君の隣に、私の傍に   作:UWAIS

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前回のあらすじ。

艦娘の性能の違いが戦力の決定的差ではないということを教えてあげるネ!


20.ダブルブッキング

「決まったか」

 

砲撃が鳴り響いた数秒後、その場にいた全員の視線が海に集まる。

 

 

結果から言えば両者痛み分けになった。

 

「はぁっ、はぁっ・・・」

 

「フー、久々に一撃もらいマシタ」

 

金剛の言葉は嫌味でもなんでもなく、己の技量を以てもうずっと砲撃を食らってこなかったのである。

 

「判定は!?」

 

呉の提督がパソコンを覗き込む。今の一撃を大和は何とかやり過ごし中破のまま。勝敗は金剛の損傷具合による。

 

「金剛も・・・中破だ」

 

最後の瞬間、何とか金剛の砲撃を耐えた大和は一瞬のスキをついて見事にカウンターを成功させていた。

 

「さすがの"神託"でも装甲はどうにもならんか」

「いや、熟達した使い手ともなれば」

 

そこで彼はぷっつり言葉をきる。パソコンをたたみその場を後にしようとすると

 

 

「待て待て、同じ中破でもどれだけ食らったか見ないと勝敗がつかんだろ」

 

「中破と言ったら中破だ。この勝負、引き分けだ」

 

そう言うと記録を取ってさっさとパソコンを閉じる。だが呉の提督は納得していない様子だ。

 

「だがな、明確な勝敗をつけないとあの二人も納得しないんじゃないか?」

 

海面に佇む大和と金剛を指差す。その言葉を受け彼は二人のほうに向かってゆっくり歩き出す。

 

 

「大和、金剛、戻ってこい」

 

無線から自分たちを呼ぶ彼の声を認めると二人はゆっくり戻ってきた。足取りは二人とも重い。開口一番彼に尋ねた言葉も同じだった。

 

「あの、勝敗は!?」

「どっちがWinnerデスカ!?」

 

その様子に苦笑しつつ彼は二人の肩に手を置き軽く抱き寄せるようにすると

 

「二人ともよく頑張った。大和中破、金剛中破。引き分けだ」

 

と、優しく声をかける。だが案の定二人は納得しない。

 

「中破でもより多くダメージを与えたほうが勝ちじゃないですか」

 

「そうデス。どっちかがWinnerのはずネ!」

 

「引き分けと言ったら引き分けだ。ほら、二人とも入渠してこい。いつまでもその格好というわけにもいくまい」

 

彼の言葉を受け二人は互いの服装を確認する。

 

 

「あ、きゃあっ!」

「も〜テートクったらデリカシーがないネ〜」

 

金剛は軽く受け流すと赤面している大和に向き直る。

 

「さっきはいろいろ失礼なことを言ってスミマセン。大和の気持ちはワタシにもよくわかりマシタ」

 

「いえ、大和のほうこそ失礼しました・・・・・あれ?」

 

「どうしまシタ?」

 

 

 

「・・・・・さっきの、博士聞こえてませんよね?」

 

大和の顔がさらに赤くなる。見るといつの間にか彼の顔も大和に負けないほど赤くなっていた。

 

「・・・・金剛、早く大和をドックに連れて行ってやれ」

 

「いやぁぁぁぁっ!!」

 

恥ずかしさのあまり駆け出す大和を金剛は面白そうに見送り、少しして追いかける。まだしばらく茹でだこのように赤くなっている彼にはニヤついた呉の提督が近づいてくる。

 

「で、どうなんだお前の気持ちとしては」

 

「ど、どうもこうもあるか。と言うかお前には関係ない話だろう」

 

努めて冷静に言ったがどもってしまったあたりまだ動揺しているらしい。呉の提督は目ざとくそこに反応し、

 

「そうもいかん。大和にはうちに来てもらう以上、そのあたりのことは把握しておかなくては」

 

そんなことを言っていたが、しばらくして真顔になると

 

「それに、帰る前にお前と少し話をしとかなくちゃならんからな」

 

そう言って本棟のほうに戻っていった。

 

 

彼はしばらく先程まで激闘が繰り広げられていた海面を眺めてから戻った。

 

 

 

 

 

帰ったら報告書をまとめ、室長に提出しなくてはならない。この結果に満足するかは怪しいところだ。そう思うと気が重い。

 

「だが、さすがに船の中でまとめてる元気はないな」

 

彼も知らず知らずのうちに気を張っていたのかもしれない。体が一回り重く感じられる。と、その時、廊下を曲がると正面から呉の提督が、左手から舞鶴の提督が声をかけてきた。

 

「お、さっき言ってた話なんだが」

「あ、先任。少しお話よろしいですか?」

 

二人同時に切り出し、顔を見合わせる。

 

 

「どうぞどうぞ、大佐から」

「あ、いえ、少将からどうぞ」

 

今度は二人して譲り合う。

 

「まあレディーファーストで良いだろう。大佐、何です?」

 

 

「ではお言葉に甘えて。先任、今回はありがとうございました。とても勉強になりました」

 

そうペコリと頭を下げた女性提督は彼と呉の提督を近くのソファに誘うと少し表情を暗くした。

 

「実は、先任にお願いがありまして・・・舞鶴に戻ってきていただけませんか?」

 

彼と呉の提督の表情が氷のように固まった。

 

 

 

 

その頃入渠ドックでは大和と金剛が他愛もない会話を楽しんでいた。

 

「それで、神託のトレーニングのために行った無人島で肝試しなんかもやったんデース。オバケ役のテートクが道に迷ったりしてネ」

 

「そうなんですか。博士と無人島かぁ・・・大和も行ってみたいです」

 

「まあ、ワタシとテートクの二人っきりではなかったんデスけどネ」

 

パシャパシャと軽く湯をかけながら金剛も肩の力が抜けたように先程までの張り詰めた空気とは一転、穏やかな顔になっている。

 

「テートクは今後、どうするんデスカ?」

 

「大和もあまりそのことについては聞けてないんです。でも・・・」

 

自然と大和の表情が沈む。この演習から帰って、諸々の調整が済んだら大和はどこかの鎮守府に配属になる。そうしたら博士とはお別れ、ということになってしまうのではないだろうか。

 

 

 

「今、なんと?」

 

たしかに聞こえていたはず。だが彼は聞き返さざるを得なかった。

 

「先任に舞鶴の提督として復帰していただきたいんです」

 

思いがけない依頼にしばらく天を仰ぐようにしていたがやがて舞鶴の提督に向き直るときっぱりと断る。

 

「それは不可能でしょう。人事的にも無理がありますし舞鶴の提督はとても重要なポストです」

 

「それはわかっています、でもっ」

 

控え目で大人しそうな印象を持っていただけにここで食い下がってきた彼女に多少驚く。と同時になぜそこまで?とも思い始めた。

 

「それに大佐の居場所がなくなってしまうではないですか」

 

「・・・元々ここに私の居場所はないのかも、知れません」

 

膝に置いた手をぎゅっ、と握り視線を落とす。輝かしい経歴で忘れかけていたが彼女はまだ20代半ばの、謂わば女の子と女性の中間にいるようなものである。抱えた複雑な気持ちをなかなか上手く処理できない部分もあるのだろう。

 

「何か、舞鶴での生活で悩みがあるんですか?」

 

それを聞いた舞鶴の提督は顔は泣き出しそうなものになっていた。

 

「今日改めて思い知らされたんです。私は金剛のことを全く理解してあげられてなかった。それに・・・金剛や比叡達にとって私は提督とは認められないみたいで」

 

そこまで言うのがやっとだった。彼は再び視線を落とし、肩を震わせる舞鶴の提督を見守っていたがしばらくして口を開いた。

 

「今は例えそうでも艦娘は、艦娘のことを好いてくれる人間を拒まないものです。きっと大佐のことをわかってくれるときが来ますよ」

 

慰めでも何でもなく、彼の本音だった。自分のように取り返しのつかない事態を招いたりしない限り、きっと上手く行く。そう思っていた。

 

「どうして、そう思うんですか?私が、あの子達を」

「嫌いな相手に、わざわざスコーンを焼きますか?体調が悪いと聞いてあそこまで本気で心配しますか?」

 

間髪入れずに切り返した彼の言葉に舞鶴の提督は、はっと気づかされたような顔になる。

 

「大佐が金剛達のことを思っていてくれているのはこの二日でよくわかりました。たとえ今は届かなくても、必ずあいつらは認めてくれるはずです」

 

 

考え込むように手元を見つめていたが再び彼に向いた顔は少しだけ迷いが晴れたように見える。

 

「・・・すみません、泣き言を言って。やっぱり私、ここで頑張ってみようと思います」

 

「ええ。何かあれば連絡をください。ご相談に乗るくらいなら私にもできます」

 

「ありがとうございます。どうして金剛や昔からの艦娘達が先任を強く慕っているのか、少しわかったような気がします」

 

舞鶴の提督は吹っ切れた表情で彼に礼を言うと彼と呉の提督の船の出航準備の確認のため港に向かった。

 

 

「さて、大佐はフラれたようだが、まだこっちの話が残ってるぞ」

 

「お前の要件は何だ」

 

打って変わって気だるげに尋ねると呉の提督からも思いがけない話が舞い込んできた。

 

「お前、今のプロジェクトの後に特に予定がないなら呉に来ないか?」

 

「は?」

 

今ひとつ言っている意味がわからない。呉の提督までその席を譲るつもりなのだろうか。

 

「いや、別に私は退くつもりはない。今日私も改めて思ったんだがお前は研究所なんかに置いておく人材じゃない」

 

彼の正面に座り直し一人語り始める。

 

「私はこれまで艦娘は一生懸命鍛え、練度を高め、装備が充実していれば勝てるものだと思っていた」

 

「普通そうだろう」

 

「だが結局かつてお前との演習では一勝九敗だったな・・・そして今日、新しい世界を見せてもらった。やっぱりお前は直接艦娘と関わって仕事したほうがいいと思うんだ」

 

それが一番のネックだった。彼は()()()以来極力艦娘と直接関わらないようにしてきたのだ。大和の場合は成り行きで例外的になってしまったが、彼が自らに課した枷は消えてはいない。

 

 

「具体的には呉の戦術顧問、もしくは艦娘の戦技教官といったポストを用意するつもりだ。私の下につくのが嫌なら階級だってなんとかする」

 

その話しぶりから決して酔狂や悪ふざけで言っているわけではないのはわかる。だがその話に乗る気にはなれなかった。

 

「私は・・・」

 

「それに、お前が呉に来てくれれば大和だって喜ぶんじゃないのか?」

 

最後の言葉は彼の心を揺さぶるのに充分なものだった。

 

 

 

 

船が出ていく。呉の提督は既に出発していたので今出港しようとしているのは大和と彼が乗っている船だ。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

 

来たときと同じようにあどけない寝顔で横になる大和。彼女を見る彼の目は来たときとは少しだけ異なっていた。

 

 

 

 

 

「行ってしまいましたね」

 

「昔のことを持ち出して、強引に引き止めれば残ってくれたかも知れマセン」

 

埠頭で船を見送る比叡と金剛。寂しげに言うと金剛は水平線を眺めながら今の自分の言葉を自ら否定する。

 

「でも好きだった人にそんなこと、できるはずないネ。それに姉としても・・・あの子が望まないようなことはできないデス」

 

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