―――それはともかく、新約とある欲しいなぁと思ってやまない今日この頃。明日はブックオフ行きですかね、天候次第ですが。
兄ちゃんのうちはよく友人達の溜り場になることがある。
主に来る面子は青髪さんや土御門さん、女子だと吹寄さんや姫神さんらとある高校の同級生の人達で、前者は泊まり込みで人生ゲームや桃鉄などの耐久ゲームを休日に徹夜でやっていたりして、後者の場合は様々な理由により勉強の遅れ具合が酷い兄ちゃんの勉強を見る形で。
こと交友関係が世界中に広がっている兄ちゃんだからこそ人が集まるとも言えるし、僕もそこに混ぜてもらって一緒にゲームをしたり勉強で分からないところを聞けたりするのでそのことに文句などある筈が無い。
むしろ兄ちゃんが友達と仲良くしていることは喜ばしいことだし、まぁ構ってもらえなくなると少しは寂しく思うこともあるかもしれないけど、それでも兄ちゃんの交友関係は尊重すべきだ。
…………とはいえ、その日の来客はちょっと、というかかーなーり………その、個性的だった。
「へぇー、おたくも上条ちゃんと戦った口なのか?」
「……あァ、だから何だってンだ」
「いやぁそん時の勝敗が気になるなーって。ちなみに俺は一勝一敗だぜ!」
「何……? テメェ、三下に勝った事あンのか?」
「ふふん、その反応を見るにお前は上条ちゃんに負けっぱなしなんだろ~? まぁ仕方ねぇよな、上条ちゃんは俺でも『
「……ケッ」
その日、どういう訳か普段であれば絶対に兄ちゃんの学生寮に来ることの無いような人達が揃ってやってきた。
兄ちゃんは現在、目録ちゃんと一緒にスーパーの特売である『お一人様一パック限定鳥むね肉300g二百円』を求めて出かけていて、夕飯を一緒に食べようと炊事場を借りて鶏肉を焼く時用の漬けダレと、持ってきていた野菜で簡単にポトフを作っていたところにピンポンとインターフォン。
『(? 土御門さんならベルは鳴らさない筈だし……)はーい、今出まーす』
思い当たる節に心当たりも無く、兄ちゃんからも来客予定があるとは聞いていなかったので不審に思いつつ、とりあえずポケットに洋裁ハサミを確かめてから扉を開いた。
『おっす! 上条ちゃんお久……って、何だ弟ちゃんじゃん』
『………トールさん?』
『おっ、俺のこと覚えててくれてた? いやーあんまし話さなかったけど覚えててくれて嬉しいなー!』
『は、はぁ……』
一見少女と見紛う美貌の金髪碧眼。キラキラしい光すら放っているように見えるその人は、こちらの言葉も待たずに玄関に入り込むとそのまま部屋に上がり込んだ。
いやいや靴を脱ごうよ!?―――――そうツッコむ前に、長身のトールさんの背に隠れて見えなかった低い声が彼を呼び止めた。
『―――オイ。この国じゃ部屋に靴を履いたまま上がらねェンだよ、何テンプレ外国人ボケかましてやがンだ』
『あれ? 俺としたことがついつい』
『あ、一方通行さん!? え、ここに打ち止めちゃんはいませんよ!?』
『……テメェが俺をどォいう認識してンのか小一時間程問い詰めてやりたいところだが、今は上がらせてもらうぜェ?』
『あ、はい、どうぞ……?』
その人もまた、普通に兄ちゃんのうちに来るような人ではない。もう一つ言えば、彼といつも一緒にいる“少女”の存在無しでこの人だけでここにいるという状態がまずあり得ない。アルビノの強面な人だけど、中身がかなりの親馬鹿保護者であることを知っている身としては、この人単体でいる姿というのがまず違和感だらけだ。
というかこの二人が揃ってここに来る構図がまず理解出来ない。トールさんは魔術師だし、一方通行さんは学園都市最強のレベル5の超能力者だ。
その時点でトールさんが一方通行さんに喧嘩を吹っかけていそうなものなんだけど、トールさんは嬉々として部屋を見渡しながら『ここが上条ちゃんの部屋か~!』と子供のようにはしゃいでいるし、そんな様子を鬱陶しげに見ながら一方通行さんは舌打ちをしそうなほど顔を歪めている。
―――――ぶっちゃけ学園都市をこの二人だけでも落とせそうなだけに、そんな地雷はおろか核弾頭のような存在が兄ちゃん不在の時に揃って来るとか何これ無理ゲー……!?
思わず叫びそうになる本能をかろうじて呑み込み、持ち込んできていたお茶を出すからとりあえず座って欲しいと言ったところまでは良かったんだけど………
「(何かよく分からないけど一方通行さんは不機嫌だし、トールさんは無自覚に機嫌を損ねるワードを抉ってるっぽいし! 僕のSAN値がピンチどころかマッハなんですがっ!)」
調理に集中するフリをしながら、何とか二人を激突させないで兄ちゃんの帰宅まで間をもたせる手段を考える。とはいえ片や自覚のある戦闘狂、片やツンデレの上位互換殺ツンの使い手。僕には荷が勝ち過ぎている。
だけどこの部屋を、もとい学園都市を理不尽な暴虐から守るためにも僕が引く訳にはいかない。
料理の片手間ではあるが、軽くつまめるものとして野菜スティックとソースを運び、その空間だけ異界化しているような二人の間に腰を下ろす。何となく、眼鏡を外して魔眼をONにすることにした。何となく、自衛のために。
「お、お茶請けは生憎切らしてしまっているんで、兄ちゃんが帰ってくるまでとりあえず、これを……」
「サンキュー弟ちゃん。ていうかさっきから気になってたんだが、今って食事前だったり?」
「はい。兄ちゃんと目録ちゃんが買い出しに行ってて、その間に僕が他の準備と留守番を兼ねて残っていたんです………と、ところで、トールさんは何で学園都市に……?」
以前、兄ちゃんと『経験値を積むため』という理由で戦いを挑み、フルボッコにした僕が知る中でも最上位の規格外。
もしまた兄ちゃんに喧嘩を売りに来たというのなら………自然と眼に力が篭り、目の前の相手の『死』を見ようと目を凝らす。
視線化された濃厚な死の気配を受けてなお、飄々とした態度を崩さずいっそ朗らかにトールさんはここに着た理由を述べた。
「いやー、ぶっちゃけ大した用事とか何も無いんだけどさ」
「………はぃ?」
「俺も世界を回ったりしてる訳なんだけど、こうふと暇だなーって感じてさ、そしたら偶々日本が近かったからこりゃ上条ちゃんとこに遊びに行くっきゃねぇって思ってな。そして学園都市を歩いてりゃ上条ちゃんとばったり会えんだろーって楽観してたんだけどここって広いじゃん?」
「まぁ、この国でも最大規模の学生の街ですから。偶然会う可能性は相当低いですね」
「そうなんだよなー。で、連絡を取ろうにも俺は生憎携帯を持ってなくてさ、旅費を考えると近場のホテルに泊まる訳にもいかねぇし、何としても上条ちゃん家に泊めさせてもらおうとそこのもやしちゃんに『黒髪のツンツンヘアーした史上最強にお人よしっぽい少年を知らないか?』って聞いたらズバリ、ここに案内してくれたってわけよ! いやぁ俺の運も中々だね、うんうん」
ドヤ顔でもイケメンが崩れないなぁ………ではなく、その行き当たりばったり思考にツッコミを入れようとして、止めた。言ってもしょうがないというか、この人には無駄でしかない気がする。
そして道を尋ねるつもりで一人でいた一方通行さんに声をかけたとか、この人ってこんなKY属性だったっけ? 打ち止めちゃんのいない時のこの人は『近寄ンじゃねェオーラ』を常に張り巡らしているというのに。
一人悦に入りながら頷くトールさんの隙に、未だブスッとした表情のまま黙って人参スティックをソースに漬ける一方通行さんを兎っぽいなと何処か外れた思考をしつつ話を振ってみる。
「……それで、一方通行さんはトールさんをここまで案内したんですか?」
「……ほンの気まぐれだ」
「や、それにしたって珍しいというか、打ち止めちゃんが目録ちゃんと遊ぶためにここに来るって理由ならまだ納得しますけど、一方通行さんだけでうちの兄ちゃんに会いに来ることなんてまず無いでしょう?」
「オマエ、結構言うタイプなのな」
「……まぁ、兄ちゃんに付き合ってると英国王室とかアメリカ大統領とも話す機会があったんで。もう見た目がどれだけ怖くても覚悟を決めれば話す分には物怖じしなくなりました」
「……苦労、してンだな」
うわぁ痛い。まさかあの一方通行さんに同情される日が来るとは……嬉しいけど、その如実に憐みを込めたぶっきらぼうな瞳は止めて。すごくハートに堪えるのそれ。
しかしおかしな話である。気まぐれって、そりゃこの人にとって兄ちゃん、上条当麻がどのような位置づけをされているのかを少なからず打ち止めちゃんから聞き及んでいるため、兄ちゃん関連の事なら多少の興味を示しても不思議じゃないけど、だからって見ず知らずの筈のトールさんをここまで案内する理由が分からない。
何より、そんなのキャラじゃないでしょうに。そんな疑問が顔に出ていたのか、グラスに刺していたスティックに再び手を伸ばしながら律儀に答えてくれた。とりあえず、それ気に入ってくれたようで幸いです。
「………コイツが魔術関連だってのは大体見て分かってたからな。もし三下狙いの魔術師だったらあのシスターも危なくなるかもしれねェ。そうなるとうちのクソガキの貴重な遊び相手が減るンだよ」
ほほう? それはつまり――――――
「―――――遠回しなツンデレ発言と受け取ってもよろしいですね?」
「ンな訳ねェだろォォォォォがァァァァア!! テメェ俺の話を聞いてたンですかァァァァ!?」
「なるほど、これが日本文化の“つんでれ”なのか弟ちゃん!」
「えぇ。しかも打ち止めちゃんへのツンデレが八割、残り二割を兄ちゃんと目録ちゃんに分配している複数同時対象にした高難易度のツンデレですよ今のは!」
「テメェェェェェらァァァァアアアア!! 愉快で素敵なオブジェクトにしてやろうかァァァァ嗚呼アア!?」
「お? やる気かもやしちゃん! それなら上条ちゃんが来るまでの食前運動と洒落込むとしますか――――!」
しまった。つい口と無意識が滑って余計なことを口走った。でもしょうがないんや! そっぽ向きながらの一方通行さんのツンデレとかからかわずにはいられなかったんや!
「(……■REC完了っと。後はこれをミサワちゃんの携帯に送って……っと)」
今にもぶつかり合いそうな二人を余所に、先のやり取りを録音していたデータをメル友のミサワちゃんに送っておく。いつも憎まれ口を叩いて基本ツン部分しか引き出せないミサワちゃんに、この貴重なデレデータは喜んでもらえることだろう。何、僕も友人は大事にしたいからね。
「ただいま―――――っていきなり我が家が大ピンチ!? ちょっ、お前ら人ん家で何してんだ!」
「ただいまなんだよー……って、ゆづる、これは一体どういう状況?」
「遊びに来たトールさんをここまで一方通行さんが連れて来てくれて、つい失言して一方通行さんを僕が怒らせて今の喧嘩一歩寸前状態←今ここ」
「成程把握なんだよ。でも、そんなことより私的には今日の戦利品を早く食べたいかも!」
「じゃあちゃちゃっと料理しちゃうね。目録ちゃん達が買ってきてくれたこの鶏肉で、今日はちょっと豪勢風味に作るから楽しみにしててね?」
「うんっ!」
「わぁいほのぼの……じゃなくて! インデックスも遊鶴ものほほんとしてないであの二人の仲裁に協力しろください!」
『『うん、頑張って!』』
「天使の笑顔で断言ですね二人とも! ええい畜生め、やいテメェら家主様のご帰還だぞコラー!」
兄ちゃんを交えたプチ世界大戦が始まる前に、さっさと夕飯を作ってしまおう。食事になれば、自然と二人も矛を収めてくれるだろうし。
………そして夕飯が出来てもまだ喧騒の止まなかった三人には、ヨハネのペンデックスモードを使いこなせるようになった目録ちゃんによる『
「いや俺達が普通に大怪我してるんだけど!? 何綺麗に纏めようとしてんの!?」
「え? 兄ちゃんは夕飯いらないの? しょうがないなぁ、それじゃこの一枚は目録ちゃんに……」
「わーい! とうま、施しの精神は尊いんだよ! きっとその意志は主も認めてくるかも!」
「ぎゃーマジで食いやがったこの腹ペコシスター!? あぁもう、不幸だー!」
「…………そういう割には元気だよなー上条ちゃん。一応、俺らと同じ一撃を喰らってる筈なんだけどなー」
「……慣れだろ、多分」
登場人物
湊谷遊鶴
上条さんの交友関係の影響から、大抵の相手に対しても物怖じせずに会話をする事が可能になった対上条勢力(被害者でも可)の緩衝剤。内心ビビっていても、怖いだけの相手なら下手したら不敬罪で首チョンパな英国王室や国際問題の引き金になりかねない大統領へのツッコミなどをこなしてきた、そんな彼が恐れるものはお兄ちゃんの拳骨なのでした。ちゃんちゃん。
上条さん
不幸不幸と言いつつ、新約七巻においてみさきちさんとのフラグがあったっぽい情報を知った時に狂喜乱舞した私がいました。記憶がある時の上条さんを知る人物の登場………はどうでもいいからどんなやり取りしてたのか。これは原作購入するっきゃないっすね!
インデックス
遊鶴により入れ知恵から家事はともかく、買い出しなどには参加するようになった模様。だって簡易デートみたいなものだしねとは弟君の弁。また、本人としても周囲から小声で噂される度に満更でもないご様子。知らぬは当人ばかりなり。
一方通行
最早原作の影すら踏んでいない感じのキャラになっている気がしなくもありませんけど、まるくなった一方さんを想像したらこうなりました。あと、彼がトールさんに不信感というか気に食わなかった理由は単純に、自分以上に上条さんに親しげなトールがムカついたからです。本人は面と向かって素直に何かを言うようなキャラじゃありませんしねー。
トール
口調とかが違うかもしれませんけど、二次創作って事で!……便利な言葉だなぁ。
どうでもいいですけど、あの溶断ブレードは一目見て瞬間惚れ込むレベルでストライクの格好良さでした。原作でもう一度上条さんと戦う時が今からwktk待っています。あと、女性限定の変装術とか二次創作で妄想し放題じゃないですかやだー。
感想にこのヒロインを出して欲しいと書かれていたにも関わらずこの男子率の高さよ……本来ならここに世紀末帝王HAMADURAも出すつもりだったんですけど、捌き切れそうになかったので今回の登場は控えさせてもらいました。やっぱり浜面は超浜面ってことですかね? それでは。