君の隣に、私の傍に   作:UWAIS

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16.もう二度と。

「これで一通り探したと思いますけど・・・」

 

 

比叡も合流し成果がないことを確かめると三人の間に何とも言えない疲労感が漂う。

 

「そうだな、二人は戻っていてくれ。大佐が食事を用意してくれると言ってたがそれどころではなさそうだ」

 

彼はこれからどうするか思案しながら、これ以上二人を付き合わせるわけにもいかないと思い言ったのだが

 

「乗りかかったship、私達も手伝いますヨ!」

 

相変わらず明るく言う金剛。姉がそう言ったため比叡も疲労は隠せないが手伝うと言ってくれた。

 

「とは言えこのまま闇雲に探していても埒があきません。何か手掛かりとかないと」

 

 

比叡の言葉に彼も色々と頭の中を整理してみたがこれと言った手掛かりは思い浮かばなかった。せいぜい思い浮かんだことといえば

 

「もしかしたら海を見に行ったのかも知れん」

「海、ですか?」

 

以前大和は落ち込んだ時に研究所のすぐ近くの海を一人で眺めていた。そう考えると今回も海の近くにいるかも知れない。

 

「なら港のほうに行ってみますか」

 

変なことを考えてないといいが・・・彼は以前の時と同じような不安を抱えながら金剛、比叡と共に港に向かった。

 

 

 

 

舞鶴港は東港と西港に分かれ、東港が海軍が使用し、西港は主に貿易や漁業のために民間船が出入りする。深海棲艦との戦い以降貿易船の出入りはほぼなくなったため西港は現在では海が穏やかな時のみ漁船がちらほらと出るだけである。

 

「来た時はカモフラージュ用に民間の客船で西港に入ったからおそらく行くとしたら西港だと思うが」

 

「なら念のため比叡は東港を、ワタシとテートクで西港を探しマショー」

 

「私一人で東港を探させるんですか!?それに司令とお姉様が二人っきりなんて・・・」

 

さすがに不満を顕わにする比叡に

 

「わかった、私が西港を探すから比叡は金剛と東港を頼む」

 

と言って二人に東港を任せると彼自身は西港を探し始めた。

 

 

 

埠頭に着きあたりを見回したがそれらしい影は見当たらない。そこで彼は自分の判断の甘さに思わず舌打ちした。

 

金剛か比叡のどちらかが付いていればともかく彼一人では不審者と間違われる可能性もあるからだ。誰かに詰問されればそのぶん時間のロスになるだろう。

 

「そんなことにも頭が回らなかったか・・・まったく」

 

 

一人でぼやいていると倉庫の裏の方から誰かが揉めているような声が聞こえてきた。

 

 

ーーーーだから私は!

ーーーーうるせえ、この不審者め!今鎮守府に通報してやる!

 

 

 

「この声・・・まさかな」

 

両者ともに聞き覚えのある声にげんなりしながら倉庫の裏に回ってみると案の定そこにいたのは彼の知った顔だった。

 

 

「お前らは二人ともここでなにをしているんだ」

 

「ん?」

「あん?」

 

振り向いたのは彼と同期である呉の提督、そしてもう一人はこの舞鶴の漁業組合の会長だった。立場上舞鶴の提督だった彼とは顔を合わせる機会も多く、親しい間柄だった。

 

 

「おおっ、司令官じゃねえか!久しぶりだな!」

 

ついさっきまで凄い剣幕だった会長が彼を認めるなり懐かしそうに肩を叩いてくる。

 

 

「お前さんがここを離れるって聞いたときはビックリしたもんだがよ。戻ってきたんかい?」

 

「あ、いや、仕事で少し滞在してるだけだ。それより・・・」

 

 

舞鶴の人間からこう明るい対応をされるとは思っていなかった彼は少し面食らっていた。

 

「そうか、そいつはぁ残念だ。それと司令官よぉ、さっき仕事の準備でここに来たらこの怪しい奴がうろちょろしてんだが、どうするよ?」

 

 

会長は呉の提督を指差しながら問うてきた。どうやら呉の提督は以前話した通り舞鶴での大和の演習を見に来たらしい。

 

「怪しい奴とは失礼な。おい、お前から何とか説明してくれ」

 

「ああ、こいつは私と同期で今は呉の提督をやってる者だ。今回の仕事絡みで舞鶴に来たんだと思うが」 

 

「ほー。まあならいいけどよ、軍関係者なら東港のほうだろ?」

 

「色々と事情があって間違って西港に入港してしまったんだ。この通り、すまなかった」

 

素直に頭を下げられては会長も強く出られずその後ニ、三言葉を交わして二人は別れた。彼はそのまま呉の提督についていく形で鎮守府のほうに歩いていく。

 

 

「大佐には事前に連絡してあるんだろうな?」

「当然だ。でなきゃ問題になるだろ」

 

呉の提督は重そうな荷物を大事に抱え

 

「着任前に海の上での大和を直に見ておきたいしな」

 

と何気なく言ったが、その言葉で彼はまだ大和を探している最中であることを思い出した。

 

「すまん、少し急用を思い出した。先に鎮守府に行っていてくれ」

 

 

「大和がいなくなったのか?」

 

港に戻りかけた彼を呉の提督の言葉が追いかけてきた。そしてそれは聞き間違いでも何でもなく無視できない一言だった。

 

「なぜお前がそんなことを知ってる」

 

「来る途中、海岸線沿いの道路を歩いているのを見かけたからな」

 

「なっ!」

 

大和がどこにいるか、喉から手が出るほど欲しかった情報をあっさりと伝えられさすがに彼も驚きを隠せなかった。

 

「それならもっと早く連絡してくれればよかったのに!」

 

「心配はいらん。途中で鳳翔に迎えに行かせておいた。まあおかげで予定時刻より遅れるし船は間違えて西港に入るしで災難だったが」

 

おおかた西港に入ったのは鳳翔を船から降ろすのに適当な位置まで緩やかに減速させたことで進路が狂ったのだろう。

 

「そういうことか、なら私達も鎮守府に戻るか」

「ああ。今日は良い酒も持ってきたし久々に飲み明かすとしよう」

 

彼はわずかに安心した表情で鎮守府に戻った。

 

 

 

 

 

「テートク、彼女が見つかったって本当デスカ!?」

 

鎮守府についてすぐ、無線で呼んだ金剛と比叡もホッとした顔で戻ってきた。

 

「まだここには戻ってきてないがこいつの話によると」

 

そこまで言いかけた時、彼の目は金剛と比叡の背後に向けられていた。

 

 

 

「大和・・・」

 

「は、博士」

 

歩き疲れたのだろうか、そこには彼や金剛達ほどではないがどこかくたびれた印象の大和が鳳翔と立っていた。

 

 

「皆さん大和のために、ご迷惑おかけしてすみませんでした」

 

その場で大和は深々と頭を下げ全員に謝罪すると今度は彼と金剛、比叡の三人に向き直り

 

「博士、金剛さん、比叡さん。無神経な発言をしてしまって本当に、本当にごめんなさい。大和はっ、大和は・・・・・」

 

そこから先は言葉にならなかった。いつまでも続くかに思われた嗚咽は彼が大和の両肩に手を伸ばし上を向かせたことで止まった。

 

 

「私自身はお前が喜んでくれたら、そう思って話したつもりだった。だがそのせいでお前に辛い思いをさせてしまったな。すまなかった」

 

「そんなっ、私は博士のお話を聞くの大好きです。ですから・・・」

 

 

やがて沈黙がその場を包んだ。再びうつむいてしまった大和をじっと見ていた彼が今度は少し口調を変えて言う。

 

「だが大和、もう二度と一人で何も言わずに何処かへ行くな。こんな胸が張り裂けるような思いはもう御免だ」

 

 

「えっ」

 

「ん?」

「what!?」

「へっ?」

「ふふふ」

 

彼の言葉に大和の顔がみるみる赤くなっていく。周囲ではニヤつく男が一人、不穏な表情の女、今一つ状況が掴めていない女、微笑ましげに眺める女がいる。

 

「あ、あのっ、博士今なんておっしゃいました!?」

 

「どうした、急に?」

 

「良いから答えて!」

 

「もう二度と」

「その後です!」

 

「こんな胸が張り裂けるような思いはもう御免だと」

 

彼は感じたことをそのままいつもと変わらない調子で言ったのだがそれを聞いた大和は体の芯が熱くなったように感じる。

 

少し逡巡するような間があった。

 

やがて大和は顔を上げ

 

「は、博士!」

 

「な、なんだ?」

 

却って彼のほうが狼狽していたが構わず

 

「大和は、大和は・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐうぅぅぅぅぅぅ

 

 

「・・・・・」

 

辺り一体の時間が一瞬止まったように感じられた。大和の顔色は先程とは別の意味で赤くなっている。

 

 

「お、お腹が空きました・・・」

 

「そ、そうか。大佐が食事を用意してくれてるみたいだからな、早く行くか」

 

その言葉で一気に周囲の緊張もゆるんでしまった。そして全員そのまま鎮守府の本棟に歩いていく。

 

 

 

 

「歩き疲れてよほど空腹だったんだろうか。あんな剣幕で」

 

「あの流れからそう思うとはな。お前は頭が良いんだか悪いんだかわからんな」

 

(バカ!バカ!私のお腹のバカ!!)

 

呉の提督に残念な目で見られながら歩く彼。そして心の中で自分の空腹さ加減を目一杯呪っている一人の艦娘がその数歩後ろを歩いていた。

 

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