君の隣に、私の傍に   作:UWAIS

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17.おもてなしと夜さんぽ

本棟に入ると秘書艦の能代が彼と大和を待っていた。  

 

「あ、ちょうど良かった。お食事の準備ができたのでお呼びしに行こうとしてたところだったんです」

 

とっくに用意ができていて、自分たちは遅れたのだと思っていたがそうでもなかったらしい。そんなことを考えていると能代は彼の隣にいる呉の提督に視線を移す。

 

「少将もいらしたんですね。ご連絡がないので提督が心配してました」

 

「申し訳ない。少しトラブルがあってね」

 

肩をすくめる呉の提督、苦笑いを浮かべる鳳翔、ポカンとしている大和。三者三様のリアクションをしていると、

 

「ちょっと能代ー早くデザートのお皿出して。盛り付けしちゃうわよ」

 

ひょこっと目の前の扉から見慣れない人物が顔を覗かせた。髪をアップにまとめ、水玉模様のエプロンをかけている。

 

「早くしないと先任達にお出しする時間が・・って、せ、先任!?それに少将!?」

 

よく見るとそれは舞鶴の提督だった。軍服の詰襟ではなく可愛いらしいエプロンと髪留め、髪型から一瞬別人に見えたのだ。

 

「ああ、ご連絡も差し上げずに遅れて申し訳ない。ただいま到着しまし・・」

「し、失礼しました!すぐに着替えてきます!!」

 

呉の提督が止める間もなくぴゅーっと駆けていった。

 

「・・・えっと、まず主任さんと大和さんは食堂のほうに。少将と鳳翔さんは執務室のほうへどうぞ」

 

こちらも苦笑いをうかべ能代が二組を案内した。

 

 

 

 

「大和、もうお腹ぺこぺこです。どんなお料理が出てくるんでしょうね?」

「さあ、あの感じだと普通の手料理だと思うが」

 

そう言えば金剛もスコーンを焼いてもらっていると言っていた。自分でも作れる金剛がわざわざ提督のを食べるということはそれなりの腕前はあるのだろう。

 

 

「ふぅ、やっぱり私はああ言う格式ばった挨拶は苦手だ」

 

そんなことをぼやきながら呉の提督も通され席についた。鳳翔も一緒である。

 

「執務室で到着の挨拶か?」

 

「彼女慌てて軍服に着替えてたよ。エプロンと軍服だと別人に見えたな」 

 

「本人には言わないであげてください。気にしてますので」

 

すると能代が柔らかな香りのする料理の盛られた皿を運んできた。極力音を立てないように丁寧に四人の前に置いていく。

 

「ほう、気にしてるとは?」

 

「うちの提督、あまり人に女性らしいところを見せたがらないんです。軍人らしくないって見くびられると思ってるみたいで。では、ごゆっくり」

 

 

たしかに、ああしてエプロン姿で料理をしているところだけ見せられれば普通の年頃の女の子と何ら変わないと思う。

 

 

「そのわりにはこうして自ら腕をふるってもてなしてくれるようだがな?食材もけっこう良いもの使ってるだろう」

 

「まあまあ、つまらん詮索して大佐を困らせても仕方ない。頂くとしよう」

 

彼の言葉で四人が卓に置かれた料理に手をつける。メインは鶏肉の香草焼きだった。

 

「ほう、これは」

 

料理に疎い彼には味に関して詳しいことはわからなかったが、まず美味いと言って差し支えない。食べる前は手料理である以上そう大層な期待はしていなかったが、味そのものも盛りつけも本格的で彼の想像以上のものだった。

 

「博士、美味しいですね」

 

「ああ、そうだな」

 

「ふむ、これはもしかすると鳳翔に負けてないかも知れんな・・・」

 

大和と呉の提督も満更でもない様子である。彼はこの中で一番料理に詳しい鳳翔の見解を聞いてみたくなった。

 

「鳳翔はどうだ?」

 

「どうって、品評会じゃないんですからお味に関してあれこれ議論するのはおもてなしして下さった大佐に失礼ですよ」

 

それもそうか。三人がそう納得させられると鳳翔はでも、と前置きしてから

 

「あえて言わせて頂くならとても丁寧に仕上げられてると思います。このクリームソースも一からご用意なさってると思いますし」

 

そんなことまで彼は気が回らなかったが先ほどの舞鶴の提督の様子を思い出すと料理に対して楽しみながらも真摯に向き合っているように見えた。それが味に繋がっているのだろうか。

 

「鳳翔さんはお料理に詳しいんですか?」

 

大和は興味津々、といった感じで話に食いついていく。二人がどんな出会い方だったのかはよく聞いていないが大和は鳳翔に好感を持っているように見える。

 

「ええ、まあ、詳しいというほどでもありませんけど」

 

謙遜する鳳翔に呉の提督が意地悪く笑った。

 

「ははは、建造して以来ずっと私の胃袋を掴んできたお前が随分控えめじゃないか。今日はどうした?」

 

「自然に惚気るな。気持ち悪い」

 

「なっ!?気持ち悪いとはなんだ。今日はわざわざお前と飲もうと思ってこれを持ってきたんだぞ。その私に対して気持ち悪いとは」

 

荷物から何やら箱を取り出した呉の提督。テーブルの上に箱から取り出した酒瓶を置いた。

 

「賀茂鶴か」

 

呉の提督が出したのは広島の地酒、賀茂鶴だった。旧海軍の頃から愛飲されてきた酒であり今回のためにわざわざ用意したものらしい。

 

「まあこれで一杯」

「あなた、他所の鎮守府にお邪魔してるときは控えてくださいとお願いしましたよね?」

 

「ん?ああ、控えるってのは夜s「お酒のことです」

 

 

ビキッ

 

 

微笑みながら酒瓶を掴んだ鳳翔の手から、してはいけない音がしたような気がした。ふるふると小刻みに肩を震わせる呉の提督は彼に向き直ると、

 

「ま、まあ鳳翔がご機嫌ナナメなんで仕方ない。すまんが今回は諦めてくれ」

 

 

どちらかと言えば酒を飲みたがっていたのは呉の提督なのだがいつの間にか彼が飲みたがっていたような扱いにされてしまっていた。するとそれを聞いた鳳翔はさらににこやかな表情で瓶を握りしめる。

 

 

「大和さん聞きました?私はこの人の体のことを思って言ってるのに『ご機嫌ナナメ』なんて言うんですよ?さっき申し上げたように思いはなかなか通じないものなんです」

 

目以外は満面の笑みで言う鳳翔を横で見ていた彼は少し背筋に冷たいものを感じた。

 

 

 

 

「そもそも、持ち寄りパーティーじゃないんですからおもてなしを受けるのに自分で持ってきたお酒を開けて飲むのも失礼です。お料理に合ったお酒をご用意してくれている場合もあるんですから」

 

その後も鳳翔の説教が続いた。料理をあらかた食べ終わり呉の提督が少し応えたように口数が少なくなると鳳翔は大和に話を向ける。

 

「そう言えば大和さんはお料理なさらないんですか?」

「えっ、いえ、大和はあんまり・・・」

 

そう言えば彼も大和が料理しているところは見たことがなかった。

 

「ならいつか呉にいらっしゃれば私が少し教えてあげますよ」

 

「本当ですか!?」

 

期待に目を輝かせる大和と母か姉のように優しく微笑む鳳翔。そんな二人を見ていると先ほどまで不安と焦燥に駆られて大和を探していたのがウソのように思えてきた。

 

「さてと」

 

食べ終えて席を立とうとすると紅茶を飲みかけていた大和も慌てて立ち上がる。

 

「どうした?まだ飲みかけだろう」

 

「で、でも博士がお部屋に戻るんでしたら・・・」

 

そこから先は言葉を濁して下を向く大和。幾ら親しくなった鳳翔や呉の提督がいても離れるのは寂しい。そう表情は語っていたがそこまで彼は読んではいなかった。

 

 

「わかったよ。だが部屋に戻るだけだぞ?」

「なら大和もお部屋に戻るだけです」

 

 

二人して廊下に出るとすぐ横で金剛が壁に寄りかかってぽーっと天井を見上げていた。

 

「金剛、どうした?」

 

「あ、テートク!もうディナーはすんだんデスカー?」

 

金剛と比叡は別に食堂で普通の夕食を取っていた。食べ終えてから彼のところへ来たが邪魔しないようにとここで待っていたようだ。

 

「ああ、私に何か用があるのか?」

 

「ムー、用がなくちゃテートクのところに来ては駄目デスカ」

 

「あ、いやそういう訳じゃないが・・・」

 

威圧感というかオーラというか、何かを感じた彼が振り返ると、こころなしか大和がちょっと頬を膨らませてジト目で睨んでくる。

 

 

「博士、お部屋に戻るんですよね?」

 

グイっと彼の右腕を取る大和。

 

「Oh!用事を思い出しました!テートク、ちょっと良いデスカー?」

 

ガッチリ彼の左腕をホールドする金剛。

 

「こ、金剛さん!」

「ほらほら、ハリーアップ!」

 

彼が断末魔の叫び声をあげなければ戦艦二人の綱引きで体が真っ二つになるところだった。

 

 

 

 

 

「やれやれ、用事ってこれか」

 

「ハイ!鎮守府に来たら一回見ておいてもらおうと思って」

 

金剛に連れてこられた工廠で彼は艤装のメンテナンスを頼まれた。現在、大和の主砲開発に携わっていることからわかるように彼は艦娘の武装に関して一提督以上の知識を持っているため、ある程度のメンテナンスなら出来た。

 

「舞鶴の明石がいるだろうに。記録にも今朝整備したとあるが」

 

「明日は負けられませんからネー。テートクに見てもらって万全の状態で臨みたいんデス!」

 

それを聞いて大人しく見ていた大和の肩がピクッと震えた。彼の横にちょこん、と腰を下ろすと

 

「博士、それが終わったら大和のも、お願いできますか?」

 

「いや、しかしお前のも着いた時にすぐ点検してもらっただろう。今さら私がやらなくても」

 

 

「・・・・・・・そう、ですよね。ご無理を言ってすみません」

 

 

それきり黙ってしまった大和。それは彼にしては少し拍子抜けだった。いつもならジト目や上目遣いで見てくると思ったが、今は何も言わず隣で彼の作業を眺めているだけ。どこか自分を抑えつつも傍で見ていられるなら満足、といった様子である。鎮守府を出ている間に何かあったのだろうか?

 

 

「・・・大和」

「はい、何ですか?」

 

意味もなく手元をいじって言葉を探すが見つからない。しばらくカチャカチャと工具が擦れる音だけが辺りに響いた。

 

 

「これを見た後だと遅くなるが、それでも良いか?」

 

「・・・は、はいっ!」

 

顔をあげると、大和のこぼれるような笑顔が目に入ってくる。上目遣いにも弱いがこの笑顔にも敵わないと彼は思った。

 

金剛はそんな二人の様子を複雑な表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ、終わったぞ。何ら問題はない、多少艤装の扱いが乱暴だとは思うが」

 

「テートク、わざわざ無理言ってゴメンナサイ。Thank youネ」

 

「まあ、お前からの頼みなら断れんさ。とにかく、明日に備えて早めに休めよ」

 

「わかりマシタ。テートク、お休みナサーイ」

 

そう言って金剛は足早に工廠を後にした。残された彼が大和のほうに目をやると適当な段差のところにもたれかかり寝息をたてている。

 

「やれやれ・・・」

 

ため息をつきながらもその安らかな寝顔に思わず表情が緩む。早めに見てしまおう、と大和の艤装のほうに視線を移した。

 

 

 

 

 

「ハァ、やっぱり言えませんでしたネ・・・」

 

工廠を出た金剛は戦艦寮に戻るとぶらぶらとその周りを歩いていた。この季節、夜風が体にしみるが、それがどこか心地良くもある。寮の奥の林を更に抜けた先に広がる舞鶴の海に思いを馳せ風に身を任せる。

 

 

「お姉様、司令にはお伝えできたんですか?」

 

気がつくと比叡も外に出てきていた。金剛は視線を海から移さず、ゆっくりと首を振る。

 

「言い出すタイミングがなかったネ。それに、本人があそこに置いていった想いを今さらワタシが伝えてもテートクを困らせるだけかも知れマセン」

 

「そう、ですよね・・・」

 

「何より今は、別の人がテートクの傍にいる・・・」

 

寒空に輝く星を見上げる金剛と俯き冷えた地面を見る比叡。二人はそれぞれ別の顔を思い浮かべていた。

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