君の隣に、私の傍に   作:UWAIS

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8.兆し

「大和、君本人としては撃つ時の感触はどうなんだ?」

 

え、えっと、何か答えなきゃ・・・でも、撃つ時の感覚なんて特に考えてもなかったし・・・

 

「大和?」

 

そのまま詰まっていると先程の方がまた聞いてきます。無視してると思われちゃうし、とりあえず何か答えないと。

 

「あ、あの、撃つ時に感覚とかはあんまり、気にしてなかったんですが」

 

「・・・そうか」

 

 

嘘でも何か言ったほうが良かったかもしれません。その方はそれきり黙ってしまいました。するとこの中で最も階級が高い大将の方が鼻で笑って

 

「下らん。そもそも艦娘が撃つ時の感覚云々などがどうしたと言うんだ」

 

 

先程の方はその発言に怒るでもなく今度は手元を見つめながら淡々と話しました。

 

「彼女たちにはそれぞれフィット砲があるように個人個人で撃ちやすいタイミングや感覚がありますし、日常生活でのモチベーション等も結構大事なんです。こう言った数値で表せない要因が戦果に大きく影響するんです」

 

 

そうなんだぁ・・・・・他の艦娘の方とはお会いしたことがないのでわかりませんが何故かその方の発言に説得力のようなものがあって不思議と納得してしまいました。でも大将は苦々しい顔つきで吐き捨てました。

 

 

「ほう、例の舞鶴の"無敵艦"か?それ程戦果を挙げられるだけの腕があるならあんな失態を招かなかったと思うのだがな」

 

あれ、どうしたのでしょうか。その一言で先程まであまり感情を表に出してなかったその方の表情が曇りました。

 

「まあ、今後のことは更なる検証の末に決定としましょうか」

 

すると今度は軍服を着た別の方がまとめるように言いました。微妙な空気が流れ始めてたのでひとまず議論を打ち切ろうと思ったのでしょうか?

 

「そうだね。こちらももう少しデータを取る必要があるし、引き続き()()()お願いしますよ」

 

室長が締めくくって会議は終わりました。

 

 

 

 

 

 

「全く、艦隊勤務の連中の相手は骨が折れるわ。あなたも配属になったら大変ね」

 

専属の女性技官さんが何か言ってますが会議の時のことが頭から離れなれくて、あんまり耳に入りません。

 

「大和?行くわよ」

 

「・・・・・」

 

「大和?聞いてるの?」

 

「あ、はい。すみません」

 

はぁ、またこのままいつも通りの日常ーーーー"戦艦大和"として海に出るまでの調整を繰り返すだけの日々が続くのでしょうか・・・・

 

「あのっ、今度・・」

 

「大和、明後日からフルに装備を積んだ状態で海上での動きを確認するテストが始まるわ。火曜日と木曜日は休息日にしてたけど2日ともテストとその調整に充てるから。まあ、あなたの体力なら大丈夫でしょう」

 

「え、あの、」

 

「それだけじゃなくて今後、実戦に備えて陣形や戦術についても教官を招いて一通り頭に叩き込まなきゃいけないし、来週には必要なデータを一通り揃えなきゃいけないわ。いいわね?」

 

「・・・・はい」

 

 

正直に言えば明日のテストもお休みしたいです。でもそんなこときっと許されないでしょうし・・・・・大和に生まれなければ、もっと普通の子として生まれていれば、こんな悩みを抱かなくて済んだのかな・・・・

 

 

 

 

「おや?大和じゃないか。またお腹空いたのかい?」

 

食堂に行くといつもの職員のおばさんが話しかけてきます。特にこれが食べたいというわけでもなかったのですが気を紛らすには何かお腹に入れると良いと思ったので・・・

 

「いつものやつだね?今作ってあげるからちょっと待ってなさい」

 

そう言っておばさんは厨房に引っ込んでから数分で大盛りのカレーライスをトレーに乗せ持ってきてくれました。

 

「どうしたんだい、大和?浮かない顔してるね」

 

 

(え?)

 

おばさんは大和の気持ちに、気がついてくれたのでしょうか。

 

「何か悩みでもあるのかい?言ってごらん」

 

「その、大和は、これからどうすればいいのかなって、ちょっとわからなくなって・・・」

 

「ん?そりゃ、どういう事だい?」

 

「最近、もっと他の生き方が出来ないかな、なんて思って」

 

「はははははっ、アンタさては、弱気になってんだね?心配ないよ。アンタはあの"戦艦大和"なんだから!鎮守府に行ったって立派にやれるさ!」

 

そう言っておばさんは厨房のほうに戻って行きました。おばさんは励ましてくれましたが、でも、そうじゃないんです。大和は・・・

 

 

  

カチャ、カチャ

 

スプーンの音がしたので見てみると2、3席空けたところで誰かがカレーを食べてます。よく見てみるとさっきの会議の時の方でした。そう言えばあの方、会議の時に何か気になることを仰っていたような・・・・

 

「ん?」

 

ま、また目が合っちゃった!ジロジロ見てたと思われたかな・・・

 

 

「大和か。一人で飯か?」

 

「え、あ、はい」

 

 

例の方は顔を上げてまじまじと私の顔を見ています。ちょ、ちょっと恥ずかしいです・・・・

よく見ると白髪交じりで白衣を着て、何だか『博士』ってイメージがぴったりの方ですね。

 

「そうか」

 

そう言うと博士はまた黙々とカレー食べ始めました。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

うぅ、気まずい。と言うかわざわざ向こうから話し掛けてきたんですから何か話題を振って欲しいです。

 

 

 

 

「カレーが好きなのか?」

 

「え?」

 

少ししてから博士から話し掛けてくれました。ただ、聞き方が唐突だったのでちゃんと聞き取れません。

 

「いや、それだけの量のカレーは好きじゃないと食べられんだろう?」

 

「え、えぇ、まぁ好きですけど」

 

むぅ、私が大食いだって言いたいんですか?たしかに、大盛りにしてもらいましたけど。   

 

 

「好きなものを腹いっぱい食べられる、生きてるってのは良いことだな」

 

 

この方の言葉は、大和には当てはまりません。それは好きなことをやったり、自由な時間があったりする人間の意見。深海棲艦と戦う為に生み出された大和には生きてて良いことなんてーーー

 

 

「艦娘であれ人であれ、生きていなければ何もできん。それにはまずーーー」

 

ガタッ

 

気がついたら立っていました。自分でも何故かははっきりしません。でも一つだけ、きちんと伝えておかなきゃと思ったから。

 

「どうした、大和?」

 

「・・・・・・生きてて、辛いって思うことのほうが、艦娘はっ、生きてて幸せだと思うことなんて、ないと思います・・・」

 

これが、初めて博士と交わした会話でした。

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