ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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たいっへん!!!!! お待たせしまして申し訳ございませんでしたぁああああああ!!!!!


第四十三話 「決戦前・シノン編」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第四十三話

「決戦前・シノン編」

 

 リーファの部屋を後にしたキリトはギルドホームの中庭に出てきていた。

 時間的にもう夜なので、空は真っ暗になっており、満点の星空が楽しめるのだが、それよりも気になるものが見えたことに気がつく。

 中庭にある木に腰掛けて座りながら空を眺めているシノンの姿だ。

 

「シノン」

「あ、キリト……どうしたのよ? こんな所に」

「いや、何となく外の空気を吸おうと思ったんだけど……シノンは?」

「あたしは……そうね、キリトと同じ。外の空気を吸うついでに、ちょっと星見でもってね」

 

 そう言って夜空を見上げるシノンの表情は何処か優れなかった。明日には最後のボス戦だからこそ、不安もあるのかもしれないと思ったが、キリトの勘がそれは違うと言っていた。

 

「どうした? 何か顔色が悪いけど」

「ううん、ちょっと……ね。夕べの夢見が悪かっただけよ」

「夢見が?」

「そう……悪い、夢だったわ。私の、昔の夢っていう、最悪のね」

「昔……?」

 

 シノンは、この世界に迷い込んだ当初、記憶喪失だった。リアルでの事は自分の名前以外の何一つ覚えていない。プレイヤーネームすら確認しなければ判らなかった程だ。

 

「そう、忘れるなって事なのかしら……おかげで大分リアルでのこととか思い出せた」

「それは、俺が聞いても……?」

「ええ、でも聞いても驚かないでね? 私も戸惑ってる所が結構あるんだから」

 

 シノンの口から語られたのは、まずシノンの知るSAOの事について。

 シノンはリーファ同様にSAO開始時はやはりリアルの方に居たらしく、SAOの事を知ったのはテレビのニュースでだった。

 大勢の人が死んだ最悪のデスゲーム。首謀者は未だ逮捕されていない、被害者を救い出す方法がゲームクリア以外に本当に無いのかすら判明していないこと等々。

 

「じゃあ、やっぱりシノンはリーファ同様に」

「ええ、元々はリアルに居た……SAOというゲームとは一切無関係の筈だったのに、あの日……落ちてきた私をあんたが受け止めたあの日に、私はこの世界に迷い込んだ」

「やっぱりな……でも、ハードはどうしたんだ? SAOとは一切無関係だったならナーヴギアは持ってなかったんだろ? 発売中止になったとも聞いたし。もしかしてリーファが言ってたナーヴギアの後継機とかいうあ、アミュスフィア? だっけ……それを?」

「いいえ、確かにアミュスフィアは買おうかと思ってたけど、私がこの世界に迷い込んだ当時はまだ購入してなかった。たぶん、メディキュボイドの所為でしょうね」

「メディキュボイド?」

 

 またリアルの事で知らない単語が出てきた。

 今の話の流れから察するにナーヴギアやアミュスフィア以外のVRマシンだとは予想出来るが、名前の響きから医療に関わりがあるのではないかとも思える。

 

「キリトの想像通り、メディキュボイドは医療用の機械よ。フルダイブ技術を医療に役立てようって何処かの会社だか研究所だかが言い出して、それでナーヴギアやアミュスフィアに使われている技術やシステムをそのまま応用して作られたの」

「フルダイブを医療に?」

「目や耳が不自由な人にVR技術が役立つっていうのはナーヴギアが開発されていた頃から結構言われていたでしょ?」

「ああ、それは知ってる。実際、茅場もいずれは医療にも発展するだろうみたいな発言した旨の記事が雑誌に書かれてたからな」

 

 それ故に茅場がナーヴギアを完成させた時はゲームという側面だけではなく、医療という側面でも非常に注目を集めていたのは確かだ。

 勿論、目や耳が不自由な人だけではなく、感覚遮断の技術が麻酔の代わりになるからと、手術にも役立てると言われていた。

 

「私もね、メディキュボイドを使ったのよ……まぁ、手術の為とか、目や耳が不自由ってわけじゃなく、カウンセリングの為のテスト稼動だったんだけど……えっと、VRMMOは、何だったかしら……ナントカ医療に役立つ、とか何とか、医者が言ってたわね」

 

 その為、シノンはメディキュボイドを利用してSAOではないが、無難なVRMMOゲームにログインしようとした。

 しかし、その結果としてアバターを作成して、カウンセラーがログインしてくるのを待っていた所を、突如SAOに巻き込まれてしまったのだ。

 

「足元が急に揺れたのは覚えてる。その後はとにかく滅茶苦茶な状態になって、自分でも意識を保っているのが精一杯な状況だったんだけど、気が付けば意識を失っていたのね……目を開けた時に目の前にキリトが居たってわけ」

 

 おそらく、須郷が行った横槍によって発生したSAOのエラーが原因だろう。そのエラーが事の他大きかった為に、ネットワークを通じてシノンの所へ影響を及ぼした。

 

「でも良かったよ。クリアを目前に何とか記憶が戻って」

「……そうでもないけどね。忘れていたかった事まで、思い出してしまったから……正直気が滅入ってるのよ」

「忘れていたかった事……? って、ごめん、これはマナー違反か」

「いいのよ、話したのは私なんだから、あんたが気にする事じゃない。それに、あんたはこの世界で色々と経験してるだろうから、正直聞いて貰えたらと、思ってたのよ……私の、トラウマを」

「でも、それは……」

 

 本当に、聞いて良いのだろうか。彼女のトラウマとも呼べる事を、自分が。

 

「私、これでもあんたの事は信頼してるの。黒閃騎士団団長としてのあんたも、キリトっていう一人の男としても、何気に結構気に入ってるのよ?」

「それは、光栄だって言えば良いのかな?」

「ええ、そうね……光栄に思いなさい」

 

 こういった物言いは嫌われる傾向にあるのだが、シノンが言うと何故か彼女にはこういう物言いが様になっていて、嫌味に聞こえないから不思議だ。

 

「私ね……小さい頃に、人を……銃で殺した事があるの」

「人を……!?」

「ええ、母親と一緒に郵便局に行った時に……強盗が実銃を持って襲ってきたのよ」

 

 殺されるかもしれない。そんな恐怖によって怯えていた幼き頃のシノンだったが、母親を助けたい、母親が殺されるかもしれないという想いから強盗に立ち向かい、殴り飛ばされながらも拳銃を奪い取る事に成功した。

 だが、強盗への恐怖はやはり残っており、銃を奪い取っても足が竦んで動けなくなって座り込んだシノンから拳銃を奪い返そうと襲い掛かってきた強盗に、シノンは咄嗟に銃口を向け……その軽い引き金を引いてしまったのだ。

 

「一発目は強盗の肩だったかしら……そこに当たったわ。それで強盗もキレちゃったのね、ますます怒りに身を任せて襲い掛かろうとしたから、続けざまに引き金を引いた……その銃弾は、真っ直ぐ強盗の額へ向かっていったのよ」

 

 銃弾が強盗の額に直撃、簡単に脳を撃ち抜かれ、即死だった。

 

「引き金を引いたとき、本当に夢中で目を瞑っていたけど、急に静かになって、足元に生暖かい液体の感触がして、恐る恐る目を開けてみれば目の前には頭と肩から血を流して息絶えた強盗が倒れていて、その血が血溜まりとなって私の足元に流れていた……そこでようやく幼いながらに理解したのよ、私は……人を、殺したんだって」

 

 以来、シノンは拳銃というものにトラウマを持ってしまった。それも重度のトラウマで、モデルガンやエアーガン、果てには人の指をピストルの形にしただけで過呼吸になり、嘔吐し、体の震えが止まらなくなる様になったのだ。

 

「この世界に来て、他の攻略組のメンバーから聞いたの。キリト、あんたはこの世界で、人を殺した事があるって……」

「……ああ、そうだな。確かに、俺はこの世界で、リアルで本当に人が死ぬって知っていてプレイヤーを殺した事があるよ」

笑う棺桶(ラフィン・コフィン)だったかしら、それを討伐したときに殺したって聞いた」

「奴らは、この世界で人を殺すのが当然の権利だと主張して、快楽のため、娯楽の為に人を殺していた……だから、俺はこれ以上奴らの被害を出さない為に、リアルでも奴らが同じ過ちを犯して人を殺すなんて事が無いように、殺したよ」

 

 キリトという人間を知らない者が聞けば、恐らくキリトの言い分は正義感を免罪符にした殺人者の言葉としか聞こえないだろう。

 だけど、シノンは少なくともキリトがそんな人間じゃないのは理解している。だから、キリトの口から、何を思って殺したのか、そしてその罪を背負っている今、何を考えているのかを聞きたかった。

 

「後悔、してるの?」

「いや、後悔だけはしちゃいけないと思うんだ……どんなに奴らが極悪人でも、俺は俺の都合で殺した事に変わりは無い。正義感とか、そんな温い言葉を免罪符にするつもりも無い……これは、俺が一生背負っていく罪だって理解して、背負う覚悟もある」

「……強いね、キリトは」

「強くなんて、ないさ……多分、俺一人だったらきっと、今頃壊れてたかもしれない」

 

 壊れなかったのは、キリトを支えてくれる大切な人や、仲間達が居てくれたから。彼らが、彼女たちが、キリトの罪を理解し、そしてそれに押し潰されそうになっても助け出して支えてくれるからだ。

 

「シノン、シノンはその強盗を殺した事、今はどう思ってるんだ?」

「正直、後悔してるなんて言うつもりは無い……だって、あの時ああしなければ、お母さんが殺されてたかもしれないもの」

「その結果、トラウマを抱えることになっても?」

「ええ、トラウマは自業自得、それは理解してる。だけど、あの時お母さんを守ろうとした事を後悔するのだけは、絶対にしたくない」

「なら、シノンはきっと大丈夫だと思うよ。シノンは、一人じゃない……確かに、その強盗を殺してしまった時は一人だったかもしれないけど、でもこの世界に来て、シノンは一人じゃなくなっただろ?」

「……そう、ね」

「同じ人殺しの俺を支えてくれる奴らだ、きっとシノンの事だって支えてくれる」

 

 それを聞いて、シノンは安心したのか少しだけ表情が和らいだ。まだ完全には克服出来ないだろうけど、でもきっと大丈夫だ。

 いつの日か、シノンは必ずトラウマを克服する。だって、シノンにはこの世界で得た、大切な仲間が大勢居るのだから。




次回は決戦前・親子編となります。
アスナ、ユイ、ルイの話があって、その次が最終決戦です。

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