ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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少し短いですが、第六話です。


第六話 「思い出の家」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第六話

「思い出の家」

 

 第21層のボス攻略が終わり、22層のアクティベートが完了した。

 街の転移門のアクティベートも終わり、下層から順次人が来れる様になって直ぐにキリトとアスナは揃って街の不動産屋へ向かった。

 不動産屋の店員NPCに話し掛け、プレーヤーホーム購入を申し出ると、22層にあるプレーヤーホームの一覧を見せてくれたが、二人は迷わず少し離れた村の近くにある湖畔のログハウスを選択、一括購入を決めるのだった。

 幸いにも1層からずっと貯めてきたお金で家と家財道具一式を購入するだけの余裕があったので、必要な物を全て揃えてキリトとアスナ、ユイの三人は早速だが自分達の家となった思い出の家へ向かう。

 

「やっと、帰ってこれたね」

「ああ、またこの家に三人で住めるんだ」

 

 目の前にある懐かしいログハウス、たったの二週間しか住んでいなかったが、それでも沢山の思い出が詰まった大切な場所。

 漸く、この場所に帰ってこれたのだと、感慨深い想いがキリト、アスナ、ユイの心を占めていく。

 

「入ろ?」

「行きましょう、パパ」

「・・・ああ、そうだな」

 

 中に入ると、まだ家財道具なと何一つ無い内装だが、それでもやはり帰ってきたと、そう思える。テラスから一望出来る湖と自然、流れ込んでくる心地よい風、何もかもが懐かしい。

 

「先ずは内装からね、前と同じでいいよね?」

「任せるよ、その辺はアスナの方が詳しいだろうし」

「ママ! お手伝いします!!」

「うん、じゃあユイちゃん一緒にやろうか?」

「はい!」

 

 早速アスナがアイテムストレージに格納している家財道具を適当な場所でユイと共に選びながらオブジェクト化していく。

 何も無い部屋に家財道具が次々と並び立てられ、前と全く同じ内装へと変わっていった。だけど、唯一前と違うのは寝室、前はシングルベッド二つにしていたが、今回はダブルベッド一つの状態だ。

 これについては最初、キリト自身が前と同じシングルベッド二つを買おうとしたのだが、アスナとユイがそれに猛反発、ダブルベッド一つを買って三人一緒に寝ようという事になり、キリトもそれに賛成してシングルベッド購入をキャンセル、ダブルベッドの購入となった。

 

「えへへ、これでパパとママと、三人一緒に寝られますね」

 

 大好きなパパとママに挟まれて眠れると、ユイは大層ご機嫌で、ダブルベッドを見ながら夜が楽しみです。などと可愛らしく言ってくる。

 キリトもアスナも、親子で川の字になって寝る事が出来ると、少し楽しみにしているので、やはりこの三人、似たもの親子だった。

 

「さてと、それじゃあそろそろ夕飯を作らないと」

「ああ、じゃあ俺はギルドの皆にこの家の事を報告しておくよ」

「お願いね」

 

 既にこの階層に到達した段階でギルドメンバーには三人で住むプレーヤーホームを購入する旨は伝えてある。

 恐らく明日にはお祝いに駆けつけてくれるだろう。その時に色々と今後のギルドの事についても話し合わなければならない。

 この家はあくまでもキリトとアスナ、ユイの三人の家であり、ギルドホームではない。なので、ギルドのお金でギルドホームも近々購入もしくは建設しなければならないのだ。

 

「よし、メール送信終わりっと・・・」

 

 そんな事を考えながらメール送信を終えると、キリトは夕焼けに染まった外を見てテラスに出る。

 テラスには前と同じで安楽椅子が置かれており、丁度今はユイがそこに座ってゆらゆらと笑顔で外を眺めていた。

 

「あ、パパ!」

「ようユイ、その椅子の座り心地は如何だ?」

「とても快適です。のんびりお休みしたい時は丁度良いですね」

「ああ、パパもその椅子に座ってのんびりするのが前の日課だったからな」

 

 そう言ってキリトはユイを抱き上げると、そのまま安楽椅子に座り、膝の上にユイを座らせる。

 突然の事に驚いたユイだったが、直ぐにキリトに背中を預けて先ほどと同じようにキリトにゆらゆらと揺らしてもらいながら笑顔でテラスから見える夕日に染まった綺麗な湖を眺めた。

 

「良い眺めですねぇ」

「ああ、ママも最初は同じ事を言っていたよ」

「ママもですか? でも解ります、こんなに綺麗なんですから」

 

 今まで攻略やレベル上げで随分と忙しくて、のんびりと出来る時間は中々無かったが、やはりこういう穏やかな時間は良い。

 殺伐とした雰囲気ばかりでは気が滅入ってしまうので、こうして気分をリフレッシュしなければこの先もやっていけないだろう。

 

「今の世界は、前よりも他のプレーヤーの皆様は微かな心のゆとりがありますね」

「そうなのか?」

「はい、もう他のプレーヤーのメンタルデータを閲覧する事は出来ませんけど、出会う方々皆様が殺伐としている中にも微かなゆとりがある様に感じられました」

 

 そういえばユイは元々、SAOのメンタルカウンセリングプログラムだった。だけど、この世界に来る事でその役割から開放されたのだ。

 

「そういえばずっと聞き忘れてたけど・・・今のユイってどういう扱いなんだ?」

「今のわたしですか? そうですねぇ・・・簡単に言えばプレーヤー用のプライベートチャイルドシステムです」

「プライベートチャイルド?」

「はい。このSAOの世界で子供を作ることは出来ません。ですが、結婚したプレーヤー限定イベントというものがありまして、そのイベントクエストをクリアするとプライベートチャイルド・・・つまり現実で言う子供ですね。それが与えられる様になるんです」

 

 最も、そのプライベートチャイルドはプログラムなので、限定的な会話などしか出来ない。ユイほどの高度な知識や感情を持ったAIは搭載されていないらしいのだ。

 

「そっか・・・なら、ユイは本当の意味で俺とアスナの子供になったんだな」

「そうです、パパとママの娘ですよ」

 

 最初からその認識しか持って居なかったが、SAO内で正式に娘という扱いになったユイ、きっとこの先でも変な不審を持たれることも無いだろう。

 

「キリト君、ユイちゃん! ご飯出来たよー!」

「お、夕飯が出来たみたいだ」

「そうですね、お腹が減りました」

 

 まだ降りたくないのか、抱っこして欲しいと手を差し出してくるユイの頭を撫でて、抱き上げるとテラスから家の中に入る。

 リビングのテーブルにはアスナお手製の料理が並んでおり、いつの間に料理スキルを上げたのかと思わずアスナの方を向いてしまった。

 

「攻略とレベル上げの合間に、コツコツと」

 

 コンプリートこそしていないものの、今のアスナの料理スキル熟練度はそれなりに高いらしい。

 実を言うとキリトもアスナと同じく攻略やレベル上げの合間に釣りスキルを上げている。

 前回は中々大物がヒットしなかった悔しさもあり、今度はこの階層の釣りで大物釣って、アスナに料理してもらうのだと、結構高い熟練度まで上げていた。

 

「パパもママも、似たもの夫婦ですね」

 

 そんな両親に、ユイは何処か呆れた顔で呟いていたが、そんな二人だからこそ、アインクラッド最強夫婦と、後に呼ばれる事となるのだった。

 

 

 夕飯も終わり、キリトの後にアスナとユイが二人で入浴を済ませると、もうそろそろ寝る時間になっていた。

 寝巻きに着替えて寝室に行くと、ダブルベッドにユイを真ん中にしてその両サイドにキリトとアスナが横になる。

 ユイは両親に挟まれて、その温もりに包まれながら直ぐに寝息を立て始めたので、キリトも直ぐに目を閉じようとしたのだが、不意にアスナが声を掛けてきた。

 

「ねぇ、キリト君」

「・・・どうした?」

「あのね・・・なんだか幸せだなぁって、思って」

「ああ・・・・・・そうだな」

 

 ユイの寝顔を見て、その向こうに居るアスナの存在を感じて、改めてキリトはそう思う。

 大切な・・・愛する人と、愛娘と、三人で過ごす穏やかな時間、宿ではない、自分達の家で一緒に寝るという本当の親子としての時間が、こんなにも幸せなんだと、久しぶりに感じる事が出来る。

 

「ユイちゃんの寝顔、可愛い」

「・・・なぁアスナ」

「何?」

「ユイは、今は俺達のプライベートチャイルドって扱いになってるらしいんだ・・・なら、この世界のユイに相当する存在はどうなってるのかな?」

「あ・・・」

 

 そう、この世界に来るにあたって、ユイが二人のプライベートチャイルドという扱いになるのなら、この世界のユイに相当する存在もまた、居るはずだ。

 ユイという存在は二人も同じ時間軸に存在できない。ならばユイではない別の存在が、前の世界でユイが担っていた役割を担っているはず。

 

「もしかしたら、この先・・・ユイと同じ様にバグが生まれて」

「わたし達という絶望の中にある暖かい心に惹かれるってこと?」

「可能性の、話だけど」

 

 そうなったとき、キリトとアスナはどうするのか。

 もし、前のユイと同じ様に記憶を失って、彷徨ってしまったら、それをもしキリトとアスナが見つけたら・・・。

 

「保護するよ、絶対」

「アスナ・・・」

「だって、ユイちゃんじゃないとしても、この世界でユイちゃんと同じ事をしているなら・・・人の負の感情を見せられてばかりで・・・ならわたし達が、ユイちゃんの時と同じ様に暖かい心に触れさせてあげたい」

「うん・・・そうだよな」

 

 それに、とアスナが続けたのでその続きを諭すと、とんでもない一言が飛び出てきた。

 

「ユイちゃんが妹が欲しいって言ってたから、もしかしたらユイちゃんの姉妹になるかもしれないじゃない」

「・・・おいおい」

 

 もう一人子供が増えるかもしれない。それはとても大変な事かもしれないが、だけど同時にとても・・・温かな光景だった。

 

「まだ先の話だな」

「だね」

 

 静かに笑い合って、漸く二人も眠りについた。

 キリトもアスナも、眠りながら自然とユイを抱きしめ、眠っているユイも両親の温もりに口元が緩んで、アインクラッド一の幸せ家族の穏やかな一日を締めくくるのであった。




感想にこの世界のユイはどうなるみたいな内容があったので、少しだけそれに触れてみました。
もっとも、出てくるとしたらまだまだ先の話ですが。

次回は少し時間が進み原作では圏内殺人があった時期に入ります。

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