とある仮定の破綻論理   作:無法松

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超お久しぶりです
いえーい皆覚えてるー?


=-2 あなただけ

それは、戦闘ではなかった。当てはまる言葉は、屠殺。ブロウラーの首を落とすかのごとく、当たり前な殺戮。

 

「や、やめて、たすけてくれ…」

「黙って死ね」

 

男が手に持つのは人間だ。それも彼の友人。顔面を片手で鷲掴みにされている。頭を床に向けて放り投げると、不可思議にもそのまま押し潰されるかのごとく床に張り付く。そして、ミシミシと音を立てて地面に押し付けられていく。男は既に手を離しているのに、だ。

 

(何だよこれ!どうなってる!?)

 

彼はそのグループの一員ではないが、友人がその中にいた。今日は近くを通りがかったので、様子を見に来ただけだ。しかし、彼の友人はもう喋ることすらできないだろう。ご自慢の太い腕は不可思議な形に折れ曲がり、地面に押しつけられ続けた顔はもはや彼の知っている人物ではなかった。

厚手のコートを着た男が、哄笑を上げながら殺戮の限りを尽くす現場に居合わせてしまった彼は、改めて能力者と無能力者の格の違いを見た。男はフードを被り、更にコートを口許まであげているので表情は見えない。だが、見ずとも分かった。

楽しんでいる。人を殺すことを、体を痛め付けることを、心を踏みにじることを。言葉にならずともわかる、表情に出ずともわかる。そんな明らかな異常性がこの場には溢れていた。

 

(とにかく、ここを離れねぇと…)

「よう、兄ちゃん、どこ行くんだい?」

 

身を翻そうとした瞬間、肩を掴まれ壁に叩き付けられる。

 

「ッグゥ!」

「えーと、あれ、無いな…違うグループか?こういう場合のことは聞いてなかったな。おっと悪い、いま離す。」

「…ッハ、ハァ、ハァ」

 

男は手にした携帯の画面と彼の顔を見比べるようにすると、慌てたように手を離す。咳き込んでいる彼に対し、男は言った。

 

「兄ちゃん、悪いけどここで見たことは忘れてくれ。」

「ハァ、ハァ、一体なんッ!?」

 

今度は頭を掴まれ、目の前に手を突き出される。手には小さな鉄球が握られている。頭を捕まれたことで、自然と相手の顔を覗き込む形になっていた。男の目は血走り、口角はフードの端から覗くほどに吊り上がっている。

 

「俺の能力は、絶対等速。簡単に言えば、俺が投げた物や指定した物の速度を一定にすることができる。つまり、俺がこのままお前の頭を固定してこいつを投げれば…」

 

そこまで説明されれば流石の彼にも分かった。相手は確実にヤバイ奴だ。人をこうも簡単に殺してしまうこの男を、彼は同じ人間だとは思えなかった。

 

「わ、わかったッ!ここで見たことは誰にも喋らねぇ!だから、見逃してくれ!」

「約束できるか?」

「あ、ああ!約束する!だから、」

「じゃあこれは、約束の証だ。」

 

そういって男は、

 

手にした鉄球を、腹に向かって放った。

 

「グッアッアアアアア!アア、俺の、がぁ、」

「いつもその傷を思い出せ。喋るとどうなるか、そいつが教えてくれる。」

 

鉄球は脇腹を貫通し、コンクリートにまでめり込んだ。肉を掻き分けられるような不快な感覚と、焼き付くような痛みが彼を襲う。

男は頭から手を離し、辺りを確認するように見回すと、そのままどこかへ去っていった。彼には行方を探るような余裕はなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よく頑張ったねえぇ。えらいえらいぃ。」

 

粘つくような嫌な声色。電話の男だ。夜の裏路地は、季節に似合わぬ寒風が吹きすさびコートの端を揺らす。

 

「これで、妹には手を出さないんだよな?」

「そうだよおぉ。君がこれからも言うことを聞いてくれればぁ、妹ちゃんも幸せに暮らせるよおぉ。ところでえぇ、」

「なんだ?」

 

電話の相手は、ニヤついているのが加工していても分かるような声色で言った。

 

「楽しかったでしょおぉぉぉぉ?コロシはあぁぁぁぁぁ?」

「………」

 

答えられない、答えてはいけない。これを認めてしまえば、どうにかなってしまう。

 

「僕の見込んだ通りだよぉぉぉぉ!あんなに楽しそうに殺す奴は久しぶりだぁぁぁ、もう最高だよぉぉぉぉ……」

 

息遣いだろう雑音に鳥肌が立つ。早くこんな奴との繋がりを切らなければ俺も、妹もどうなるか分かったものじゃない。はやく妹と連絡を取らなくては。

 

「次の指令はぁ…三ヶ月後だねえぇ。それまでしっかりぃ、愛しの妹ちゃんとよろしくやってなぁ。」

「くたばれクソッタレ。」

「ひどい言いぐさだなあぁ…あっそうそうぅ、ひとつ忠告しておくけどぉ、あの医者を頼っても逃げられないと思うよぉ?悪いこと言わないからぁ、大人しく命令聞いといた方がいいよぉ?じゃないとぉ、本当に妹さん、大変なことになっちゃうよぉ。」

「ッ!?…クソ、クソが!」

 

俺の考えていたことが読まれていたのか。先手を打って釘を刺されてしまった。逃げ場は、ないのか。どうすればこいつらの魔の手から逃れられるのかと必死で考えるが、口から出てきたのはありきたりな罵倒だけだった。

そう言われると、相手は酷く心外だと言う風に大袈裟に嘆く。

 

「悲しいなあぁ、そんな風に言われるなんてぇ…特に君に言われるとさあぁ。」

「どういう意味だ?」

「だって君もぉ、僕と変わらない人殺しんだからさあぁ。」

「………」

「それもただの人殺しじゃあないぃ、楽しんで人を傷つけられるんだよ君はぁ。」

「…そんな、楽しんで、なんて「楽しんでいたろうぅ!だって君さぁ、最後のイレギュラーな彼の事ぉ、ワザワザ腹に鉄球ブチこんで脅してたよねえぇ?そんなことする必要あったのぉ?積極的に傷つけたくないならぁ、言葉だけで十分のはずだよねえぇ?」

 

そうだ。適当に脅すだけで十分だった。完璧に情報を漏らさないようにしなければいけないとか、なんだかんだ理由をつけて、仕方ない事だと思い込んだ。しかし本当は違う。やりたかったからやったのだ。目の前のこれ以上無いほどに怯えた男をいたぶりたい。その目に見えた恐怖を更に深めてやりたい。欲を言えば殺したい。そう思った。

そして、そんなことを思った自分に恐怖した。当たり前のように人を傷付けることを許容している自身の脳を疑った。今はあの場での、ヒリつくような衝動は収まっている。だがまた同じような場面に出くわしたとき、自分を押さえられるかが、自分でも分からない。

 

「あれあれぇ?図星すぎて何も喋れないのかなあぁ?」

「…違う、違う、違う違う違う違う違う!」

 

衝動的に通話を切る。ブツリという音と共に耳障りな声は聞こえなくなり、後に残るのは路地裏の静けさだけ。

ふらりと歩きだす。今の彼を支えているのは、妹を守るという目的のみ。壊れてしまいそうな心を繋ぎ止めるための応急処置。簡単に外れてしまう糸で心を縫い合わせ、必死に自己を肯定する。守るため、仕方なかった。脅されていた。死んで当然だった。彼等が居なくなっても誰も気にはしない。だから、アイツらの良いなりになるのはしょうがない。逃げることすら許されないのだ。だから、しょうがないじゃないか。そう思い込まなければ、俺は……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

美しい。誰もがそういっただろう……万全の状態ならば、の話だが。

癖っ毛でふわふわと曲がる自慢の髪の毛は眠気を飛ばそうと頭を掻き毟ったせいでグシャグシャ、彼女の強気な性格を表すような吊り目は夜更かしのせいで少々下がりぎみ、珠のようなと友人から称される肌だけは、連日連夜の暴挙に堪え忍びその輝きを保っている。

親愛なる我が兄から連絡が途絶えて早3日。いつも夜には必ず電話をくれていたのに、ここ最近は何の連絡もない。もっとも、「マズいことになった、しばらく連絡できそうにない」というのは聞いていたので、きっとトラブルかなにかがあったのだろうと予測は立てている。そもそもお金にだらしなく借金をしている兄の事だ、おそらく期日に利息を払えなかったとかそんなところだろう。しかしそれでも、今日はくるんじゃないか、明日こそは、といった感じで毎晩深夜まで起きていた結果、見るも無惨なビフォーアフター。同級生に「失恋した?」と聞かれたのはショックだった。それほどまでに酷い顔をしているか。まあ愛しの我が兄から連絡が来ないのはある意味では失恋と言えなくもないかと考えつつ、今日も今日とて夜更かしをしているわけだが。

 

「さっすがにもう今日は来ないかな~」

 

時刻は1時半を回っている。さすがに今から電話を掛けるほど我が兄は非常識ではないだろう。とりあえず今夜は諦め、次の機会に向けて英気を養うべしと布団に潜り込もうとしたとき、携帯が鳴る。表示されているのはいつもの番号。

なるほど我が兄は非常識であったか、と残念に思いつつ深呼吸をひとつ。兄と話す前には必ず心の準備が必要だ。落ち着いてクールに対応するのだ。

 

「は、ははははははいっ!那木原でふけどぅっ!?」

「……檍、俺だ。」

 

開幕10秒で舌を噛んだ。考えうる限り最悪の出だしと言っていい。しかしそんな檍の失敗に対しての反応がない。いつもならキレッキレのツッコミがコンマ1秒で飛んでくるはずなのに、調子でも悪いのだろうか?

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん?なんか元気無さげだけど。」

「檍……すまん。俺は、またお前を危険にさらしてしまった。」

「え?ど、どういうこと?借金のことで何かあったの?」

「すまない…すまない…」

 

電話からは啜り泣くような声が聞こえてくる。あの兄が、泣いている?

那木原檍にとっての兄は、さながら父のようなものだった。何時も側に居て、困ったことがあれば守ってくれた。仮名も、意識してそう振る舞っていた。だから、そんな兄の弱気な声というものを、彼女は聞いたことがなかった。

不安が足元から這い上ってくる。思い出されるのは、学園都市に来るまえの記憶。

悪魔の子、生まれ落ちてからずっとそう呼ばれ続けてきた。疎まれ、蔑まれ、物心つく頃にはもはや、その現状にある意味での安堵すら覚えていた。疎まれている間は、存在を認識してもらえている。蔑まれている間は、言葉をかけてもらえている。そんな歪んだ幸せの感じ方をするほどに壊れていた彼女の心を救ってくれたのが、兄だった。

悪魔?冗談じゃない、お前は天使だ。心の汚れた奴等には分からないんだ。そう言ってくれた兄は、彼女の希望そのものなのだ。

 

「なんで?何で謝るの?お、お兄ちゃん、お兄ちゃん?」

「お前は、お前だけは俺が必ず守る。お前は、俺の天使だ。どんなことをしても、守ってやる。たとえ、この手が血に染まっても、俺はお前を守るよ。約束だ。じゃあな、しばらく連絡とれなくなると思うけど、安心してくれ。俺はいつでもお前の側にいる。」

「お兄ちゃん!待って、おに―」

 

ブツリと声が途切れる。電話を切られたのだ。すぐに掛けなおすが、電源が入っていないか、電波の届かないところに…というお決まりの文言が流れるだけだ。

 

「お兄ちゃん、怖いよ…私を一人にしないでよ…」

 

呟きは、一人きりの部屋に虚ろに響いた。

 




すいません調子乗りましたこれからはもう少し投稿ペースあげます
今回で取り敢えず過去編は一区切りです。ここから現代に戻ります

追記:絶対等速ですが、自己解釈と強化によりかなり能力が変化しております。箇条書きしますと、
・手を触れずとも能力を適用できる。射程距離は半径15mほど。仮名を中心に円形に広がっている。しかし仮名が目視している必要がある。
・他の物体の速度を適用できる。これにより飛んでくる物体の速度をゼロにしたり空を飛んだりetc…できる。
・一度に効果を適用できる物体は1つ。
・自分の体にも効果を適用できる。

といった感じです。
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