ソードアート・オンライン・リターン   作:剣の舞姫

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失敬、圏内事件って57層での話だったので、その前にエリュシデータ獲得の話をしておきたかった。


第七話 「ヒースクリフ」

ソードアート・オンライン・リターン

 

第七話

「ヒースクリフ」

 

 キリトとアスナが22層で思い出の家を購入してから随分と時間が経った。

 外の時間は今頃年末で誰もが年越しの準備をしているであろう頃、SAO内ではついにアインクラッドの半分、第50層フロアボスの攻略に差し掛かっている。

 この頃になると、キリトが団長を務める白黒(モノクロ)騎士団の団員数は後方支援組みも込めて50名を超え、最前線で戦う人数は丁度半分の25名になっていた。

 今ではギルド名も変更して黒閃騎士団という名前で活動しており、団長キリトは【黒の剣士】、副団長のアスナは【閃光】の異名で呼ばれている。

 

「さて諸君、これより第50層フロアボス攻略会議を始めたいと思う」

 

 ボス攻略会議に集まったギルドは黒閃騎士団の他にアインクラッドで現在唯一ユニークスキルを取得したヒースクリフ率いる血盟騎士団、クライン率いる風林火山、ディアベル率いるアインクラッド解放軍、それから聖竜連合だ。

 会議はヒースクリフが仕切っており、25層に続くクォーターポイントのフロアボス攻略会議ともあって緊張感が普段の攻略会議よりもある。

 

「今回、我が血盟騎士団とディアベル君の軍から派遣した情報部隊からの報告によると、ボスの名はティアマト・ザ・ロアードラゴン、HPはざっと見積もっても3000000オーバー・・・やはりクォーターポイントのボスというだけあってかなりの強敵だ」

 

 キリトも前回は苦戦させられた相手だ。だが、それだけ強敵という事もあり、ドロップアイテムはエリュシデータという最高の剣なので、納得も出来よう。

 

「先ずは戦法についてだが、防衛は聖竜連合に任せたい」

「構わん」

 

 聖竜連合のリーダーは無愛想にヒースクリフの提案を受け入れた。

 それに頷くと、次に陽動する部隊についてヒースクリフは数の多い軍と小回りの効く少数精鋭の風林火山を使命する。

 

「任せてくれ、宜しく頼むよクライン君」

「おう、任せなって!」

「うむ、そしてオフェンスは攻撃力の高い我々血盟騎士団とキリト君率いる黒閃騎士団で行う」

「ああ」

 

 ヒースクリフに対する殺意を押し殺し、キリトも文句は無いと頷いた。

 

「キリト様・・・」

「いや、心配しないでくれ」

 

 キリトの顔色が優れないのを見抜いてか、キリトの後ろにずっと控えていた女性・・・団長補佐官のイヴが心配そうに声を掛けてきた。

 彼女、イヴは40層辺りの時、丁度白黒(モノクロ)騎士団から黒閃騎士団へとギルド名が変わった時に加入したメンバーであり、その卓越した無音の剣技から【無音の剣閃】という異名を持つキリトと同じ盾を持たない片手剣のみの装備で戦う女性剣士だ。

 また、副団長であるアスナもこの場には居て、彼女にも副団長補佐官という立場の女性が付き従っている。

 アスナの補佐官の名はケティア、元ソロプレーヤーだったのをスカウトした女性で、アスナには劣るものの凄腕のレイピア使いであり、人見知りなのか人との会話が苦手で、【寡黙な剣士】と呼ばれている。

 

「では、攻略日時は明日、12月31日の正午だ。この戦いを終えて、無事に年越しを祝おうではないか」

 

 ヒースクリフの言葉に誰もがやる気に満ちていた。

 確かに未だSAOに囚われたままではあるが、年越しする事に変わりない。ならば無事に攻略を終えて、誰一人欠ける事無く年越しをするのだと、皆が張り切っている。

 

「ああそれと、キリト君」

「・・・何か?」

「この後、少し時間あるかな?」

「・・・・・・少しだけなら」

「二人っきりで話したい事があるんだが、良いかな?」

 

 ヒースクリフがキリトと二人っきりで話したい事、それが何なのか、凡そだが検討は付く。だが、ここはあえて気付かないふりをして誘いに乗る事にした。

 

「アスナ、イヴ、ケティア、悪い・・・先にホームに戻っていてくれ」

「うん・・・」

「お気をつけて、キリト様」

 

 イヴとケティアが去ったが、アスナだけは残り、心配そうにキリトを見つめる。だから、キリトは優しく微笑み、アスナの頬に手を添えた。

 

「大丈夫・・・少し、話をするだけだから」

「うん、わかった・・・先に待ってるからね」

 

 頬に添えられたキリトの手に己の手を重ねたアスナはそう言ってそっと離れると、集会場を去り、漸くこの場にはキリトとヒースクリフの二人だけになる。

 

「すまないね、忙しい時に呼び止めてしまって」

「お互い様さ・・・お互い、ギルドの団長なんだからな」

「うむ、団長という立場は色々と苦労が多い・・・・・・さて、話と言うのはギルドの事に関してだ」

 

 やはり、キリトの予想通りだ。

 

「君の黒閃騎士団は君や副団長のアスナ君を含めて随分と高レベルのプレーヤーが揃っているらしいね、特に君とアスナ君は私よりもレベルが高い」

 

 現在のヒースクリフのレベルは76、それに対してキリトのレベルは89、アスナは87、幹部でも70台後半、その他のメンバーは60台後半から70台前半と“前回”はこの時点で最強ギルドの称号は血盟騎士団の物だったが、今は黒閃騎士団が頂いている。

 

「それでだ、良ければ我が血盟騎士団と君の黒閃騎士団、数あるギルドの中でも最上位にある二つのギルド、これを一つにして我々全員で他の攻略組メンバーを率いてはみないかね?」

「つまり、血盟騎士団と黒閃騎士団のギルド統合をしないか・・・ということか?」

「早い話がそうなる」

「ならば答えは簡単だ・・・断る」

「ふむ、何故か・・・と、理由を聞いても?」

 

 断られると始めから思っていたであろう顔をして、随分と白々しい質問をしてくるものだ。

 本気で殴り倒したいという気持ちが湧いてくるが、それをグッと堪えながらキリトは目を細めてヒースクリフを見つめる。

 

「アンタが信用出来ない。実力は共に戦う上で信頼出来ても、アンタという個人はとてもじゃないけど信用出来ないんだよ」

「そうか・・・私なりに色々と君に信用してもらえるよう務めていたつもりなのだがね」

「あんたの態度、一々白々しいぜ・・・それが信用出来ない理由だ」

 

 話はそれだけとばかりにキリトはヒースクリフに背を向けて歩みだす。

 ヒースクリフも最早呼び止めるつもりは無いのか、黙ってそれを見送っていたのだが、途中で何かを思いついたのか唐突に口を開いた。

 

「一つだけ聞かせてもらいたい」

「・・・・・・」

「君は、何の為に戦う?」

「・・・決まっている」

 

 攻略の為、前回死なせてしまった人達を救う為、様々な理由があるが、やはり一番大きいのは、何よりもキリトの行動原理となるのは愛する女性と少女の笑顔だ。

 

「大切な人の、愛する人達の為に・・・一緒に現実へ帰るという約束を守る為に、俺は剣を振るう」

「そうか・・・いや、呼び止めて済まなかった」

 

 今度こそ、キリトはその場を去る。

 残されたヒースクリフはキリトの後姿が見えなくなるのを確認すると、愉快気に口元を歪め、“左手”でオプションメニューを開いた。

 

「なるほど・・・実に君は面白いよ、キリト君」

 

 開いたメニューを操作すると、画面に三人の写真が映し出された。キリト、アスナ、ユイの三人だ。

 

「噂に聞く黒閃騎士団の最強夫婦と、そのプライベートチャイルドか・・・・・・キリト君とアスナ君、二人を血盟騎士団に取り込めたらと思ったのだが、まぁ良かろう・・・逆にその方が面白みも増すというものだ」

 

 メニューを消して、ヒースクリフは一人思案顔で近くにあった椅子に腰掛けると、やがてもう一度左手でメニュー画面を開くと、今度は先ほどとは別の操作をしてとある項目を開いた。

 

「キリト君、アスナ君・・・君達なら、残る9つのユニークスキルを取得出来るかもしれないな」

 

 画面には10のユニークスキル名が書かれており、その中の一つである神聖剣は既に薄くなっている。これはヒースクリフが神聖剣を取得している為、取得者の現れたスキルの文字だけが薄くなっているのだ。

 

「残るユニークスキルは二刀流、神速、抜刀術、暗黒剣、無限槍、手裏剣術、射撃・・・・・・さて、キリト君とアスナ君はどのスキルを取得出来るか・・・楽しみが増えそうだ」

 

 特にキリトには二刀流を取得して欲しいと思うのはヒースクリフの個人的な希望だ。

 勿論、別のスキルを取得するかもしれないし、そもそも取得しないかもしれないのだが、彼個人としては是非ともキリトには二刀流を取得して欲しい。

 

「何せ、魔王を倒す勇者の役割は、二刀流にこそ与えられているのだからね・・・キリト君、君は他の誰よりも勇者の立場が相応しい」

 

 再びメニューを閉じたヒースクリフは転移門に向かって歩き出した。

 この先の展開を妄想しながら、キリトとアスナがどれだけ成長し、どれ程の力を持って100層まで辿り着くのか、楽しみにしながら。

 

 

 

 22層のキリトとアスナ、ユイが住むログハウスの近く、そこには少し大きな建物がある。否、少し所ではない、城とも言うべき大きさのこの建物は黒閃騎士団のギルドホームとして一ヶ月前に建設したばかりの新築だ。

 

「ただいま~」

「お、キリトか、今帰りか?」

「ああ、エギルか・・・まぁ、少し血盟騎士団の団長と話があってな」

「ふぅん・・・お、そうだ、クラインが来てるぜ」

 

 攻略会議の間はあまり話す機会が無かったので、こうして態々ホームまで来てくれたらしい。

 教えてくれた事に礼を言うと、エギルは自分の店に行くと言って出て行った。どうやら彼の副官に最近50層の主街区アルゲードにオープンしたばかりの店を任せっぱなしにしていたようだ。

 

「エギルの奴、絶対にミオナに怒られるだろうな」

 

 ミオナとはエギルが隊長を務める黒閃騎士団斧部隊副隊長の名前で、可愛い顔をしているのに口を開けばゾッとするような物騒な事を平気で口走る少女だ。

 

「おっと、クラインを待たせてるんだっけ」

 

 接客室に行くと、ソファーに座って珈琲を飲んでいたクラインが出迎えてくれた。

 何も変わらない野武士顔の兄貴分は、入ってきたキリトを見てニカッと笑うと立ち上がって近づいてきた。

 

「よぉキリト! さっきはあまり話せなくて悪かったな」

「いや、俺もあの後ヒースクリフに呼び出されてたからお互い様さ」

「あ~あいつな、なんか信用ならん奴だけど、なんの話をしてたんだ?」

「大した話じゃないよ、それより態々どうした?」

「いや何、最近はお互いのギルドの事で忙しくって中々話す機会も無かったからな、明日まで暇だから丁度良いと思ったんだ」

 

 準備で忙しいだろうに、こうして態々キリトの様子を見に来てくれる辺り、彼の優しさなのだろう。

 

「そんな事言って、ホントの狙いはウチのギルドの女の子目当てだろ」

「んなっ!? べ、べべ、別にそんなわけ・・・」

「動揺してる時点でバレバレだっての」

 

 確かにキリトのギルドには美人や可愛い女の子が多い。何故かキリトが勧誘する度にそんな子ばかり来てしまうので、毎回アスナの機嫌が悪くなる。

 

「なぁキリトよぉ・・・どうしたら可愛い女の子が入ってくれるんだ?」

「いや、知らないよ」

「馬鹿言うなっての! お前のギルド可愛い子多いじゃねぇか」

「いや、だから自然と・・・」

「ケッ、これだから女顔は」

「おい、今何つった?」

 

 結局、この後アスナに二人揃って怒られるまで取っ組み合いをしていたのだが、キリトもクラインも、こんなやり取りを楽しんでいるのだった。

 

 

 

 クラインが自分のギルドに戻り、夜になってキリトとアスナは自分達の家に帰宅した。

 待っていたユイも入れて三人で夕食を食べて、順番に入浴を済ませると、先にユイが眠ってしまったので、キリトとアスナの二人はテラスに出て月光に照らされた湖を眺めている。

 

「ヒースクリフ団長、何だって?」

「ギルド統合しないか、だってさ」

「やっぱり、予想通りだったんだ」

「大方、攻略組で最もレベルの高いギルドと、その団長、副団長を自分の配下に置いておきたいって思ったんだろうさ・・・・・・もしくは、俺とアスナに目を付けたか」

 

 後者なら好都合だ。目を付けられてもヒースクリフの・・・茅場晶彦の性格を考えるなら行動に不都合は生じない上、後々の展開で有利にことが運ぶ。

 

「多分、今後俺とアスナがどれだけ強くなるのか、ユニークスキル取得をするのか、楽しみは後で取っておくとでも考えて監視はしない筈だ」

「だね、それなら私たちの行動に何の支障も無いかな」

 

 そう、キリトがユニークスキルを取得するための修練と、切り札となるシステム外スキル構築に、余計な監視が付かないというのはありがたい限りだ。

 

「そろそろ寝よう? 明日は強敵との戦いだから」

「ああ、そうだな」

 

 明日の敵、それを倒せばエリュシデータが手に入る。

 未だにエンシュミオンが扱える要求値まで達していないが、エリュシデータなら前回よりも早い段階で装備可能になるようにはした。

 二刀流取得後、エリュシデータと共に使うもう一本の片手剣については、現在考え中なので、一先ずエリュシデータ獲得を目指したい。

 

「リズは?」

「リズならもう少しでマスタースミスだって、わたしもリズがマスタースミスになったらランベントライトを製作してもらう約束なんだ」

 

 リズベット、前回同様、アスナはこの世界でも彼女と友好を結び、現在はリズも黒閃騎士団に入団し、後方支援部隊として活躍し、同時に48層でリズベット武具店を経営している。

 

「ダークリパルサーは後々考えるさ・・・じゃ、寝よう」

「だね」

 

 中に入ってベッドで眠るユイの両サイドに横たわった二人はそのまま就寝する。翌日、25層以来の強敵との決戦を迎える前の、最後の心休まる時間であった。




次回は50層フロアボスとの戦いという事で、今回同様オリジナルになります。

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