ソードアート・オンライン・リターン
第四話
「白黒」
「それでは! ギルド“
『乾杯!』
アインクラッド第3層のとある街のレストランに、キリトとアスナ、ユイ、エギル、ベル、モスキート、クルミが集まって少し豪勢な夕食会を開いていた。
第2層攻略時に詐欺など多少のいざこざがあって此処まで来るのに若干の苦労はあったものの、無事にギルド作成可能な階層に来る事が出来たのだ。
これから先、次々と正式にギルドが結成されていく事だろう。そして、それはキリトたちも同じく、こうしてギルド立ち上げを行う事になった。
そもそもの始まりは第2層攻略後、第3層に入って再びキリトとアスナ、ユイの三人旅をしていたのだが、唐突にアスナがギルドを作ろうと言い出したのだ。
「ギルドを…?」
「うん、正直ね・・・わたしとキリト君の二人だけだとこれから先、皆を助けながらっていうのは難しい場面が出てくると思うの。だけどキリト君はギルドに入るのは嫌なんだよね?」
「うん、前回もギルドには入りたくなかったからソロだったし」
月夜の黒猫団が壊滅した後はずっとキリト一人のソロで74層まで行っていた。だから今回もと考えていたのだが、確かにアスナの言うとおり、これから先、助けたい人たちを助ける、攻略を少しでも楽にするのなら、ギルドは必要となる可能性がある。
「だから、わたし達でギルドを作るの! キリト君が団長で、わたしが副団長」
「いや、ちょっと待ってくれ! ギルドを作るって…」
確かにギルドに入るのには抵抗がある、だからといってまさかギルドを作るという発想に行き着くとは思いもしなかった。
「勿論、もう一つギルドを作る理由があるの」
「もう一つ?」
「団長…ヒースクリフ団長の事」
「あ…」
そうだ。あの男は強いと思ったプレーヤーを勧誘して血盟騎士団を結成したのだ。それもアスナは早い段階で声を掛けられて実力共に申し分ないと副団長というポストに収まった。
だから、今の内にギルドを結成して、キリトを団長に、アスナを副団長にしてヒースクリフに勧誘されない様にしなければならない。
「ギルドが違えば少しでも奥の手を隠せるでしょ?」
「そうだな…攻略戦で手の内はいくつか晒すけど、本当の切り札は隠せるか…」
後は、結成したギルドを血盟騎士団に吸収されないように気をつければ良い。
「でもメンバーは?」
「パパ、エギル小父様とモスキートさん、ベルさん、クルミさんがいますよ?」
「あ、そっか…」
第1層、第2層と共に戦った4人の仲間、彼らならキリトとアスナが声を掛ければギルドに加盟してくれる可能性が高い。
良い意味で二人を崇拝するベルとモスキート、キリトに並々ならぬ好意を寄せているクルミ、キリトとアスナにとってこの時代でも兄貴分となったエギル、人間関係的にも、実力的にも申し分ないだろう。
「皆にはわたしが声を掛けておくから、キリト君は明日、ギルド結成用のクエスト攻略をお願いして良い?」
「判った。なら明日はユイの面倒を頼むな」
「任されました」
「ユイ、ママの言う事を良く聞いて、良い子にしてるんだぞ?」
「はい! パパも頑張ってくださいね」
こうして、キリトはこの翌日にクエストクリアを果たしてギルドを結成、キリトが団長で、アスナを副団長に、黒の剣士キリトと第3層から白いコートを着る様になったアスナから
団員4名を加えた6名の小規模ギルドが誕生したのだった。
冒頭に戻り、ギルドが結成された夜、ギルドメンバーを集めてレストランでの食事会は大いに盛り上がった。
キリトも一人ソロで動いていた時にはあり得なかった空気に、こういうのも悪く無いな、と思いながら隣で料理を目一杯頬張るユイの頭を撫でる。
「パパ?」
「ん? いや…それ!」
「きゃあ!?」
なんとなく、ユイを抱き上げて膝の上に座らせると、突然の事に驚いたユイも安心した様に背中をキリトに預けて目の前の料理に目を向けると今度はキリトとアスナをチラッと見た。
「あの、パパ…ママ……」
「お? いつになく甘えん坊だな」
「ホントね…ほらユイちゃん、あーん」
「あ~ん」
アスナがキリトとユイの目の前にあった料理をスプーンで掬うとユイの口元まで持っていき、それをユイが食べる。
周りの4人は相変わらずの親子に苦笑し、ユイの愛らしさはこのギルド共通の認識となり、いずれギルドが拡大したらユイのファンクラブや防衛隊なんてものも出来るのではないかと予測した。
「俺としては防衛隊でも何でも、ユイを守れるなら結成してもらえると在り難いけどな」
「うん、わたしとキリト君が居ない時とかはユイちゃんを一人にしておく必要があるし、その時に近くで守ってくれる人が欲しいかな」
今はまだ6人のギルドなので無理だが、もっと人数が増えれば前線攻略隊と後方支援の職人隊、そしてユイの防衛隊が結成出来る。
「ねぇキリト君、リズも誘う?」
「いいな、それ…ならシリカも誘うか」
前回ではリズはマスタースミスにまでなり、ダークリパルサーを造り上げた腕前で、シリカはビーストテイマーとして、前線ではないがソロ活動をしていた。
仲間に引き込むには丁度良い人材だろう。
「キリトさん、俺っちも何人か声掛けようか? キリトさんに助けられたのってまだ居るし、俺っちから事情説明すれば参入してくれるぜ?」
「頼んで良いか?」
「ウス!」
モスキートが他のキリトやアスナが嘗て助けたメンバーに声を掛けてくれるとの事だ。まだ彼らはギルドに加入していない者が多数な筈なので、もしかしたらギルドに入ってくれる可能性が高い。
「職人職ならアタシが声掛けますよぉ、知り合いで職人職になったの居るし~」
「じゃあクルミちゃんはそっちをお願い。鍛冶職人はわたしの知り合いに頼むけど、もう何人か欲しいからそっちと、後は今後の活動に必要そうな職人職を」
「は~い~」
残るベルとエギルは二人でレベル上げを行いたいとの事なので、そちらは任せる事にした。
パワーファイターな二人はレベルが上がってくれるだけで攻略時には欠かせないアタッカーになるのだから、出来る限り二人にはレベル上げをしてもらいたい。
「ああ、それと俺なんだがな、店を出しちゃ駄目か?」
「エギル…いや、是非とも出してくれ」
「良いのか? いや、助かるぜ」
「何か理由があるからなんだろ? ならレベル上げで資金貯めて、店を出してくれ、俺達も協力するからさ」
エギルが店を出す理由は前回と同じだろう。
今後、エリアが進むにつれて中層に留まる事になるプレーヤー達の育成に収入を使う事、勿論それはキリトやアスナだって全力でサポートするつもりだし、育成して今後のギルドメンバーになってくれるのなら、それはギルド全体としてはプラスになる事だ。
「そうだキリトさん、俺達のギルドなんスけど、パーソナルカラーとか決めたら良いと思うッスよ」
「パーソナルカラー…」
血盟騎士団は赤と白の鎧、風林火山は赤い武者鎧、聖竜連合は蒼い鎧、軍は群青色の鎧といった具合に、大抵のギルドは一目で何処のギルドなのか判る格好をしている。
キリト達のギルドも、それに習って何かパーソナルカラーを決めておく必要がありそうだ。
「それじゃあ、ギルド名と同じ、男なら黒の、女なら白のコートや鎧で。コートにするか鎧にするかは個人の自由」
「キリト君やわたしみたいにスピードをや反応速度を重視するならコート、パワーや防御力を優先するなら鎧って感じにすると良いよね」
そういうアスナもいつの間にかキリトのコート・オブ・ミッドナイトに似た白いコートを着ている。今後はキリトとアスナの姿がギルドのメインカラー、
「マークは如何しますかぁ?」
「マークか、キリトとアスナを象徴するマークが良いだろうな」
「俺と」
「わたしを…?」
キリトの象徴は二刀流、アスナの象徴はレイピアだろうか。
ならば簡単だ、キリトの切り札、魔剣エンシュミオンとアスナのレイピアをクロスさせた黒と白のマーク、それが一番だろう、絵心の無いキリトではなくアスナが紙に書いて見せると、概ね好評だった。
「それじゃあ、俺達の今後の方針だけど…先ずはレベル上げを最優先にして自分達がどんな武器を後々も使い続けるのかを決定する。同時にギルド内でのパーティー分、それとメンバー集めだ」
「わたし達のギルドは最前線で戦う事を目的にしているから、レベル上げだけは絶対に行う事、攻略戦の時の指揮は基本的に副団長のわたしがするから」
指揮についてはソロで動いてきたキリトより血盟騎士団副団長として前線攻略組で指揮を取っていた経験のあるアスナの方が向いている。
その為、団長のキリトより副団長のアスナが指揮した方が効率が良いのだ。
「それから、これは何よりも守って欲しい事なんだけど……誰一人、第100層を攻略するまで死ぬな、それだけだ」
誰もがそのつもりだが、改めて言ったキリトの言葉には、不思議な重みを感じた。
これは前回キリトが75層クリアまでの間に多くのプレーヤーが死んだ事、ボス攻略で多くの死者が出たのを目の前で見てきたが故の言葉の重みだ。
だから、全員息を呑んで、そして静かに頷いた。改めて、絶対に死なないと、心に決めてこれからの活動に全力を尽くすと、誓うのだった。
ギルド結成から早くも一週間が経った。
この一週間の間に全員レベル上げに専念して現在のギルドメンバーのレベルはキリトが36、アスナが30、ベルが20、モスキートが19、クルミが25、エギルが21と、この階層では最もレベルの高いギルドになっている。
一週間で此処までのレベルに上げるのは相当な苦労をしたが、全員それ相応の経験を積んで、資金や武装も随分と整った。
ギルドのメンバーもあれから少し増えて、今は10人のギルドになったので、ギルド
「さて、皆も知っていると思うけど、明日は第3層フロアボス攻略会議が行われる。俺達はそれに参加して、第3層攻略に乗り出る予定だ」
「だから今日はゆっくりと休んで、武器や防具を調えて戦いに備えてね」
ギルド
こうして、後の最強2大ギルドの一角を担う騎士団は動き始めるのだった。
ギルド作った理由は簡単、キリトとアスナ二人では限界があるからです。
その点、ギルドという集団行動なら助けられる人間も二人でやるよりは多いでしょうから。
忘れてはいけない。二人の目的は攻略と、助けられなかった人を多くでも助ける事なのです。
でもギルド創っても基本キリトとアスナのイチャイチャらぶらぶは継続ww