、未来の事を知っているってのは不便だな」

「うん、ジレンマだよー……」

 

 なまじ未来を知っている分、75層ボスがどれだけ強いのかを知っているというのを、誰にも知られる訳にはいかない。

 でも、未来を知っているからこそ、出てしまうであろう犠牲を無くしたいと考えてしまう。取れる手段など、もうこのまま進む以外に無いというのにだ。

 

「まず、第一に鎌の一撃が殆ど一撃必殺になっているって情報は誰かが犠牲にならないと知ることが出来ないって点だな」

「一番厄介な情報を、犠牲無しに知る事が出来ないのはもう辛いよ」

「解りやすい情報は防御力の異常な高さだな」

 

 敵の防御力だけであれば攻撃する事で解る事だ。だが、あのザ・スカル・リーパーの一撃必殺の鎌の情報だけは、犠牲無しに知り得ない事、それがもどかしい。

 

「鎌があからさまに大きいから大ダメージの可能性を指摘して、前同様に俺とアスナ、ヒースクリフで鎌を担当するか?」

「それしか、無いよね?」

 

 最初から鎌の担当をキリト、アスナ、ヒースクリフの三人で行えば、少なくとも被害は最小限に抑えられる可能性が一番高いだろう。

 後は大きな図体の真下から大人数で攻撃を加え続ける事でHPを減らしていく。それがザ・スカル・リーパー攻略の最善手だ。

 

「それじゃあ、こんな所だな」

「うん、そろそろご飯の用意するね」

 

 アスナがキッチンに向かい、ユイが手伝うと言って一緒に向かった。

 リビングに残ったキリトは膝の上に座りたがったルイを抱き上げて膝の上に座らせると、オプションメニューを開いてアイテム整理を始めた。

 明日の戦いは苛烈極まることは間違いない。ならばこそ、必要アイテムのチェックを怠るわけにはいかないのだ。

 

「ん? これって…」

「…お父さん?」

「あ、いや…見覚えの無いアイテムが…“剣士の極み”?」

 

 どうやら指輪型の装備アイテムの様だが、前回は入手した覚えが無いので初耳の名前、今も手に入れた覚えが無いのにストレージに入っているのはどういうことか。

 

「アスナー、剣士の極みってアイテム知ってるか?」

「あ、それー? それなら今日、ギルドの皆のレベル上げに付き合ってた時に倒したモンスターがドロップしたアイテムだよ、結構なレアアイテムなんだって」

 

 なるほど、結婚してアイテムストレージが共有化しているから、アスナがゲットしたアイテムが入っていた訳だ。

 試しにオブジェクト化してみると、特に見た目は仰々しいものではなく、キリトとアスナが左手薬指に装備しているエンゲージリングと特に変わりは無い物。

 効果について見てみると、レアアイテムと言うだけあり、中々の高性能なものだった。

 

「へぇ、片手剣及び両手剣装備時に攻撃ダメージをプラス修正してくれるのか…良いなこれ」

「欲しかったらキリト君使って良いよー?」

「ああ、使ってみるよ」

 

 ストレージに戻して右手の装飾装備として装備すると、右手中指に剣士の極みが現れた。

 意図しないところで良いアイテムが手に入ったと、満足気な様子でキリトは左手でルイの頭を撫でつつ、右手で作業を再開する。

 いつの間にかルイはキリトの膝の上で眠ってしまったようなので、静かに作業は進んだ。

 

「パパー、ご飯出来ました…あー! ルイずるいです! パパのお膝の上で寝るなんて!」

「…ふぇ?」

「お、ルイ起きたのか、おはよう」

「…おあよう…ごじゃいましゅ…」

 

 寝ぼけ眼でコシコシと目を擦るルイが大変可愛らしい。頬を膨らませてキリトの服を引っ張るユイの頭を撫でながらキリトは愛娘二人に囲まれてだらしない位に頬が緩み切っていた。

 そんなキリトの様子をキッチンから料理を運んできたアスナが目撃し、呆れながらテーブルに料理を載せて腰に手を当てる。

 

「三人とも、ご飯だよ。食べないなら下げちゃうから」

「うわ!? た、食べるって!」

「下げちゃ駄目ですー!」

「お腹、空いた…」

 

 全員席に座ったので手を合わせていただきます。

 明日の激闘を前に、最後の楽しい夕食を終えるのだった。

 

 

 深夜、誰もが眠っている時間に、キリトはテラスに出て空に浮かぶ月を眺めていた。

 明日のボス戦、そして恐らく待っているであろう…ヒースクリフとの戦い。全ては、明日…そう、明日で全てが終わるのだ。

 

「キリト君」

「アスナ…」

「眠れないの?」

「…まぁな」

 

 いつの間にかキリトの後ろに立っていたアスナが横に並んで同じく月を見上げた。その表情は明日の戦いへの不安と、そしてキリトと同じくヒースクリフとの戦いへの恐怖らしきものが浮かんでいる。

 

「ねぇ、キリト君…」

「アスナ」

「え?」

「明日は、前みたいに、俺を残して死ぬなんてこと、しないでくれ」

「……」

 

 前回のヒースクリフとの最終決戦、アスナはジ・イクリプスを防がれ、ダークリパルサーまで折られてしまったキリトを庇い、その命を散らしてしまった。

 もし、明日の戦いでアスナがまた同じ事をして、死んでしまえば…、そう思うとキリトは恐怖に包まれて仕方がない。

 

「なら、キリト君も約束して…あの時みたいに、もしも死んだらなんて事、絶対に言わないって」

「……それは」

「あの時、わたし本当に怖かった…もし、キリト君が本当に死んじゃったらって、後を追えなくなってずっと孤独のままアインクラッドを攻略する事になるのかって考えたら、怖くて仕方がなかったよ」

 

 何も、言えなくなってしまった。

 アスナを失う事を考えて怖くなったキリト同様に、アスナもまた、キリトを失ったらと考え、怖くなってしまったのだ。

 ならば、キリトから言える事なんて、何も無い。

 

「勝とう、キリト君」

「…アスナ」

「勝って、必ず現実に帰ろうよ…ユイちゃんとルイちゃんも、一緒に」

「…ああ、そうだよな」

 

 そうだ。負けたらなんて考えている時点で、勝機がある訳が無い。ならば、必ず勝つと信じて、戦うしか無いのだ。

 

「ありがとう、アスナ」

「キリト君…」

「必ず勝つ、勝って…向こうで楽しい事、沢山しよう。ユイにもルイにも、向こうを見せてあげたいからな」

「うん、必ずね」

 

 月明かりの下、星空を映し出す湖をバックに二人は抱き合い、口付けを交わす。

 いよいよ、最終決戦となる戦いが、始まろうとしている。その決戦前の、最後の口付けだった。




次回はザ・スカル・リーパーとの戦いです。
前回は14名の犠牲を出して漸く勝てた相手との戦い。今までの例で言えば前回より強化されているであろう難敵との戦いは、いかに苛烈となるのか、乞うご期待。

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