ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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大変お待たせしました! いや、仕事が忙しくて中々執筆時間が取れませんでした。


第三十四話 「記憶無き紫色の妹」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第三十四話

「記憶無き紫色の妹」

 

 攻略も順調に進み、遂に80層に到達した日、キリトとアスナは知り合いを呼んで自宅でパーティーを開いていた。

 参加しているのは主催者のキリトとアスナ、ユイ、ルイの他にクライン率いる風林火山、グリセルダ率いる黄金林檎、ケイタ率いる月夜の黒猫団の全メンバーとディアベルと、その恋人のミネア、シンカーとユリエール夫妻、ブルーノだ。

 黒閃騎士団からもシリカ、リズベット、リーファ、シノン、クルミ、ベル、モスキート、エギルが参加しており、テラスも開放しての立食パーティー状態だった。

 

「しっかし、俺達も随分とまぁ攻略が進んだよなぁ」

「何だクライン、いきなり」

「いやよ、エギルだってそう思うだろ? 2年前は100層まで攻略なんてぜってぇ無理だって思ってたのによ、今じゃ80層だぜ?」

 

 そう、思えば随分と登ってきたものだ。特にキリトとアスナにとって76層からは未知の領域、だというのに相当早いペースで登ってきたものだと思う。

 

「残り20層、クォーターポイントももう無いから比較的早く100層まで行けるとは思うが……」

「キリト君、何か心配事かい?」

「ディアベル…まぁ、少しな」

 

 キリトが不安に思っているのは、この世界に現れた少なくないバグ、高層になるにつれて上がるモンスターのレベルとバグも追加されて出現率の上昇したMobモンスターの数。

 少しでも油断すれば攻略組の人間だろうと命を落としかねない状況が出始めてきたのだから、不安を抱いても不思議ではない。

 それに、謎の高レベルギルド、ティターニアの存在や未だ見つからないMHCP02ストレアの事、考えなければならない事がまだまだ沢山あり、流石のキリトも最近は疲れている。

 

「ねぇねぇシノのん! 最近はどう? レベルとか」

「リーファと一緒にシリカとエギルの指導で何とかやっていけてるわ、レベルも73よ」

「あたしも今74になって、片手剣スキルはマスターしました」

「凄いじゃない! もう少し頑張れば攻略にも参加できるね!」

 

 アスナはアスナでシノンとリーファ相手に話し込んでいた。

 此処最近になってシノンとリーファのレベルはどんどん上がり、既に70を突破、後20上がれば攻略組に合流できるというところまで来ていて、アスナもそれを喜んでいる。

 

「あ、それでアスナとキリトに、相談があるのよ」

「シノのんがわたしとキリト君に? 何々?」

「これなんだけど、今日スキルの確認をしてたら昨日まで無かったスキルが入ってて、特に問題無いかなって思ってそのままにしておいたけど、ソードアート・オンラインって名前の世界に随分と似つかわしくないスキルなのよ」

 

 シノンが見せたのは自身のステータス、その中でも習得スキル一覧だ。

 シノンが習得しているスキルは短剣、体術、投剣、索敵と、攻略組として戦う上で必須のスキルだ。リーファも短剣ではなく片手剣だが同じ内容になっている。

 だけど、その中で異色のスキルが一つだけ存在していた。それこそが……射撃。

 

「……え、射撃?」

「何?」

 

 アスナの呟きが異様に響き渡った気がする。誰もが振り返り、シノンのスキルを確認し、その中に射撃が存在していることを知った。

 

「ちょ、ちょっと待て! SAOって確か射出武器とか無かったよな!?」

「その筈だね、僕が知る限りでも無いはずだ」

「精々が投剣くらいだろ?」

 

 クライン、シンカー、ブルーノの言う通り、SAOには投剣スキルくらいしか遠距離攻撃手段は存在していない。

 銃や魔法といった射出攻撃手段は存在していないのだ。だが、射撃というスキルは確かにシノンのスキル一覧に存在しており、同時にそのスキルの存在に見覚えのある者が二名、この場には居た。

 

「キリト君…これって確か」

「ああ、間違い無い」

 

 以前、カウンターアカウントを入手した時に見たユニークスキル一覧、その中に存在していたのだ……射撃というスキルは。

 

「シノン、よく聞いてくれ」

「キリト…?」

「射撃…このスキルはエクストラスキル、それも俺の二刀流やアスナの神速と同じユニークスキルだ」

 

 第4のユニークスキルの登場に、場が騒然となった。

 ヒースクリフの神聖剣、キリトの二刀流、アスナの神速に続き、新たなユニークスキルが登場して、それをまさか新参者のシノンが習得するとは誰も予想がつかなかったのだから、当然と言えよう。

 

「ユニークスキルって、そんなに凄いの?」

「ああ、普通のスキルは誰だって習得出来るし、エクストラスキルも条件を満たせば同じく誰でも習得出来る、でもユニークスキルだけは別だ」

「ユニークスキルはね、何らかの条件を満たしたプレイヤーが発生した時、そのプレイヤーのみに与えられ、それ以降はほかのプレイヤーには同じ条件を満たしたとしても入手することは出来ない、たった一人の為のスキルなの」

 

 神聖剣はヒースクリフだけに、二刀流はキリトだけに、神速はアスナだけに与えられ、許されたオンリーワンスキルとなる。

 そして、この射撃はシノンのみに許され、他の誰にも習得は不可能のスキルとなったのだ。

 

「それはまた…オンラインゲームにそんなものが存在してて良いものなの?」

 

 普通は良くない。たった一人にのみ許されたスキルなどゲームバランスの崩壊の危険すらあるのだから、普通のオンラインゲームならまず有り得ない事だ。

 だけど、このユニークスキルを開発した茅場晶彦が何を考えてこのスキルを製作したのか、それを知る者はキリトとアスナ、ユイ、ルイ以外には存在しない。

 

「なぁキリト、ユニークスキルってそんなにポンポン現れるものじゃねぇよな?」

「ああ、何らかの要因が重なって、シノンがその条件を一番最初に満たしたんだろうな」

 

 ヒースクリフは不明だが、キリトは全プレイヤー中最高の反応速度を持っていたが故に二刀流を、アスナは全プレイヤー中最速の速度を持っていたが故に神速を許された。

 つまり、シノンにも全プレイヤー中でシノンだけが最も高い何かを持っていたからこそ、射撃を許されたという事だろう。

 

「シリカ、エギル、シノンの戦い方とかで、何か射撃に結び付けられそうな事ってあるか?」

「え、ええと…そうですねぇ、私は特に気付きませんでしたけど」

「俺もだ…と言いたいが、もしかしたらって仮定はあるぜ」

 

 エギルの仮定とは、シノンが戦闘を行う際、投剣を頻繁に使用していたという事だ。それも牽制用に使うのではなく、確りと狙って、確実に命中させるように。

 その命中率は恐らくエギルが今まで見てきた全プレイヤー中最高のものだろうとの事だ。

 

「もしかすると、それ当たりかもな」

 

 投剣スキルの命中率が全プレイヤー中最高だから、シノンには射撃が許されたのだ。キリトが知る手裏剣術というユニークスキルではなく、射撃が。

 おそらく、シノンが投剣スキルの命中率ではなく、別の何かが高ければ手裏剣術になっていた可能性もある。

 

「(案外、クラインもユニークスキルを習得できたりしてな)」

 

 そんな事を考えつつ、キリトはシノンの射撃についてこれからの事を話し合う事にした。

 射撃というからには何か射出武器を使う事になるのだろうが、生憎今まで誰一人としてアインクラッドで射出武器を見たことは無い。

 そもそも、そんな武器が存在しない事が前提の世界で、そんなものを探そうという者など居るはずも無いだろう。

 

「世界観から考えて銃は無いよなぁ」

「だとすると、弓とか、その辺りか? いや、待て…弓か」

 

 エギルが突然何かを考え込みだした。

 暫く考えて、漸く何かを思いついたのか、パッと顔を上げてキリトとシノンを交互に見ると、ニッと不敵な笑みを浮かべる。

 

「あるぜ、弓…俺の店じゃないが、確か79層主街区の裏路地へ入ったところにNPCの店があるんだが、そこに確か弓が置いてあったはずだ、まぁ店のオブジェクトの可能性もあるし、購入出来るかまでは確認してないけどな」

 

 エギルの情報は可能性の話とは言え一歩前進と言えよう。ユニークスキルを習得しても、それを活かせる武器が存在しなければどうする事も出来ないので、それが手に入る可能性を提示してくれただけでもありがたい。

 

「それじゃあ、明日はシノのんの弓を見に行こうよ!」

「良いわね、アスナ、アタシも付き合うわよ」

「じゃ、じゃあ私も!」

「あたしも付き合います!」

 

 こうして、明日はアスナとシノン、リズベット、シリカ、リーファの5人で79層へ行く事になった。

 生憎だがキリトはその日、アルゴに会う事になっているので行けない。なので、ユイとルイも連れて行ってもらう事になる。

 

 

 翌日、アスナ達が79層へ向かったのと同時にキリトもアルゴの下を訪れ、ティターニアについてとストレアについて情報を聞いてきたのだが、特に目新しい情報は無く、昼食を共にしてから別れて一人、76層のアークソフィアに来ていた。

 

「……ん?」

 

 アークソフィアの市街地を歩いていると、ふと何者かに追けられている気配を感じた。

 キリトの索敵には引っ掛からないところを見ると、恐らくはハイディングスキルで隠れているのだろうが、名立たるオレンジやレッドプレイヤーが居なくなった今、そんな事をするプレイヤーに心当たりが無い。

 

「すこし、確かめてみるか」

 

 キリトは人通りの少ない路地裏に歩みを向けると、追けている人物が間違いなく同じ路地裏に入ってきたのを確認した。

 気付かないフリをしながら次の曲がり角を曲がるとその場で跳躍、窓の縁を掴み壁を蹴るとキリトの後ろを追けていた人物の真後ろに着地する。

 

「っ!? び、ビックリしたぁ」

「あんた、さっきから俺を追けてたけど、何か用があるのか?」

 

 キリトを追けていたのはキリトより少し年上であろう少女だった。

 薄紫色の髪をボブカットにして、紫色の軽鎧とミニスカート姿に、谷間が拝める巨乳と大きな両手剣が特徴的な少女だ。

 

「それで、なんで追けてたんだ?」

「ん~…それがアタシにもよくわかんないんだよねぇ」

「…は?」

「いや、何とな~くブラブラしてたら、アナタの姿が目に入って、何でか知らないけど後を追けたくなったの」

「あんた、名前は…?」

 

 随分とフランクな少女だが、追跡理由が適当過ぎる。これでは怪しんでくれと言っているようなものだ。

 だが、彼女の名前を聞いた瞬間、キリトの表情は驚愕に彩られることになる。

 

「アタシはストレア、見ての通り両手剣使いだよ!」

「っ! すと…れあ……」

 

 ストレア、それはキリトが探していたMHCP02……メンタルヘルスカウンセリングプログラム試作2号の名前であり、茅場晶彦が会えと言っていた人物の名前だった。

 

「それで、アナタの名前は?」

「え、あ……」

「アタシだけ名乗って不公平じゃん~」

「わ、悪い…俺は、キリトだ」

「キリト、キリトね、うん! よろしくキリト!」

 

 何の邪気も無い天真爛漫の笑顔、顔つきは何一つ似てないというのに、こういった所はユイやルイにそっくりで、彼女が間違いなくユイとルイの妹なのだと、実感させられる。

 

「それじゃあキリト! アタシそろそろ帰るから、また会おうね~!」

「え、あ、おい!」

「じゃあね~!」

 

 ご丁寧に投げキッスをして走り去って行ったストレアを、追う事は出来なかった。

 彼女が本当にメンタルヘルスカウンセリングプログラムなら、ユイやルイと違って防具や武器まで持っていたのは何故なのか、ハイディングとはいえスキルを使う事が出来たのか、様々な疑問が浮かび、この日は結局、ホームへと帰るのだった。




次回は話はストレアが中心になるかと思います。
後はインフィニティ・モーメントであったイベントをちょっと…ゲロ甘注意w

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