とある仮定の破綻論理 作:無法松
「やあやあ諸君、皆のアイドル仮名が出勤してきたぜ!」
「あーーーーー!昨日はよくもやってくれましたわね!今日こそ溜まった書類に始末書に届けに、何もかも全て片付けてもらいますの!」
「こんにちは~」
「固法さんは?」
「巡回でーす」
がなり立てる白井と格別興味の無さそうな初春を尻目に自分の机につくと、黙々と書類を書き始める。
「……今日はやけに素直ですのね。まあ、やる気が出たのなら大歓迎ですけど。」
「はは、流石の俺も月一くらいなら仕事するさ。」
「普通は毎日するものです!」
そのままくどくどとお小言タイムに入った白井を無視しつつ、書類を書き上げる。
始末書、報告書etc…事務書類を片付けていく。大半が器物損壊と、容疑者へ過剰なダメージを与えすぎているという警告だ。
能力の都合上、どうしても壁や地面を巻き込むことが多く、殺傷能力が高すぎるせいで調整が難しい。防御面以外ではかなり強力な力ではあるが、それゆえの苦悩も多いのだ。
「…つまりその一人を捕らえるためにしたことによる二次的な被害をですねって聞いてますの!?」
「あー、うんうんうん、聞いてる聞いてる。」
「ムキーーーッ!許せませんの!」
「まあまあ白井さんも落ち着いて、シュークリームでもどうです?昨日買った残りがあるんですけど、悪くならない内に食べちゃいましょう!イライラしているときは甘いものが一番ですよ!」
そう言いつつ初春は部屋についている冷蔵庫を開き……その中の惨状をみてそっと閉じた。
「そういえば、昨日原因不明の雷で電化製品がヤられてたんでした…うぅぅ、私のシュークリームぅ…」
「雷…そういえば昨日もおねーさまは遅くまでお出掛けを…しかもまた全力出したのに負けたとかなんとか……ま、まさか!」
「あんだぁ白井?心当りあんのか?あるなら教えてくれよ、俺も部屋のエアコンが死んじまったんでな…」
「い、いいえッ!なんにも全くこれっぽっちも心当りなんてありませんことよ!?」
「あ、そう。」
何故かやたらと動揺している白井だが、理由は透けて見える。白井が慕っているlevel5の御坂美琴(白井から名前から容姿から小さな癖に至るまで全て耳にタコができるまで聞かされた)は、昨日の夜にとある少年(自分のことを上条さんと言っていた)とエレクトリカルなコミュニケーションを取っていた。その余波で一部地域の電化製品が吹っ飛んだのだろう。あの少年はなんだか不幸そうな面をしていたし、部屋のほとんどの電化製品がやられてもおかしくなさそうだ。
(いや、流石にそれはないか?)
あの少年は非常に興味深い能力を持っていたので気になっているのだが、それ以上に尋常でなく不幸そうだった。今頃も新たな面倒に巻き込まれているのではないだろうか。
そんなとりとめもない想像をしつつ、もくもくと仕事をこなす。今日は電話がかかってこないことを祈りながら。
――――――――――――――――――
「仕事だよぉ。」
「ですよね。」
ガックリと肩を落とし、電話すらも取り落としそうになる。夜になっても電話の来る気配がなかったので今日はフリーかと喜んで自室で惰眠をむさぼっていたが、その眠気も吹き飛んでしまった。
「今日の仕事はぁ、学園都市に侵入してきた人物たちの支援だよぉ。」
「支援?排除じゃなくてか?」
学園都市への侵入者の排除ならば何度か請け負ったことがある。大抵が能力もなく装備も貧弱な外の連中なので個人的には楽で助かる仕事なのだが、今回は支援ときた。侵入者に支援と言う異常な状況に不信感を覚える。
「正式な手続きの上で統括理事会が行動を許したんだよねぇ、だから手出しはご法度さぁ。」
「理事会が、ね。了解了解、それで俺は何をすればいい?」
「今から送る座標にトラックがあるぅ。そいつを運転して物資を支援先に届けてほしいのさぁ。」
「おいおい、雑用じゃねぇか。そんなもん下部組織の一山いくらの奴等にやらせとけよ。」
「こちらとしてもそうしたいところだけどねぇ…上からのお達しでぇ、ある程度深い人間以外は今回の件、知ることすらして欲しくないみたいだねぇ。」
「だからって車の運転なんざ…」
「結局ぅ、闇の人間かつそれなりの深いところまで行けるのは殆どが強力な能力者だけなんだよねぇ。そして強力な能力者は大抵未成年なんだよぉ。車を運転してても見咎められない程度の年齢で今手空きなのが君くらいなんだよねぇ。」
大きなため息が出る。楽な仕事なのはいいが、今さらおつかい紛いの小さな仕事をこなすのが面倒だと言う気持ちが強い。気持ちを切り替え、コキリと首の骨を鳴らす。今はとにかく、一つでも仕事をこなすこと。そうすれば、あの女に会うことが出来る。
「分かった、そんじゃあ座標を送っておいてくれ。」
「指定時間は午前3時だぁ。気を付けてねえぇ、統括理事会の御墨付きとはいえぇ、相手はあくまで外の人間だぁ。油断して学園都市の情報が漏れるようなことがあったらぁ、君は終わりだよぉ。」
「はいはい、じゃ切るぞ。」
プツッと電話を切り、テーブルの上に乱雑に放る。元々自分のものではないので全く心が痛まない。どころかヤツラへの当て付けがましく力を入れた節さえあった。
電話が鳴り、座標データが送られたことを知らせる。
せめて時間まではゆったりしよう。それくらいは当然の権利だ。
――――――――――――――――――
「アイムシンカートゥートゥートゥーっと」
鼻唄混じりにトラックを操り、駐車場に止める。
約束の時間5分前にしっかりと到着した仮名は、念のため荷物を確認する。
トラックの荷台にはラミネート加工が施されたカードが山と積んであり、精緻な模様が刻み込まれている。
「しっかし、オカルトじみた物だなあオイ。侵入者がどんなのか知らねえが、宗教でも始めるつもりか?」
ハッキリと分かるのはこんなものを受けとる奴等はマトモな奴ではないと言うことだけだ。できる限り関わらないよう荷物を渡してすぐ帰ろう。
「そもそも、あの統括理事会が承認したって時点でうさんくせえ。ヤベェ臭いがプンプンする。」
「統括理事会がどうかしたのですか?」
「!!?!いや!決して俺は陰口を叩いていたとかそういうのじゃなくてだな!?」
慌てて振り向くとそこには奇妙な格好をした女が立っていた。
まず目をひくのはやたらと長い刀だ。実用性皆無といった風に見える。
そして服装、腹あたりで縛ったシャツに大胆なダメージジーンズはまあ、ちょっとどころではないセクシー系だと言い張れないこともない感じだがやはり刀とのミスマッチ感は拭えない。
こちらの視線に気づいたのか話しかけてくる。
「そう警戒せずとも大丈夫です。今の話は聞かなかったことにしておきますから。」
「助かるぜ、えーと、あんたが?」
「ええ、神裂です。本当はもう一人のステイルという男が頼んだものですが、ある少年にこっぴどくやられたそうで出てこれる状態ではないんです。というか、これを頼んだのはその少年にやられたからなんですけどね。」
「そうか、まあ取り合えず積み荷を改めてくれ。後から品違いだと言われても困るからな。」
「ええ、そうします。」
荷台に上がり、積み荷を丁寧に改める神裂。
ところで仮名は荷台の前に立ち、周囲を一応警戒しているわけだが、視線をずらすと神裂の後ろ姿が見えるわけである。
すると荷台の上にいるせいもあって自然と視線は後ろの下半身の一部にぶつかるわけであり、仮にも侵入者である神埼の様子も見なければいけないのは不可抗力としてしかたないわけであり、つまりなんというか……
「やっぱり女は尻、だよな」
なぜか頭の中で「その通りよな」とクワガタっぽい何かが囁いた気がした。そしてそのあと誰かにぶん殴られていた。
「……なぜかとてつもない悪寒を感じます。」
それはさておき荷物を確かめ終わった神裂は荷台から降り手を払う。少々埃が付いたらしい。
「さて、それじゃあ俺はこの辺でお暇させてもらうぜ。」
「ええ、ありがとうごさいました。」
「ああ………そういえば、そのステイルってのがやられた少年は、どんなやつなんだ?」
「なんでも、魔女狩りの王、ええと、
あなた方でいう超能力ですね、それを打ち消す不思議な右手を持っているとか。たしか名前は」
「上条当麻、だそうです。」