ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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少し短いですが、四十一話です。


第四十一話 「決戦前・前祝編」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第四十一話

「決戦前・前祝編」

 

 ついに、アインクラッド99層フロアボスが攻略され、残すは100層ラスボスであるヒースクリフとの決戦を残すのみとなった。

 とうとうこの世界を脱出する事ができると、生き残っているプレイヤー達の誰もが喜び、今は前祝という事でアインクラッド全層何処も彼処もお祭り状態になっている。

 そして、そんな中、最前線で戦う者達もまた、前祝という形で攻略組ギルド全員を集めてはじまりの街の大広場でパーティーを開いていた。

 

「うんめぇええええ!! やっぱアスナさんの作る飯は最高だなキリトよ!」

「クライン、お前食べ過ぎだっての……って、その肉俺のだ!!」

 

 キリトやクラインだけではない、黒閃騎士団、アインクラッド解放軍、血盟騎士団、聖竜連合、風林火山、黄金林檎、月夜の黒猫団、様々な攻略組ギルドやソロのメンバーが集まり、最後の決戦前にこれまでを振り返りながら英気を養っている。

 

「やぁ、キリトさん」

「シンカーさん、楽しんでますか?」

「ええ。こうして皆さんで集まって騒げるのも、これが最後ですからね、ユリエールも珍しくテンションが高くなってましたよ」

 

 シンカーが視線を向けた先には、リズベットと共にエールを一気飲みしているユリエールの姿があって、それを見てキリトと共に苦笑する。

 

「遠くまで来ましたね、我々も」

「だな、俺も最初は100層なんて無理だって思ってたぜ」

「……俺もだ、最初なんて自分が助かる事だけを考えてた、攻略だってそればっかりで、本当に100層に到達できるか、なんて考えた事も無かったよ」

 

 だけど、今こうして99層を攻略し、ついに100層まで来た。まだゲームが開始されたばかりの頃は誰もが諦めていたゲームクリアが、もう目前に迫っているのだ。

 

「僕は前線に立って戦う事はできませんが、応援してますよ」

「ああ、ディアベルにも伝えてやれよ。あいつは一応、お前の所のメンバーなんだしよ」

「ですね、彼には前線に出られない私の代わりにいつも前線で戦ってもらってましたから、感謝しきれません」

 

 ディアベル、第一層攻略からずっとキリト達と共に前線で戦い続けた彼もまた、キバオウ達と共に飲み比べをしている最中だった。

 皆、様々な思いがあり、それを語りながら最後の晩餐とも言うべき今を楽しんでいる。

 

「ね、ねぇキリト君」

「ん、どうした? アスナ」

「あ、あのね……あそこ」

 

 何やら困惑顔でアスナが指差した先、そこにキリトとクラインが目を向けると、思わず目が点になってしまった。

 何故なら、見覚えのある真紅の鎧を着た男が、これまた何故かラーメンドンブリをモチーフにした仮面を被ってさり気なくパーティーに参列しているのだから。

 

「って、おいヒースクリフ!!」

「ずずず……ん? やぁキリト君、クライン君、アスナ君、パーティー楽しんでいるかね? ああ、それと私はヒースクリフではない、紅のラーメンハンターだ」

 

 アスナが作ったラーメン片手に仮面越しのドヤ顔をするヒースクリフ……もとい紅のラーメンハンター。

 

「てか、その仮面どうしたんだよ! んな仮面あるのか!?」

「これかね? どうだい、似合っているだろう?」

 

 似合っている似合ってない以前に、シュールだ。

 

「パパ、あの仮面……実はアインクラッドに実在するアイテムなんてす」

「……は?」

「エクストラスキル、食評論家をコンプリートしたプレイヤーが特定のモンスターを倒した時のみ稀にドロップするレアアイテムなんです……アイテム名は確か、美食ラー面」

 

 効果は装備したプレイヤーの料理成功率を高めるものとのことだ。

 正直に言おう、いらない。

 

「ていうか、何でお前が此処にいるんだよ、100層で待ってるんじゃなかったのか?」

「キリト君、その質問に対する答えはたった一つだ。ラーメンある所に私あり!!」

 

 もうこの場で倒してしまおうか、と思わず考えてしまったキリトは悪くない。

 

「とまぁ、冗談はさておき、キリト君に話があったのだよ」

「……話?」

「うむ、100層紅玉宮玉座の間、それが君たちと私が戦う場所になるのだが、実はラスボスは私ではなく、ホロウアバターというゲーム開始時に現れたあの巨大なローブの姿をした茅場晶彦になるのだ」

「つまり、お前がラスボスというわけではないってことか?」

「同じ茅場晶彦であるという点では間違いではないのだがね。だが、それを恐らくは君たちの実力でもってすれば簡単に倒してしまうだろう。だが、それでは面白くない」

 

 そこで、と紅のラーメンハンターは続けた。

 

「ホロウアバターを倒した後、キリト君……君と今度こそ1対1の決着を望む。それで君が私に勝てば、ゲームクリアだ」

「……つまり、ホロウアバターを倒すのはお前への挑戦権ってことか?」

「そう捉えても構わないよ。どうかな?」

「……望むところだ」

 

 断る理由は無いし、そもそも断るという選択肢を、この男が選ばせるはずも無い。

 ならばキリトが選ぶべき選択など、最初から決まっている。

 

「今度こそ、お前を倒す」

「フッ……そう、それでこそキリト君だ」

 

 それだけ言い残し、紅のラーメンハンターは空になった丼を持ってお代わりに向かった。まだ食べるつもりらしい。

 

「ヒースクリフの野郎、ラーメン全種食うまで居座るつもりだな」

「みたい、だな」

 

 先ほどまで食べていたのが醤油ラーメンらしいので、残る塩、味噌、豚骨をコンプリートするまで帰らないのだろう。

 精々、気付かれないことを祈りつつ、キリトはアスナと共に近くのテーブルにある料理を食べ始めるのだった。

 

「む、このスープは鶏がら塩だと!? まさかアスナ君の調味料合成技術は此処まで見事に再現していたのか……!!」

 

 紅のラーメンハンターの叫びを背に、一同は聞こえないフリを維持するのだった。

 

 

 パーティーもお開きになり、暇になったキリトは決戦前に仲間と話をしようと思い、最初に誰の所へ行くか考えていた。

 

「やっぱ、リーファからかな」

 

 この世界に他のゲームから巻き込まれてしまったという妹、リーファの所へ行こうと決め、キリトははじまりの街の宿に泊まることにしたリーファの所へ向かった。

 この世界ともようやくお別れという事もあり、随分と現実世界で心配を掛けた妹と、これからの事などで色々と話したい事もある。

 

「リーファ、俺だけど」

 

 リーファの部屋の前で扉をノックし、中に居るであろう妹に声を掛けると、直ぐに返事が返ってきた。

 

『お兄ちゃん? ちょっと待ってね~』

 

 しばらくして、扉が開かれて、中から緑色のシャツにミニスカート姿のリーファが出て来た。

 

「どうしたの? お兄ちゃん」

「ちょっと、リーファと話したい事があったからさ」

「ふぅん、まぁ入ってよ」

 

 言われるがままに部屋に入ったキリトは、この後、リーファから衝撃の事実を聞かされることになるとは、思いもしなかった。




次回はリーファがアインクラッドに来た理由が明かされます。
ゲームプレイしてる人はもう知ってるでしょうが、これは一応、ゲームのネタバレになるので次回を読む人は注意です。

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