SAO小説なのに戦闘シーンを滅多に書かない私、これでいいのか!?←良いわけがない
ソードアート・オンライン・リターン
第八話
「黒の片手剣」
2023年12月31日、第50層迷宮区最奥にあるボスの部屋の前、そこにはボス攻略の為に集まった多くの攻略組メンバーが終結していた。
ヒースクリフ率いる血盟騎士団から26名、キリト率いる黒閃騎士団から25名、クライン率いる風林火山から6名、ディアベル率いるアインクラッド解放軍から35名、聖竜連合から20名の大軍団だ。
「諸君、よく集まってくれた。この扉の向こうがボスの間だ・・・全員、覚悟は良いかな?」
攻略メンバーの先陣に立ち、扉の前で振り返ったヒースクリフは集まった全ての者の顔を見渡し、誰もが覚悟をその瞳に秘めている事を確認すると、一つ頷いて扉と向かい合い、そっと扉に手を添えて押した。
ゆっくりと開かれていく扉、完全に開いた向こうのボスの部屋は真っ暗だったが、全員が中に入ると一気に明かりが灯り、部屋全体が明るくなる。
だが、何処にもボスの姿が無い。だけど感じる、確かな威圧感、フィールドなどに居るモンスターとは明らかに違う重圧すら感じられる殺気、その出所は・・・・・・。
「上だ!!」
キリトの索敵スキルに引っ掛かった場所、それは上だった。
部屋の真上、そこにある巨木らしき止まり木の上に、ソレは居た。
「あれがボス・・・」
誰かが呆然と呟いた。
呆然としてしまうのも無理は無い。何故ならボスはティアマト・ザ・ロアードラゴンという名の通り、ドラゴンなのだから。
ドラゴン特有の巨体と、大きな翼、尻尾、鋭利な牙は噛み砕かれれば一撃で死を迎える恐れすらあるその姿は、誰が見ても圧倒的だった。
「来るぞ! 諸君、戦闘準備だ!」
ヒースクリフの合図で呆然としていた誰もがそれぞれの役割のためのポジションに動いた。
同時に、ロアードラゴンも翼を羽ばたかせて急降下、攻略組の前に降り立って大きく咆哮する。
「エギルたち斧部隊はベルたち大剣部隊と連携! クルミちゃんの槍部隊はリッシュモンの重ランス部隊と! モスキートとイヴのディフェンス部隊はケティアのレイピア部隊とだ! 全員直ぐに近くの奴とスイッチ出来るように散開! アスナ!!」
「うん!」
キリトも素早く配下達に指示を出してアスナを呼ぶ。
キリトに呼ばれ、すぐさま傍に来たアスナと共に駆け出し、ロアードラゴンに斬りかかった。
「キリト君スイッチ!」
「任せろ!」
ロアードラゴンの爪をアスナがレイピアで弾くとキリトが片手剣で胴体まで潜り込み、その無防備な腹部を斬り付ける。
だが、ロアードラゴンの強固な鱗が斬撃を無効化して、その身体に傷一つ付かないどころか、HPすら減らない。
何度も連撃を繰り返すが、その全てが無効化され、アスナのレイピアでは逆に武器の方が壊れるのではというほどに硬かった。
「っ!(不味い! こいつも前回より強い!!)」
第一層のイルファング・ザ・コボルト・ロードや、第25層のファフニールもそうだったが、もしかするとこの世界、クォーターポイントのボスは前回よりも強くなっている可能性が非常に高い。
すると、キリトはドラゴンの口の中に濃密なエネルギーが集約されるのを確認して思考中断、大声で叫んだ。
「全員回避しろ!! ブレスが来るぞ!!!」
「っ! 全員回避体制!!」
キリトの叫びでヒースクリフもボスの口を確認したのか、一瞬の判断で全員に回避体勢の指示を出す。
ヒースクリフの素早い指示により、ロアードラゴンのブレスが吐き出される数瞬前に全員がブレスの範囲から逃れる事が出来た。
だが、硬い鱗を何とかするのに攻撃や思考に集中していればブレスを回避するのは難しい。これは早急に鱗を何とかしなければダメージは与えられないし、余計な被害が出てしまう。
長期戦は厳しい相手であるのは間違い無い以上、弱点を素早く見つけなければならない。
「エギル! ベル! お前達なら如何だ!?」
「駄目だ! 斧でも傷一つ付かねぇ!」
「この鱗、硬すぎッスよ! 何か他に攻撃手段があるんじゃないッスか!?」
斧と大剣という攻撃力という点では突き抜けた武器ですら鱗に傷を付ける事もダメージを与える事も出来なかった。
となると、本当にこれはまともな方法ではダメージが与えられない。
「ならっ! アスナ! ヒースクリフ! 援護を!」
「任せて!!」
「任された!!」
キリトに考えがあるのだと判断し、アスナとヒースクリフは走り出したキリトに向かって振り下ろされる爪を弾き、盾で受け止める。
それを確認したキリトはヒースクリフの盾により爪が受け止められているロアードラゴンの右腕に飛び乗り、一気にその身体まで駆け上がって、頭まで登ると、その眼球に剣を突き刺した。
『Gyigaaaaaaaaa!!!』
「っ! (あれは・・・・・・!)」
イルファング・ザ・コボルト・ロードとの戦いにも使った手だが、このボスにも有効だったらしい。明らかなダメージが与えられ、ロアードラゴンのHPバーが少しだが減った。
だが、同じ手段を何度も何度も使うなど難しいだろうし、これでは攻撃出来る人間が限られてしまう。
効率という点ではあまりに悪い手段でしかないので、早急に他の手段を見つける必要があるのだが、それはキリトがロアードラゴンの身体を駆け上がっている途中で見つけた。
「ヒースクリフ!」
「如何した?」
「血盟騎士団メンバーで、もう一度ロアードラゴンの動きを止められるか?」
「・・・可能だ」
「なら頼む!」
ヒースクリフは無言で飛び降りてきたキリトの瞳をジッと見る。その奥には何かを確信した光が宿っており、それを見て面白いとばかりに口元を歪めると、周囲に居た血盟騎士団メンバーに指示を出した。
「アスナも、他の皆に指示を頼む」
「何か、見つけたんだね?」
「ああ、あいつがドラゴンだっていうなら、確実な弱点をな」
「わかった、信じるよ、キリト君の事」
アスナも他の黒閃騎士団メンバーに指示を出したのを確認して、キリトはもう一度剣を構える。
そして、血盟騎士団と黒閃騎士団、その他のギルドのメンバーも、全員がキリトの為にロアードラゴンに攻撃を開始して、キリトへ注意が行かない様に、その場から動けない様にした。
そして、ヒースクリフが再度爪を盾で受け止めると、その攻撃の重さに耐えながら後ろに立つキリトの方へ振り返る。
「今だ! キリト君!」
「っ! おぉおおおおあああああああ!!!」
ヒースクリフが受け止めた右腕へ飛び乗ったキリトは再びその身体を駆け上がった。
今度は頭まで行かず、その途中・・・胴体部分の一箇所だけに存在するソレを見つけると、ソードスキルを発動させて剣をライトエフェクトによって輝かせる。
「せぇあああ!!」
ソードスキル、ホリゾンタル・スクェアによる水平四連撃がロアードラゴンの胴体にあるソレ・・・逆鱗に直撃し、大ダメージを与えた。
ロアードラゴンのHPバーが一気に減り、4本の内1本が消えて、残り3本になったこの状況、明らかな前進を見せている。
「っ! ドラゴンの身体に罅が!?」
正確にはロアードラゴンの身体を覆う鱗に罅が入ったのだが、これは鱗の防御力が失われた事を意味する。
事実、鱗に罅が入って移行は通常攻撃によるダメージが入る様になり、全メンバーによる総攻撃が始まった。
キリトもロアードラゴンの身体から飛び降りると、再びアスナと組んで何度も斬りかかる。
「スイッチ!」
「うん!」
尻尾を叩きつけてきたが、それをキリトが受け止めると、アスナのレイピアがソードスキルによるライトエフェクトにより輝き、同時にアスナの姿がその場から消えた。
すると、アスナの姿はいつの間にかロアードラゴンの腹部の前にあり、ライトエフェクトにより輝くレイピアによる攻撃が繰り出される。
中段突きを3回、切り払いの往復、斜め切り上げ、上段突き2回の合計8回による高速連撃スター・スプラッシュが決まり、ロアードラゴンのHPが大きく削られた。
「キリト君!」
「ああ! トドメだ!!」
いつの間に尻尾を振り払ったのか、アスナの隣に移動したキリトが右手に持つ片手剣をライトエフェクトによって輝かせた。
「でぇああああああああああ!!!」
片手剣により繰り出される超高速の10連撃、ノヴァ・アセンションがロアードラゴンの胴体のいたる所を切り裂き、HPバーがレッドゾーンに突入する。
スキル発動後の硬直はアスナが守り、他のメンバーが攻撃を繰り返してロアードラゴンのHPが残り僅かとなった瞬間、キリトの硬直が解けた。
「はぁああ!!」
キリトからジェットエンジンのような爆音が発せられ、赤い光芒と共に強烈な突きが放たれた。
キリトの最後の一撃がロアードラゴンの胴体に深く突き刺さり、そのHPが0になった瞬間、ティアマト・ザ・ロアードラゴンの身体がポリゴンの粒子となって消える。
「やった・・・」
それは誰が呟いた言葉なのか。だが、その呟きが静まり返る中に大きく響くと同時にボスの間全体に歓声が湧き起こった。
キリトも息を整えながら背中の鞘に剣を戻すとラストアタックボーナスによりドロップしたアイテムを確認する。
「片手剣、エリュシデータ・・・よし!」
キリトのアイテムストレージにエリュシデータの文字が加わった。
そして、丁度この戦いによってキリトのレベルは90へ上がり、エリュシデータの要求値も満たす事に成功したので、早速だが今装備している剣をストレージに戻すと、装備欄にエリュシデータを起用する。
今まで使っていた剣が消え、代わりにキリトにとっては懐かしい相棒、黒の片手剣エリュシデータが現れたのを確認すると、笑顔を浮かべているアスナの方へ振り返った。
「おめでとう、キリト君」
「ああ、ありがとう・・・流石に疲れたよ」
「だね、わたしもヘトヘト~」
戦いが終わって早速イチャイチャする最強バカップル夫婦に、黒閃騎士団のメンバーは手馴れた様にアイテムストレージからブラック珈琲をオブジェクト化して飲み始めた。
だが、慣れていない他のギルドメンバーは、同じ様にブラック珈琲を用意していたディアベルやヒースクリフ、クライン、キバオウ以外全員がブラック珈琲を羨ましそうに見つめながらゲンナリしている。
「キリトよぉ・・・」
「な、何だよクライン・・・」
「ちったぁ自重しやがれチクショウ!!」
漢クライン、魂の叫びだった。それに同意する様にこの場に居る誰もが頷いている。(ディアベルやヒースクリフまでもが)
「いや、自重って・・・これでも自重してるんだけど」
「やだキリト君、こんな所で何言うの?」
「あ、ご、ごめん・・・」
爆発しろこのバカップル、この時この言葉を心内で全員が、ほぼ同時に呟くのであった。
次回は圏内殺人まで行きたいですが、ここらでほのぼのな話を書こうと思います。
次回、『ユイの一日』をお楽しみに!